五雷落ち 始まり告げるは 一の針
私は全天候の中で嵐が一番嫌いです。マジで死ぬかと思ったからね……
「なぜだ、なぜ貴様は倒れない!?なぜ我が前に立ち塞がる!?」
「貴様が友の仇を許せないことと同じく、俺は魔人の存在が許せない。その念は、決して譲れるようなものではない!」
話し合いと譲り合いで全部が解決するなら、正義のヒーローも悪の組織もいねぇんだよ。ぶつかり合った主張のどちらも折れることができないのなら、後はもう相手をぶっ飛ばして自分の意志を通すしかないんだ。高度な言語能力を持っていても人間ってのはそういうもんさ、すまんなAI!
右の蹴りがいい感じにきまり、ボルトレイダーを吹き飛ばす。なんだかんだとお前もそろそろ限界だろ?俺だって体力は残り少ない。混戦時にけっこう削られちゃったからなぁ、やっぱり俺はタイマンの方が得意みたいだ。
「ぜぇ、はぁ……俺の、我らの力は、こんなものではないぞ……!記憶を持たぬ我らだからこそ、遍く世界にその存在を響かせると誓ったのだ!貴様ら程度に潰されるような力であるはずがない!」
満身創痍の身体に鞭打って立ち上がる。余裕も何もなく、ただ立っているだけでやっと。だがそれでも闘志だけは一切衰えることは無い。目の前の敵を倒すという意思に、微塵の揺らぎもありはしない。
それは俺とて同じこと、ここまでやって負けるわけにはいかない。このゲームにおいて、まったく同じ状況を再現することは極めて難しい。何がどこでどうフラグを立ててるか分かったもんじゃないからな。
全ての戦いは一期一会。次に同じ難易度で再戦したとしても、その時の俺は今の俺とは違うんだ。この相手は今ここにしかいないし、この俺も今ここにしかいない。だから今を楽しめ、この瞬間に全力を注ぎ込め。そうして初めて、悔いのない戦いができるんだ。
「吠えるだけなら誰でもできる。お前の意志を証明したくば、まずは俺を倒して見せろ!お前を倒して、俺は俺の意志を証明する!」
「言われるまでもない……!」
ここにきてこれ見よがしに力を込めだしたボルトレイダーが放つのは、おそらく最後の大技。戦いの締めを飾るに相応しい、乾坤一擲の必殺技なんだろう。
だったらこちらは正面から迎え撃とうじゃないか。ラストアタックを見事に凌ぎ切って見せてこそ、この戦いを俺に任せてくれた二人も満足してくれるというもの。なによりも、妨害してハイお終いじゃあ俺が納得できないんでね。そんな無粋なことはできねぇなぁ!
「我ら五人の力はここに一つの刃となる!轟け雷鳴、天下に示せ!我ら、ここに在り!!【大雷界・星刻】!!」
間合いがどれほどか、それを計るのも無意味。まるで落ちてきた稲妻をそのまま引っ掴んで振り下ろすかのような超範囲の斬撃。
だが、いかに長くても厚みはそれほどない。俺を肩から斜めに真っ二つにせんと振り下ろされた巨大な雷刀は、ちょいとステップを踏めば簡単に避けられる。だけど、それで終わるはずがない!
振り下ろしの次は逆袈裟に切り上げ。その次は……水平!なるほど、五芒星だな!?よし、太刀筋がわかりゃあなんとかなる、して見せる!
余計な動きをすれば次の斬撃に回避が間に合わないほどの速さ。だったら見るのは光り輝く大雷刀ではなく相手の手元。見てからじゃ避けられないのなら、先読みするしかないじゃない!一瞬でも躊躇すればズンバラリ、掠りでもすれば残り体力的にKOはほぼ確定。全身全霊を込めて回避運動!
「おおぉぁぁあああ!!」
「はあぁぁああああ!!」
これぞ紙一重、というギリギリの場所を斬撃が通り過ぎていく。相手の剣速からしてほんのわずかな時間でしかないはずなのに、攻撃が終わるのがやけに遅く感じる。
それでもこれが五連撃目、俺の予想が正しければこれでお終りのはずだが……。
「天雷は星を貫くが如く!」
五芒星を描き切った後に放たれる神速の突き。五連撃で終わったと気を抜いていたら確実に刺さる隠し玉。
が、それすらも回避。刺突は速度に優れるが点の攻撃。来るとわかっていれば避けるのはたやすい。
そうそう油断してたまるかってんだ。ボスのラストアタックってのは「こういう感じだろう」と思った通りの行動をとったら、直後にその予想を裏切る二段構えと相場が決まってるんだよ。
「終わりか。では、こちらの攻撃といかせてもらおう」
この局面にきて逃げるということは無いだろう。精々悪役っぽく見えるよう、ゆっくりと一歩ずつ込める重さを増す。ビーストの巨体はこういう時に威圧感が出るから良い。
「まだだ……まだ、俺は、俺たちは……!!」
身に纏っていた雷のオーラも底をつき、正真正銘ただ一人残された最後のボルトレイダーは、それでも殴りかかってきた。
しかしそれは、初心者でも簡単に避けられるような力の入っていない拳だ。見る影もないほどの弱体化ぶりは、これで本当に打ち止めだということを教えてくれる。この戦いの終着として止めを刺さなくてはならない。
最後に出す技は何にすべきか。シンプルにパンチか、スタイリッシュに蹴りか。それともやっぱり尻尾?どれもそれぞれにカッコよさがあって捨てがたい。
でもまあ、敵を叩き潰して自分の主張を押し通すという今回の戦いを終わらせるには、これでしょう。
「言いたいことは山ほどあるだろう。だが俺は言ったはずだ……弱者の声など、誰も聞いてはくれないと!」
まともに立てないようなボロボロの体で立ち向かってくる相手、その顔面を掴んで締め上げる。ジタバタともがくがもはや遅い。もともと可能性は低いと思ってたけど、こうなっては瞬間移動もできない。
……そういえば、最初にやった初級でのフィニッシュアーツもこれだったな。始まりの技と終わりの技が同じっていうのも、なんつーかこう、縁を感じるなぁ。
「自らを落雷の化身というのなら……地面こそが終わりに相応しいというものだ!【テンペスト・スラム】!!」
掴んだ頭部を破壊されつくした街の道路へと、それこそ落雷のような勢いで叩きつける。ここまで戦った相手に敬意を表した全力の一撃は、僅かばかり残った敵の体力を根こそぎにした。
地面に倒れたボルトレイダーは何も言わず、その身を人間体へと戻しながらただ震える手を天へと伸ばす。伸ばした先の空には晴れ間が差し、あれほどうるさかった雷鳴も豪雨もいつの間にかピタリとやんでいた。
やがて力を失った手が地へと落ちた時、視界の端に一つのメッセージウィンドウが現れる。
〈【雷雨を払う三傑】+8000〉
先に逝った仲間が差し伸べた手を取ろうとしたのか、それとも運命を狂わせた天を呪ったのか。はたしてその行為が何を意味していたのかは分からない。
だけど、この戦いが俺たちの勝利で終わったということだけは確かだ。
「“理不尽に、そして無慈悲に奪う。それが嵐だ“。お前たちも奪ったのだ、奪われもする。……抗い打ち勝つ力が無かったことを恨むがいい」
「こいつァいい、上等な獲物は案外近くにいたってわけだ。テメェ、思ってたよりずいぶんと美味そうじゃねェか、なァ?」
「お前が倒れたとて消耗させるくらいはできるだろうと踏んではいたが、復讐の念というものはさても恐ろしいものと言ったところだな。ここで潰しておいた方が得策か?」
観戦していた二人が集まってきた。最後の五芒星斬りに巻き込んだかもとちょっと心配してたが、どうやら杞憂に終わったようだ。
二人の言葉は今から俺らで第二ラウンドだって感じだけど、それが心からの賛辞であることはよくわかる。そうか、俺は期待に応えられたのか。戦いそのものに悔いはなかったけど、これでようやく安心できるってもの。
自分でもよく勝てたよなと思うほどボロボロだ、最後に残っていたのがアタッカーで幸いだった。近接戦はGTレクスと死ぬほどやってるからよかったものの、これが変則的なアーツが得意なトリックスターとかが最後だったらファイナルアタックを無事に見切れたかどうか。
「漁夫の利とでも言うつもりか。もとよりお前たちも始末対象だ、俺は構わない……これは、なんだ?」
ふぅーっと息を吐いて力を抜いたその時、ようやく晴れた青空だというのに空気の重さが増した。なんだとは言ってみたがそれが何かは重々承知。来るのか、あれが。
「ちょいと面倒なのが来たみてェだな……まァ、今日は面白ェもんを見れたからなァ、テメェが逃げるってんならそれでもいいぜ?他のやつに弱ってるテメェを殺られんのは惜しい。万全な時に俺様が喰うからよォ」
話の流れで俺一人でラストスパートやったから、俺だけ残り体力がほとんどない。だから今回は撤収して次でもいいよ、ってことかな。アイシレリィも好きにしろって感じだし。
でも二人ともメッチャそわそわしてるんだわ。美味しいところを俺が持っていったから、戦いたくて仕方ないんだろうな。それでも撤退していいといえる辺りが大人ですな、いや本当にチラチラこっち見てくるからすごく本心が分かりやすいんだけど。
ぶっちゃけ俺はやることやったし、追加は二人に任せちゃっても個人的には何の問題もない。仮に俺が瞬殺されたとしても、二人ならそれもいいロールプレイの材料にするだろう。
「来たのはどうせ魔人だろう、俺が逃げる道理はない。来る者は迎え討ち、逃げる者は追い討つだけだ」
「ハッハッハ!テメェも大概狂ってやがる、だがそれでいい。欲望に忠実で何が悪い、やりたいようにやりゃあいい!邪魔なやつはぶっ潰しちまえってなァ!ハァーハッハッハ!」
「戦闘狂に復讐狂……魔人など大なり小なり何かに狂っているものだ。まあ、抑圧されたつまらん生き方よりは何千倍もマシだがな」
かくして、俺たちは追加エネミーを……『ジャスティス・ワン』を迎撃することに決定。ここでもうしばらく待っていれば、むこうから勝手に現れてくれるはずだ。
JEABD総司令が転身する最強の魔人と呼ばれる存在にして、専用タイプに専用スタイルというNPCだからこそ許される盛りまくり超豪華仕様のワンオフ魔人、ジャスティス・ワン。
特筆すべきはやはり専用タイプが持つ固有能力なんだけど、異能力バトルといえばコレ、と言えるお馴染みのアレだ。どちらかと言うと悪役サイドのボスが持ってることが多いけど、最強の能力は何かと問われればそれを挙げる人は多いだろう。
やがてそれは現れた。荒廃した街の惨状に沈痛の表情を浮かべながらも、たった一人で当然の様に三体の悪に堂々と相対する。
「新たな魔の血に対処するために来てみたが……もう終わっているとはな」
「感謝してくれてもいいんだぜェ?JEABD総司令、一 正義さんよォ」
鍛え上げられた身体をJEABDの制服に包んだ白髪交じりの中年男性。目つきは鋭く、一本の芯が通っているような佇まい。
「私の名を知っているのならば分かるだろう。残念ながら私の職務には貴様らを始末することも入っている。諦めて降参するのなら楽に逝かせてやるが、どうかね?」
「笑えねェ冗談だなオッサン。これ以上ねェ上等な餌を前に、誰が降参なんぞするかよ」
牙を剥きだしにして獰猛に笑うGTレクスを前に、それでも眉一つ動かすことなく毅然とした態度を崩さない。悪に屈する正義などありはしないと言うかのように。
「ならばこれ以上悪と交わす言葉は無い。貴様らの時計はすでに止まり、これよりは正義執行の時!【時血転身】!……コードネーム、ジャスティス・ワン。その身で知るがいい、正義の重さを!」
最強の正義ジャスティス・ワン。タイプはクロノメサイア、スタイルはオールマイティ。忌み嫌われる魔人であってなお救世主と名付けられた、時空を操る圧倒的な力を持つ戦士。
搾りカス程度しかない体力で、この敵を相手に俺はどこまでやれるだろうか。
そろそろ今回のデスブラ編も終わりが近いわけですが、次のゲームは何にしましょうかね。
割烹に載せてるニンジャかお絵かき魔法か写真か。どれにしようかな(おもむろにダイスを構えながら)。




