GAME7 EX1 不思議な少年
EXは水落以外の視点の事です。
今日は通う高校で始業式がある為、これまで着た事など無い制服を身に纏い、少し緊張しながら通学路を歩く。当然緊張を表に出したりはしないが。
しっかりと制服を着こなして通学路を歩く彼の名は龍宿龍谷だ。十五歳のちょっと特殊な境遇を持つ美少年だ。
「......ん? これは......」
何かに気付いたように足を止め、虚空を眺める様に睨む。
(ねぇ、どう思う?)
『相当巧く隠しているが、捉えられぬことは無い。仮にもワレの主なのだ。この程度はしっかりと感知してもらわねば困るぞ? 主殿』
(分かってるよ)
水落のSKILL説明風に言えば、対象と心を通わせ音を出さずに会話できる。所謂念話のような事を自分の内側に住む者と行い、五十メートルを六秒で走破する速度で邪気を感知した方向へ走り出す。
これで分かると思うが、龍谷の特殊な境遇とはこれだ。
龍谷は『邪闇の使徒』と言う、邪気と呼ばれるオーラを持ち、この世界にて封印された『邪神』を復活させ世界を破壊しようとする者達の事だ。
そして龍谷は、『邪闇の使徒』を止める為の一族、龍宿の下に生を授かった。それだけならばまだよか............いや、あまりやる事は変わらないのだろうか。
それは兎も角、龍谷は龍宿家に代々伝わる守護神を宿したのだ。守護神の力は強大過ぎるが為、本来守護神を宿した者はその魂が喰われるか、肉体が滅ぶか、そのどちらかが無くとも心が壊れたりする。
だが、龍谷は歴代の継承者――守護神を宿した者を『継承者』と呼ぶ――の中で、守護神との相性が最も良かった。そのお陰で、先程の様に身の内に宿す守護神と念話する事も可能なのだ。
ただ、幾ら相性が良くとも守護神は『神』と名の付く通りの大きな力は人の身に余る。その為どうにか制御しようと修行中だったりもする。
『急げ! 主殿! 一般人が使徒へと近付いているぞ!』
(分かった!)
守護神の警告の声を聞き、より一層走る速度を上げる。速度的には五十メートル四秒台の速度だ。軽々と世界記録を更新しているのだが、まあ、関係のない事だろう。これなら水落も出来る事でもあるのだから。
街中を疾走し、残り四百メートルを切った時、突然邪気の反応が消滅した。
(っ! なんで)
『何者かに倒されたのか? いやだが、一般人以外に気配はない......どういう事だ』
(え? じゃあ、その一般人が倒した、とか?)
『いや、だが......分からぬ。とにかく、確かめてみよう』
なるべく急いでその場所、駐車場まで来たのだが、使徒の残骸が無かった。僅かな邪気が残っているがそれだけであり、戦闘の余波などは何処にも見受けられない。
(......何もないね)
『何をすればこのような......いや、取り敢えず、学び舎へ行くのだろう? 今はそれが先決だ』
(うん。幸い、あの時の一般の人も近くにいるみたいだから、少し様子を見てみようか)
走る速度を五十メートル六秒台まで落として、一般人の後を追う様に疾走する。
程なくして追い付いた男を横目に見て、追い抜く。
(ねぇ、どう思う?)
『恐らく、相当な手練れだろうな。あの体運びは並大抵のことでは身に着かない』
(だよね。出来るだけ戦闘の心得が無いように歩いているようだけど、全然芯がブレないし、隙も無い)
男――水落の姿を思い出し、自分と同じ制服だった事に気付いた。高校へ行けば会えると思い、水落について色々と二人(一人と一柱?)で考察しながら高校へ向かった。
――――――――――
まず驚いたのが、水落が同い年だった事。次に驚いたのが、同じクラスになった事だった。
教室に入ると水落は既に席に着いており、スマホ(?)を弄っていた。水落の持つスマホは龍谷の知っている物では無かったが、珍しい型なのだろうと思い、気にしない事にした。
スマホを見ていると、偶然だが目が合った。直ぐに目を逸らし、自分の席へ着く。
(......まるで抜き身の刃だな)
『適切な表現だな』
水落に対して悟られない様に観察を続けていると、自己紹介となり、水落の番となった。嫌そうに席から立ち上がり前の方へ行くと、名前を書いた後に一言だけ言った。
「神影水落だ」
その瞬間、刀か剣か、いや、特定する必要も無く武器を突きつけられた感覚に陥った。直ぐに水落の嫌々と名前を言った時の雰囲気だと気付いたが、本当にそうなのか怪しいレベルだった。
(今の、俺だけを、威圧したのか?)
『落ち着け、主殿。恐らくそれは戦い慣れしたが故の弊害だろう。本人にその気は全く無い筈だ。あの様子を見れば分かるだろう』
担任の康人と話をしている水落を見て、なるほど確かにそのつもりは無かったようだと思い直すが、同時に戦慄した。
その後すぐに龍谷の番となり、自己紹介しながらそれとなく水落を見てみるが、相変わらずスマホを弄っていた。
龍谷の自己紹介が終わってすぐにテストとなったが、龍谷にとってはそれ程難しい問題ではなく、六、七分で書き終わることが出来た。
水落は龍谷より二つ前の席に座っている為、様子を見ることは出来なかったが、時々シャーペンが回転しながら跳ね上がっているのを見た。
そして周囲の生徒の視線が水落の方へ向いていることに気づいた。幾人かの生徒が水落の方を見ながらペン回しをやっていたり、やろうとしていたりしているので、恐らく水落はペン回しをしているのだろう。
何故後ろの方まで見える程ペンが跳ぶのかは分からないが。
水落の少し気になる行動以外は特に何もなくテスト時間の三十分が過ぎ、テストが回収された。
テストを全て回収してすぐに、康彦曰く今日はこれで終わりらしく、帰る事になった。大分適当だった気がするが、学力重視の高校はこんなものなのだろうか。
康人が出て行った後にざわめきが起こり、瞬く間に生徒同士の会話による喧騒に包まれる中、水落は静かに席を立って、気付かれぬ様に教室を出て行った。
『追うぞ、主殿』
(ああ)
水落の後を追ってすぐに教室を出る。水落を見失わないように、だけど見つからない様に追っていると、商店街の方へと向かい、人混みに紛れてしまった。
唯でさえ水落の気配は薄く、あまり離れすぎるか少しでも気を抜けば感じ取れなくなるというのに、商店街の人混みに紛れてしまっては追うことが不可能となった。
(見失った......)
『今思い返してみれば、確かにあの使徒の方へ向かっている際にも異様に気配が薄かったな。周りに人がいなかった事と、その後の学び舎は人が多かった事で気付かなかった。すまぬ、主殿』
(いや、俺も油断してた。次は本気で追いかけてみる)
龍谷は強く決意するが、この行為が立派なストーカー行為に限り無く近い事に気付いていなかった。そして守護神の方も同じく。この事に気付くのはまだ先の事だ。
水落を見失った事によりこの場所にいる必要もなくなった為、踵を返し、家へと向かう。
(それにしても、俺たちの事に気付いていたのかな)
『それは分からぬ。主殿の隠密技術はワレも認める程の腕だ。並大抵の人間では――』
(それこそ使徒を倒した可能性もあるんだよ。唯戦えるだけじゃない事も、一応考えておかないと)
『む、そうであったな。厄介なものだ』
二人にとっては取り留めの無い会話をしながら、家へと帰宅するのだった。




