GAME6 学校
あの後、その『誰か』とすれ違い満足し、無事遅れる事無く学校に到着して、体育館にて始業式に参加した。
詰まらない話が長時間続いたので、〈制御〉で並列思考を行い、話を聞きながらどうにかこの無駄、もといアリガタイお話の時間に《CR》を出来ないか試行錯誤していた。この際、賢慮の値が高かった事がかなり役に立った。
そして何と、何故か知らないが傍に置いてあった鞄の中で《CR》の形状がスマホとなった。何故こうなったかは良くわからないが、別にスマホなら弄っていても何も言われない様な学校なので、表面には出さず、内心狂喜乱舞状態だった。
で、スマホ状態で出来たのはBOXと〈収納〉内のアイテム整理、SKILL・MAGICの取得、ステ振り、アイテム売買、ミニゲーム(?)、そして効率の悪いレベル上げ、後はゲーム内のミュージック集から音楽を聴く事か。
この中で特に気になったのがレベル上げなのだが、コレは持っているアイテムを代償にレベルを上げるという物だ。水落の最も嫌いなタイプである。
取り敢えずこのレベル上げシステムは埃を被る事が水落の中で確定し、ミニゲームの方を集中的にする事にした。
一概にミニゲームと言っても種類自体は幾つかあって、種類ごとに達成した後の報酬も違う。
それは兎も角、始業式中に水落がやっていたのは射撃ゲームとレースゲームだ。射撃ゲームはFPSの様なものだけだが、レースゲームは幾つか種類があった。
先ずバイクレース。まあ、その名の通り。で、次。馬レース的なモノ。そしてドラゴンレース。これは飛竜に乗って順位を競うものだ。因みに、何故かカーレースは存在しなかった。いや、確かに中型のバイク免許しか持っていないが。関係あるのだろうか? いや、無いだろう。無い筈だ。あったらコワイ。
これ等の報酬は基本的にアイテムかお金なのだが、何と特別報酬とか言うモノがあった。
一回切りの特別報酬は、射撃ゲームがSKP1。馬レース的なナニカがSTP1。ドラゴンレースがSTP1。そして最も意味が解らなかったのがバイクレース。特別報酬が《ヴィテス召喚》とか言うSKILLだ。
このSKILLの詳細を読んだところ、魔導式万走行型念動二輪駆動車とか言う、ちょっと意味の分からない『バイク』を召喚して使用する事が出来るSKILLの様だ。因みに、外見はキャラメイクの要領で変更可能の様だ。
これ等の報酬には相当惹かれたのだが、流石に始業式中という事で特別報酬を取りに行くのは自重したが、普通にプレイはしていた。ファンドとアイテムが結構増えた。
実のある時間が終わり、体育館内に居た生徒はそれぞれの学級へと行く事となった。
因みに、この学校は全生徒約九百人で三学年に分かれている為、一学年八クラス。一クラスは大体三十七人だ。
クラスはアルファベットで分かれているタイプで、水落のクラスは一年Cクラスだ。
人混みだと移動が面倒なので、〈制御〉と〈忍足〉のスペック全開で教室へと来た。一番着だった為、自分の席に着いた後はスマホ状態の《CR》を弄りつつ、教室へと来る生徒を確認する。
幾人も入って来る生徒の中に、あの時の『誰か』が居た。一瞬だが、視線が交錯する。『誰か』は水落から視線を外し、自分の席、窓側の一番後ろの席へと座った。
水落の座っている席はその二つ前なので、席の位置としては好ましくない。
(最後部席が良かった。何だってこんな中途半端な席に......まあ、席はあまり関係ないし、気分の問題だけど)
なんて文句を垂れ、再び《CR》へと視線を落とした。
水落がクラスメイトの顔を覚えつつ《CR》を弄っていると全ての生徒が揃い、最後に担任が入って来た。
「あー、とりあえずオレがオマエ等の担任をすることになった飯塚康人だ。あー、これから、アレだ。あの、そう。自己紹介だ。自己紹介をしてもらう。そっちから順に前に出て、黒板に名前を書いてから自己紹介してくれ。じゃ、はじめ」
適当感漂う担任こと康人は、言い終わってから教室の後ろの方へと移動した。
生徒達の大半は少し戸惑いつつも、指定された通路側先頭から順に黒板に名前を書いてから自己紹介を行っていった。
遂に水落の番となり、前に出た瞬間にヒソヒソと声が聞こえたし、何を言っているのかも分かったが、一切合切無視して名前を書く。
「え? マジで? アレが名前?」
「ていうかなんて読むの?」
「ミズオチとかスイラクとか、そんなんじゃね?」
コソコソと聞こえる声を完全に聞き流し......今の水落にそんな事は出来ず、しっかりと記憶しながら仮面を被った状態で言う。
「神影水落だ」
嫌々という雰囲気をブチ撒けつつ、それだけ言って席へ戻ろうとした。
「あー、その、もう少しホラ、なんかないか?」
水落の嫌々とした雰囲気が傍からは寒々しい程冷えた雰囲気だった為、引き留めた康人の声にも気後れが混じっている。
「何か、とは?」
「いや、アレだよ、ホラ。自己紹介ってアレだろ? 自分の事を紹介するモンだろ?」
「したが?」
「いや、名前だけじゃん。他になんかないか?」
「ない」
「あー、その......」
「もういいか」
「なんか、スマン......」
水落の淡々とした物言いに完全に気圧された康人は身を引き、水落も無言で席へ着いた。そして直ぐに《CR》を弄りだす。
暫し無言の時が流れ、水落の次の人が出て、その人の自己犠牲のお陰で雰囲気が何とか明るい物となり、『誰か』の自己紹介へと移った。これで自己紹介は最後となる。
「俺は龍宿龍谷だ。ちょっと前まで家の都合で海外に住んでたから――」
などと言う龍谷の身長は百六十五センチ程だろうか。健康的な肌に華奢な体。髪は後ろの方で纏められており、女装が似合いそうな容姿をしている。
自己紹介をしている間、自然に見える様に水落へと視線を飛ばしていたが、気付かない振りをした。
そして龍谷の自己紹介が終わった後、康人が前へと出てきて、次の予定を告げた。
「良し。自己紹介は終わったな。あー、次は学力確認? だったか? で、テストをしてもらう。時間は、三十分だったか? 三十分だな。うん」
その瞬間殆どの生徒から反対の声が上がったが、康人はそれを無視してテスト用紙を配り始めた。
「あー、このテストだが、今後の成績には響かないから安心しろ。あくまで確認だからな。じゃ、全員に渡ったか? んじゃ始め。まあ、適当に頑張れ」
気の抜ける様な掛け声とともにテストは開始された。
水落は開始五分程で書き終わった。この異常な速度は賢慮のお陰で思考能力が上昇していたからだ。決して答えを知っていたとかではないので、したがって不正にもならない。
残り二十五分もする事が無い水落は用紙を裏返した後、《CR》も出来ない暇さからペン回しへと走った。
手に持ったシャーペンを最早理解不能な動きで回しており、動体視力の低い者には円盤にしか見えない速度となっている。
何気に面白くて少し熱中してしまい、二十五分間タップリとペン回しに使っていた。途中からペンが跳ね上がったり変則的な動きをし始めたので、最早神業の域に達していた。
テストが終了した直後にクラス内の殆どの視線が集まっていたのを感じたが、揃って無視し、何事も無かったかの様にシャーペンを片付けた。
「あー、なんだ、解答用紙回収するから前に回してくれ」
前後席での会話で全然出来なかったとか、あのペン回しヤバすぎだろ的な声が聞こえたが、無視した。無視しても記憶しているので無反応で居た、といった表現の方が......いや、根本的な意味が同じか。
回された解答用紙を集めた康人は、用紙を纏めつつ、相変わらず適当に言う。
「あー、これが終わったら今日はもう終わりで、帰っていいんだが、どうする?」
答えなど決まっていた。
「よし。じゃ、サヨナラ」
そう言って教室から出て行った康人を見て、水落も立ち上がり、鞄を取って教室を出た。他の人に捕まる前にさっさと家に帰る。
誰かが後を付けようとしていた気がするが、うまく撒いて家へと帰った。ストーカーは好きじゃない。




