はじめての友達
フールフール Lv15が突破できない……。
アイギス様、デューオとフィオレ下さい!脳錆王子は動画のトレスしかできないの!
衛星軌道上からの爆撃により戦場は焦土と化し、ゲームは幕を閉じた。リザルト画面を終えると、一瞬の暗転の後にゲームが始まる前のロビーへと転送される。
初オンラインバトルだったってのにどっと疲れた。まあ、人の案に乗っかっただけではあるが、腹立つ奴らに一矢報いれたのでそれは良しとする。
なんとなくインターフェースを開いて装備の変更でもしようかと思っていたら、フレンド欄のところに新着マークが現れていた。
どうやらフレンドからメールが届いているようだ。現状の俺にフレンドはブルマンと茶管しかいないが、さてどちらか。
『やあ、赤信号。ブルマンだよ。帰還ロビーが違うみたいだからフレンドメールを飛ばしておくね。協力ありがとう、おかげでちょっとだけすっきりしたよ。約束通り、今回の動画は公式の動画投稿ページにアップしておくから、楽しみ?にしておいて欲しい。それと、このゲームのフレンドコードを通じて、君のVRギアのアカウントに僕のフレンドコードを送っておくから、良ければそっちも登録してくれると嬉しいな。僕は最悪垢BAN食らうだろうから、また別のゲームでも一緒にプレイしよう』
ほう、協力者にアフターメールを送るとはなかなかな奴だなブルマン。
しかもさらっとVRギアに設定する本元のアカウントの方のフレコまで送ってくるとは。こやつのコミュ力は53万はありそうだな。俺?53くらいじゃね?人類のアベレージは出したくないな。
『最後に、一つだけ。君はゲームの中でもあまり喋らないんだね、赤石君。久しぶりの声だったからなかなか確信に至れなかったよ。でも、ゲームの楽しみ方は人それぞれだから、それもまたいいと思う。もし間違ってたらこの文はなかったことにして忘れて欲しい。恥ずかしすぎるからね。それじゃあ、また。ブルーマウンテンより』
何故身バレした!?これ、最後のブルーマウンテンってのがブルマンの本名?なのか?
……ってことは青山君お前か、このイケメンモデルァァァアア!!
声でバレたってマジか!?俺が最後にまともにガッコで喋ったのって一週間くらい前のグループ発表だぞ?しかも俺の声はめっちゃ小さかったはずだ。……あ、あの時同じグループですぐそこにいたからか!?それにしてもスゲーな、記憶力!?
つーかイケメンモデルでもゲームすんだな……。しかも結構強かったし。
……あれ?俺、ブルマンに勝ってるところ無くね?ルックス負け、コミュ力惨敗、ゲーム力……互角、互角で!これだけは、これだけは俺の最後の拠り所なんだぁぁあああ!!
もういい、なんかいろいろと敗けた気がするから今日はもうやめよう。ラオシャンで思いっきり泳いでくるのもいいかもな。
最近はイルカからクジラに変えたんだ。マッコウクジラ楽しいぞ、初めて深海まで潜った時はゾクゾクしたもんだ。なお、初潜水は帰りがけにダイオウイカに巻き込まれるというアクシデントとそこから発展した戦いにより、無事窒息死した模様。頭足類との戦い方を煮詰める必要がありそうだ。
深海をメインにしているプレイヤーが割と多くて驚いた。提灯鮟鱇ってスゲーな、雄が雌の体にくっついて一体化しちまうんだってよ。そうなったら雄側のプレイヤーはゲームオーバーなのかな?それとも雌側が死ぬまで何もできないまま意識だけはあるんだろうか。
とりあえずスラクラからログアウト。VRギアのホームまで戻った俺は、ブルマンから送られていたフレコをちゃっちゃと登録し、試しにメールを飛ばしてみることにした。
「文面、どうしようかな……。こういうの苦手なんだよなぁ」
すべての文章が定型文で出来ていればいいのに。日本語は丁寧語や謙譲語、タメ口を始めとして言い回しが多すぎて嫌だわ。文章一つ違うだけで褒めたつもりが貶していた、なんて普通にありうるからな。
あー、でもどうせ行きつく先はあいつだろ。なんかもう青山君とかいうのも馬鹿らしい。ブルマンだかブルーマンだか知らないが、俺のアイデンティティを揺るがすようなゲーム中毒のイケメン相手に悩んでられるか。
「割と使い古された手だけど……、…………、…………、よしっと」
さあブルマンに届け、マイハート。俺の心はスッカスカだぜ?
とある町にあるマンションの一室。さっぱりと小綺麗に片付けられているその部屋で、二十歳頃の一人の青年がVRギアを装着した状態でベッドに寝転がっている。
VRギアとはいうものの、ウェブサイトの閲覧や動画の撮影とアップロードまでできる多機能なデバイスだ。フレンド間でメールのやり取りやボイスチャットもできるので、もはやPCと言って差し支えない。
そのホームとなる空間で動画のアップロードの準備をしていた青年が、新しいフレンドの登録を知らせるシステムサウンドと共に、フレンドメールの着信に気付いた。
「お。さっそくフレンド登録してくれたんだ。多分無視されると思ってたんだけど。……ええと、なになに?」
差出人は赤信号。おそらく、いやほぼ百パーセント、大学で一緒の講義を受けている無口すぎて周囲から浮いているあの人だろう。決め手にはならないが、赤石慎吾と赤信号という名前がそれらしい。
どちらかというと声と顔つきと体格からそうではないかと思った。アバターをデフォルトからいじってないとすれば間違いない。ゲームキャラとしてある程度顔は変わっていたが、自分の顔の変わり方を見ればなんとなく元の顔の想像は付く。普段モデル仲間のメイク後の顔をよく見てるのでその辺はよくわかる。女性は本当に変身レベルで変わるし、男でも軽いメイク一つで印象は変わるからだ。
さて、ゲームの中ですらあまり喋らなかった彼だが、はたしてどんな文面を送ってきたのか。もしかしたら文字だと案外テンション高いかもしれない。
少しワクワクしながらメールボックスを開き、その内容を表示させる。
『Toブルマン 前略 中略 後略 以下略 From赤信号』
「漫画でよく見る古典的なやつだけど、やられたら絶妙に腹立つなコレ!ていうか、そんなキャラなの!?」
まさかまさかこんな文章を送ってくるとは。いや、これは文章と言っていいのか?
意外に茶目っ気があるというかなんというか。必要最低限しか口を開かないうえに言葉も足りないため何を考えているのかいまいちよくわからない人だったが、その実なかなか面白い性格をしているようだ。
そもそも、自分が提案したあの作戦に即断で乗ってきた時点でだいぶ変わっているのだろう。しかもひたすら殺されるだけという、単調作業を通り越した苦行ですらある役目を何も言わず淡々とこなしたあたり相当だと思う。
ポン、と軽い着信音が鳴り、メールがもう一件届けられる。これも差出人は赤信号だ。
今度は何かと思い開けてみると、そこにはこれまた文章と言えるのか怪しいごく短い文が刻まれていた。
『ラオシャンで泳いでる。マッコウクジラ』
「言葉が足りないんだよ、君は。これじゃあラオシャンって名前の水族館でマッコウクジラ見てるのか、それともザ・ライフ・オブ・オーシャンでマッコウクジラしてるのかわからないよ。まあ、ゲームの中でマッコウクジラになってるんだろうけどね、知ってるかどうかもわからない相手に略称使っちゃダメだって」
あまりにも簡素な内容に苦笑しながら、クジラになっている彼を思い浮かべる。
何にも邪魔されず、広い海でただ生きるためにだけ泳いでいる一匹のクジラ。
ああ。きっと、それは彼の性に合っているのかもしれない。
おそらく彼は人間が嫌いなわけではないだろう。ただ単に、コミュニケーションをとるのが苦手なのだ。学校でほとんど口を開かないのも、そうすれば苦手な会話の回数を減らせるだけ。
それは自分に協力してくれたことや、内容はともかく律義にフレンド登録してメールまで返してくれたことからわかる。本当に人が嫌いなら、すべて無視すればいいだけなのだから。
「ラオシャンはセミオート以外ではやってないんだけどね……。久しぶりに海洋生物になるのも悪くないかな」
確かラオシャンはフレンド検索をすれば別種の生物になっているプレイヤーの居場所もわかるはず。ダイオウイカになって下克上するのもいいし、シャチになってホエールハントするのもいいかも。普通にマッコウクジラになるのは多分あっちも求めてないだろうしね。
なおこの後シャチになって襲いかかるも、マニュアル操作による曲芸マニューバを駆使する赤信号に普通に沈められた。マッコウクジラの背筋と腹筋を総動員させた振り下ろし式頭突きは文字通り死ぬほど痛かった。
マニュアル操作を極めていつか絶対に喉笛食いちぎってやるからな……。
今回でいったんスラクラは終わります。ラオシャンと同様、これからもちょいちょい戻ってくるでしょう。
主人公は一つのゲームを極めるよりもたくさんのゲームを楽しみたい勢だからです。