GEMA30 霊神と――
語彙力と文章構成能力が落ちました(確信)。
......それにしても、自然な流れが造れていないような......
翌日の昼頃、龍神直々に霊神とその継承者を紹介したいと言われ、龍谷の父親がやっているという店まで赴いた。
『CLOSE』と掲げられた扉を開くと、店内には龍谷と龍神、虎神と戦に叢華と、水落の知る面々に加え、二人の少女と女性が座っていた。
霊神であろう女性と、継承者であろう少女は水落が入ってくると、落ち着いた動きで立ち上がり、一度綺麗なお辞儀を見せる。
「よぉ水落。この間は譲ちゃんが世話になったみてぇだな。ありがとよ」
歯を見せながら笑う虎神に真っ先に声を掛けられた。とはいえ、今回はその事について話に来たわけではない為、肩を竦めることで返事とする。
続いて龍谷、戦、叢華に軽く挨拶した後、恐らく霊神と天音であろう二人を後回しにして龍神を見た。
「ふむ。行動が素早いな、水落殿」
「お前の気が長いだけだろう龍神」
何やら妙な探りを入れられたが軽く流して、ここに呼んだ要件を聞く。横目で二人を確認して、内容に察しがついていると知らせることを忘れない。
「察しがついている通りだ。水落殿にこの二人を紹介したくてな」
そう言って、二人の方へ顔を向ける。水落も又それに倣い、二人を見た。
「私は神影天音と申します。貴方が神影水落さんでしょうか?」
名乗り上げると一礼した天音は、そう問い掛けて来た。
「ああ、そうだ」
「そうですか......」
誤魔化す理由も否定する必要もない為、淡泊にそう答えると天音は考え込むように俯く。あの二人から色々と聞いているとすると、何か思う所があったのかもしれない。
思考に耽る天音を放置して、顔を伏せ気味の霊神へ目を向ける。
一拍だけ間をおいて、ハッとした様子で顔を上げた霊神は口を開く。
「初めまして、水落様。私は――」
「それはいい。目を見ろ、霊神」
霊神の言葉を遮って言い放った水落に、全員が驚いた。
その場にいた者、特に天音以外の者達は付き合いが長いとは言えないが、それでも少しは関わっている者だ。故に、今まで水落が初対面の者に向かってこれ程威圧的な態度を取っている様を見たことがなかった。
その為か、反射的に動こうとした龍谷達を、龍神と虎神が止めに入る。しかし、霊神が硬直していた事により、天音を止める者がいなかった。
「水落さん、貴方は神影家なんですよね? ならば、神影家の守護神である霊神様には敬意を払うべきではないでしょうか」
咎める様な目線が主だがしかし、どこか威圧的な言葉尻になっている天音。
覗き込むようにその眼を見れば、咎める様な色の奥に隠れた怒り故か、キッと睨みつける様に眦が上がった。しかしそれは、水落の感情を大きく揺さぶることは無かった。
言葉も、感情も、水落へ向けられる天音の敵意じみたモノは全て、水落に掠りもしない。
「神影天音、オマエはオレのことをどれだけ聞いている」
外向けの『仮面』を被り、起伏のない声で問いかけた。目を合わせている以上、その感情を読むことは容易い。
それこそ、問いかけておいてアレだが殆ど水落のことを知らないことを既に見抜いている。
だがそんな水落の内心を知る由もない天音は、目を合わせたまま気丈な態度で口を開く。
「あ、貴方が......神影家に居たことと、その......妹が、居たこと、です。それから......妹が、亡くなられてから......貴方が、出て行ったこと、だけ、です」
しかし、気丈なのは態度だけで、その言葉は酷くたどたどしい。この場において、水落に見つめられ続けて体が震えていないことが不思議になる程、その眼に恐怖が浮かんでいた。
天音は霊神の継承者故に、その勘を含む感知能力は非常に高い。だからこそ、今の水落に漠然とした不安と、巨大な恐怖を懐いていた。
水落は天音の恐怖が何処から来ているのか悟っている。今この状態――外向けの『仮面』を被った状態だからこそだろう。実際、『仮面』を被っていない状態の水落とは、しっかりと会話が成り立っていた。
「そうか......殆ど知らされていないのか」
「っ! 水落様っ、お二人は主様が継承者となって日が浅いという事を考慮して、伝えていないのです。ですからどうか、お気を悪くなさらないでください」
「......霊神様......?」
感情による変化の見られない声音で呟いた水落に、霊神が僅かに慌てた様子で宥める様な事を言う。そこに、戸惑いと困惑が込められた声を発したのは天音だ。
だが、今この場において天音の優先順位は下がった。相手をする時間はないが、それでは納得できないだろう。だからこそ、相手にはせず、しかし衝撃を与えるような言動をすれば邪魔にはならないだろう。
(いや――)
それでは非効率的か。ならば、霊神との関係と共に軽く生い立ちを話すべきか。
どちらにせよ、ここで感情的になって言い合いをする方が何よりも無意味であるか。
「霊神。オレは特段気にしていない。あの二人がコイツに何かを話しているとも、最初から考えていない。オマエがオレに対し何を思っているのかは知らないが、その卑屈な態度は止めろ」
「っ!」
霊神が声にならない声を上げ、何かを言おうとした事が見て取れた。
水落が何を考えているのか、どう思っているのかが分からない為下手に発言出来ないのだろう。
二の句が継げなくなった霊神へ、その眼を見ながら唯淡々と言葉を続ける。
「あの日、煌空が死んだのはオマエだけの所為じゃない。オマエはそもそも、煌空の力が足りず手助けしようにも出来なかった。又、オレにも出来る事はあった。いや、オレは何かをする事は出来た筈なのに、その何かをしなかった。だからこそ、もし、煌空が死んだ事がオマエだけの責任だと言うなら――」
外向けの『仮面』と言うのはそもそも、内心を悟らせない様にする為と、他者を威圧し拒絶する為のモノでもある。だからこそ、胸の内で膨れ上がった感情を急速に鎮めると――
「オレは、オマエを敵と見做す」
絶対零度の如く冷めた声音となり、殺意、或いは強過ぎる敵意にも似た冷たく重い『圧』が生じた。
しかしその『圧』は、水落の理性によって軽度まで抑えられている。
溜息を吐きたくなるのを堪えながら、頭を軽く振った。
「......すまない。オレは先に家へ戻る。もし用があるなら呼びに来てくれ」
軽く全員を見回して、背を向けた。
水落を止めようとする気配はあれど、止める者は居なかった。
――――――――――
「霊神様......?」
「オイ、なんで止めたんだよ」
「兄さんっ、落ち着いて」
「そうだっ、ミラを追いかけないとっ」
龍谷、戦、叢華、天音の四人は、水落を止めようとしたところをそれぞれの守護神に止められ、四者四様の反応を見せていた。
「主様、少しお待ちください」
「小僧、嬢ちゃんの言う通り落ち着け」
「主殿もだ。冷静になれ」
龍神、虎神、霊神の三人はそれぞれ落ち着くよう言葉を掛け、守護神と継承者で対面になる様に席に着いた。
先ず、話を切り出したのは龍神だった。
「虎神、霊神。お主等は先の水落殿の言動の意味を正しく理解しておるか?」
「ああ、当然だろ」
「......はい」
龍神の放った言葉に、虎神は即答。霊神は間を置きながらも確と頷いた。
しかし、龍神の言葉の意味を捉え切れなかった龍谷と戦が、反射的に言い返そうとする。だが、先んじて口を開いた龍神によって、閉口する事になった。
「お主等は、先の水落殿の言動を、冷静になる為の時間が欲しいと解釈しておらぬか?」
そう問うた龍神に、対面に座る四人は質問の意図を捉え切れず、少々戸惑いがちにそれぞれ頷いた。
『ふむ』と一つ頷いた龍神は、先の水落の行動の意味を簡潔にして言う。
「水落殿は、霊神と己の関係を霊神に説明させる為この場から去ったのだ」
「はぁ!?」
「ちょっとっ、兄さん落ち着いてっ!」
ガタッと立ち上がった戦を、すぐに叢華が宥める。不機嫌そうな表情をした戦はドカッと座り込んだ。その様子を見て、叢華は小さな溜息を吐いた。
そんな二人の様子を見ていた龍谷は苦笑いを浮かべる。
天音は三人の様子を横目に見つつ、どこか遠慮がちな態度で霊神へ問い掛けた。
「あの、水落さんは霊神様の分承者なんですか? 神気を感じなかったので、一般の方かと思ったのですけど......」
『霊神との関係』という点から連想したのだろう質問に、霊神はゆっくりと首を振って否定する。
「正確には、私と水落様の関係ではなく、主様の先代の継承者である神影煌空様と、水落様と、神影家の関係です。ですので、水落様は継承者や分承者ではありません」
天音の質問を正しく把握した霊神がそう答えると、虎神がふと呟いた。
「つーことは、水落は継承者でも分承者でもねぇのに強ぇって事になるな」
「そういや、水落って龍谷より強いんだっけか?」
「うん。俺も技術だけなら簡単にあしらわれるな」
「神影さんにちょっと教えて貰ったけど、あたしは絶対に勝てないと思ったよ?」
「水落さんってそれ程までに強いんですか?」
「うむ。出処の分からぬ強さであった故な、霊神が知っているのやもと思っておったが――」
虎神に続いて、戦、龍谷、叢華、天音と来て、最後の龍神が言葉を切ると同時に全員の視線が霊神へ向いた。しかし、霊神は申し訳なさそうな表情をするだけだった。
「申し訳ありません。水落様の強さは私にも分かりません」
「ああ、ワレ等とて責めておるわけではない。あくまであわよくばと考えておっただけだ――ふむ。話が脱線してしまったな」
頭を下げる霊神を庇いつつ、龍神が話の方向を戻す為に、一度仕切り直す。
「では、霊神よ。水落殿について、その妹である先代の継承者、神影煌空について、そして神影家とお主と水落殿の関係について、知る限りを話して欲しい」
龍神の放つ雰囲気に、龍谷達は緊張からか僅かに身を固くした。
虎神すらも真剣な雰囲気を発する中、全員の視線を一身に受けながら、霊神は重々しく語りだした。




