忍び寄るは伝説の影
今年最後の投稿です、皆さま良いお年を。
番外編も更新してます。https://ncode.syosetu.com/n0338fw/12/
各パーツをとっては装備してを繰り返していたから大まかにはスペックを把握しているが、対ニンジャ戦は初めてだ。でもどうしてかな、相手が自分よりも下の階級であることを除いても全然負ける気がしない。
「ひとつ格上だろうとインファイトならIGAが有利だろ!【シンキャク】、【イダテン・ステップ】!」
シンキャクは次の行動にブーストをかけるニンポー。それによって常よりも一段速い踏み込みを見て、それでも俺は動かない。ただマサカリを握る手と地を踏む脚に力を込めるのみ。
「もらった!【タツマキ・シュート】!」
猛スピードで回転する勢いを乗せた回し蹴り。序盤の挨拶代わりというにはなんと派手な技だろうか。
だけどまあ、挨拶されたら返さないとな!
「はぁっ!!」
蹴り足に対して迎え撃つ形でスイングされたマサカリが甲高い音を立てて弾き、弾かれる。その結果に向こうは驚き、こちらは面の下でほくそ笑んだ。
ゲニン・リーダーのものとはいえど、かなりの速さが乗ったフィジカル・ニンポーを通常攻撃で正面から弾けたというのはとても大きい。今のやり取りだけでも向こうだけが一方的にリソースを消費するハメになったが、その事実は相手の行動を如実に縛る枷になる。
ニンジャ・スーツ変更による基礎ステータスの底上げに満足しつつ、各パーツごとの使用感を確かめていこう。まずは胴のKAZAKIRIからだ。
背中に力を込め解放するイメージ。そうすることでKAZAKIRIは一定量のNPを消費し、ごく短距離のジェット加速を可能とする。距離はテッポーミズ・チャージよりも短いし攻撃判定も無いが、予備動作無しで加速できるのは便利の一言に尽きるってもんよ。
「ふんっ、はっ!どっせい!」
「は、速っ!?」
カチ合いの威力で負け、さらに自慢のスピードですら追いつかれそうなゲニン・リーダーはますます焦り、じりじりとマサカリの圧に押し込まれていく。攻撃力はともかく加速にはNP消費が伴うから、こちらとしても適当に乱発するわけにはいかないのだけれど。
そんなこと口には出さないけどな。追い詰められてくれるんなら勝手に追い詰められてくれ、これも戦いなのだ……。
「こんなに速く動けるなんて聞いてないぞ!?フィジカルを取ってないくせに殴り合いをしてくるから、IGAなら有利を取れるって話だったのに!」
それはそれはご愁傷様、つい先ほど全パーツが揃って新生レッドゥルになったばかりだなもんで。最近やたら絡まれるからそうだろうなと思ってたけど、やっぱ目をつけられてたか。
本物のニンジャならとっ捕まえてわくわくインタビューの時間だろうが、そういうワケにもいくまいよ。尋問とかやり方知らないし、言葉巧みに情報を吐かせるとか俺には無理ムリ。誘導尋問を覚える前に、人前で自己紹介できる練習した方がいいって。
「と、とりあえずシュリケンで……!」
窮したように投擲されたジュラルミンシュリケンだが、軽く掲げた厚く堅いコテの装甲に弾かれ力なく地面に落ちた。新調したコテのB.A-KUMAはとっさの暗器程度は通さない堅さを誇る、肉弾戦が得意なニンジャ愛用の逸品だ。ヤクザを五十七回壊滅させてまで手に入れた価値はある。
距離をとりたいときにはシュリケン、それは間違いじゃない。でも一通り格闘して俺の方が優勢だとわかったし、こちらにはレンジで優れるエレメント・ニンポーもある。攻めて攻めて攻め続けてこそ強みを発揮するのがIGAなのに、後ずさりしちゃあダメだろ。
「インファイトならIGAが有利、じゃなかったか?」
「う、うおああああ!!【シンキャク】、【イダテン・ステップ】!【ショウリュウ・アッパー】!!」
神速を以って懐に潜り込み、全身のバネを使って跳ね上がり突き抜けるようなアッパー。追い詰められ半ばヤケクソ気味に放たれた一撃は、見事に敵の体を宙に浮かばせた。
……と、はたから見ていた人には、そう映ったかもしれない。
「クソッ、スカされた……!」
「惜しかった……とは言わない」
俺の体は確かに宙に浮いている。が、それはこのIGAニンジャによってではない。アッパーが決まるよりも早く、俺は自分の尻尾で体を持ち上げていたのだ。
窮鼠猫を噛むという言葉があるが、それは噛まれた猫が慢心し油断しているからだ。IGAのニンポーはシンキャクから始まるとされているが、何も考えずに使っていては攻撃タイミングを教えるだけ。IGAにもKOGAにも絡まれまくったからな、ニンポーの間合いをそれなりに理解できてるのもデカい。
「そんな器用に尻尾使えるなんて思うかよ普通……。あーあ、完敗だ。FUMAにニンポー無しでここまでされたら勝てるビジョンが浮かばないな、カイシャクを頼んでいいか?」
「わかった、カイシャク仕る」
今宵、一人のニンジャがマサカリの露となって消えた。つっても十秒もすればどっかでリスポーンしてるだろうけど。
PvPの場合、降参してカイシャクを受ければデスペナルティが減る。といってもニンジャドーのデスペナルティはもともと所持金をいくらか失う程度なのでそこまで重くもない。目的としては勝ち目のない戦いをさっさと終わらせることの方がメインであり、カイシャクを無視されても死活問題になることは少ない。
「まあ、カイシャクの方が互い後腐れないからソッチを選んじゃうんだけどな……うん、カルマ値もホトケですわ」
一見するとカイシャクをする側には時短以外のメリットが無いように見えるがニンジャドーにはカルマ値があり、それに作用する。カイシャクをすればカルマは『ホトケ』の方に向かい、逆に同胞殺しやカイシャク要請無視を繰り返せばカルマは『ゲドウ』に傾く。
このカルマ値はNPCの態度や一部オーダーの受領条件になってたりするので、ロールプレイ目的だけでなく実益を得るために
調整をしている人もいる。カルマ値によっては装備できない武器とかあるらしいしな。
「しかしまあ、どうも予想以上に名前が売れちゃったみたいだな」
こんなゲームをやってるんだ、馴れ馴れしく喋りかけられたりするのが嫌なだけで目立ちたくないとは言わない。ていうかさ、きーちゃんみたいにゲーム内で名が知られてたりするのってちょっと憧れるじゃん。
困ってるのは実力者として見られているんじゃなくて、手ごろな相手として認識されてることだな。さっきのゲニン・リーダーだって明らかに階級では俺が上と知ってて挑みに来てたもん、RPGでいうと初期マップのボスみたいな扱いだ。
「拠点を変えるか、いっそ俺から格上に挑んで実力を示すか……どうするかなぁ」
埠頭、気に入ってたんだけどなぁ。この辺ってダンジョンが少ないからプレイヤーもあんまり来なくて大規模戦闘に巻き込まれたりしないし、割とクランハウスに近くて便利だし。なにより夜の埠頭で三味線を弾くのってシャレオツな感じがしていいと思うんだ。
ポロン、という音と共にシステムメッセージがホログラムウィンドウで表示された。内容は……あ、今日はメンテナンスの日か。なんかゲリラ・オーダーだかなんだかをやるって言ってたな。
ニンジャ・スーツの試運転も終わったし、いいタイミングかな。じゃあログアウト、っと。
「ん?青から着信来てるな……もしもし」
「やあ、なんかニンジャしてるらしいけど二週間後はセレスティアル・ラインのために時間空けてくれないかな。どうも君の力が、というか君の船が必要になりそうなんだ」
それは別に構わない、というかセレスティアル・ラインは海とはまた違った気分転換ができるからちょくちょくインしてるんだよな。シナトがデカくなって俺を乗せて動けるようになったおかげで、商売だけじゃなくて島の探索とかもやりやすくなってなぁ。
「俺のパラダイス・オブ・シーフード号が必要?どうした、漁業にテコ入れでもはいるのか?」
「うん、相変わらず鮭からどうしてその名前になったのかわかるようでわからないんだけど、それは置いとこう。次のイベントが空魚関係みたいでね、漁船があると良さそうなんだ」
「でも、お前の商会にだって漁船持ちいるだろ?なんで俺を?」
青が率いる商会、青の商船団は所属者が二百人を超える大所帯だ。いくら漁船プレイをしている人が少ないとはいえ、いないことはないだろう。俺は青の友達ではあっても商会的には部外者なんだし。
「いるにはいるけど、君ほど漁に特化した飛空船を持ってるプレイヤーは珍しいんだよ。漁船って商品に元手はかからないからコスパはいいんだけど、一回の航海で出せる利益としては少ないからね。ぶっちゃけ情報が欲しいだけで四六時中一緒にいろとは言わないからさ、頼むよ」
「俺は俺で好きにやって、イベント関連で得た情報があればお前と共有する。これでいいのか?」
「最高だよ、親友。とりあえずは二週間後に予定空けててくれたらいいから。じゃあねー!」
調子のいいやつだな、まったく。予定空けろって言っても予定はスカスカだから開けるもクソも無いけど。他のゲームのイベントも取り立ててはないはずだし、あと二週間もあればニンジャドーもそれなりに堪能できてるだろう。
「あ、そうだ。イベントで思い出したけど、実装されるゲリラ・オーダーってなんだろ?」
気になったのでニンジャドーのホームページを検索検索ぅ。
ゲリラ・オーダー『クローン・オブ・レジェンド・ニンジャ』開催!
ニンジャの歴史に燦然と輝く七人の伝説的ニンジャ、その名を【セブンス・レジェンド】。死してなお強大な影響を持つ彼ら七人は遺体すらもが各クランやアンダーグラウンド・ニンジャ組織によって厳重に管理、封印されてきた。
だが、その七つの伝説の一つがカルト・ニンジャたちによって奪われてしまった!
おぞましき凶手にかかってしまったのは、IGAが管理していたスプレマシー・クサリガマリスト【ハンゾー・ジ・オーガ】。今日のメガロポリスOH・EDOの前身であるオエドの守護神と呼ばれた存在である。
カルト・ニンジャどもは恐れ多くもハンゾーの遺体からクローンを作り出し、量産型レジェンド・ニンジャによるOH・EDO転覆を図ろうとしているとの情報が入った。そして普段はシノギを削る各クランもこの緊急事態に一時休戦を宣言、ここにトライクラン・アライアンスが発足する。
遥か遠き時代を駆けたレジェンドに現代のニンジャは勝てるのか。いや、勝たねばならない。それが、今の世の闇に舞う者の義務であるがゆえに。
古き英雄には安息を、邪なる者には鉄槌を。ゆけ、ニンジャたちよ。その力、伝説にも勝ると見せつけよ!
なお、サムライたちは何も知らないので通常通り敵対してくる。あしからず。
デカい腕に長く甲殻類的な尻尾と主人公の見た目が結構威圧的な感じですが、他にもASHURAというコテは六腕になるもので大概キモいです。組み合わせによっては完全にバケモノになりますね。




