GAME13 学校で
昼休みに近付くに連れて段々と降る雨は激しさを増し、昼休みになる頃には不自然な程強く激しい雨となった。
流石に台風並みの雨の中でゲームをするつもりは無いので、さっさと校舎の中に入った。同時に〈水霊の指輪〉を『送還』する。
一瞬にしてスマホ型に変わった《CR》をポケットに仕舞い、どうしようかと思い悩む。
水落が視ているのは〈マップ〉と〈索敵〉によって表示された、四つの紫色のアイコンだ。この学校を正四角形の位置取りで囲んでいる。
紫色のアイコンは『邪闇の使徒』の表示であることが分かっている上、半径百メートル以内に居た為タップすることが出来、性別として女二人男二人の四人構成である事が分かる。
今の所何もしていないが、この四人が現れてから雨が強くなったので、そろそろ何かするだろうと踏んでいる。何かしても龍谷が止めるだろうが。
では何に悩んでいるのかと言うと、真面目に龍谷の戦闘方法が見たいのだ。水落の力をバラすつもりは毛頭無いので、烏か鴉にでも《超獣化》してから見るか、又は猫か猫又か化け猫に《超獣化》してから見るか、取り敢えずこの辺に居ても不思議ではない獣になって見るか、〈忍足〉、〈隠密〉、〈隠形〉を使った隠密行動で見るか、その選択で迷っている。
どうでもいいと言われればその通りなのだが、龍谷の身体能力を見る事で、水落自身の身体能力がどれほどなのか知る事が出来ると考えると、やはり戦闘は見たくなる。
まあ尤も、水落は自分のSKILLを使用しない際の全力を、今一把握していないが。全力を試せる場所が無く、その辺でやると確実にヤバいと感じるからだ。
そんな事をツラツラと考えながら、教室に置いて来た鞄に入れてある弁当を取りに電気の点いている廊下を歩く。
因みに、水落は最初の頃は弁当など持ってきてはいなかった。だが、予想以上に購買がまず、元い、口に合わなかった為に弁当を作って持ってくる事にしたのだ。
〈収納〉に入っている食料系アイテムでも良かったが、試しに食べてみた所意識が飛ぶ程(誇張無しの字義通り)美味かった事に加え、ゲーム内で食材となるアイテムを集めるのは中々に大変なので(主にお金集めが)、考えただけで実行には移せなかった。
それは兎も角、教室まで後少しの場所、即ち水落の教室の一つ前の教室の場所で、違和感を感じた。
ステータスが上昇した事で、何故かつられる様に上昇した五感で捕らえた違和感は臭い。言葉で表せない程僅かな変化だが、感覚からして、恐らくは〈霊感知〉のお陰で嗅ぎ分ける事の出来た臭いだ。
臭いを認識した次の瞬間、教室内に居た人の全員が倒れた。〈マップ〉と〈索敵〉からは死んでいない事が分かった。つまりは気絶だ。そして、時を同じくして紫色のアイコンが校庭の方に集まる。
「神影!」
龍谷が教室から焦った様に飛び出し、水落を見つけて声を掛けながら駆け寄ってきた。何か言われる前に、警戒している風に装って龍谷へ声を掛ける。
「龍宿か。これはどうなっているんだ?」
「......いや、悪いけど俺にも分からない......」
「そうか......龍宿。オレは他のクラスを確認してくる。オマエは他学年を見てきてくれ」
「......分かった。何が起こってるか分からないんだ。気を付けろよ、神影」
「分かっている」
そんな遣り取りをして、二手に分かれて移動する。龍谷の言葉に間があった事から、守護神の方が何か言ってくれたのだろう。
水落から見えなくなった時に龍谷が校庭に向かって走り出したのを〈マップ〉で捉えながら、〈忍足〉、〈隠密〉、〈隠形〉を発動させ、傍にある窓から外へ飛び出す。
〈飛行〉を発動させ、窓を閉める。そして直ぐに《超獣化》を発動させる。
結局、選んだのは烏だ。黒い艶のある毛並みに黒い目。一般的な烏より体が一回り大きく、爪も鋭いが、この雨の中では判別できないだろう。
窓に映った烏の自分を見て、直ぐに校庭へ向けて飛翔する。こういう時ですら作用する〈制御〉は最早本来の効果を忘れてしまいそうだ。現実に限って言えば万能すぎる。
因みに、服やその他諸々は消えているわけではないので、《超獣化》を解いた瞬間素っ裸という自体にはならない。毎度の如く原理は不明だ。
校庭の上空から、異常な視力と〈心眼〉を用いて龍谷と『邪闇の使途』を眺める。この烏は元々『烏天狗』という天狗系種族の『獣化』SKILLなので、滞空飛行をするぐらい訳無いのだ。
バレない様にしながら龍谷の戦闘を具に観察した結果、龍谷はオールラウンダーだという事が分かった。近接戦闘が得意な様だが、敵が離れれば真空の刃や炎等を飛ばし、傷付けば癒しの光で回復する。
四対一だったからなのか、学校の校庭を破壊したくない為に手を抜いていたのか分からないが、戦闘には一時間を要していた。
どうでもいいが、水落としては戦闘が長引いた理由は後者だと思っている。誰にも知られたくないのは分かるのだが、これでは何時か死ぬのではないだろうか。もう少し体を巧く使えば戦闘時間を短縮出来る様な気もする。
何時かのタイムアタック制の孤軍奮闘戦を思い出しながら、怪しまれない為にもさっと校舎内に戻り、SKILLを解除しながら屋上へ向かう。
屋上へ繋がる扉の前まで来て、〈マップ〉を確認する。この場所まで来る途中で弁当を取った時には皆仲良く気絶していたが、今は目が覚めて困惑している様だ。
まあ当然だろう。気が付いた時には昼休みが終わり、五限すらも終了に近付いているのだ。以降の授業が中止になっても不思議ではない。
そんな事は学校側が会議でもして決める筈なので、気にせずに置いてあるベンチに座る。
この場所はフロアになっていて、小さめだが窓もある為休憩所的な使い方ができる。尤も、屋上に出た方がいい事に変わりないが。今は雨が降っているので仕方なくこの場所に居る。
丁度スマホ型の《CR》を取り出した時、龍谷が階段を駆け上がってきた。髪や服は自分で乾かしたのか、濡れた形跡は一切ない。
「ここに居たのか」
「ああ。皆目が覚めたようだからな」
さも探し回っていた様な口振りだが、実際は校舎に入って一直線にこの場所へ向かって来ていた事は、〈マップ〉によって知っている。龍谷の行動は筒抜けなのだ。
そんな事は兎も角、水落は龍谷に座るよう促す。龍谷もそのつもりだったらしく、水落から少し離れて座った。
「それで、オレ達以外に起きているヤツは居たか?」
「いや、居なかった。職員も生徒も関係なく気を失ってた」
「原因は分からないのか」
「......ああ。集団で気絶するなんて、どんな原因があったか予測もつかない。それに、俺達だけが起きていたのもな」
お互いに騙し合っている様な形だが、龍谷に関しては全く無意味な努力だ。
暫く話し合い、一段落着いた時に龍谷が水落の持っている弁当の存在に気付いた。
「それ、お前の弁当か?」
「ああ。量は無いからな。今食おうと思っていた。欲しいならやるぞ? オレは食わなくても平気だからな」
「いや、そういう訳にはいかないだろ」
龍谷の返事を聞きながら、小さな弁当の蓋を開ける。そこに入っていたのは四つのサンドウィッチだ。卵が一つ、野菜が二つ、カツが一つ。水落の言った通りそこまでの量は無い。
「食うか?」
「......う、いや......くれ」
冷めていても尚漂ってくる匂いに惹かれて、抵抗できずに即堕ちた龍谷に対し、弁当箱を差し出して好きな物を取れと促す。因みに、味についても保証できる。ゼロから十の十一段階評価なら普通に十を取れるレベルはある。
「じゃあ、これを......頂きます」
「ああ」
卵のサンドウィッチを手に取り、一口齧る。その瞬間、その姿勢のまま硬直した。
目を見開いたまま硬直している龍谷を横目に、残りのサンドウィッチを口に放り込みながら、水落は自分の身体能力について考える。
〈制御〉で並列思考を行いつつ、その後は再起動した龍谷と話して、下校となった学校から二人で肩を並べて帰った。その時には、雨の勢いは弱まっていた。




