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ダイブ・イントゥ・ゲームズ ~ぼっちなコミュ障、VRゲーム始めました~  作者: 赤鯨
コミュ障 vs トップランカー ~インフィニティ・レムナント~
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獅子と蜂:その2

久しぶりにACV起動してたらいつの間にかムラクモ二刀流で遊んでました。そして剣振らずに蹴りまくるという本末転倒感。

爪牙とレーザーブレードが肉薄してはデンジャーゾーンがするりと躱し、乱れ撃たれる弾丸は建物を足場に飛び回るビーストキングに致命打を与えられない。

目まぐるしく立ち位置が移り変わり、何度も二機が交差する。しかし互いの武器は掠りこそすれど決定的なものにはならない。そんな膠着した戦闘は、一瞬の出来事で大きく動いた。


デンジャーゾーンが右手に持つ実弾タイプのアサルトライフルがついに弾切れになった。素早く投げ捨て腰のハンドガンに手を伸ばすが、百獣の王である獅子はこれを逃さない。

多少の被弾は覚悟のうえで全推進器を解放、瞬間的に加速すると大顎を開けてデンジャーゾーンへと喰らいつく。


だが、釣られたのはビーストキングの方であった。危険領域というその名が示すように、安易な接触は大怪我へとつながる。


獅子の顎が蜂の腕を喰いちぎらんとしたその瞬間、デンジャーゾーンは左手のレーザーアサルトライフルをビーストキング目の前へとトスするように軽く投げ、本体は回転するようにして横へと回避運動を取る。

アサルトライフル、それも実弾タイプよりも大型になりやすいレーザータイプの長さは一般的なレムナントの全長に匹敵する。それを虚を突かれる形で目の前に投げられたビーストキングは、もはや止まることも出来ない速度であって反射的にその銃身に噛みついてしまう。


ビーストキングが晒したその大きな隙はあまりにも致命的だった。

今まで鬣を盾にして直撃弾を防いでいた胴体部はがら空きとなり、とっさにブレーキをかけてしまったことで加速は殺され慣性を抑えるために脚部の膂力は割かれている。

まさに死に体となった無防備な姿に、デンジャーゾーンは容赦をしない。両腕の肘からレーザーブレードを発振すると躊躇なく右胴体部を切り裂き、突き刺していく。超高熱の刃が装甲を溶断し、内部機関に深刻なダメージを与えていく。この場所に設置されていたビーストキングのレーザーブレードは、一連の猛攻でもはや使い物にならないだろう。

ブーストを小刻みに吹かしまるで舞うように斬撃を繰り返すデンジャーゾーンに、ビーストキングは離脱のために全力で跳ねて何とか距離を取ろうとする。


切り裂かれた胴体部からは煙が立ち上り、配線がショートして火花が起こる。甚大なダメージを負ってしまったビーストキングはすぐさま背のグレネードキャノンをパージ。機関部に損傷を負ってエネルギー供給率が低下した今、一撃必殺の主砲はただのお荷物に過ぎない。



デンジャーゾーンは両手にハンドガンを構え、ジリジリと距離を詰めていく。

緊急離脱のために全力を使ったにも関わらず、ビーストキングはそこまで距離を離せていない。おそらく推進器に回せるエネルギーも足りていないのだろう。

主砲すらパージした今、逃げられ遠距離戦になる可能性はないと判断し、カウンターを食らうことだけを警戒してゆっくりと追いつめる。狩りは、獲物に止めを刺す瞬間こそが最も危険であるとでもいうかのように。



もはや瀕死一歩手前となったビーストキング側は、盾となる鬣をデンジャーゾーンへと向けて半壊した機関部を守る傍ら、いつでも飛びかかれるように後ろ脚を溜めている。

先ほどは完全にしてやられたが、大型クローと金属を簡単に噛み砕く顎は一撃の重さが半端ではない。仕留め損なえば手痛い反撃どころか、そのまま全壊まで持って行けるポテンシャルはまだ残されている。


先ほどまでの高速格闘戦はどこへやら、西部劇の決闘よろしく互いにタイミングを図り合う二機。

制限時間が残り1分を切ったアラームが鳴った時、両者は同時に動いた。

推進器を全開にしたデンジャーゾーンと最後の力を振り絞り飛びかかるビーストキングが正面からぶつかろうとしたその時、大顎を限界まで開いたビーストキングの口腔内からプラズマキャノンが発射された。


最後まで隠されていたとっておきの切り札。完全に虚を突いたであろうこの不意打ちは、しかしこともなげに回避されてしまう。

なぜ、と動揺するプレイヤーの気持ちが出たのか、それとも限界が来たのか。ビーストキングの動きは乱れ、デンジャーゾーンはそれを見逃すほど甘くない。

右肘から伸びたレーザーブレードが半壊した胴体部の傷に深く深く突き立てられ、ついに限界に達したビーストキングは内部から爆発。


炎上しながら崩れ落ちた獅子は、もう起き上がることは無かった。





「これ、中身が女子高生って冗談だよな?」


「……国内ランキング21位が二人いて、その両方がクチナシっていうプレイヤーネームっていう可能性……ないよねぇ」


はぁー、と2人で大きなため息をつく。


強い。ランカーと言えど、どこかで所詮は女子高生と舐めていた。なんだアレ、ランキング的にはそりゃ格下だろうが、それでも終わってみたらほとんど完封試合じゃねーか。


開幕の合図となったグレネードキャノンの一撃は確かにそれなりの打撃になったが、問題はその後。互角の格闘戦を繰り広げているようでいて、結局最後までダメージらしいダメージを負うことは無かった。

すべての攻撃を推進器のオンオフによる急制動と急加速で巧みに回避し、相手にはビルの三角飛びとかいう曲芸を押し付け集中力を削る。そして弾切れという最大の隙をこれ見よがしに見せつけて相手を釣った。

その結果、ホイホイ釣られた相手は胴体をメッタ切りにされて機関部に大ダメージ。起死回生の不意打ちも完全に読まれていてあえなくノックアウト。



ビーストキングのコンセプトは悪くなかった。

本体は瞬発力とパワーに優れ、武装もそのほとんどが高火力。鬣の防御力も高く、実際デンジャーゾーンの銃撃は正面からに限りほとんど弾かれていた。ヒット&アウェイで一瞬の隙に必殺の一撃を叩き込むというのは基本に忠実でいい戦法だった。

そんなビーストキングの敗因はズバリプレイヤーの焦り。なかなか決め手を与えられないために知らず知らずのうちに気持ちが逸ってしまったのだろう。冷静に考えれば、ほとんどダメージを受けていない豆鉄砲の弾切れ程度で無理に突っ込む必要なんてなかったのだ。


まあ、デンジャーゾーンはデンジャーゾーンで何度も肉薄されていながら、本当にここぞと言う時までレーザーブレードを隠していたので釣られても仕方ないかもしれない。

最後に躱された奥の手のプラズマキャノンだが、アレは多分戦闘中に見えていたんだろう。格闘戦の最中に何度も噛みつこうと大口空けていたし。それに、腕という武器の照準を合わせるためのいわば可動式台座がない四脚動物型では、命中精度を考えると銃器を仕込むなら背中と腹、それと口の中となるだろう。俺だってビーストキングのようなレムナントを組んだら絶対に何か口の中に仕込むもん。



「クチナシの強さってミスをしないことか」


「最初のグレキャも直撃は避けてるし、その後もあれだけ白兵戦に振ったレムナント相手に一撃も貰ってないし。なんていうか、追い込んで狩りしてるみたいだったよね」


ロボゲーでありがちな機体のスペックに振り回されて操作ミスなんてのも一切なかったし、回避動作も必要なだけ動いてカウンターも確実に決めていた。詰まるところクチナシは自分のレムナントのスペックを理解しきっており、相手がミスをするまで淡々と追いつめるタイプだ。

手の届く範囲なら確実な動作ができる、とでも言えばいいのだろうか。スペック上対応できるのなら実際に対応してくるような感じがする。


「勝てそう?」


「普通にやったら無理だろ。ダメもとでコミュ力頼みのリアル説得した方がまだ可能性ありそう」


「ですよねー……。ほんとにワンチャン狙いでコンタクト取ってみる?」


それもありかもしれない。友達である優芽が駄目だったというから諦めていたけど、もしかしたら案外話くらいは聞いてくれるかも。

しょーーーじき、妹の友達が引きこもりになろうが中二病になろうが知ったこっちゃないと言えばそれまでなんだけど、まあ、妹の頼みだしね。こんな兄を頼ってくるほど行き詰ってるなら、普段迷惑かけてる分お返ししたいよね、と。



そんなわけで、アリーナでクチナシを探すことにする。だいたい何時でもいるみたいだし、こちらの現状も説明しておきたいので顔見世程度にね。あわよくばそのまま優芽と話し合ってくれればそれが最高。

ゲームの中にまでリアルの人間関係を持ち込むのは嫌なんだけどなぁ、絶対話こじれるでしょ……。

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