GAME27 承諾
照りつける太陽の下、水落はそれでも変わらず校舎の屋上に居た。
とは言え、流石の水落でも場所を選び、影の中に入っている。
否。正確には影の中に入っていた、だ。
現在は太陽が最もその猛威を振るう時間帯。つまり屋上に水落が入れる程の影は無い。
諦めて太陽の猛威に晒されながらも普段の場所で《CR》をプレイしていると、いつもの様に龍谷と戦が屋上へ来た。
「あっつ~。水落お前、よくこんな場所でゲームなんてできるな」
「本当だよ。こんな場所にいつまでもいたら体が危ないぞ」
そう言いながら普段の場所に昇って来た二人は、水落の様子を見て僅かに違う反応を見せる。
そんな二人を見た水落は、戦に視線を固定すると口を開いた。
「懲りないな、天寅。何度も言っているが手合わせはしないぞ」
「っ!? 俺何も言ってねえんだけど!?」
「イクサ......」
図星を突かれた戦の動揺した様子に、龍谷が呆れた様子で横目に見る。
この状態を不利に思ったのか誤魔化したかったのか、戦は焦った様子で話を変えようとする。
「そ、そんな事より、今日はちゃんと話す事があってここに来たんだぜ? そうだろ、龍谷」
態度が明らか過ぎる戦に龍谷は呆れを込めた溜息を一つ。
水落もまた溜息を吐きたくなるのを堪え、それ以上にその話とやらが気になった。というか、『今日は』という事は普段は特に話す事もないのにここへ来ているという事か。戦の場合手合わせを申し込みたいだけだろうが。諦めろ。
「だが龍谷、話というのは何だ」
戦から視線を逸らして龍谷にそう問うと、追求されないと踏んだのか戦が安堵の溜息を吐いた。戦は龍谷以上に感情が表出しやすい為、非常に分かり易い。視なくても解るのは楽ではある。
先日――二週間程前のあの道化に比べれば、いや、比べる相手が間違っているのだろうが。ともかく、分かりやすいのは水落としてはやりやすい。
「あー、っと......ミラは継承者が後一人いる事は知っているか?」
「ああ、知っている」
以前聞いていた為に嘘なく答える事ができる。
「なら、説明はいらないか」
そう呟いた龍谷の眼の奥底に、僅かに何かの色が過ぎった。一瞬で消えたので、恐らく本人も自覚していないだろう。
「その後継者の一人に、明日会う事になっているんだ。明日から夏休みだし、タイミングとしては良いんだけど......どうも、狙ってた、というか渋っていたらしいんだ」
渋る理由も原因も察しているが、この二人に言う必要は無いだろう。聞かれたところで答える気は無い。
「まあ、渋っていたのは後継者の親にあたる人達で......色々あって、結局後継者本人が一人で来るらしいんだけど」
「そうか」
実際あの二人に興味はない。何も干渉してこない以上、気を張るべきはもう一方の存在だ。仕送りも一度たりとも使ったことは無い。物はそもそも送られてこないし、金は手を付けずに残っている。
唯、興味が完全に消え去ったのは龍神より後継者は三人いると聞いた時だとハッキリしている。というか、ほぼ自覚は無かったが、今現在どうにも関心を抱けない事から自覚した。
「それで、その......」
酷く言い辛そうにしながら視線を彷徨わせる龍谷。その動きを見たまま言い出すまで放置すること数分。
意を決したとばかりに表情を引き締めた龍谷は鋭く水落を見つめ、ようやくその口を動かした。
「その後継者の名前が神影......神影天音って言うんだけど......」
「神影天音」
龍谷の言葉を反芻してみるが、『誰だ』、という感想以外出てこない。いや、恐らく継承者である事から、神影家とは何らかの血の繋がりがある親戚筋の家から養子としたと考える事は出来る。特別後継者への適性が高かった......とか。
「......知らないか? まあ、苗字が同じだったから聞いてみただけなんだけどな。ごめん、変な事聞いた」
「いや、いい。それより、明日その後継者と会うのなら俺も同行させてほしい」
あの二人に興味は無いが、それとこれとは別の話。むしろ、興味が湧いた。
水落の言葉に驚いたような龍谷。後方で所在無さ気にしていた戦も反応した。
「えっ、と......こっちからお願いしたい程だけど、いいのか?」
「ああ、頼む」
「それじゃあ、こっちこそよろしく」
ふと、水落の〈マップ〉に十を軽く超える『邪闇の使徒』が発生した。
「っ! おい龍谷! 使徒だ!」
「――多いっ。急ぐぞイクサ! ごめんミラ! また後で!」
一泊遅れて戦が気付き、龍谷は戦に知らされてから気付いた。慌てた様子で屋上から去っていく二人の後姿を眺めて、〈マップ〉へ視線を移す。
新たに出現してはいないが、それぞれが離れた地点にいる為、いくら龍谷と戦に他分承者がいるとはいえ、人手が足りないだろう。
水落は溜息を一つ吐いて立ち上がった。
――――――――――
〈マップ〉を見ると、残り一体。ヴィテスの速度を上げ、さっさと向かう。
相変わらず物理法則に喧嘩を売っている機動で移動し、それ程時間を置かずに轢き殺した。
「え? み、神影さん......?」
ヴィテスを停め、黒い靄となって消えて行く様を眺めていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
水落は〈マップ〉で誰かが来る事は分かっていた為に驚かなかったが、向こう――戦の妹である叢華は違った様だ。
「えと、使徒は......倒したんですか......?」
「ああ」
「そう、なんですか......」
目を丸くしたまま呆然としている叢華だが、その格好は制服のままであり、学生鞄を持っている。恐らく早退として学校を出てきたのだろう。水落も同じだ。但し私服姿だが。
「今のヤツで最後か」
「あ、はい。もういないと思います。兄さんほど感知範囲が広くないので自信はないですけど」
「そうか」
水落の〈索敵〉と〈マップ〉を併せた以上の感知範囲を持つ可能性を考慮して聞いてみたが、戦よりも感知範囲が狭いらしい事が判明した。という事は水落の方が感知範囲が広い。
「......あ、あのっ」
使徒は残っていない為帰ろうとすると、どこか戸惑いがちな様子の叢華に声を掛けられた。振り返り、い瞬だけ目が合うと、叢華は顔を伏せる。
「その、この間の件なんですけど......いい、ですか?」
顔を伏せている為上目遣いにチラチラと、そしてどこか落ち着かなさそうにモジモジとしている叢華が聞いているのは、先日の『頼み』だ。
簡単に纏めると、稽古をつけて欲しいという事だ。龍谷、戦に続いて三人目だが、何故水落なのか。周囲には虎神やら龍神やら教えを乞うにはピッタリの人材がいるというのに。
とはいえ、聞かれたのなら考えるのが水落だ。前に『考えておく』と言ったので、伝える必要があるだろう。その為に、水落はヴィテスから降りて叢華の前に立った。
「顔を上げろ」
「は、はいっ」
顔を上げさせ、真っ直ぐに水落を見つめるその眼を、覗き込むイメージで目を合わせる。そして、考えた結果を伝える。
「――お前が折れるまで、付き合ってやる」




