毒を以て毒を制す
一期一会だからこそ、FPSにたまにある敵同士でのおふざけは楽しいのだと思います。
対戦系のゲームは、ドカポンでコントローラーではなく歯を食いしばり拳を握りながらも振り下ろすことはない、くらいの友人とやるのが一番楽しいです。
「ここだな!?さあ早く行け!俺はあいつらに突っ込む!」
ギャギャギャギャギャ!!と横滑りするようにしてバイクを停止させた茶管に促され、俺はリアシートから飛び降りた。後方では道中に見つかってしまった敵(クソめんどくさいことに4人組)が俺たちを追いかけてきている。バイクにはところどころ銃痕がつけられ、もう長くは使えそうにない。
礼を言う暇も惜しみ、茶管はスロットルを全開に発進する。どうもあのバイクはそこまで耐久力がない上に一回出すとキルされるまで二台目は出せないそうだ。ゆえに自爆特攻。追手の処理とリロードを兼ねてるんだな。
茶管の協力を有意義なものにするためにも、俺は走る。建物が入り組んだこのブロック、大通りから一つ中に入ったところにある赤色の屋根の民家が合流地点だ。あ、後ろから爆発音が聞こえた。派手に逝ったな、茶管。
リビングと思わしき少し広めの部屋に入ると、その何もない片隅からスゥッ……と一人のプレイヤーが現れた。ステルスで隠れていたブルマンだ。
「来たぞ」
「待ってたよ。そしてさようなら」
あまりにも短い、会話とも言えない会話。それが終わると同時、俺の頭にコンバットナイフが突き立てられた。
戦場の中央にそびえる、地上二十メートルほどのビル。
もとはもうちょい高かったのかもしれないそれは、今は半壊しておりスナイパーが芋る絶好の狙撃ポイントになっている。
そこより上のフロアがなくなっているために屋上となってしまった場所に、俺とブルマンは立っている。
周囲にいたスナイパーはすべて排除した。いや、ブルマン普通に強いわ。動きがやり込んでいる人のそれだもん。
見下ろす戦場には大きな銃声が響いていて、あの火縄三銃士がハッスルしていることがここまで伝わってくる。
「さて、じゃあやろうか」
「派手にな」
俺たちは頷き合い、予定通りの行動を始める。すなわち、全体チャットによる皆様への大演説だ。
ちなみに俺の役目は周辺の警戒。隣で立っているだけともいう。茶管もここに上がってくるための階段で侵入者を待ち伏せている。
「やあやあ、聞こえてるかなみんな?もうすぐこのゲームも終わりだね、どうだい、楽しかったな?———僕ぁクッソ詰まんなかったよ。なぜって、個人戦のバトルロワイアルなのにチーム組んでるチキン野郎どもがいっぱいいたからね。自由とルール違反をはき違えて得た得点は美味しかったかい?」
全体チャットが響き、何事かと思ったプレイヤーたちが手を止めたのか、戦場から銃声が消える。先ほどまで大音量でその存在を知らしめていた火縄銃の咆哮も止み、ブルマンの声だけがこの戦場に集うプレイヤーの耳に届く。
「個人戦、特にバトルロワイアルってのはね。誰にも邪魔されずに、他の皆が敵っていう極限状態を楽しむものさ。それなのにお前らときたら仲良しこよしで生温い。そんなに友達と一緒に協力プレイしたいならチーデスに行けってんだ」
吐き捨てるようなその声に反論の声は上がらない。全体チャットという「使うやつ=イキり」という方程式がそうさせるのか、それとも皆思うところがあるのか。
個人的なことを言わせてもらうなら、個人戦でチームを組むということは戦術の一つであるとは思う。格上を下すために手っ取り早く取れる方法だからな。
だが、最初っからフレンドとチーム組んでやるのはいただけない。だって、隣に立っているフレを撃つ気ないんだろ?一時的に手を組んでいつ裏切られるかわからないっていうのならともかく、最初から最後まで組んでちゃあ、それはもう個人戦じゃない。ブルマンが言った通り、仲間が欲しいなら団体戦に行けよ。
「まあ、何が言いたいかっていうとね、お前たちがやってることってのはこういうことだって教えてやりたかったのさ。インターフェース開いて現在ランキング見てみなよ」
そこには、トップの場所に40キルという異常なキル数と共にブルマンの名前が。
そして、ワーストには42デスというクソの極みと言えるデス数と共に赤信号の名が。
暫定二位である緋那和の19キルにダブルスコアをたたき出したブルマンと、どう考えても関係があるとしか思えない俺に、さすがに全体チャットも騒めく。
そう、このために茶管には移動補助に徹してもらった。誰がどう見ても『ブルマンと赤信号は組んでいる』ということを一目でわからせるために。
「一番上と一番下にヤバいのがいるよねぇ?ところで、君たちはキルストリークって知ってる?例えば連続3キルで敵の居場所がミニマップに浮かぶ偵察ドローンなんか、しょっちゅう飛んでるよね」
キルストリークとは要するにボーナスアイテム。
連続キル数が多くなればなるほど強力になっていくこれらにアイテムをうまく活用することで、さらにキルストリークを伸ばす。まあ、大抵はそううまくいかないので連続5キルもできれば上等、10キルまで行きゃ英雄だ。
まさか、という声がチャットの中から聞こえてくる。まあ、ここまで言えばわかる奴はわかるわな。俺でも直ぐに分かったんだし。
「気づいた人もいるみたいだけど続けるよ。さてキルストリーク、その上限は30キルなわけ。すると超特別な逸品がもらえるんだ。それは、プレゼントスタイルなら核爆弾。オールドスタイルならどこからともなくやってくる大軍の赤備えもしくは十字軍。アドバンスドスタイルならサテライトキャノンだね。これらは特別も特別、なんせその効果は———ゲームセットだ」
これらは存在していても使われることはほとんどない。
なにせ連続30キルという高すぎる壁がそれを手に入れることを拒絶している。
動画投稿サイトですらフレンド同士の談合マッチくらいでしかお目にかかれないそれは、野良で出せたら賞賛の意味でチーターと呼ばれるくらいの幻の一品。
だからこそ、ゲームそのものを否定するような性能が与えられているのだ。
「いわば、コールドゲーム。そこまで圧倒的なプレイヤーに対する賛辞であると共に、一人だけが突出している詰まらないゲームをとっとと終わらせるための強制終了ボタンだ。そして、今そのボタンは僕の手にある」
どうやってそれを手に入れたか?俺のデス数とブルマンのキル数を見ればわかるだろう。
フレンドコードを交換した俺たちは、フレンドチャットでお互いの位置を教え合い可及的速やかに集合。その後ブルマンは周囲のハイエナに気付かれないように俺をサイレントキルする。あとはこれを繰り返すだけという簡単な作業だ。茶管がバイクを出してくれたおかげで合流もかなりやりやすかった。
フィールドはそこそこ広いので落ち合うのも容易でないと思われるが、リスポーン地点はある程度選べるうえにブルマンはステルス迷彩持ち。メインの戦場から離れれば、時間はぎりぎりだったが割と何とかなった。割とマジで茶管のバイクないと間に合わなかったかもな。
一矢報いるためなら百回死んでもいいって言ったな?あれは本当だ。
「さて、もうゲーム終了まであと2分切ったからそろそろサヨナラの時間だ。その前に言いたいことを言い切ろう。———見てるか、運営。お前たちがどんな意図でフレンド同士で個人戦に確定マッチングできるようにしたのか、あまつさえフレンドチャットの使用まで許可したのかはわからない。だけど、その結果がこれだ」
声を上げながら、その手に握るタブレット端末を操作する。
ほんの数回、タッチとフリックをするだけでその画面には最終発射確認の文字が現れる。
「これは警告だよ。ほんの一人二人の協力者がいるだけで、試合時間の半分もあれば強制終了の権利がもらえるという今の異常事態に対する警告。このまま放置するようなら、このゲームは遠からずこうなるだろうさ」
言い終わると同時、ブルマンがタブレットを勢いよくタッチする。
数秒後、遥か上空より戦場に極太の光の柱が、戦場の中心であるこのビルを目がけて墜ちてくる。この光柱は着弾と同時に爆発し、使用者であるブルマンを除いた全てを焼き払うだろう。
その光に俺が飲まれる瞬間、ブルマンがこちらに向けてサムズアップしているのが見えた。
『プレイヤーネーム:ブルマンにより、サテライトキャノンが発射されました』
リザルト画面にデカデカと書かれた文字。それは本来、達成者の偉業を称えるものなのだろう。だが、今回に限っては皮肉にしか見えなかった。
ちなみに私はFPSで真面目な装備を整えられない系の人です。
直ぐにボウガンやボクシンググローブ、スペツナズナイフなんかのいわゆるスペシャル武器に走ります。銃はアサルトライフルが好きですけどね。