ぼっちなコミュ障がVRMMOをするそうで
仕方ないと諦めてますが、ネットの無い世界から帰ってくると高確率で追放、フレ切りされてますのでソシャゲのギルドシステムは好きじゃないです。
なのでもっぱら王子としてアイギス様に貢いだり、団長になって花騎士を愛でたりしてます。FGOも好きです。
フルダイブ型VRゲームと言えば、何を思い浮かべるだろうか?
銃弾が飛び交い硝煙の匂いが漂うFPS?
超人的な身体能力を手に入れ異次元の殴り合いをする格闘ゲーム?
大自然に囲まれ癒しを提供してくれる自然環境ゲーム?
やはり一番人気の王道のファンタジーRPGだろうか?
昨今多くのフルダイブ型VRゲームが多く世に出回り、誰もかれもというわけじゃないが、巷を歩けば「じゃあ何時に○○にログインで!」「オッケー、ロビーエリアの噴水前な!」みたいな会話が普通に聞こえてくる。それだけ非日常の世界とは魅力的なのだ。
さて、大部分の学生なりがそうであるように、大学生である俺もこの度めでたくフルダイブVRゲーム用のマッスィーンを購入した。頭にすっぽり被って、脳波があれこれしてなんやかんやするやつだ。お値段8万円。この高さで高校生の大半が持ってるってマジかよ。
親父が昔っからのゲーム好きなもんだから、フルダイブVRが出た時はすぐに飛びついてたっけ。母さんも別に趣味に口出しするような人じゃないし、時々親父に貸してもらってたな。祖父ちゃんもゲーム大好きだったっていってたし。
当時小学生だった俺は親父や祖父ちゃんが持っている昔のゲームの方がなんか妙に気に入っていて、家にあるソフトを全部クリアするまでフルダイブVRはいいやとか思ってた。そして神ゲーもクソゲーも全てクリアし、この度フルダイブVRに進出しようというわけだ。
でも問題がある。俺、コミュ障なんだ。
小学生の頃から時代遅れなゲームばっかりやってたから同級生の話題についていけなかった。昔のゲームにもオンライン機能のあるものは多かったんだけど、当然のようにサービスは終わっていてオフライン限定だった。
そんなこんなでリアルでもゲームでもボッチだった俺はNPC以外と喋ったことがない。最低限以外は教師とすらほとんど喋らない。あまりにも喋らなさ過ぎて一時期俺の声を聞けばその日はいいことがあるとまで言われたくらいだ。
だが、フルダイブVRゲームは何故か当然のようにほとんどがオンライン機能付き……!つまり不特定多数の人との接触が避けられない。しかもNPCまでもが人間と変わらないレベルの会話をするというじゃないか。俺が小学生から大学生になるまでの間に、いったいどれだけの技術革新があったんだよ。
しかもVRギアに8万円もするもんだから、一大学生の俺は金策に苦労した。この年で親に買ってと頼むのは情けなさ過ぎる。ギャンブルで一発当ててやろうとかそういう勇気もなかったし。
結局できるだけ人と関わらないバイトを探した。必然的に深夜帯になったけど、深夜手当も出るしで一石二鳥だった。工事現場の警備員だったけど、一緒に働いていた人が寡黙なおじいちゃんで、俺も向こうもお互いに最低限以外喋らない良い関係だった。あれ以上に俺に優しいバイトとかないんじゃないかな。
リアルでも他人との会話を最小限に抑えつつも手に入れたVRギア。これを使わなければ終始ほぼ無言だった俺となんやかんやで3か月以上付き合ってくれたあのおじいちゃんに申し訳ない。
そうして、コンビニで「お弁当温めますか?」と聞かれて「はい」と答えるのにすらキョどる俺が選んだ、我がフルダイブVRゲームの栄えある第一弾がこれだ!
『ザ・ライフ・オブ・オーシャン』
海洋生物になって気ままに雄大な海を楽しむというゲームだ。使用できる生物は魚類多数、イルカやクジラなどの海洋哺乳類、タコやイカなどの頭足類、カニやエビといった甲殻類、誰がやるのかはわからないけど貝もあるらしい。
いきなり人外からのスタートというところに、どれだけ俺が他人と話したくないという気持ちが込められているかが分かってもらえるだろうか。
少しネットの情報を見たところ、同種のプレイヤーと出会うと群れを作ることもできるらしいが、そんなもん関係ねぇとばかりに鰯でソロプレイをする猛者もいるらしい。なんで鰯を選んだんだろうな?
群れを作りたければ同種のNPCを作ることもできるとあるので、無理にプレイヤーとつるまなくてもいいのが俺的に超グッド。というか、これがザ・ライフ・オブ・オーシャン、通称ラオシャンを選んだ決め手だ。
さーて、ちょっとドキドキするけど初フルダイブと行きましょうか!フルダイブの注意点であるトイレや食事忘れもない。やりすぎ防止の強制終了時間を決めるセーフティタイマーは3時間にセット!ふふふ、万全だぜ……!!
ヘッドギアにあるソフトの差込口にゲームソフト(大体2センチ四方くらい。小っちゃい)を差し込み、電源を入れて頭に被りいざフルダイブ……!
スゥ……っと意識が遠のくと同時に、頭の中に溌溂とした声が響く。
「ようこそ、ザ・ライフ・オブ・オーシャンへ!新たな海の仲間を歓迎します!」
意識が戻った俺の目の前には、白い雲と青い空。そして空の色を映したような海。足元は砂浜か?うわ、ほんとに砂浜の感触がする!うおー、すげぇ!超リアル!
息を吸い込めば潮の香り、肌には心地よい風と少しひりつく太陽の日差し。やべーな、マジで異世界に来たみたいだ。これで実物の俺は家のベッドで寝ているんだから、科学の力ってスゲー。
「あの、申し訳ありませんが、ゲームの説明とキャラメイクに入らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ふぁっ!?え?あ、は、はい」
すげぇすげぇと砂の感触を楽しんでいた俺は、不意に掛けられた言葉に驚いて変な声を出し、当然のようにどもる。声がした方向は俺の足元後ろ側、波打ち際の所だ。
なぜそんなところから声が聞こえるかというと、声の主が下半身が魚のおねーさんだからだ。つまりは人魚である。
「うふふ、人魚を見るのは初めてですか?私はアクア。新たな海の仲間にこの世界の説明をさせて頂く者です。よろしくお願いしますね」
に、人魚であることに驚いたわけじゃないもんね、いきなり声かけられたから驚いたんだもんね。
コミュ障なめんなよ、授業中正面に立っている教授に話しかけられても言葉が出てこねえんだぞ。それがお前、視界に入ってない存在に声かけられたとくれば返事できただけでも上等だと思え。驚きすぎてVRギアの異常興奮センサーに引っかかるかと思っただろうが。キャラメイク前にビビりすぎて強制終了とか、いくら俺だって情けなさ過ぎて泣くぞ。
「では早速ですが、この世界の説明をいたします」
驚いた言い訳とどうでもいいことを心の中で早口にまくしたてる俺をよそに、アクアの説明が始まる。
この世界には浅瀬や砂浜はあれども、『陸上』はないに等しい。また、ザ・ライフ・オブ・『オーシャン』なので、川や湖、つまり淡水に生息する生物にはなれないらしい。え、じゃあ鮭と鰻ダメなの?
ログイン時の位置だが、群れがいるのであれば群れの位置に。群れがいないのならログアウトした位置に現れるそうだ。
地球を模した世界なので、海流や水温、生息限界の位置もそこら辺を準拠しているらしい。つまり熱帯の海にいる魚で北極に行ったりはできないってことね。
リアルなライフサイクルが売りのゲームなので、ゲームオーバーする(死ぬ)とリスポーンなどはなく、またキャラメイクから始まる。とはいえキャラメイクは何になるかを選ぶだけなので、よほど優柔不断でなければ5分もかからないだろう。
使用できるキャラクターは初めから数千種にもなる(見た目が違うだけのコンパチばかりみたいだ)が、目の前にいるアクアのように人魚のような想像上の生き物になろうとすると、ゲーム内の実績を積んでアンロックしないといけないそうだ。何でも首長竜とかもいるらしい。
ゲームオーバー、つまり死ぬ原因はだいたいは捕食される、もしくは餌がなさ過ぎて餓死である。その他、選んだ種類によっては縄張り争いで負けて傷つき力尽きるなどもあるそうだ。死ぬときには何やったって死ぬので、切り替えていろんな生き物になって欲しいとのことだ。
操作などは選んだ種類によって感覚が変わってくるだろうが、まあ脳波でなんやかんやしているギアが何とかしてくれるそうだ。基本的には前に進もうとすれば勝手に動いてくれるセミオートが推奨されるみたいだが、曲芸みたいな動きをするにはマニュアルで動かなければならないそうである。
ちなみに現実で泳げない人でも、海洋生物になる以上おぼれて死ぬなんてことはほぼないらしいから安心だな。鰓呼吸万歳。
「以上で説明を終わります。次はキャラメイクに入りますね。初めにあなたのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?ここで登録するお名前は以降のユーザーネームとなり、データを消すまでは変更できませんのでご了承ください」
ああ、死んで生き物を変えても名前は同じなわけだ。まあ、一応群れだとかフレンド機能があるゲームなんだからそりゃそうか。死ぬたびに名前変えられたら誰がどれなのかわかんないよな。おそらくフレンドができることはないだろう俺には関係ない話だけど。
「じゃ、じゃあ、名前は『赤信号』で」
よし、一回しかつまらなかったぞ。何、NPCと分かればこんなもんよ。
赤信号というのは、デフォルトネームがないゲームで俺が使う名前だ。本名が赤石信吾なので、あかいししんご→あかいしんご→あかしんごう(赤信号)というわけ。安直だな?
「赤信号様ですね。……はい、登録完了です。次になりたい生き物の希望はございますか?名前を仰ってくだされば選択可能か否かをお伝えします。また、魚類、哺乳類などのカテゴリーを仰ってくださればその一覧をお見せできます。その他、外見的特徴でも、検索できますが」
さすがに数千種の候補があるだけはある。試しに哺乳類で検索をお願いしてみたら、目の前にスクリーンが出てきてなんかもうぶわーっと候補名が出てきた。ええ……イルカとクジラだけでもこんなにあるんだ……。
「まあ、初めだし……無難にイルカで。えっと、バンドウイルカ?でお願いします」
「バンドウイルカでしたら、プレイヤーがリーダーの群れがいくつかありますが、そこに生まれますか?」
生まれますか?ってなんかすごい言い方だな。とはいえそんなもんはいらん。こちとらリアルソロプレイヤーなんだよ。
「群れはなしでお願いします」
「はい、承りました。哺乳類の決まりで母親だけはNPCとして出現します。あなたが産み落とされた後、つまりゲームが開始してからしばらくの間は、動作や生きていく方法のチュートリアルキャラとしてあなたと行動します。チュートリアル後は別れるなり随伴させるなりはご自由にしてください」
母親の未来はご自由にどうぞらしい。これもまた自然界の厳しさなのか。それとも人間のエゴなのか……。ゲーム的システムだよ。
「最後に、操作方法はセミオートとマニュアル、どちらで始められますか?この設定は後からでも変更できますのでご安心ください」
「マニュアルで」
こういうのって、セミオートとか補正とかに頼ると、いざ補正をなくしたら何もできなくなるもんなんだよな。俺はほかのゲームでも、難易度の選択肢でイージーだけは絶対に選ばなかった。ただし実績解放に関係ある場合を除く。
「はい、ではすべての設定を終えました。赤信号様が雄大な海の世界を楽しみ、生を謳歌されますようお祈りいたします。それでは、5秒ほど目をつむってくださいませ」
体をイルカのものにするためか、一度意識が完全になくなるようだ。
さあ始まるぜ、俺のイルカライフが!