有象無象の英雄たち
確率を信じられなくなったので更新です。
(発生の根本原理→上から5枚全部土地)
ざっと見ただけでも二十人を超えるニンジャたちが今までの鬱憤を晴らすべくド派手なニンポーを繰り出しながら猛攻をかけるその光景に、何かこみ上げるものを感じる。
この状況、この大攻勢は俺がいたからこそなのだと。多くのニンジャを屠ってきた強大な敵を前に俺は確かに役に立ったのだと、少しくらいは自惚れてもいいだろうか。
そんな風に感じ入る暇もなく、ニンジャの間を縫うようにして飛んできた鎖分銅を身を屈めて回避。援軍が来てもすぐにヘイトの対象が変わるわけじゃないってことね。
「油断していないようで何よりでござる。しかし必要であるなら無理せずいったん退くのでござるよ?……この局面まで一人で凌ぎきった者はそうはおらぬ。どうせならこのまま、奴を打ち倒すところまでいくのでござる!」
おうともよ、ハンゾーが倒れ伏す場面をこの目で見てこそ真の勝利ってもんだ。切れかけていた集中力も思考力も戻ってきたし、最後まで駆け抜けてやらぁ!
「今から理性は捨てるけどな」
「む?何かやるつもりでござるか?」
リクドーのスキルは人としての機能を代償にして大きな力を得る。天道なら視覚のために聴覚を、地獄道なら脚力の代わりに印を結ぶという指の機能をといったように。
個人的には捧げるものよりも大きな見返りを貰えていると思っているが、それにしてもメリット、デメリット双方がプレイスタイルに大きな影響を与えることに変わりはない。五感と五体すべてを使ってこそのフルダイブVRだしな。
そんな感じのリクドーではあるが、俺がこれから使う畜生道のスキルは人によっては大打撃どころの話ではない尋常ならざるデメリットをもたらす。具体的にはござる口調ロールプレイをしているカゲマルさんなんかは、仮にリクドーが最強スキルともてはやされようとも絶対に習得しないだろう。
ただし、俺にとってはほぼノーダメージと断言できる。
「リクドースキル【ケダモノ・ポゼッション】」
「レッドゥル殿、それは……!」
畜生道のスキル、その効果は各異形化パーツごとの特殊能力を強化すること。竜脚は垂直の壁に直立できるほどのグリップ力を、鮫鰭は一段上の加速を、四腕二尾はステータスそのものの強化を。
リクドーの中でも最も恩恵を受ける範囲が広いケダモノ・ポゼッションは、当然の様にその代価として支払うものも大きくなる。
さて人間とは発明する動物である。では、そんな人間が発明した最高のものとはなんだろうか。
「Urrrrrrr……OhhhhhAaaaaaa!!」
そう、言葉である。ケダモノ・ポゼッションは言葉によるコミュニケーションを手放すことを代償として発動するのだ。しかもこれ、人語を話せなくなるだけじゃなくて人語を理解できなくなるというもの。それがどういうことかというと……。
「■※≪〇Λ……ω\@%∞φ≒(;´・ω・)∀:§?」
他の人が何言ってるのかも全然わかんねぇんだなぁ。多分「マジか……大丈夫?」みたいなことを言ってるんだろう、知らんけど。
いちおうお互いにケダモノなら通じ合えるということなのか、ケダモノ・ポゼッション発動者同士なら普通に喋れるらしい。そんな稀な状況はそうそうないと思うけど。ちなみにニンポーは獣語でも使えるから安心だ。
よし、強化もできたし攻撃に加わろう。前にいる人たちが壁になってくれているけど、ハンゾーがまだ俺を狙っている以上は自分で受けに行った方がやりやすい。
いやね、視界が開いてないから相手の攻撃が全部不意打ち気味に飛んでくるわけよ。そうすると基本ソロでやってた俺としては自分に向かってくる攻撃の数が減ることよりも避け難いことの方が重く感じちゃうんだわ。
そんなわけだから俺もハンゾーと殴りあいまーす!いくぜメガロ・ドーサル、畜生道のブーストを受けたお前の加速を見せてみろ!
「Gooo……Laaa!!」
ふっははは、なんだこの加速は!圧倒的じゃぁないか!着地もRAPTORのおかげでスリップの心配も皆無、このまま突っ込むぜ!
自分より前にいたニンジャ達を軽く飛び越し、一定距離に近づいたことで放たれる鎖の自動迎撃も速度に任せてぶっちぎる。やあハンゾー、数十秒ぶりだな、殴りに来たぜ!
「GrrrAaa!!」
喰らえ必殺の右ストレート×2!腕が倍になればパンチの威力も倍だ!まあそうはならないのがゲームのお約束でありステータスの存在意義なんだけど!
「≒Ω#Я&√〆!」
「Grgyagyagya!」
「%ЙЮ〇☆!℃⊿♪†▽〒∑ω、Д◎(-`ω-)∫≆!!」
あっはっは、マロンさんが何言ってんのかサッパリわかんねぇ!まあでもいいよな、この人はどっちかっていうと拳で分かり合うタイプの人っぽいし。
ショートカットから片手用のマサカリを二本取り出し、左右の上手で保持。周囲に多くの味方がいるのに尻尾で武器を振り回すと多分事故るから、今回の尻尾は補助に徹するほうがいいだろう。
「……Ж÷⇔μ¥(-“-)※〒」
やべぇ、当たり前だけどハンゾーも何言ってんのか理解できん。まあ予備動作でどんな技が来るのかは頭に叩き込んでるから会話が聞き取れなくても大丈夫だけどさぁ。
「≦”(-@”;O……これで通じていると思うが、如何に」
「!?!?!?」
唐突に俺が理解できる言語で話しかけてきたハンゾーに一瞬動きが止まる。幸いにもFUMAニンジャが放ったものらしき雷の矢が後ろから飛んできたのでその隙をつかれることはなかったが、まさかにも程がある。
「某に宿るハンゾーの魂は獣の言葉も知っていたようだ……我が身のことながら底知れぬものよな」
「レジェンド・ニンジャってのは何でもありかよ……」
げに恐ろしきはケダモノ・ポゼッションを発動して戦うプレイヤーがいることを想定していた運営だな。それとも元々ハンゾーにはそれができるだけの背景が設定されていたのだろうか。どっちにしろ芸が細かいことだ、さすがはデュアリズム社。俺以外に獣語でハンゾーと会話したプレイヤーが何人いるんだろう。
しかしこんなことになるならハンゾーについてもう少し詳しく調べればよかった。修行ばっかりでほとんどイベントに関わってなかったから、コイツのストーリー的な立ち位置がこれっぽっちも分からない。
まあそれはともかく倒すけど!相手も俺を倒す気満々だしな!
ガィン!とマサカリと鎌がぶつかり火花が散る。四方八方からニンジャ達の攻撃が雨霰と降り注ぐものの、その中の少なくない数が鎖に叩き落とされ本体に届くのはごく僅かだ。各ニンジャ達は鎖で防ぎようがないほどの範囲攻撃を叩き込む、物量に任せて押し流す、敢えて懐に潜り込んで格闘戦を挑むといった対策をとるが、そのどれも消費が激しく長続きはしないだろう。
ゆえにここで勢いに乗って押し切らなければならない。無尽蔵の体力と切れることの無い集中力を持つAI相手にリソースが切れたらもうおしまいだから。
「教えて欲しい、六道を身に宿す忍よ。某は……某たちは、この今の世に生まれた意味があるのだろうか?……記憶はおぼろげながらも、往時の忍は感情を消し主の命に尽くすのが全てであった……」
「語りかける口調と攻撃の重さがあってねぇぞコラァ!」
あ、ありがとう見ず知らずのIGAっぽい人。ナイスインターセプト、百万の感謝をこの一瞬に捧げる。
「だが、今の世の忍はどうだ。同じ一門とは思えぬほどに奇抜な姿のみならず、某たちに対して軍を作りながらも確固たる個を持っている。……それが今の世の忍だというのなら、ただ己を作り出した者の命に唯々諾々と従うだけの某たちは、忍たりえるのだろうか」
なんだお前、獣語になってからやけに饒舌だな。もしかしてお前もコミュ障か?他の人に聞かれない状況になったら独り言バリバリ言っちゃうタイプの人か?奇遇だな、俺もだよ。
レイドボスが同士とは想像もしてなかったが、俺は今お前のセンチメンタルな相談に親身になってやれるほど余裕はないんだ。悪いけど突き放させてもらうぜ。
「戦いの最中にグチャグチャとうるせぇ!アンタが言ったように時代は変わったんだし好きに生きろよ、多少のワガママ通すくらいの強さは持ってるだろ。そんで俺たちも好きに考えた結果として、アンタを倒すって決めたんだ!」
FUMAニンジャが一人、特攻をかけた。おそらく回復薬も何もかも尽きたと思しき彼が最後に選んだニンポーは、足止め用の土遁。砂で出来た大きな手がハンゾーを握り締め動けないように捕縛する。
だがそれも一瞬のこと。術者はすぐに鎖分銅で撃ち抜かれ、その命が尽きるとともにニンポーの効果も切れる。
瞬きの間しか足止めできなかった彼の最期は無駄だったのだろうか。いやいやまさか、そんなことはない。そんなことにはここにいる俺たちがさせない。
「Биии∞∀§!!ЭΩ%、/`;ω;´)\@……!」
「℃⊿▽Д◎〒∑、ζ(;_:)#ЙЮ!!」
砂の手から解放されたハンゾーにいくつもの強烈な攻撃が突き刺さった。みんなが何を言ってるのかは分からなくても心で理解できる。ここにいる全員一人一人のことなんて知らないが、目的を同じくして集った仲間であることに間違いはないから。
口から出てくるのが人の言葉だろうが獣の唸り声だろうが、俺たちの思いはただ一つ。
「「「ハンゾー、倒すべし!」」」
骨も砕けよと剛拳が突き出され、音すら超えよと蹴撃が炸裂する。
炎が巨鳥となって飛び回り水龍と雷獣が駆け、黒風が吹き荒ぶ。
死闘の証たる散らばった忍具が意志を持つかのように浮かび、押し寄せる。
目の前の敵を倒す。これ以上ないほどに単純で、それでいてこれ以上ないほどに難しい目標。だからこそこれほど多くの見ず知らずの人間が集まり、協力し合う。
多分その辺はあんたが生きてた頃とそう変わらないと思うぜ。なあ、ハンゾーよ。
てんでバラバラな攻撃が見事なタイミングでハンゾーに突き刺さったのを見て、俺は勝利を確信したのだった。
次回エピローグでニンジャドー終わりです。
一対一の時に主人公がケダモノ・ポゼッションを使わなかったのは、本当に無理になった時に助けを呼べなくなるからです。あとリクドーのスキルは一度に一つしか使えません。
運営A:やっぱりタイマンを乗り切った人にはハンゾーも話しかけたくなると思うんだよね、そういう会話イベント入れようよ。
運営B:ケダモノ・ポゼッションで人語喋れなくなってたらハンゾーものすごく滑稽な感じになりませんか?
運営C:じゃあハンゾーに喋らせればいいじゃん、獣語。
運営A&B:お前、天才かよ……




