鱗ある生物の王
良いことと悪いこととよく分からないことがいっぺんに押し寄せてきた結果、よく分からないテンションのままとりあえずゲームをする。
あると思います(現在進行形)。
『はい、そうです。私もようやく参加できます。漁の方はいかがですか?』
ソーウンを釣り上げた初めの漁から数えてほぼ丸二日以上が経ち、カウント的には三日目の半分ほどが過ぎた。ぼちぼちカウントがリセットされてるんじゃないのかと思い始めたころ、王渦雲周辺に来たというましろさんからのフレンドコールがきたのだ。
「いい感じです。レア物も結構獲れました」
『わあ、いいですね!私、がんばって運びますから!』
桃ちゃんさんに設備を整えてもらった後、リアルの方の事情でログアウトしていたましろさんはやる気満々なご様子。この手のイベントは途中からひたすら輸送輸送アンド輸送で飽きてくるのがオチかもしれないが、この人はルーチンワークもニコニコしながらやってのけそうな気がする。
あ、そうだ。聞いておかなきゃいけないことを忘れてた。
「そちらの船、生簀にはどれくらい入りますか」
『生簀ですか?えーっと、少し待ってくださいね……生簀に入るのは500樽分ですね。あとは空魚用の冷蔵設備が800樽、普通の貨物が1500樽です』
冷蔵、冷凍、生簀、加工品と、いろんな輸送方法でどれだけポイントが変わるか見てみようってことでましろさんは生簀を搭載してきている。彼女は青や桃ちゃんさんと比べて設備用の所持金が少なかったので、できる限り設備を増やさずポイントを稼ぐために1樽当たりの単価が高くなるであろう生簀での輸送と加工品輸送をすることになった。
それを踏まえても空魚用の積載量が少ない。桃ちゃんさんが来てから少し時間が空いていたからと、できる限り獲った空魚を加工品にしておいてよかったな。加工品を作るには空魚だけでなく鉄も必要になるので普段ならバカスカ作ることはできないけど、今回は青や桃ちゃんさんが王渦雲に戻ってくる時に鉄を持って来てくれるから存分に作れるぞ。
「そろそろ外辺に移動します。二時間ぐらいで着きます」
『私の方もあと二時間ぐらいみたいですからピッタリですね。それでは赤信号さん、またあとでお会いしましょう』
「はいどうも」
通話終了。ましろさんの本体というか中の人が高校生だというのは何かの折にポロっと聞いたんだけど、それでも敬語になっちゃうのはなんでだろうな?年上だとわかってても茶管にはタメ口なのに。
「次に会った時、茶管さんって呼んでみようか。やっぱやめよう、絶対に嫌な顔される……ん?」
ほんの一瞬だけ視界と思考にノイズが走った。この感覚は他のゲームでも感じたことがある。いつものフィールドと同じように見えて実は隔絶されているエリア。
すなわち、イベント空間だ。
「頭ァ!渦の様子が変です、嫌な予感がしますぜ!!」
マストの上にいる見張りから叫ぶようにして報告が入る。待ち望んでいたような、来なければ来ないでいいと思っていたような。そんな気持ちを抱えながら渦の中心部を見ると、明らかに渦の回転速度が速くなっている。だが、見た感じはそれだけだ。
何かが出てくるんじゃなくて、ただ渦に引き込まれるだけか?だとしたら、そんなつまらないことで俺の船と乗組員を傷つけるわけにはいかないな。面白くないペナルティなんぞ受けてやるもんか。
拍手を二回して全員集合。何が出るにせよ何も出ないにせよ、やるべきことはやっておくべきだろう。どんなことであれ準備を怠るとロクなことにならないからな。
「漁は中止だ。緊急浮上に備えてアンカーを回収、並行してバルーンの浮力調整も頼む。総員配置につけ」
「「「サー・イエス・サー!!」」」
イベントを相手にどれだけ効果があるのかは分からないが、何もしないお飾りの船長よりは多少格好もつくだろう。何もせずに任せっぱなし流されっぱなしだとNPCの好感度が下がるらしいし。
なんて冷静を気取っているがぐんぐん中心に引き込まれていくこの状況、自分で招いたものとはいえ未知への興奮とやっちまったな感の両方が湧き上がってくる。シナトなんてさっきから黙りこくって……あれ?なんか前足で頭抱えて、ガチで怖がってないか?
「おい、大丈夫か?」
聞いてもデカい身体を縮こまらせたシナトは震えているばかりで返事をしてくれない。もうすぐ渦に飲み込まれそうだから浮上するのに風を読んで欲しいのに。
待っている時間はないな、背に腹は代えられない。風読み無しで浮上するかと考えた時、急に立ち上がったシナトに襟元を咥えられ舷側から引き剥がされた。
「ぐえっ!ど、どうし……」
「来るよ!みんな、船に掴まって!!」
俺が理由を聞くよりも早く発されたシナトの悲鳴。船内への入り口の外壁に押さえつけられたのとほぼ同時に、パラダイス・オブ・シーフード号は轟音に包まれた。
船体を真下から持ち上げ貫くような衝撃に何人もの乗組員がデッキや壁に叩きつけられる。外に投げ出されそうになった者を近くの者が間一髪でつかまえて引き寄せているのが視界の端に映り、ホッと胸をなでおろす。
放り投げられた紙きれのように不規則な挙動をする船体のせいで左右どころか上下感覚まで失いそうだ。そんな目まぐるしい状況の中で妙に時間がゆっくりに感じるのはそういう仕様なんだろうか。
あまりの出来事に頭が追いつかず、そういえばこのゲームを始めたばっかりのころに似たようなことがあったなぁとか、あの時は俺がシナトを抱えてたのに今回は逆になったなぁなどと、どうでもよくはないが今必要ではないことを思い出した。
あの時に現れたのはバカでかいクジラだったっけ。そうそう、こんな感じに海雲の柱をおっ立ててなぁ。かろうじて直撃しなかったあの時とはだいぶ差があるけど。
「ふむ……我が領域に居座る命知らずがいると思えば、斯様に小さき船とはな。あのお喋りイルカめが、警告するのならば徹底的にやればいいものを」
雲の柱の中から響いたのは、俺も知ってる相手への呆れ声だった。愚痴のようにこぼされたその言葉に、現在進行形で命の危機だというのに思わず笑ってしまう。
ソーウンはあとでしっかり怒られてしまえ。こんなやつがいるなら言葉を濁してんじゃねーよハゲ。まあ、聞いてても来てたと思うけどな。
「多少ならば目こぼしもしようが、弁えぬ者は放ってはおけぬ。その小さく脆い船で渦をものともせずにいた技量と度胸に敬意を表し、命は取らぬ。ただ去るがいい」
突風や強風などという言葉では言い表せないほどの猛烈な風が叩きつけられる。ロープやワイヤーがちぎれ、帆が裂ける悲壮な音があちこちから聞こえてくる。ああ、みんなは無事だろうか。
強制的に王渦雲の中心部から排除される中、俺が飛ばされないようにと必死でしがみついてくるシナトの体越しに俺は見た。そして撮った。
霧散して薄れていく雲柱の中にいたのは、細長くもしなやかで力強い巨体。
表情までは見えないが頭部には七支刀のように枝分かれした立派な角が生えていて、雲よりも白く輝く鱗と空よりも蒼いたてがみが神々しさすら感じさせる。
このシルエットは日本人なら誰だって知っている。言葉にすれば同じだが、洋の東西で姿が全く違う超有名なあの神獣。派生や亜種まで含めるとファンタジーなら登場しない作品を探す方が難しいとすらされる空想と幻想の王。
そう。それはまさしく、龍だった。
好きなドラゴンは何ですかと聞いたらその人の厨二レベルが分かると思うんですよ。
シェンロン(DBのやつ)とか青眼の白龍なんて人は厨二ですらありません。バハムートとかリヴァイアサンとか言い出したら初心者です。
バハムートはドラゴンじゃなくてデカい魚なんだよ、としたり顔で言う人はそこそこレベル高いです。




