それはまるでB級ホラー映画のような発想
B級映画の三種の神器:【唐突に始まる濡場】【なぜその組み合わせなのかキメラ】【二番煎じ臭が香り立つタイトル】
「【花束をあの人に】と【木材求む!】と【駆け出しのお約束:スライム駆除】。以上三つのクエスト達成を確認しました。こちらが報酬です、お受け取りください。それでは、ありがとうございました!」
報酬はおこづかい程度のお金と少しの経験値、そしていくつかの消耗品だった。
HPポーションよりもMPポーションを多くもらえるのは、基本的に魔法でしか攻撃できないカラマジならではだな。MPを使用せずに筆で殴っても多少のダメージは入るけど、今の俺ではスライムを倒すのにも時間がかかるくらいには非効率的だ。
なんにせよ受けていたクエストは終了。せっかくだからと木材も自分用にいくつか集め、スライムにいたっては魔法の練習として必要数の五倍くらい倒してしまった。すまんなスライム、でもおかげでレベルは3になったよ。君たちの犠牲を糧にして俺は前へ進むんだ、ありがとう。
お使いクエストは草原から戻ってきて終わらせたのだけど、これがなかなか面白い。好きな娘の誕生日に祝いの花束を贈りたいが恥ずかしくて自分で渡せない恋する青年からの依頼だったが、なんと預かった花に色が塗れるというビックリ仕様。
試しに一つ赤色に塗ってみたら「あら、鮮やかな赤いお花がアクセントになった素敵な花束ね」だと。良いことをしたのかいらんことをしたのか不安だったが、報酬をもらえてホッとした。もし全部真っ赤にしてたらどうなってたのやら。
協会のロビーにある休憩スペースの中でも一番端っこの壁際という、ぼっち御用達のイスに座ってステータスオープン。
三つのクエストをこなしてレベルが二つ上がったことで、ステータスとは別に魔法を強化するCPも二つ入手した。さて、このCPで俺の魔法はどう変わる?
「白黒は勝手に強くなるからいいとして、赤の強化先は……ふむ」
魔法の強化は大きく分けて二つ。
一つは色系統そのものを強化する方法。これは画数を増やしたり特殊なスキルを得るための強化で、その系統のレベルや熟練度ともいえるかもしれない。任意に何かを選んで取得するわけではなく、一定量のポイントが蓄積されればスキルが解放される感じだな。
もう一つは色の解放。現時点での俺は赤系統の中でも『赤』しか使えないが、朱色や紅色のように赤に属する別の色を使用可能にするものだ。同じ色系統でも上位色と下位色の関係があり、上位色を解放したければ下位色も解放しなければならない。
「さすがにたった2CPじゃ色の解放はできないか。だったら早く二画にしたいし、赤の系統強化でいいかな」
ポイントを振って赤系統を強化、手に入れたスキルはCEM+2と【ワイドライン】の二つ。当然だけどこのステータス補正は赤系統の魔法にしか乗らないから要注意だ。
【ワイドライン】はその名もズバリ、魔筆で描く線が太くなるというもの。消費MPが少し増える代わりに魔法の当たり判定が大きくなる補助スキルだ、魔法で足場を作ったりするときに役に立つだろう。
一つの系統でも強化と色の解放でこれだけCPを食うのなら、そりゃ安易に他の色に手を出せんわな。自分のレベルが上がれば貰えるCPも増えるとはいえ、上位の強化や色解放もそれなりの消費を要求してくるんだし。具体的なイメージを持って強化しないと、下手すりゃセカンドキャラクターでやり直しになるかもだ。
「あくまでゲームの雰囲気を楽しむのが目的なら、二~三画しか使えなくても全色系統を解放するってのもアリかな」
これだけ多種多様な色を使えるゲームなのだから、強さにこだわって一系統だけしか使えないのももったいない気がする。その辺のバランスに頭を悩ませるのも、この手のゲームの醍醐味と言えるよな。
「ここでうだうだ悩んでいても、捕らぬ狸の皮算用。クエストを受けてストーリーを進める必要もあるし、当面はクエスト祭りだな」
そういうわけなんで受付のお姉さん、またいい感じのクエストを二、三個頼まぁ!……【赤い屋根が欲しい】?いいね、じゃあそれと適当な討伐系のやつ二つで。はいどうも、行ってきます。
受注を終え、依頼主であるNPCのもとへレッツゴー。まずは家の屋根を赤くして欲しいとかいってるおじさんのところに行こうか。
今更ながら、カラマジにおけるプレイヤーは男性ならドローウィザード、女性ならドローウィッチと呼ばれる。色の力を引き出して形を与えて魔法となす立派な魔法使いだが、扱いとしてはおつかいから伝説の魔獣の討伐まで幅広く請け負う何でも屋さんだ。RPGでいうところの冒険者と同じだな。
ストーリーとしては、駆け出し魔法使いのプレイヤーが協会に登録してクエストをこなして実績を重ね、いずれ誰もが認める大魔法使いに……といった王道っぽい感じ。まだ始めたばかりだから、そんな雰囲気に見えるってだけだけど。
「えーっと、七彩通りの商店街を抜けた近く……これ、かぁ……」
依頼主の家はなんというか、すごく独特な色遣いが特徴で、あふれ出すオリジナリティが伝わってくる個性的な……うん、オブラートに包まず言おう。考えなしに多数の絵の具を塗りたくったような、見てるだけでクラクラするサイケデリックな家だ。
赤い屋根が欲しい?いやいや屋根の色どころか壁の色もスゲーぞ、通行人に催眠術でも掛けたいのかってぐらいの気色悪さだ。
もしかして依頼人は綺麗な色をいっぱい使えばより綺麗になると信じてるクチの人?サメは怖い、幽霊も怖い、つまりサメの幽霊はもっと怖いとかいうクソ映画製作者みたいな思考は今すぐ捨てろ。混ぜるな危険という言葉を知らないのか?
ドアを開けたくねぇなぁ、これ。こんな家に住んでる住人が『普通の人』なわけねぇんだよなぁ。NPC相手なら多少は話せるようになってきてるけど、それでも思考回路が特殊な人とパーフェクトコミュニケーションとれるほどの修行は積んでないんだよ。
「まあ、受けたものは仕方ないか。すいません、協会の依頼できた者ですけど……」
怒られるのが分かっているのに行かなければいけない、職員室に呼び出しを食らった中学生のような気分で依頼主を呼んでみる。フルダイブVRになってからというもの、往年のRPG勇者よろしくズカズカと他人の家に入るのは基本的にNG。住人NPCからの好感度がダダ下がりになっちゃうぞ。
十秒ほど待つと、中から見た目は普通のオッサンが現れた。見た目は普通のオッサンだがし中身までどうかはまだわからん。それほどまでに常識を疑う色の家なんだ、ここは。
「お待ちしておりました、ドローウィザードさん。私が家の屋根を赤く塗って欲しいという依頼を出した者です。ささ、中へどうぞ」
対応は常識人のそれだ、もしかしたら色彩感覚だけがバグっているのかもしれない。あるいは彼の家族がヤバいのであって、オッサン自身はまともという可能性が浮上してきたぞ。
通された家の中はドギツイ色の本棚や真っ黄色で目がチカチカするテーブルがあるが、色の闇鍋状態になっている外よりはマシ。それでもまだマシなだけであんまり長居したくはない。
勧められたイスはショッキングピンク、紅茶を淹れて出されたティーカップは深緑の水玉模様。こんな家に住んでいたら三日と経たずに精神がやられるぞ。
「いかがです、ひどい家でしょう?」
そういう返しに困る自嘲で会話を始めるのはやめろ。本当にひどいですね、塗り直すよりも発破解体して一から立て直したほうがいいんじゃないですかHAHAHA!とでも言えばいいのか。
沈黙は肯定ととられたようで、オッサンは昔を懐かしむように話を進める。黙っていても先に進むんなら願ったり叶ったりだ。どうぞ喋れ、そして早く俺を外に出してくれ。
「実は私の息子がドローウィザードに憧れてましてね。その練習だとか言って、塗料を買ってきては好き勝手に家を塗るのですよ。本人は会心の出来だと思っているみたいですが……ご覧の通り、息子に才能はないのでしょう」
ある意味では才能があると思うけどね、息子さん。方向を修正してやれば逆に大成するかもしれない、そう思わせるほどに人の感情を動かせる色使いだよ。適性があるのは催眠術とか洗脳とか拷問とかだろうけど。
「親としては息子が為したいと思ったことを応援してあげたいのですが、さすがに限度があります。昔はこの家の屋根は鮮やかな赤色でしたが、今はもう見る影もなく。……お願いします、綺麗な赤い屋根に塗り直して、ドローウィザードというのはこういうものだと息子に思い知らせてください」
この通りです、と頭を下げるオッサンの声は少し震えていて、慣れているように見えた彼も限界を迎えようとしてたらしい。
……初心者用のクエストに重たい背景を持たせてんじゃねーぞコラァ!
俺もついさっき免許貰ったばかりの新米だぞ、そんなペーペーに依頼する内容かコレ!?協会で依頼文を見た時には「綺麗な赤色に屋根を塗り直して欲しい」くらいにしか書いてなかったんだけどぉ!
依頼人は事情をちゃんと書け、こっちはクエスト破棄すると違約金を取られるんだぞ。なんでこんな騙し討ちみたいなことをしてくるんだ、やることは変わらないけどこっちにもモチベーションってものがあるんだよ。
「わかりました、屋根を塗りましょう……」
ただでさえ目に痛い色の室内にいるのに、オッサンが泣きそうになりながら頭を下げている姿なんて見たくない。他の色系統を指定した似たようなクエストがあったけど、全部こんな感じなのだろうか。この世界における色がどれだけ重要なものなのかを教えてくれると言えばそうなんだけどさ。
しょうがないな、気の毒なオッサンの住環境を改善するために、このアカシンが一肌脱ごうではないか。魔法使いじゃなくて大工の仕事じゃね?と思わなくもないけど、色と形のエキスパートがドローウィザードである以上やらねばならぬ。
屋根に上がって魔筆を取り出し、仁王立ちで戦場となる場所を見る。家は特別デカいというわけでもないが、一人でやるにはちと広い。
「系統強化で【ワイドライン】を取ってなかったら面倒だっただろうな……」
筆よりも数倍は太くなった赤い線で、端から順にひたすら屋根を塗りつぶしていく。
こういう時に画数だとか線の長さだとかを気にしなくてよくなるのは、ご都合だと言われようがやっぱり助かるよ。世界観的には魔法になるほどの魔力を込める場合は限界があり、ただ色として塗るのならそこまで問題はないって感じらしい。
ワイドラインを発動させている分は申し訳程度にMPが消費されているものの、自然回復があるのでMPポーションを呑むほどじゃない。特に時間の制限も無いから、ゆっくり丁寧に塗っていこう。
「多分、このクエストも赤の上位色で塗ると反応が変わったりするんだろうな。序盤のクエストだし、そんなに劇的な変化があるわけじゃないだろうけど」
魔法強化の時にチラッと見たけど、現状のカラマジにおける赤系統の最上位色は精神系が【クリムゾン】で属性系が【紅蓮】らしい。まあ、最上位と言ってもそれがあれば他は要らないというわけでもないと思う。特に精神系の方はね。
ただ塗るだけのこの作業だけど、もし俺が他の赤系統色を解放していたとして、赤を背景に朱色で絵を描いたりしてもOKなのかな?だとしたら、後半になってレベルが上がってくると結構ふざけたことができるはず。先輩プレイヤーたちがやっているこの手のクエストはどんな感じになってるのか、ちょっと楽しみだ。
さて、やり始めてみたら塗り絵作業は案外楽しかったこのクエストもそろそろ終わりだ。下に降りるための梯子の周りを塗ったら、このサイケデリックハウスともお別れだな。
サッサと残りを終わらせて地上に降りてみると、うむうむ、なかなか立派に塗れているじゃないか。そうだな、これで屋根は一般的な家のそれに戻ったといっていい。むしろ塗りたてだから周囲の家よりも綺麗なくらいだ。
でもまあ、その、なんだ。いまだに壁が色のジャックポット状態だから逆に屋根が浮いていて仕方ない。屋根だけ普通なのがかえって妙なメッセージ性を発していると受け取れなくもないし、常識的に考えれば人の目につくのは屋根より壁だ。
余計に変になったとは言わないけど、これはこれでアンバランス。俺が第三者なら、屋根だけじゃなくて全部塗り替えろやと思うだろう。
「ありがとうございました。さすがは本職、素晴らしい出来です。……これを見て息子が自覚してくれればいいのですが……」
いやー、それはどうだろうね。屋根くらい速攻で元に戻されてお終いなんじゃないの。人の息子を悪しざまに言いたかないけど、自分の家をこんなハチャメチャカラーにして親を精神的に追い詰めたうえで自信満々でいられるような人間だぞ、それくらいで折れるかよ。
壁を白か黒に塗ってやってもいいけど、それも根本的な解決になるとは言い難いし、それなら俺にできることはもうない。本当に息子の心を折る覚悟がオッサンにあるのなら、それなりに名が売れているドローウィザードでも連れてきて真正面からボロクソに批判してもらうくらいしないとダメだろう。
夢を追いかけるという姿勢は尊いものだけど、自分勝手に家族すら追い詰めるような奴はその限りじゃない。それはただの迷惑なワガママだ。
NPCとはいえ、難儀な家庭環境と住環境には同情の念を禁じ得ない。もしこのクエストに続くものがあるのなら、その時はまた依頼を受けよう。今度来るころには俺が使える色も増えているだろうさ。
じゃ、そういうことで。お疲れ様っした、またのご依頼をお待ちしてまーす。
筆で殴る通常攻撃も厳密には筆に付与した魔力での攻撃なので、赤色を付ければ微弱ながら火属性攻撃になります。そんなことをしなければならないくらい追い詰められている時点でほぼ負けですけどね。




