GAME18 邪闇の眷属
投稿遅れて申し訳ありません。
メレが出て来たお陰か《CR》の可能性がかなり広がり、更にはかなり面倒な存在も認識した翌日。
何時も通り仮面を被ったまま校舎の屋上で、《CR》をプレイしていた。その佇まいだけは変化が無いが、《CR》で行っている『クエスト』の難易度だけがドンドンと上がっている。
今は午後の為、かなり時間を使ってプレイしていた事になる。それこそ夜の間に出来る量と同じ程にはプレイしていた。休憩といえる休憩は龍谷が来た時のみで、それ以外はブッ通しでプレイし続けていた。
ゲーム廃人並のプレイで進めた超高難易度『クエスト』はその殆どが完了されており、残るは数個。全て『従者』関連のモノである。
意図的に残しておいた『クエスト』はそれぞれ――
――『魔界の主』
――『双天の帝』
――『剣にして楯』
――『強者を求む凶者』
と言う。どれ程の強さか。今ならば分かるが、『歌姫の奇跡』はバフ強化と支援を主とした戦闘方法を用いるメレだからこそ力押し出来たのだ。
事前情報など無いに等しいが、水落が、いや、『エニグマ』が勝てない理由にはならないのだ。更に言えば、この四つの『クエスト』をクリアすればステータス限界値を突破できると水落の勘が告げている。ならばこそ、やる気も溢れ出る。
「だが、まあ」
その前に学校が終わる。この四つの『クエスト』は夜にでもやる事にして、教室へ向かう。その途中に通り過ぎる他のクラスからよく視線を向けられるが、何時もの事なので気にしない。
教室に入ると、全員が立っていた。タイミング良く来る事が出来た様だ。教室内の者達もこの時間に水落が来る事に慣れたのか、普通に挨拶して帰り始めた。
一部を除き全員が、水落を避ける様に動いているが。
自分の席に置いてあった鞄を取ると、その一部である所の龍谷が近付いて来た。と言うか、席が隣なので普通に話しかけてきた。
「ミラ、一緒に帰らないか? 相談したい事もあるし」
「ああ、分かった」
龍谷と帰る時は遠回りが基本であり、『邪闇の使徒』を見つけたらその場所に向かう事もある。場所によっては水落と龍谷で別れなければならない事も良くある。
と、二人は肩を並べて教室を出て、そのまま遠回りな帰路に就く。他愛ない会話をしながらある程度歩いた所で、人が疎らになって来た。
「ミラ、相談って言うかお願いしたい事が――」
「待て龍谷。気を引き締めろ。何か来るかもしれない」
龍谷が今回一緒に帰らないかと誘った原因であり、本題を話そうとすると、普段より幾分鋭い水落の声に止められた。
直ぐ様警戒態勢に入った龍谷を横目に、水落もSKILLを使って周囲を確かめながら視線を周囲へ動かす。今回ばかりは勘と〈危機感知〉が事前に働いたに過ぎない。
だが、こと自分の鋭い勘とSKILLに関しては、現状何よりも最大限使える武器なのだ。自分の事は先ず真っ先に理解した故に、絶対的な信頼が置ける。
油断も慢心も無く、しかしその練度は世界に存在し得る達人級へ見せかけながら警戒して、視つけた。その眼に視えたのは、水落達の正面の空間が歪んだ瞬間、一人の男が現れた事。
「なっ! 『邪闇の使徒』っ!」
「......今までとは、格が違うだろうな」
水落と龍谷の言葉を聞いて、男は小さく笑い声を漏らして、こう告げた。
「『邪闇の使徒』等と間違えられるとは、この上ない屈辱ですね。ワタシは『邪闇の眷属』。『使徒』風情とは比べ物にはならない事を、教えて差し上げましょう」
『邪闇の眷属』と、そう己の事を称した男はその姿を異形のモノへと変えた。熊の様な四肢にゴリラの様な肉体、そして狼の様な顔を持った、正しく異形の姿。
その異形が、飛び出した。先ず真っ先に龍谷へと向かったのは、水落程度ならば放置していても問題ないと判断した為だろう。
水落も今は龍谷が居る為、その動きは精々が達人程度。相手を殺せない程ではないが、それでも異形との力差が大きい為、水落の異常性が一発で露見するだろう。
まあ、『守護神』は兎も角龍谷は水落の底を見たいようだが、生憎とそんな事をしてやるつもりは無い。
なので、異形が水落の事を意識にすら入れていない事を好都合と捉え、さっさと二人から離れる。
――ガァンッ!
「くっ......だけどこれしきっ!」
速度と質量を持った異形の拳を、両腕を交差させる事で防いだ龍谷。数センチ後方へ押されたが、龍谷とて『継承者』としての力がある。
一瞬で体勢を立て直すと、右腕からその拳を放つ。異形の方はその拳をとりカウンターでも決めるつもりだったのだろう。ニヤリと、狼の貌で笑みを浮かべていた。だが、次の瞬間には腹に走った衝撃と共に驚愕へと表情が変わり、僅かに後退した。
フェイントだ。殴ると見せかけ、龍谷は異形の腹に蹴りを放ったのだ。だが相手の体はゴリラの様に分厚い筋肉で覆われている。その程度の蹴りは効かないだろう。
実際、異形の方は全くダメージが無く、ピンピンしていた。そして鋭い牙の並んだ口から、人型の時よりも低くなった声が響いて来た。
「ワタシを相手に能力を使いませんか。フフフフ、舐めていますねぇ。実に不愉快です。その余裕と油断が、命取りと成る事でしょう」
「――ぁッ!」
異形が言い終わると同時、龍谷の懐へと高速で踏み込み、その腹部へ強烈な拳が突き刺さった。咄嗟に防御した様だが、即席の防御では防ぎ切れずに、声にならない苦悶の声を上げ痛烈な打撃音を響かせて水落の居る後方へと吹き飛んだ。
「はぁ......」
あまり手を出したくなかったが、仕方ないだろう。吹き飛んでくる龍谷へタイミングを合わせてその体に触れ、更に後ろへと吹き飛ばない様にその場で回転して勢いを殺す。受け流しの技術を応用した技だ。〈パリィ〉を使っても良かったかもしれない。
口の端から血を流す龍谷を支えながら、手短に告げる。あの異形の前で長々と話している暇など無い。いや、油断と慢心が生まれている為案外大丈夫かもしれないが。
「おいリューヤ。お前は何を怖がっている? 俺から化物だと思われて拒絶されるのが怖くなったのか? だとしたら心外だ。俺は言ったはずだぞ。俺はお前を拒絶しないと。さっさと動け、力を使え。『守護神』も居るんだろ? ならばお前があんな異形に負ける道理が無い」
そこで一旦言葉を切り、見上げている龍谷の視線を感じながら一片たりとて異形から目を逸らさない。一度息を吸って、宣言する。
「もしここで恐怖に怯えるならば、俺はお前を拒絶する。そしてあの『邪闇の眷属』は俺が殺す」
冷徹な意思を宿してそう宣言した水落に何を感じたのか。龍谷は一度大きく深呼吸すると水落から離れ、前へ出る。
「悪い、ミラ。格好悪い所見せた。あいつは俺が倒す」
背にした水落へ対して言われた言葉に内心で苦笑する。格好悪いも何も、それだけ演技が出来るなら十分過ぎるような気もする。
水落は『殺す』と言い、龍谷は『倒す』と言った事にある互いの意識の違いについては目を瞑り、軽く笑みを浮かべながら言ってやる。
「悪いと思うなら俺に格好良いと思わせてみろ、リューヤ」
分かり易い挑発と期待を乗せた言葉に、龍谷はしっかりと頷いて、白い光を纏いながら駆け出した。
光を両腕に凝縮させ、より強烈な光を放つ。その様子を見て、異形は血相を変えた。
「なっ! これは予想外ですね! ワタシはここで引かせ――ッ!」
逃げようとした異形へ対して、ピンポイントで〈威圧〉を使う。瞬間、身体が硬直して完全に動きが止まる。
〈威圧〉の加減をミスった所為で、いや、この場合は異形の威圧に対する耐性を見誤ったと言うべきか。異形が硬直したのはほんの一瞬。だが、一瞬もあれば充分だったようだ。
「クソッ!!」
「ハアァァアァ!!」
悪態を吐く異形の前で、龍谷は左腕の光を右腕に宿し、より大きく強くなった光を纏った右腕の手を開き、下方から抉るように腕を振り上げた。
腕から指先へと集った光は軌跡を作り、刃と成る。それは正しく五本の爪。光の爪は異形を切り裂き、黒い煙へと成る前に完全に消滅させた。
かなりの威力を秘めているだろう光の爪が周囲へと被害を出す前に、虚空へ溶けるように消えた。恐らく龍谷の意思によって消したのだろう。でなければこんな場所で使う筈も無い。
元々射程距離が短いという可能性もあるが、それだとかなり使い難い能力となってしまう。モーションは派手で威力は高いが、射程距離が短い。そんな使い勝手が悪く隙だらけの攻撃があれば使わないか切り札に取って置く方が良い。
正面から戻って来る龍谷を見て、一旦考察を中断し、表面上は警戒を解いてから近付いた龍谷へ声を掛ける。
「流石だな、リューヤ」
「ありがとう。だけど、良く俺が怖がってたって言うか、迷ってた事に気付いたな。バレてないと思ったんだけど」
「そう言うのは見ていれば分かる」
その辺りは目の動きを見れば分かるし、細かい挙動を観察した後今までの動きと照合し、不自然な部分を割り出した後に最も確率の高い原因を選んだ。そんな面倒な事、というか並の人じゃできない事を平然とやってのけ、更には見ていれば分かると言った。
確かに間違っていない上、見れば勘が働く為に分かるのだが、簡潔に纏め過ぎている。だが、水落自身説明する気は皆無なのでこれ以上は何も言わない。
と、そこまで考えて思い出した。
「そう言えば、俺に何か頼みたい事があると言っていなかったか?」
「ん......ああ。それなんだけどさ、実は......」
何故か言い辛そうに視線を彷徨わせ、口をもごもごとさせている。少し待っていると、意を決した様に口を開いた。
「その、俺に宿っている『守護神』曰く、戦闘技術に関しては俺よりミラの方が高いって言っていたんだ。だから、迷惑じゃ無ければ、だけど。その、稽古とかつけてくれないか? 無理にとは言わないけど......」
不安そうに見る龍谷を見たまま、取り敢えず考えている風を装って心の内で罵詈雑言を羅列する。当然対象は龍谷の『守護神』だ。罵詈雑言を羅列するよりも普通に本気で殴りたいが、その衝動を抑えて一つ溜息を吐く。
「......まあいいか。稽古ならつけてやる。と言っても、場所が無いがな」
「いいのか? 場所なら俺に家に来ればいいけど......正直に言うとミラは強いとは思うけど、俺より強いって言うのは――」
「嘘だと思うか? 技術ならお前より上だと思うぞ。稽古の時にでも驚いておけ」
煽り耐性が低いのか、それだけで少しムッとした龍谷を見ながら思う。
(あの『守護神』。次に会った時は殴らせてもらう)
隠す気は余り無かったとはいえ、勝手にバラされるのは少し不愉快だ。まあ、水落の本当の実力は分かっていない様なので、一先ずは良しとしておく。
「稽古はいつなら大丈夫だ?」
「お前の都合の付く日でいいぞ」
「なら......明日。明日でいいか?」
「学校が終わった後か。平気だぞ」
「なら決まりだな」
適当な時間を決めると、早速明日と来た。別に普段から家に居ても家事と《CR》と、時々掃除に稀に買い物をしているだけなので、基本的に時間ならある為問題は無いのだが、積極的だ。
心なしか目がキラキラと輝いているが、戦闘狂の気があるのかと疑ってしまう。いや、龍谷の性別を考えると......止めておこう。性別は〈マップ〉を使えば一瞬で判るとは、かなり酷い仕打ちである。
「そう言えば、ミラは俺に会う前に『邪闇の使徒』とかさっきの『邪闇の眷属』に会った事があるのか?」
歩き出して暫くした頃、唐突に龍谷が聞いて来た。
「何故だ?」
「いや、俺と一緒に居た時に初めて会ったとしたら、意外な程冷静だったから思ったんだ」
会った事あるも何も、龍谷と出会う前に一人出会っている。と言うか焼き尽くしたが......
(......いや、違う。『邪闇の眷属』と似た様な雰囲気の奴が、いや、だとすれば......)
昔、煌空が死んだと言われて数日程経った時だったか。何もかも分からなくなって街を歩いたり部屋に籠ったりしていた時だ。
その時は外に居た。そうしたら急によく分からない男が近付いてきて――
(......今思い返せば、さっきの奴より遥かに強い力を放っていた......か? どちらにしろ『邪闇の使徒』や『眷属』と似通った雰囲気を持っていた......)
――何もかもが分からなくなっていた時に、決定的にあの頃の水落を崩壊させた原因となる言葉を言った。
(『貴方の妹、神影煌空は――』)
「――ラ......ミラ!」
「ッ」
ハッとしていつの間にか下がっていた視線を上げると、心配した龍谷の顔が先ず視界に入った。目だけで周囲を確認すれば、もう既に龍谷と別れる場所まで来ていた様だ。
「悪い。なんだ?」
「い、いや。大丈夫なのか? さっきから名前を呼んでも返事をしなかったし、ずっと下を向いて何か考えていただろ?」
「......いや、何でも無い。大丈夫だ。心配させたか」
「本当に大丈夫なのか?」
「ああ、問題無い」
思考に没頭して、周りが見えていなかった様だ。心配そうな龍谷を躱して、道を別れる。
「明日な」
「......ああ、また明日」
思考に没頭したのは失敗だったかもしれない。
微妙な疑惑を宿した龍谷の視線を背中に感じて、そう思ってしまった。
――――――――――
夜も更けた頃。帰路での考えが頭から離れず、ベッドに横になったまま《CR》もせずに考えていた。電気の点いていない真っ暗な部屋の中で、虚空を睨むようにして見ながら賢慮の値によって上がった思考能力で考える。
もしも、もしもあの両親の嘘が一つじゃなかったとしたら、いや。大きな嘘があったとしたら......
そんな事を延々と考え続けていると、玄関の方からノックする音が聞こえた。有り得ない聴力で聞き取った音に反応して、〈マップ〉で確かめる。
確認してから部屋を出て、玄関へと向かいドアを開ける。
「やはり起きていたか」
「......何の用だ、リューヤの『守護神』」
帰路で抱いていた怒りは湧かず、何時も通りの声音で問う。
「伝えたい事と、問いたい事があってな」
「分かった。入れ」
『守護神』を家に入れ、リビングへ行き電気を点ける。『守護神』の方を先に座らせ、自分の分と『守護神』の分の水を用意して水落も座った。因みに、この家にお茶等は置いていない。
「こんな時間にすまぬ」
「いや、いい。それより俺に伝えたい事聞きたい事はなんだ?」
相変わらず律儀な『守護神』を流し、本題の方を水落から聞く。二人の遣り取りは何時もこんな感じだ。
唯、違うのはその空気。『守護神』から発せられる空気は重い程真面目であり、目も表情も真剣そのもの。水落と目を合わせ、口を開いた。
「水落殿、お主は何者かについては聞かぬ。だが、過去に『邪闇の使徒』や『眷属』と何かあったならば、教えてはくれぬか? 夕方の態度で、少し気になってしまってな」
「それだけ聞くと、まるでデリカシーの無い輩だな」
軽く冗談を言うが、『守護神』は何も返さない。恐らく少し気になったと言うのは表面だけで、実は察しているのかもしれない。だが、そこで本当の事を言うつもりは無い。
「俺の知る範囲では何もなかったぞ」
「真か?」
「ああ」
暫く探る様に『守護神』が目を見て来たが、別に嘘を言っていないので、何か言われても押し通せる。少しして、見透かす様に水落の目を見ていた『守護神』は、溜息を一つ吐いて水落から目を逸らした。
「どうやら真であるようだな。では何故あの時あの態度を取ったのか、聞いても答えてはくれぬだろう?」
「少し気になったことがあっただけだ。予想以上に思考に没頭していた様だが、気にする必要は無い」
「お主相手はやり辛い」
『守護神』は言いながら水を飲んだ。気分を変える為だろう。飲み終えて、『守護神』は再び口を開いた。
「では、伝えたい事を伝えておこう」
目だけで先を促す水落を見て、浅く頷いた後に言った。
「『守護神』と『継承者』は、ワレと主殿だけではない」




