死にたくないよね、生き物だもの
作中の時間をすっ飛ばしたので主人公がチューニンになりました。テンポ重点です。
満月が灯る夜の帳に、波音響くここはOH・EDO湾の倉庫埠頭。その波音に寄り添うように紡がれるシャミセンの旋律は、招かれざる客によって待ったをかけられた。
「我こそはKOGAチューニン、スケルアイ。このすべてを見透かす千里眼に嘘はつけぬぞ。貴様、ニンジャであろう」
もはや隠すこともなく堂々とニンジャ姿で現れたその相手は、各パーツごとにちぐはぐな意匠のニンジャ・スーツに身を包んでいる。目の部分にだけ黒塗りのラインが入ったデザインの面が一層奇抜な印象を与えるが、シリーズ・ボーナスではなくパーツごとの付加能力を重視したがゆえか、それともあり合わせのツギハギか。
「……月夜のシャミセンを理解せぬとは、なんたる無粋。しかし問われたならば答えよう。FUMAチューニン【血鉞】のレッドゥル。去るなら追わぬ、返答やいかに?」
「無論、去らぬ。いざや参らん、ニンポー【コンフュ・ガンリキ】!」
漆黒の目から放たれた怪光線。しかしその紫の光が目標へと到達することはなかった。突如現れた水の壁に阻まれてしまったからだ。
「【オオナミ・ウォール】……KOGAが誇るガンリキ・ニンポーも視線を遮れば意味は無い」
シャミセンを天地逆さまに持つことで胴からスライド展開されるのは、ビーム刃ではなく実体の片刃。その冷たくも重厚な刃が月明かりをてらりと反射する。
「さあ、このマサカリに血を吸わせる準備はいいか?」
……………………
………………
…………
「KOGAチューニン、スケルアイ討ち取ったり。……チューニンになってから敵ニンジャに絡まれる数増えたなぁ」
転がる骸にオジギをするも、ついつい愚痴が零れてしまう。
あ、レッドシグナル改めレッドゥルです。つい先日チューニンに昇格して名乗りを上げることを許されたんだけど、どうもイマイチしっくりこなかったので短めの名前に改名してみたぞ。ついでに何が条件だったのか【血鉞】の二つ名まで貰ってしまった。
それと同時にサブスキルの解放だとかいろんな要素がドバっと放出されたんだけど、喜んでばかりはいられない。特に二つ名を得たことで対人戦を吹っ掛けられる頻度が爆上がりしてしまい、入り浸っていた埠頭エリアではゆっくり三味線も弾けない状態だ。
なんかね、『二つ名持ちを討ち取れ』とかいうクソ迷惑なオーダーがあったりするらしいんだわ。それで昇格祝いに貰ったチューニンシリーズでスーツを構築している俺が与し易いと見られてるっぽいんだ。
「こりゃとっとと新しいニンジャ・スーツを見繕って見た目を変えなきゃな。そうと決まれば、サブスキルも含めてビルドの方向性を決めるか」
一式で揃えるにしろパーツごとの付加能力で決めるにしろ、現段階から自分がどんなニンジャになりたいのかの方向性を定めるのは大事だ。高性能なニンジャ・スーツのパーツは基本的にダンジョンアタックで入手するものなので、数を揃えるには時間がかかるから自分のスタイルに合った性能のものを決め打ちして手に入れる方が効率がいい。
俺の戦闘スタイルは中近距離戦だ。ニンポーで間合いの外からぶち抜くよりも牽制や接近の手段として使うことが多く、主なダメージ源はマサカリによる近接攻撃となっている。射程や範囲に優れるエレメント・ニンポーを得意とするFUMAなのに、かなりIGAに近いバトルスタイルと言えよう。
このスタイル、ガチの競り合いになればどう足掻いても地の速度と力でIGAには勝てない。また、しっかりと事前準備を行いフィールドを整えたKOGAにはその意表を突く動きができなければハメ殺しにされるのが関の山。
であれば、俺が第一に求めるのは機動力だ。それも直線的なスピードではなく、移動できる場所を増やすという意味での機動力が欲しい。
端的に言えば変態的な動きを可能とするスーツ・パーツが必要だ。俺が知ってるだけでもジェットパックが仕込まれたドウやワイヤーアンカーを射出できるコテ、ジャンプ力を強化するキャハンがあるはず。
第二に、近接戦の補助となる能力が要る。NPCニンジャなら何とかなっても、マサカリだけでいつまでも殴り合いに勝てるとは思えない。なんせ一瞬の遅れが命取りになるクロスレンジの戦いでは悠長に印を組む暇もなく、FUMAのウリである高威力広範囲のエレメント・ニンポーが出せずダメージレースで後れをとってしまう。
近接戦についてはIGAのラッシュに対応できるようなガードと、マサカリとプロレス技を活かすものが欲しい。とはいえパーツで補うのも限度があるだろうし、ここはサブスキルを当ててしまってもいいかもだ。
「よし、一回ログアウトして情報取集するか」
感謝すべきは先人の知識。全国のニンジャたちが日々更新してくれている攻略サイトを覗かせてもらおうじゃないかね。ついでに気分転換に海いくべ海。
墨で塗りつぶされたかのような一面の闇。方向感覚すら信じられなくなってくるような漆黒の世界において怪しく揺れる一点の光。
いっそ艶やかともいえる動きでゆらゆらと誘うその灯りに、おびき出された哀れな者のたどる道は一つだけ……。
「うぃ、ごちそうさん。またNPCか、さすがにプレイヤーは釣れないな」
暗く、暗く、どこまでも暗き深海に、光をもって闇に潜む。我が灯に釣られし有象無象よ、この腹満たす糧となれ。
と、いうわけでチョウチンアンコウ(メス)やってます。存在するものすべてが忍者と言っていい深海の環境にちょいと修行にやってきました。やはり海は全てを内包する。
深海をメインに据えるプレイヤーはヤバい人が多いから注意、というかそもそも深海生物の習性がヤバいんだけどね。タカアシガニは繁殖の準備が整ってないメスを見つけると、自分の脚を檻代わりにして準備ができるまでずっと閉じ込めるからね。うーん、病みー!
「油断してもしなくても運が悪けりゃ次の瞬間には誰かの腹の中……なんてのは海の常みたいなもんだけど、深海はほぼ全員が不意打ちのプロみたいなもんだからなぁ」
生き物の絶対数が少ない深海では一期一会を大切にしなくてはならない。今見逃した獲物が次に目の前を通るのは果たして何日後かという話だからだ。
ゆえに深海魚の多くは見敵必殺の技を持つ。中には絶対に食らいつき放さないという鉄の意志を持ちすぎて、大きすぎる敵に噛みついたら歯が抜けなくなって餓死することもあるホウライエソ君みたいな『もう少し考えて進化しなさいよ』といいたくなるやつもいるけど。
そんな世界で割と強い勢力を持つチョウチンアンコウを選んだのは、単純に少しでも生き延びたいからだ。……いやね、餓死って辛いんだよ。寂しさと切なさと心細さが一度に襲いかかってきて「俺……もうすぐ死ぬんだな……」感がヤバいの。
あの感情を知ったら、もう出された食事を残すなんてことはできないぜ。全国の親御さん、子どもの食育にラオシャンはどうですかね。積極的に餓死を勧めるのが情操教育にどんな影響を与えるかは知らんが。
「ん?……いるな、何かが」
あまりにも静かな深海では、移動時に起こす水の揺れもよく伝わる。そしてこの感じ。大きくはないが、確実に俺に向かって来ているな。
「ハァ、ハァ。よかった、死ぬ前に見つけることができた……!」
ゲームの補正が入りぼんやりとだが見えるようになったそいつは、俺よりもずっとずっと小さい五センチほどの魚だった。
まるで自分から食べられに来たかのような矮小な存在。だがしかし、俺はこいつを食べることはない。むしろ、そのすべてを祝福しようじゃないか。こればかりはコミュ障だとか人見知りだとか、それすらも飲み込もう。
「……魚生のゴール、おめでとうございます」
「ありがとう、これでようやく実績が解放できる……!それじゃあ」
小さな体が歯を剥き出しにして突っ込んでくる、そのすべてを俺は受け入れよう。さあ来たまえ、この俺こそがあなたのゴールテープだ。
「合・体……!」
俺の腹に歯が突き立てられる寸前、そう呟いたのが彼の最後の言葉だった。
チョウチンアンコウのオスはメスに比べてとても小さく、成熟したメスを見つけるとその胴に噛みつき同化する。雄はやがて感覚器も内臓も退化し、生殖器を残してメスと一体化するのだ。
この広く暗い世界の中、圧倒的弱者に入るその体躯でどれほどの距離をどれほどの時間をかけて、このたった一瞬のために彼は泳ぎまわったのだろう。その思いは俺が連れていく。文字通り、一つとなって。
ほんの少し大きくなった身体を動かし、俺は、いや俺たちはゆっくりと暗い世界を泳ぎだすのであった。
そして海から上がり自分が集めるべきパーツの入手方法を調べた俺は、その身を果てしないデス・ロードへと投じた。
「おうクソヤクザども!オタカラ回収の時間だオラァ!!」
「狼狽えんな、ニンジャとはいえ相手は一人だ。ヤッチマエー!!」
「オス、オヤブン、オス!」
「こちとらもう四十三回目なんだよ、オヤブンはいい加減レアドロップしやがれ!してくれ!してください!うわああああああ死ねぇー!」
時には精神をやられながらヤクザをシバいたり……
「(いける、いけるぞ。3……2……1……Go!)」
「誰だ、そこにいるのは!侵入者だ!デアエー、デアエー!!」
「あああああああロックかかったぁ!また始めからやり直しかよォ!?」
時には長いダンジョンの奥にある隠しエリアにいつまでたっても入れなかったり……
「ニンジャだ!ニンジャだろう!?なあニンジャだろうお前!!やろうぜ、果し合いといこうじゃねぇか!なあ!?」
「ボス部屋の前なのに……!FUMAチューニン、レッドゥル!ゆえあって押し通る!」
「あっFUMAか、俺もFUMA。一緒にボス部屋行く?」
「えっ、あの、その、ソ、ソロ討伐しないと、ドロップしないオタカラ狙いなんで……」
「そっかぁ。頑張ってな!」
「アッハイ」
はた迷惑なバーサーカーだと思ったら仲間には優しい兄ちゃんに絡まれたりと、まあいろんなことが起こりまくったが……俺は為し遂げた。現時点における理想のニンジャ・スーツを構築することができたのだ!
「拙者はIGAのゲニン・リーダー。いまだ名無しの身なれども、いずれ天下に轟く者となろう!我がニンジャドーの足掛かりとなるがいい!」
「FUMAチューニン、【血鉞】のレッドゥル。今宵も一曲弾くことすらままならぬ、か」
両者ともにカモフラ・テクスチャを解く。正面に立つゲニン・リーダー一式で揃えたニンジャ・スーツ姿がもはや懐かしくすら思える。
だが刹那の感慨にふける俺に対し、向こうは俺を見て気圧されたかのように後ずさった。
「人の姿を見てその態度……シツレイだな」
閃光玉や煙玉などの視界妨害の持続時間を半減するメン【Ⅲ-グラス】
そのものを盾とすることもできるような太く大きいコテ【B.A-KUMA】。
飛ぶのではなく加速や落下制御を目的としたフィン・バーニアが背についたドウ【KAZAKIRI】。
先端には自在に動く五爪がついた、甲殻類のような尾が伸びるハカマ【クルスタV.T】。
特に何の変哲も無いが基礎性能が高いキャハン【KEN-KYAKU Mk.Ⅱ】。
「ではこの身体、試運転と行こうか」
装備変更後の主人公の見た目は
・グソクムシャみたいな顔と腕
・背鰭バーニアが生えててスケイルメイル風なデザインの胴
・甲殻類チックな見た目だけど上下左右好きに動かせるし五本の爪は指と同様に動かせるので、実質ケツから三本目の手が生えてるのと同じな尻尾
・あっ脚は普通なんすね……ってなるくらい普通の脚
これらを集める時間で真面目にクラン・オーダーをやってたら余裕でチューニン・リーダーになれます。




