GAME28 僅かずつの変動
今年も今日で終了ですね。
......正直周りの人が居なかったら年末とか分からないですけど。
「ほ、ホント!?」
「ああ」
「ありがと! やったぁ!」
歳相応の感情を見せ、飛び跳ねる勢いで喜ぶ叢華を何も言わずに眺める。敬語を忘れて喜ぶ様は微笑ましいモノがある。
「あっ、えと......」
少ししてハッとした叢華は、顔を赤くして身を縮こめてしまった。顔を伏せ、覗く耳も真っ赤になっているのが分かる。
このままでは恐らく話が進まないだろうと判断し、水落の方から口を開く。
「俺はこのまま帰るが、お前はどうする?」
既に龍谷や『従者』達と話す時の口調になっているのは、水落なりのケジメだ。
水落の言葉に理解が追い付かなかったのか、或いは水落の口調に違和感を覚えたのか、僅かに首を傾げた叢華へ言葉を継ぎ足す。
「お前さえよければ、今からなら俺の家である程度教える事も出来る。無理ならお前の家か、目的地までは送ってやる」
明らかに水落の態度が変わっている事に驚き、次いで水落の提案に真剣に考え始めた叢華。顔に出やすく分かり易い辺り、やはり戦の妹である。
とはいえ、聞きはしたものの長時間待つつもりは無い為、追い込んでみる。
「決めないなら俺は行くぞ」
「え!? ま、待って! うぅ~......! に、兄さんには友達と遊ぶから帰りが遅くなるって言っとけばいいよねっ......いっ、行く! あたしも行くからかまだ帰らないで!」
焦ったのか敬語をかなぐり捨て、良い 反応を見せてくれる。ボソッと呟かれた言葉からして、長時間水落の家にいるつもりだろう。無意識だと思われるが。
少し精神状態が乱れると、一瞬で歳相応の様子を見せる辺り、やはり素はこちらなのだろう。無理して装っているというより、礼儀を弁えていると言った方が良いか。
水落がヴィテスに跨ると、若干焦った様に水落の下まで駆け寄ってきた。
「後ろに乗れ」
「う、うん」
意識が逸れたところを見計らって取り出したヘルメットを渡すと、叢華は徐にヘルメットを被り水落の後ろに跨った。
「しっかり掴まれ。落ちるぞ」
「はっはい......し、しつれいします......」
叢華が遠慮がちに水落の腰に手を回したことを確認して、ヴィテスを走らせる。家へ戻るだけなら、人通りのない道を把握している為、周りを気にせずに速度を出せる。その為、初速からかなりの速度で進む。
数分で家に着いた。つまりそれ程の速度を出していたということなのだが、その事に関する叢華の反応は殆どなかった。
むしろ別の事に気を取られて未だにフリーズしている叢華へ声を掛ける。
「着いたぞ、降りろ」
「......あっ、は、はいっ!」
叢華はいそいそとヴィテスから降りると、ヘルメットを脱いで水落へ渡してくる。その際、叢華は水落と目を合わせようとしなかったが、叢華にこれ以上は無理そうなので、揶揄うのは止めておいた。
ヴィテスを引っ張って庭に行くと、どこか居心地悪そうな叢華もついて来た。叢華の前だとヴィテスを戻せないから庭に来たのだが、ここでやるのも良いだろう。
「ソーカ、お前がどの程度戦えるのか軽く確認したいんだが、今からでも大丈夫か?」
「はい! あ、ちょっと待ってて下さい」
水落がヴィテスを邪魔にならない場所に移動させている内に、叢華はスマホを取り出して何やら行っていた様子。恐らく戦に連絡でもしたのだろう。
「もう大丈夫です、神影さん。お願いできますか?」
「水落でいいぞ。それじゃ、攻撃から確認しようか」
叢華も切り替えたのだろう。纏う雰囲気が一変した。
龍谷と同じような手順で、軽く確認を始める。
――――――――――
陽も沈まんとする時間帯。
疲労からテーブルに突っ伏している叢華の前に軽食を置く。すると、どこか気怠そうな緩慢とした動きで身を起こし、目の前に置かれた軽食をパクッと食べると目を見開いた。
「おいしい!」
「喉に詰まらせるなよ」
言いながら水を置くと、少し恥ずかしそうな顔をしてゆっくりと食べ始めた。
お腹が空いていたのかすぐに食べ終わった叢華は水を飲んで一息つく。その横から食器を回収して片付けた。
「あ、あたしが自分で――」
「休んでいろ」
と、そんな会話は何度目か。水落が絶妙なタイミングと、気付いた時には終わらせている程の手際の良さで以って動くので、叢華は肩身の狭そうな様子を見せる。
突っ伏していたのは何も疲労だけではなく、こんな事情もあった。叢華は水落が気付いていて尚放置していることに気付いていない。
とはいえ、こんな調子では気疲れしてしまい、休むに休めないだろう。割り切れないか見ていたのもあるが、無理だと判断。
「自分の家の様に寛げないか?」
「えと......」
答え辛そうに口篭ってしまう叢華。
「まあ当然だろうが、せめて敬語はやめろ。お前の兄の様に、出会い頭に勝負を仕掛けて来る程の不遜さがあってもいいぞ」
「兄さん......」
正確には虎神なのだが、その時の身体は戦のモノだった為間違いでもない。
「とはいえ、その態度は無理だろうが、少しは気を抜け」
考え込む様に俯いた叢華は、遠慮がちに声を発する。
「え、えっと、これで......いいの?」
僅かに顔を赤らめておずおずと聞いてくる様は歳相応のモノであり、覗く叢華の眼からは過剰な程の気遣いと緊張が薄れている。
「ああ、それでいい」
「......わかった」
微笑む様に笑えば、叢華もつられてはにかむ様に笑った。
そのまま何とも言えない空気の中、水落は自然体で、叢華はもじもじとしながら過ごす事数分。再び、叢華が遠慮がちに水落へ声を掛ける。
「あの、水落さん......――っ!」
何かを言おうとして、しかし口篭った時にタイミング悪く『邪闇の使徒』を感知した叢華は閉口した。因みに、感知は水落の方が早かったのだが、ここで反応する必要は無いだろうと無反応だった。
「使徒か?」
「うん。ごめん水落さん。あたし行かないと」
雰囲気が変わったのを見て取り問いかけると酷く申し訳なさそうな顔をする叢華に、『気にするな』と伝えると、僅かに微笑んでから急いで家を出た。
叢華が家を出てから暫し間を置き、水落も家を出る。
暫く歩くと、〈心眼〉を通して空間が歪むを捉えた。次の瞬間には先日の道化が水落の前に現れる。
「おやおやぁ? こう何度も先に気付かれてしまうとぉ、こちらの自信がなくなりますねぇ。いえしかし、これはアナタが優秀であることの証左なのではぁ? ま、まさかではありますがぁ、ワタシが弱くなっているなんてことはぁ――」
「『ジェスター』、何の用だ」
先日以上にオーバーリアクションを取り、長々とした口上を続けようとする『闇の者』の言葉を遮り、酷く冷めた眼を向ける。
「――おや、不評ですか。ワタシも落ちたものです。しかしジェスターですか、これは言い得て妙ですね。けれども、アナタ一人を笑わせることすら出来ないジェスターなど、必要ないでしょう? ジェスターと現すのならば、笑みの一つでも見せてもらいたいものなのですが?」
「冷笑なら見せてやろう。目的を話せ」
水落はジェスターと称した者の戯言を切って捨て、話を促す。
「悲しいですね。ワタシだって、傷つくココロを持っているのですよ? 自信がなくなってしまいます。いえしかし、不屈の精神を持つワタシは挫けませんよ。必ずやアナタを笑わせて見せましょう。ですがしつこ過ぎると笑わせることなど遥か遠く。ですのでここは一旦退きましょう。あ、諦めてはいませんので、悪しからず。笑わせる為の最良のタイミングというものを待つことに致しますので」
「......」
先日と同じような構図となる。違うのは場所くらいか。油断なく佇む水落の前で、ともすれば隙だらけにも見える大仰な仕草で語る『闇の者』。
「では、改めまして。この度、アナタの前へ現れたのは、伝え忘れたことがあったからなのです。ワタシ主催の死祭についてなのですが、その日程がこれより間を置かぬ日となる可能性があります。こちらの手違いによるものでして、はい。不徳の致すところではございますが、しかし。ならばこそ当初よりも楽しめるモノに致すことをココロに決め、その報告をアナタへする誠意を見せに来たのです」
「......」
深い礼を一つ。しかしその雰囲気は酷く愉し気であり、誠意など欠片も感じない。
「ええ、今宵はそのお詫びとしまして、普段より多めに『使徒』の者達を送り込むことにしています。いえ、まさかこのことが原因となってワタシの死祭にご参加いただけないなど、そんな不手際は致しません。その様なことになれば、全霊を以って謝罪させていただきますよ」
「......」
無言で立ち続ける水落が聞いていない事など考えていないように話し続ける。
「さて、肝心となるワタシ主催の死祭の日程ですが、申し訳ありませんが、確たる日時をお伝えすることが出来ません。しかし、夜間であることは確約できます。そして、死祭にはその前日に、前夜祭をご用意させていただきますので、ココロしてお待ちいただければ幸いです。ええ、必ず、楽しい愉しい死祭と致しますので、是非ご参加下さい――――ではぁ、本日はこの辺りでぇ、失礼させていただきましょうかぁ」
水落の反応など気にも留めずに消え去った。暫く警戒と考察を行いながら、注意深く辺りを、特に『闇の者』が立っていた場所を見る。
今回は、前回の様な不意打ちや奇襲はない様だ。もしかすれば、『闇の者』の言う誠意とはこの事なのかもしれない。
気は抜けないが、ため息を一つ吐いて空を見上げた。
陽が殆ど沈み、夜闇の色が濃くなった空は、僅かな茜色と藍色がまだ完全に夜ではないことを知らせる。
しかし、これより大きく間をおかず、夜が訪れる。




