吼えよ迅雷、言葉を捨てて
遅くなってすまない……すまない……(ダイヤモンドブリザードを叩き割りながら)
激しい雷雨の中で始まる八体の魔人が入り乱れての戦い。豪雨で視界が悪い上に、時折りの落雷が目を灼いてくるのがこの上なく鬱陶しい。しかも雨と雷の音のせいで周囲の把握がやりにくいったらありゃしない。
せめてもの救いはボルトレイダーの攻撃もピカピカ光るのでわかりやすいことだが、それだって稲光と紛らわしい。
それにしても、ここまで激しい天候の変化というのは初めてだ。今までも小雨が降ったりすることはあったけど、戦いそのものに大きく影響してくるようなことはなかった。フレイムマスターとか大丈夫なのかコレ、まあマジカル魔人パワーでなんとかなるんだろうが。
「【紫電・九閃光】!」
一息の内に放たれる九連斬り。アーツで相殺するにはもう遅い、ここは腕を交差させてガードだ!ふはは、ビーストを舐めるなよ、基礎防御力ならアイスロードの次に高いんだからな!いやそれでも痛ぇー!クソ、ガードの上から削られた体力からするに、けっこう火力上がってんじゃねーか。
武器を持って変わったことは火力だけじゃない。殴ってきた腕を掴んだり蹴りをあえて受け止めたりといった、瞬間移動対策が一気にやりにくくなってしまった。ビーストいじめも大概にしろよ!
「ジャンジャンバリバリいこうじゃねーか、【下位眷属招来:マグネホッパー】!!」
「その眷属、使わせてもらうわ。【マグネットレール・カタパルト】!」
そして何より、視界が悪くなったことでアイシレリィが敵後衛を抑えきれなくなっているのが一番デカい!シューターはもとより、サモナーとトリックスターが解き放たれて思う存分暴れだしている。
どちらかを早く落としたいところだが、トリックスターが磁場で攻撃を曲げたり味方を射出したり引力でアタッカーとディフェンダーを呼び寄せたりと、もうもうもうウザァァァイ!!
「さぁさぁ追加だ、【上位眷属招来:ガウスタッグ】!」
ポコポコポコポコ数を増やしてんじゃねーよクソが!電気纏って体当たりしてくるバッタ(幼稚園児くらいの大きさ)とか鎌がプラズマ的な光を発してるカマキリに加えて、今度は人型クワガタだぁ?絶対にあの顎スタンガンじゃん、めっちゃバチバチいってるもん。ああでもカッコいいな、チクショー!
まあでも?以前の俺ならいざ知れず、今は数が増えただけじゃあ混乱なんかしないんだよ。上中下と三回のチーム戦、さらにはIRにおいて無限戦機との戦闘経験があるんでね!サンダーバードたちに鍛えられたおかげで、数が多い敵には慣れっこさ!
「鬱陶しいぞ、虫ども。邪魔をするな!」
バッタをカマキリに向けてシュート!おお、顔面セーブなんて気合入ってるね、キーパー!
コレいいな、バッタは消えるしカマキリはダメージ喰らうしで最高じゃないか。よし決めた、積極的にバッタを蹴っていこう。
しかしこの戦い、ずっとスポーツをしてる気がする。一対一の卓球とかならともかく、サッカー、バスケ、野球みたいにチームを組むタイプのスポーツは苦手なんだよなぁ。体を動かすのは嫌いじゃないけど、チームスポーツはやっぱり嫌いだ。
「【電速移動】。はぁぁっ!」
ただでさえ豪雨で誰がどれか分かりにくいのに、瞬間移動からの不意打ちとかしないでくれますぅー!?雨も降るなら降るで気合い入れて視界が無くなるぐらい降れよ、そうしたら向こうも瞬間移動できないだろうに。ああでもそうなったらこっちも目隠し戦闘か、アジサイさんならともかく俺はまだ無理かな!
「握ったこともない武器だというのに、なぜか手に馴染む。今はそれがありがたいが、なぜなのだろうな!?」
豪雨の中でもはっきりと聞こえるボルトレイダーの声はどこか困惑気味で。それでいて忘れていたことをもう少しで思い出せるような、そんなもどかしさへの怒りも混じっているようだ。
だからといってそんなもん俺が知るかボケとしか言いようがないので、とりあえず体当たりをしてきたバッタを蹴り返そうとした瞬間。
「ほう。ならば教えてやろうか?お前たちがどんな者かを」
氷のようなその言葉に、ボルトレイダーたちの手が止まった。
大刀の切先も、引き金にかけた指も、新たに眷属を呼ぼうと開いた口も、何もかもが停止せざるを得なかった。俺もつられて止まったらバッタタックルを思いっきり腹に喰らった。無性に腹が立ったのでバッタは念入りに踏みつけて潰しておく。
「戦いを止めやがって、クソ野郎が。……つまんねェ話なら俺様がテメェを食うぞ」
プラズマカマキリの首をへし折って放り投げたGTレクスが低く脅す。
だが仮にも味方からのものとは思えないほどに突き刺さる視線を浴びながら、それでも一切悪びれることも怯むこともなく、当然の様にアイシレリィが前へと出てくる。まるで、ここから先は自分のオンステージだと言わんばかりに。
「お前の話の好みなど知らん。で?お前たちはどうする、教えて欲しいのか?」
「出会ったばかりの貴様に、何が分かる」
殺意すら混じった声色にも凍てつく砲手はどこ吹く風で。そして事もなげにあっさりと、淡々と言葉を紡いだ。
「分かるさ。お前たちが人為的に作られた魔人であるということくらい」
「……なんだと?」
「その程度のことにも考えが及ばなかったのかと、こちらが聞きたいくらいだ。お前たちの服装、転身後の外見、魔人となったタイミング、武器の習熟度。これだけ揃えば簡単に思いつくだろう」
人間体の時のボルトレイダーたちは全員が同じデザインの軍服のようなものを着ていたし、魔人に覚醒した時点で仲間意識があったという。だから元々同じ組織の仲間なんだろうくらいには俺も考えていた。
あーそうか、作られた魔人ね。そういやストーリーで、人の手で転身症を発症させる方法があるとかやってたっけ。魔人の血を輸血するんだよな、ほぼ100%拒絶反応で死ぬらしいけど。
「同じビーストタイプと呼ばれる種類の魔人でも、このGTレクスとクリムゾルカのように転身後の姿にはかなりの個体差が出る。だがお前たちはどうだ、まるで血を分けた兄弟のようじゃないか。同じ組織の者が五人も同時に転身症を患い、ほぼ同じ見た目の魔人として覚醒するなど、あまりにも非現実的にすぎるとは思わないか?」
転身症の発症自体が百万人に一人か二人だもんな、偶然ですますには都合がよすぎる。奇跡にしたってもうちょいリアリティが欲しいところだ。
しかし手持無沙汰だな、とりあえずは腕を組んで立っておくしかないか。GTレクスなんてどっかりと座り込んで立膝ついてるよ。ま、あちらさんがおとなしく話を聞いてるってことは、そういうことなんだろうさ。
「武器の習熟度についてもだ。人間の素人同士ならばともかく、己の身体そのものが強力な武器である魔人にとっては、基礎も知らんような武器なんぞより素手の方がよっぽどいい。なのにお前たちは、こうして効果的に活用している。それはなぜか?簡単だ、訓練を受けていたからだ」
最初にクリエイターを使っていた身としては頷ける。見様見真似でそれっぽく剣を振ったりできるけど、やっぱり練習しないと間合いだとか効果的な切り方とかができないんだよな。
クリエイターが初心者にオススメされるのは、他のタイプが持つ超能力に比べて剣や銃といった使い方がなんとなく分かる武器で戦うことに加えて、上達がすごく実感しやすいというのもあるのだ。
「お前たちがいた組織は人為的に魔人を作ろうとして適性のありそうなやつらを集め訓練を施し、魔の血を注入した。ランダムにやれば万に一つでも、選りすぐればそれなりの確率にはなる。他に何人いたにせよ、さすがに五人も成功するとは思ってもいなかっただろうがな」
かくして生まれた魔人たちは記憶を失い、衝動に飲まれて破壊の雷となりましたとさ。ガチャ運がいいのか悪いのかわからないな……。ただでさえデスブラ世界では衝動を抑えられるほど理性を保てる魔人なんて一握りだけというのに、人為的に魔人を作ったらそうなるか。記憶喪失も実験の副作用とかそんなところだろ。
「……ハハ、ハハハ、ハァーハッハッハ!そうだとしたらこりゃ傑作だ!笑いが止まらねェなァ、ビリビリ野郎ども!」
ふむふむとアイシレリィの話を聞いていたら、突如としてGTレクスが大爆笑。クリムゾルカ的には全く笑えないというかブチギレ案件ですらあるんだけど、まあとにかくここはお二方に任せよう。どうせ戦いになるんだろうから、俺のロールプレイはそこでやればいいさ。
「何が……何がおかしい!?」
「分らねェのかよ、ますます面白れェ!教えてやれよ、アイシレリィ!」
「JEABD以外の闇の組織ならば、その力の使い道など明確。さらには武器の習熟訓練まで受けていたと思しき戦闘技術。……要するに、お前たちは魔人となったから殺戮に走ったのではなく、殺戮が目的で魔人となったということだ」
ここまでしてしまった以上、もう殺し続けてでも生きていくしかない。
確かに彼らはそう言った。だが、真実は逆だった。都市を破壊し、住民の命を奪うことこそが目的だった。不可抗力によって魔の道に堕ちたのではなく、自らその道を選んだのだ。
記憶をなくし、衝動に飲まれ、進退窮まった中で己の存在を世界に刻む。そんな悲劇の存在として酔いしれていた彼らのオリジンは、ただのはた迷惑なテロリストだったというわけだ。
「―――!!……、…………」
絶句。雨の音さえ消えてしまったかのように、ボルトレイダーたちは言葉を失った。
アイデンティティを欲しがっていた彼らにとって、アイシレリィの言葉はどう聞こえたのだろう。少なくとも俺にとっては荒唐無稽な与太話ではなく、かなりの現実味を持つ話だった。
〈【半壊する心】:+5555〉
おっと、結構デカい追加スコアがきたぞ。やっぱり特定の会話で得られるスコアもあったみたいだ。デスブラ運営のことだからな、戦い以外でもスコアが稼げるのは当然っちゃ当然か。
そしてこの時点で、ようやくアイシレリィが本調子になった。『相手に会話を放棄させる』なんてクソ面倒なポリシーでよくぞまぁやれるもんだよ。NPC戦ならある意味で自分より上手とアジサイさんに言わせるだけはある。
「なァおい、自分が大量殺人犯希望のクズだったことが分かってどんな気分だァ?今からでもデスパレードに入ってみるかよ?ようこそ、ようこそ後輩!歓迎パーティーにどっかの町でもぶっ壊しに行くか?ゲハハハハハハ!!」
うーんこの外道恐竜、貫禄のゲス笑いである。もはや清々しいまでのそれは研鑽の賜物だろうか。自分でいうのもなんだけど、ゲス笑いの研鑽なんて言葉が出てくるのはデスブラくらいじゃないかな。
腹を抱えて笑い転げるGTレクスと黙して動かないボルトレイダーを尻目に、悠々と所定の位置へと戻っていくアイシレリィ。その姿が近くに来たところで、一言交わしてみる。
「……よくもそこまで口が回るな」
「ハッタリも極めれば、それだけで人を殺せるものだ。真実なんぞ知ったことではないが、どうだ、それらしかっただろう?」
まるっきりの嘘八百ではないにしろ、ただそれっぽく言葉を並べただけ。それがデタラメの的外れだろうが、真実を知る者以外に否定の証明はできないのだから。そして当事者であるボルトレイダーは記憶を失っており、ガンマシティは廃墟も同然。少なくともこの場に真実を知る者など一人もいないのだ。
「……そう、か。我らは、そんな存在だったか。……ふふ、ふはは、はぁーはっはっは!!」
おーい三段笑いがGTレクスと被ってんよー。プレイヤーなら絶対にそこは被らせないぜ?笑い方ってキャラの特徴になるからな。かといって変な笑い声にすると笑ってんのかどうか伝わりにくいし、どうしてなかなかプレイヤーたちは心を砕いてるんだよ。
「「「はっはっはっはっは!ははははは、ふははははははは!!」」」
どれだけの空気を肺に溜めてるのかと思うほどに、笑い声は続く。笑って笑って、笑い倒して。喉も潰れよと、雷鳴すら掻き消えよと、五つの狂ったような笑い声が戦場に響く。
アイデンティティを砕かれたその先に何があるのかなんてのは、本人にしかわからない。求めてやまなかった答えがどうしようもなく救いのなかった者の気持ちなんてわからない。
「ははははははは!!ははは、はぁ、はぁ……あああああああ!!」
だけど、武器を握り締めて敵を睨みつけ、歯を食いしばって全身に力を滾らせる者が思うことならわかる。
絶叫とともに莫大な雷を纏い、全身の傷から流れる血が蒸発しようとも構わないとする者の気持ちなら理解できる。
すべてを捨てて、魂を燃やし尽くすことすら厭わない者の考えることなんて、手に取るように感じる。
「もうどうでもいい。どうでもいいが、お前たちはここで殺す。理由も何もない、ただの八つ当たりと思って死ね!」
「魔人なんざそんなもんよ。“理由も、理屈も、理念も!全部まとめてねじ伏せる!”どうせこの世は強者にしか語る権利をくれやしねェ、言いたいことは敵をぶちのめしてから言えばいいのさァ!!」
高らかに声をあげて応じるその姿はまさしく傲慢の化身。だがその言葉はある意味では真理だ。崇高な考えがあろうとも、ただの八つ当たりであろうとも。相手を叩きのめして自分の主張を通すという意味では、善も悪も変わらないのだから。
〈【吼えよ迅雷、言葉を捨てて】:+6500〉
実は殴り合うよりも喋り倒す方がスコアを稼げるんじゃないのかと思う今日この頃。だとしたら俺は向いてないな、このイベント。
所属:デスパレード
タイプ:アイスロード スタイル:シューター
転身口上:淡々と凍てつき砕け散れ【冷血転身】
名乗り口上:名をアイシレリィ。熱くなるなよ、そういうのは私には向かん。
決め台詞:バカは死ぬまで治らんというが……よかったな、これで治るぞ。感謝しろ。
〈背景設定〉
氷で出来た体を持つ、長身の魔人。常に他人を見下し皮肉を飛ばす冷血漢で、人間であった時も本質を知る者からは口を揃えてロクなやつじゃないと言われていた。
転身症の発症前はそのロクでもなさをいかんなく発揮し、真面目にあくせく働くよりもバカを利用して金を巻き上げる方が効率的だと判断して裏社会入り。冷酷さと手段を選ばないやり口からあっという間に自組織を乗っ取り、若くして一組織のボスとなる。危険な鉄火場であろうと冷静で、淡々と敵対組織を潰して勢力を広げていた。
魔人となってからは組織運営を部下に任し、自らはデスパレードに所属。世界最大の犯罪組織と呼ばれるデスパレード、その乗っ取りを画策してのことだった。
魔の血がもたらす破壊的な衝動に堕ちた者がほとんどであるデスパレードにおいて、理性で衝動を抑え込める珍しい魔人。そういう意味ではJEABDの適性があると言える。しかし人間としての根本が腐っているために、正義だなんだとやかましく国家の監視下にあるJEABDになど入ろうはずもなく、確固たる己の意思でデスパレードを選んだのだった。
〈ポリシー〉
・相手の主張をへし折り、怒りや絶句で会話を放棄させる
・NPCまたは味方を盾にする
名前の由来はアイシクル(氷柱)+アーティレリ(砲)
プレイヤーの悩み:ロールプレイしてるとヤクザっていうか詐欺師みたいになること。




