GAME5 初戦闘
この作品。書いてて筆が乗ります。楽しいです。
特典と賢慮の高さのお陰か驚く程クールタイムの短い〈索敵〉を何回も発動させながら、通学路を歩く。
そして何度目かの〈索敵〉に不思議な反応があった。
「紫? なんだそれ」
記憶の中から〈索敵〉の説明を探し出して見ても、紫というのは無い。現実だから表示されたのだろうか。
気になった為、走って向かってみる。当然だが、此処で本気で走る程水落は馬鹿じゃない。精々五十メートル六秒台といった速度か。十分速いが。
一分程走ってから紫のアイコンの場所に着き、走ってる途中に浮かんだ笑みを引っ込める。
アイコンは人気のない駐車場で佇んでいる一人の男を示していた。当然警戒しながらだが、姿を現して声を掛けてみた。この場合水落の方が不審者だ。
「おいお前。どうかしたのか?」
「っ。いえ、特に何もありませんよ」
声を掛けた瞬間に、驚いた様に息を吐いたことが分かった。とは言え、会話に異常は無い。だが、この場所から〈索敵〉の範囲に人がいないのはおかしい。興味が湧いた為、調査続行。赤の他人にここまで出来るとは、コミュ障に恨まれそうなレベルだ。
「いや何。変にこの場所から動かなかったからな。何かあったのかと思ったが、杞憂だったか」
「ええ。少し考え事をしていまして、すみません。ご心配をおかけしました」
スーツ姿で二十代中頃といった風貌なので、会話自体に違和感はない。が、どことなく眼がおかしい。まるで警戒するように水落を鋭く観察しているのだ。
気付かれないように出来るだけ自然な動作で行っているが、今の水落は〈制御〉のお陰で視線などが分かるのだ。SKILL最高。だが男が少し可哀想なレベルだ。水落の頭から足先まで見ているのがバッチリわかる。
「所で、オレがどうかしたのか? さっきから見ているようだが。ああ、アレか? 霊感持ちと言う奴か。オレに何か憑いてるのか? ならば警戒するのも分かるな」
「い、いえ、失礼しました。特に霊感がある訳では無いのですが。貴方のその恰好からして学生でしょう? 学校は大丈夫なのですか? 遅れてしまっては大変ですよ」
「ああ、それについては問題ない。走れば間に合うからな」
もう一度発動した〈索敵〉で表示されたアイコンが、紫から赤に変わった。
補足説明だが、〈索敵〉に表示されるアイコンは色で自身に対する対象の動きを表している。
先ずは赤。敵対。次に黄。これは中立。攻撃すれば敵となり、何もしなければ無害。そして青。お察しの通り味方だ。更に緑。これは攻撃しても敵対しない中立表示で、ゲーム内でのみ表示される。主に街の住人などがそうだ。で、分からないのが紫。これは現実にのみ存在する。
水落は相変わらずの冷めた眼とドライな雰囲気を纏っているが、思考は殆ど戦闘状態に切り替わっている。因みに、これは《UT》をやっていた頃にそうなっただけだ。《UT》はVRMMORPGなので、水落は戦闘の雰囲気を知っているし、ゲーム内では最強のプレイヤーだったのだ。油断なんて無い。
そんな水落の内側の変化になど気付ける筈も無い男は、明らかな攻撃意思を瞳に覗かせながら、当たり障りの無い言葉で別れを告げ、水落のすぐ横を通り過ぎようとする。
「そうでしたか。ですがこれ以上貴方の時間を奪い、遅れる原因となるのは少々心苦しいので、ワタシはこの辺りで失礼させていただきますね」
「ああ、分かった。仕事なりなんなり、頑張るといい」
「ええ。アリガトウゴザイマス。では............頑張らせていただきますっ!」
言葉を切り、水落の丁度真横に来た瞬間に、水落の首へ向かって高速の貫き手を放った男。
だが、水落はその攻撃を、上体を僅かに後ろへ逸らしただけで避ける。
「なっ!? では......コレならどうですっ!」
人間だった容姿が人型の異形のモノへと変化し、同時に上昇した力で水落へ向けて豪脚を放つ。
その攻撃に水落は反応しない。その様子を見て反応できていないと踏んだ男は、勝利を確信した笑みを口元に浮かべる。だが、それは次の瞬間に驚愕へと変わった。
――ドガンッ!
水落の胸へと当たった蹴りは、本来人体から聞こえる筈の無い音を鳴らすが、それだけだった。その蹴りは水落を吹き飛ばすどころか、微塵も動かすことが出来ていなかったのだ。
「ふむ。これじゃあさっきの貫き手は避ける必要が無かったな」
そんな水落の呟きなど聞こえず、驚愕を顔に張り付けたまま、蹴りを放った状態で固まっている男は、声すら出せていなかった。
隙だらけの姿を見た水落が取った行動は一つ。
「戦闘中に思考を止めるな。阿呆」
胸の方にある足を右手で掴み、次いで握力だけで握り潰すと、上空へと二メートルを超える男を上へと放り投げた。
傍からは掴んだ直後に上空へと放り投げた様に見える速度の為、男は抵抗する事出来ずに、ただ離れていく地面と水落を眺める事しか出来なかった。
「MAGICは使った事が無いんだ。実験体となってくれ」
言いながら、序に《並列発動》も使ってみる事にした。この《並列発動》の説明を記憶しているのだが、相当エグイ効果を持っていた。それがこれだ。
『《並列発動》
SKILL・MAGICの複数同時起動・発動を可能とする。その際、組み合わせにより新たなSKILL・MAGICを取得することがある』
かなり簡易的に纏めたが、実際はこれの二、三倍は書かれていた。
それは兎も角、今回の場合使う条件が纏められているこの説明に対し、水落が何を考えるかは明白。
――《並列発動》、〈ファイアボール〉、〈ウィンドボール〉、〈アースボール〉
「さて、威力はどの程度だろうな。ゲーム内だと分り難いからな」
――条件達成! MAGIC・〈ラヴァボール〉取得。
脳内に響く中性的な声を聞きながら、発動した後の方向を念じて決定する。
その瞬間、水落から一メートル程離れた位置にサッカーボール程の溶岩球が出現し、上方へと向かって高速で飛んで行った。
飛んでいった〈ラヴァボール〉はそのまま男に衝突すると、男を飲み込むように広がり、男の体が全て溶岩に覆われるとそのまま縮んで行き、そして消滅した。
「ふむ。エグイな」
仮面を被ったままなので、無感動に平坦な声が口から漏れる。そのまま踵を返し、学校へと向かう。正直《CR》の方を進めたいが、学校には行かないとアレなので、仕方なくだ。
この人気のない駐車場に向かってくる者がいる事を〈索敵〉で捉えつつ、口元が笑みで飾られる。
昂る感情を理性で抑え、表情を〈制御〉で冷たいモノへと変え、やはり歩きながら《CR》でもやるかどうかと、取り留めのない事を考える。
頭を振ってその考えを追い出し、学校へ遅れるのも嫌なのである程度まで走る事にする。
走り出して少しした時に、あの駐車場に人が来た事を〈索敵〉で捉え、戸惑うように少し動いた後、水落の方向へ移動し始めた。その速度が水落の走る速度とほぼ同じだった。
その事に軽く驚き、興味が湧いた。なので、走り出したばかりだが歩きに変更する。
走る速度が一定の誰かを想像しながら、表面には全く出さずに楽しみにする。
何故なら、良く当たる水落の勘が言うのだ。『面白いことになる。会った方が楽しい』と。ならば詰まらない現実よりも楽しい方を選ぶのは当然の事だ。
そんな訳で、水落は気分良く学校へ行く。世の非リアの怨嗟の声が聞こえてきそうだ。




