チュートリアルを舐めてるとたまに痛い目に合う
今回から【Color's ring × Magic link】はーじまーるよー。
珍しく主人公のキャラネームが変わるのでご注意を。
「アカシンさんの協会への登録が完了しましたよ。こちらが登録証になりますのでお受け取りください」
三角帽子のテンプレ魔法使いな格好をしたお姉さんが手のひらサイズのカードをくれる。俗に言うギルドカード……というよりは魔法使いの免許証的な扱いで、俺の名前のところには『アカシン』の四文字が刻まれていた。
そう、今回はいつもの『赤信号』ではちょいとアレだったんで名前を変えてみたのだ。ブルマン並みの適当ネームだけど、みんなが俺のことを暗殺者みたいだとか言うこともあるし、いいんじゃないかな。
「以上ですべての手続きは終わりです。なにかご質問がありますか?……はい、それではドローウィザードとなったアカシンさんのこれからに、素敵な彩りがありますように!」
素敵な笑顔でお姉さんが送り出してくれると、ようやく自由に動けるようになった。チュートリアルは必要なのは分かってるけど、やっぱり長く感じちゃうよな。
チュートリアル会場である魔法使い協会の建物から出て、目の前にある広場のベンチに腰掛ける。隣に一人、よくある魔法学校の制服的な服装のプレイヤーが座っているが気にしない。なぜならそいつがそこにいることは知っていたからだ。
「待ってたよ。はい、これ」
「あいよ、了解」
そのプレイヤーからこちらに向けられたインターフェースには十桁の英数字。俺もインターフェースを起動させて、その一連の英数字を所定の場所に打ち込んでいく。
認証完了のメッセージを確認してからプレゼントボックスを開けると、そこにはチュートリアル達成ボーナスとログインボーナスのアイテム。さらに一番下には招待特典:ビギナーズパックと銘打たれたアイテムが鎮座なされている。
「……これでいいんだな?」
「うん、こっちにも来たよ。ありがとう、お兄ちゃん」
隣に座っている『あかりむ』という名前のプレイヤー、すなわち妹の優芽がえへへと嬉しそうに笑う。その手元にあるインターフェースには、招待特典:チューターズ・ローブの文字が存在を主張していた。
そう、先ほど俺がインターフェースに打ち込んだのは優芽のフレンドコード。それによって俺と優芽の両方にアイテムがプレゼントされたという寸法だ。
「はぁ、まさか妹に招待特典目的でゲームをやらされるとはなぁ……」
時は遡って一時間ほど前。デスブラのイベントを終えて一週間が経ち、俺は久しぶりに腰を据えてマンボウチャレンジをしていた。そして当然の様に儚い命をダース単位で散らし続け、本日分の心が折れた。
悔しさをバネにリアルに戻って運動不足対策の軽い筋トレをしていると、ノックと同時にドアが開かれる。犯人は当然ながら優芽だ。お前な、それだとノックの意味がないっていつも言ってんだろがぃ。
「お兄ちゃん、はいこれ!可愛い妹からのぉ、プ・レ・ゼ・ン・ト!」
「えっ、あっ、うん。ありがとう?」
いつもと違う甘い声の妹に若干気圧されながら、手渡されたものを確認する。それは俺が親の顔と同じくらいに見慣れた、ゲームのパッケージだった。
「『Color's ring × Magic link』……これって確か、お前が最近ハマってるとか言ってたゲームか?もしかして、もう飽きたから俺にくれるとか?」
珍しく一つのことに打ち込んでると思ったら、三日坊主とは言わないまでも一ヶ月も続かなかったか。ゲーム好きの兄としてはちょっと残念だなぁ。
「違うよぉ、それはお兄ちゃんのために私が買ってきたの。お兄ちゃんも一緒にカラマジやろうよ、ね?」
胡散臭ぇー!媚びたような声をだしやがって、なんか背筋が寒くなってきたぞ。自分で二本目を買ってまで俺にやらせようってんだ、なんか理由があるんだろ?
ここまでして俺を誘う以上、リアルの知り合いが絶対に必要なものであるはずだ。ただ仲間が欲しいだけなら俺である必要は皆無、優芽はコミュ障じゃないから適当にフレンドでも作ればいい。
わざわざ兄妹かつ未経験者の俺である理由……あ、もしかして!
「お前ぇ……招待特典が目的だな?」
「チュートリアルが終わったら建物を出てすぐの広場にあるベンチにきてね、私もそこで待ってるから。じゃあ、そゆことでよろしく!」
「あっ、コラ待て優芽!」
そんなこんなで始めることになった『Color's ring × Magic link』、通称カラマジ。まあ、優芽が喜んでる姿を見るのは兄として悪い気はしないし、思惑がどうあれ妹からのプレゼントであることにも変わりない。なによりこのゲームも面白そうだ、若干俺には辛そうだけど。
色と図形の組み合わせで魔法を描いて戦ったりする、というのがざっくりとしたカラマジの趣旨でいいのだろうか。ジャンルとしては一応アクションRPGになるのかな?
魔法を描くというのは、たとえば赤で一直線を引くと炎の矢となって飛んでいくといった具合で、同じ図形でも色が変われば魔法は変わる。さらに同じ赤色だとしても、炎の属性的要素と情熱や怒りの精神的要素の両面があり、そのどちらを引き出すのかでまた違いが出る。
その他にも多種多様な要素はあるものの、メインはお絵描きという誰でも直感的に操作できるシステムなのでロクに説明を聞かない困った初心者でも分かりやすい。なのにちょいと調べただけでも結構な意地の悪さを感じるところもあった。
ポップでファンシーな雰囲気の世界観の一方で、ライトユーザーからヘビーユーザーまで楽しめる骨太なゲームと見たぜ。
「で、最初は何系統にしたの?やっぱり赤?」
「死ぬほど悩んだけど、赤だな。レベルが上がったら別の系統も取ろうと思ってるけど」
「んっふっふー、あんまり系統増やすと苦労するよー?できるなら二系統で止めるのがオススメだね」
だろうな、とチュートリアルで教わった色関連のシステムを思い出す。
カラマジにおいて魔法の要素の一つである『色』はいくつかの系統に分けられている。赤、青、緑、黄の基本四系統に加え、二つで一つ扱いの白黒系統だ。これらは最初から全部使えるわけじゃなくて、特別な白黒を除けばレベルアップで得られるポイントを割り振って解放しなくてはならない。
例外の白黒系統は誰でも無条件で使える系統で、いわば無属性魔法といったところか。自身のレベルアップと共に自動的にアップグレードされていくので、とりあえずこれは考えなくてもいい。問題は基本四系統だ。
四系統はポイントを割り振って色の解放・強化を行うので、自然とどの色系統を中心にするのかといった話になる。その辺はジョブ制ではなくスキルツリー制のゲームならよくある話なんだけど、カラマジは特にこのポイントの配分に気をつけなければならない。もう一つの魔法の要素である『図形』の存在があるからだ。
色を乗せた魔法の筆で線を走らせ図形を描くのがカラマジの魔法。だが色と同じく、この図形も好き勝手には描けない。画数に上限があるんだ。
画数は初期で一画、そこから強化を重ねて最大で八画まで成長する。そして何画まで描けるかは色系統それぞれで別個に設定されているので、得られるポイントが有限である以上、必然的に取得する色系統を増やせば増やすほど個々の系統で扱える画数は少なくなる。
「それもこれも別系統の色を使うフレンドがいたら万事解決なんだけど……なぁ、妹よ?」
「お兄ちゃん人見知りのコミュ障だもんねー。ソロプレイがメインなら一系統特化は逆にキビシイかな。お兄ちゃんとパーティ組んでもいいけど、私も今のところ赤系統一本だしメリット薄いよ」
ですよねー、だからこのゲームは俺にとって辛いと思ったんだ。これ、ソロでやるゲームシステムじゃないだろ。色を増やせば対応力は上がるだろうが、魔法としての絶対的な力が足りなくなって頭抱える未来が目に見えてんよ。
「まあ、レベルが離れてるお前と組むのもお互いに味気ないから、しばらくはソロでやるよ。序盤の内は白黒と赤だけのソロでもなんとかなるだろ」
いくら兄妹だろうとゲームの中では一人のプレイヤーだ。一緒にいたいと思えば一緒にいればいいし、そうでなければ思い思い好きにやればいい。
それにほら、妹におんぶにだっこは兄としても先輩ゲーマーとしても、な?リアルで散々カッコ悪いところを見せてるから、せめてゲームでくらいはそれなりの兄でいたいじゃん。
「あはは、だったら早く追いついて来てよ?一緒にやりたいのは嘘じゃないんだから。じゃあ、忘れる前にフレンド登録しよっか」
始めたばかりだから当たり前だけど、最初のフレンドが妹か。家族を除けば青ときーちゃんと茶管しか個人的な連絡先が入っていない携帯端末の電話帳を思い出して軽く吐きそうになる。
「……なあ、お前って今何人くらいフレンドいんの?」
「んー?えっと、三十四人だね」
「そ、そっかぁ……」
兄より優れた妹はここにいた。この時点で兄の威厳もクソもなくない?
新ゲームの一話目が説明ばかりになるの何とかしたい(改善するとは言ってない)。
妹のキャラネーム『あかりむ』は 赤石 優芽→あかいし ゆめ(夢)→あか(いし) (ド)リ(ー)ム です。ふたを開けたら兄妹でそっくりな名前だったのでお互い口に出さないけど少し恥ずかしい。




