GAME15 バレた秘密
「あ? なんだソイツ。神の気配が微塵も感じられねぇ。『継承者』でも『分承者』でもねぇ雑魚野郎じゃねぇか」
「......雑魚は雑魚なりに使い道がある」
「お前等の相手は俺だ! ミラには一切手を出させない!」
中々にシリアスな雰囲気だが、水落からするとアニメか何かを見ている感覚だ。現実感が無いと言うより、三下臭の漂う二人の『邪闇の使徒』と、二人より確実に格が上である龍谷の所為だろう。
そんな事より、『分承者』と言うものについてだが、『分承者』とは『継承者』と違って直接『守護神』を宿している訳ではないものの、その『守護神』の『加護』を宿すことで『継承者』と同じように特殊な力を操る者の事だ。無論、『継承者』には確実に劣るが。
他にも細かい情報を脳内でリスト化していると、更に状況は進みチンピラ風の『邪闇の使徒』が龍谷に殴り掛かっていた。
「オラァ!」
「効かないぞっ」
「......魂の回収、完了」
チンピラ風の『邪闇の使徒』の拳撃を防いだ龍谷だが、その後ろから高速で現れた無口系の『邪闇の使徒』が龍谷を素通りして水落へ向かって来る。当然防ごうとしたようだが、体が動いていなかった。
どうやらチンピラ風の奴は力特化の様で、龍谷すらも僅かに痺れさせる程の力を持っており、無口系の奴は速度特化の様で、龍谷の隙を突ける程早く動けるようだ。
そんな風に冷静に分析しながら心臓目掛けて繰り出される抜き手を眺め、開いていた右手で、同じく右手で繰り出された抜き手を掴み、捻り上げ、関節を極めた。
「速いだけなら対処は可能だ」
――ゴキィッ
「っ! グッ!」
そのまま有り得ない方向に捻りながら関節を外すと同時に、無口系の奴を地面に倒し外した関節に踵落としを決めた。
関節が外れて脆くなった部分に加えられた攻撃のお陰で、その関節は砕けた。
ここまでの事は全て一瞬だった。動きの速度や威力は一般人の域を出なかったが、それでも〈体術〉や〈格闘術〉等のお陰で研ぎ澄まされた動きは正に神速と言っても過言ではないだろう程。
チンピラ風の奴と龍谷が水落を見て硬直し、倒れ伏している無口系の奴が呻き声を上げながら更に水落に関節を極められていると、水落の鋭い視線が龍谷に向いた。
「ハッ!」
「グボォア!」
守護神と水落の合図が同時だったからか、瞬時に意図を理解した龍谷はチンピラ風の奴に掌底を打ち込み、黒い煙へと成した。
「......異常。雑魚は雑魚であるべき」
「黙れ」
同時に関節を極められたままそんな事を言った無口系の奴に、拘束を解いて直ぐ綺麗な踵落としをその項に決めた水落。
ゴキィと生々しい音が鳴り、次いで黒い煙となって消失した。
割と容赦の無い行為だったが、水落は気にしていなかった。どちらかと言うと龍谷の方が動揺しているレベルだ。
因みに、水落が使ったのは合気の技に属するモノだ。踵落としは別なのは当然として、何故水落がこんな技が使えるのかは、追求しない方が吉である。
「ミラ。今のは......?」
「聞きたい事は分かっている。オレの家に来い。そこでお互いに少し話そうか」
「ああ、分かった」
水落は基本的な事は知っているが、龍谷は知らないので、主に龍谷へ情報を与える為に行くのだ。水落としては守護神の方にも出て来てもらうつもりだ。
微妙な空気のまま、水落は龍谷を先導し、無言のまま家へ向かった。
――――――――――
家に龍谷を連れて来て、龍谷の説明が終わった頃には外が夜闇に包まれていた。季節と天候の影響でかなり早い。
が、それでも長時間話を聞いていた。家に来たのが丁度十二時頃と考えると分かるだろう。知っていた話だったが、《UT》のイベントに比べると短い話だったので飽きる事はなかった。
話し終わる頃には随分と暗くなっていた龍谷だが、今は周囲の空気すら重くさせる程となっている。水落から罵倒でもされると思っているのだろうか。又は怪物でも見るような目をしていると考えているのだろうか。それを言ったら水落の方が化け物なのだが。
(お前の所為で死ぬかもしれないんだぞ! とか、言いそうな奴居たな......)
というか実際言ってたなと思い出しつつ、暗い龍谷を放置して立ち上がり、冷蔵庫の前まで移動して食材を取り出す。
「ぁ......ミ、ミラ......?」
「何か食いたい物はあるか? あるなら作ってやるが」
水落の唐突な行動に呆気に取られている龍谷にそんな事を言うが、しっかり返答されるとは思っていない。
予想通りと言えばその通りに、水落の問いには疑問で以て返された。
「お、俺の事、なんとも思わないのか......?」
弱々しい声音で呟かれた問いは、期待の感情が滲んでおり、『別になんとも思ってないよ』等といった答えを望んでいるのは丸分かりである。だが、水落がそんな事を言う筈がなく、まるでなんでもない事の様に言った。
「なんとも思わない筈ないだろ?」
「そ、うだよな――」
「純粋に格好良いと思うぞ」
「え?」
龍谷がより暗くなりそうだったところを、水落の予想外な一言が止めた。目を丸くし、水落の事を見つめて動かない。
龍谷に目を合わせながら、仮面を外し雰囲気を変えて口を開く。
「世界を守る為に『邪闇の使徒』と命を懸けて戦っている。そんな奴に恐怖や畏怖でも向けると思ったのか? 俺は随分と信頼が無いみたいだな」
「そんな訳じゃなくて――」
「分かってる。人は自分とは違うってだけで排除しようとする事もあるからな。だけど、自分を隠して一般的な生活をし、裏では命懸けで世界を守っている。こんな事を見せられて、聞かされて、尚拒絶出来る程俺は落ちてない」
「ミラ......」
「お前の努力は素直に尊敬できる。お前を認める事も出来る。お前の言った事の全てを理解出来るとは言えないし、言うつもりもない。簡単にそんな事を言ったら侮辱となるからな。リューヤ、俺はお前を拒絶しない。だから――」
そこで一旦言葉を切り、龍谷へしっかりと目を合わせる。驚愕したまま硬直している龍谷へと笑い掛け、続く言葉を言う。
「何か困ったら俺に言ってくれ。お前の家族や守護神なんかには及ばなくても、相談者になってやる。力になれる事があるなら力になってやる。安心しろ、リューヤ。俺はお前の事を拒絶しない」
そんな事をツラツラと語る水落だが、これが完全に本音かと問われれば首を傾げざるを得ない。
そもそも水落は熱血タイプでも『主人公』でもない。こんな事を素面で言える様な人間ではない。だから、水落の台詞は六割方受け売りである。誰の受け売りかは聞いてはいけない。
それは兎も角、水落の言葉を受けて感動しているかの様な表情をしていた龍谷は、水落から顔を背けて目を拭っている。
そんな龍谷を見ながら、水落は唯々何故こんな事を言ったのか考えていた。
――――――――――
夜も更けた頃、水落は家を出て、あの巨大モールの屋上にいた。監視カメラ等の防犯機器が無い場所が屋上いあったので、割と問題無い。
何故こんな場所に居るのかは、〈マップ〉と〈索敵〉に表示された水落の方に向かって来る青色のアイコンが答えだ。
高速で移動して来た青色のアイコンは、時間を掛けずに水落の前に現れた。
「すまぬ。待たせたか?」
「いや。大丈夫だ」
現れたのは水落よりも背の高い二十代前半程の男だ。
身長は百八十センチ程で線の細い体。自ら光を放っていそうな金髪は男の腰まであり、風に揺られている。顔立ちは整っていて、切れ長の目に金色の瞳。彫りは深く目鼻立ちはしっかりとした北欧系のイケメンだ。肌も白く、クール系の女性でも通りそうなレベルだ。
この男が誰なのか。その答えは割りと簡単である。
「礼を言うぞ、水落殿」
「守護神は神なんだろ? そう簡単に頭を下げようとするな」
「誠意を示すのに最も分かり易い形であろう?」
「それとこれとは話が別だぞ」
この男は龍谷の守護神が表に出て来て人化した者である。冗談を言い合える程に仲が良いのは、龍谷の目を盗んで話していたからである。
「それより水落殿。口調が変わっておるが、それが本来の口調なのか?」
「ああ。お前達と俺の仲が良くなった証とでも解釈しておいてくれ」
脈絡のない会話。水落は兎も角、守護神の方には何か言いたい事があるのだろう。その機会を窺っている様な気配がある。
「聞きたい事があるなら素直に聞いていいぞ?」
「......気を遣わせてしまったか。すまぬ。では聞くが、水落殿。お主は――」
そこで一旦区切った守護神は水落の目を見た。水落は少し笑って先を促す。
「――何者だ?」
「俺が何者......ね。少し前なら絶対に答えられなかった質問だな」
守護神の言葉を復唱して、闇の空を見上げる。
「強いて言うなら」
「む?」
そのままポケットから《CR》を取りだして翳す様に持ち上げた。出来るだけシリアスな雰囲気にならない様に心掛けているが、こんな事をしていたら意味がないだろうなと思い直す。が、今更止めると格好が付かない。
「俺は『ゲーマー』だよ。この『現実』を『生き足掻く』唯の『ゲーマー』だよ」
「......」
「こんな話より他の話をしよう。詰まらないからな」
水落の答えに納得のいってなさそうな表情をしている守護神をスルーして、他の話をしようと促す。
その時、僅かに発光した《CR》を隠す様にポケットへと入れる。
いつも通り、水落の一日はまだまだ長い。




