GAME11 家で
学校の帰り道を龍谷と肩を並べて歩く。曇っている所為か普段より幾分か暗いが、それでも一か月前と比べると明るい。
それは兎も角、何故水落と龍谷が一緒に帰っているかを簡単に説明すると、あの後屋上に来た龍谷が授業に出ると言って、その代わりに帰りながら話さないかと言った事が原因(?)だ。
他愛のない会話をしながら帰り道を歩いて行く。二人の歩く速度は常人より少し速いが、本人達に自覚は無い。むしろ、水落は兎も角龍谷はゆっくり歩いているつもりだ。まあ、つもりなだけで無意識に何時もの速度となっているが。
最初の方は探る様な感じのあった龍谷を相手にしていると、暫くすれば楽し気に話をしていた。何故こうも簡単に警戒が薄れるのか疑問に思ったが、魅力の効果を思い出して納得した。
魅力の効果を具体的に考えながら龍谷と話して歩いていると、分かれ道に来た。水落と龍谷では家の方向が違うので、ここで分かれる事になる。
「また明日な。神影」
「ああ、またな」
そう言って、二人は別々の道を別れて進む。〈索敵〉で龍谷が跡を付けてこない事を確認してから走り出す。
今回は〈忍足〉、〈隠形〉、〈隠密〉を使っているので、普通の人間にならば気付かれないだろう。そう考えて、少しだけSKILLを試す事にした。
先ず試すのは〈空中跳び〉だ。文字通り空中でジャンプする為のもので、lv1の場合だと二段ジャンプだ。現在はlv10なのでゲーム内だと計十一回ジャンプできる。これは現実でも同じ事だ。
地面を割らない様に気を付けながら跳び上がる。〈パワーブースト〉と〈スマッシュ〉は使っていないので、十メートル強だ。因みに、高校の校舎の高さは十四メートル程なので、これでは届かない。唯、本気で、それこそ周囲への被害など考えなければ届く。
約十メートルの高さから街を見下ろしながら、空中を踏み締める。そして、SKILLを使わずに本気で跳び上がった。
跳び上がる事に音は立たなかった。だが風を切る音が聞こえる。それを心地良く思いながら、続けて九回跳躍する。
そして到達したのは地上約二百十メートル。本来、生身の人間が急激にこの高さまで上昇すれば体調を崩すか、下手をすれば死にかねないが、そこはステータスのお陰で問題ない。何かあれば《超獣化》等を使えばいい。
少し慢心が入っている事は自覚しているが、こんな気持ちのいい感覚を味わっていれば仕方のない事だとも思ってしまう。
空は曇っていて暗い事に変わりないが、全くと言っていい程気にならない。
落下を始めた事に気付いて〈飛行〉のSKILLを発動させる。途端、落下が止まり、少々不思議な感覚に捕らわれる。当然と言えば当然だ。人が生身で空中飛行するなど、普通では有り得ない。
だが一瞬でその感覚にも慣れる。この辺りは〈制御〉様様、と言った所だろうか。
この〈飛行〉で飛べる時間は基本的に五分だ。lv1の場合で三十秒。唯、《超獣化》で変化出来る獣には、当然飛行出来るモノも存在するので、ゲーム内だと使用する場面は限られる。
家までは空を飛んで行く。殆ど遊覧飛行の様な感じだ。
五分丸々使用して家へ着いた時には大分満足していた。序でに《UT》をやっていた時を思い出したが、しっかりと丁寧に記憶の宝箱へと仕舞った後、鍵を開けて家へ入る。
家の中は暗いが、多少の光はあるので気にならない。と言っても、電気を点けていないと不自然なので、一応電気を点けておく。とても明るい。
真っ先に冷蔵庫の中身を確認するが、今晩夕食に使える食材が殆どない事には既に気付いていた。いや、これだけでも十分作る事は出来る。唯、統一性は無が。
「......いや、カレーを作ればいいのか」
一転。基本なんにでも合うので、カレーを作る事にした。固形カレールウは日本でも人気の食品会社『上之園』の物があるので、丁度いい。因みに、辛口だ。
夕食の予定は決めたので、一旦自室に戻る。部屋で机の上に鞄を置き、制服を脱いだ後に壁へと掛ける。そしてクローゼットを開け、服を取り出して着る。風呂には入ってないが、その繋ぎだ。
一つ息を吐き、《CR》を持って部屋を出る。廊下を歩いて家の奥へ来ると、上へ昇る階段と下へ降りる階段があり、水落は階段を降りて行く。
今更だが、水落の家は彼が少し前に呟いていた様に広い。敷地の広さは五十坪(約百六十五平方メートル)に達する程広く、更には外見では二階建て。実際は地下まである家だ。この辺りの事情はかなり特殊なモノだが、関係ないだろう。
この家の風呂は地下一階にあり、階の半分程を占領している。造らせた奴は何を考えていたのか知りたくなる事も多々あるが、広くても掃除が大変なだけなので特に困っていない。家が広い為、一カ月に二回は家全体を掃除しているが、コツがある事に加え、水落自身があまり汚さない人な為にその程度の回数で済んでいるとも言える。
風呂場前の脱衣所に来て、電気を点ける。
何故ここに来たのかと言うと、鍋がここにあるからだ。いや、風呂場にある時点で色々オカシイのだが、買ってきた後に色々と処理をしたまま置いてあったのだ。流石に埃が被る程置いてあった訳では無いが、忘れていたのも事実。
兎も角、風呂には直ぐに入るつもりだが、カレーを作る時は存外時間が掛かるものなので電気を消してから上階へと上がる。
そのままリビングへと直行し、キッチンで鍋を軽く洗ってから材料を用意する。手際良く、更にステータスを活かして素早く準備して行く。
包丁捌き等が神業の域に入っているが、見る人間などこの場には居ないので少し虚しい。
少しアレンジが入ったカレー作りは香辛料を使った一から作るものでは無い為、完全に自作した物に比べると味が違うがそれでも美味しい物は美味しいのでいい。
一時間たっぷり使って作ったカレー入りの鍋に蓋をして、一旦自室へ行く。これから風呂に入るつもりなので、その着替えを取りに行く為だ。カレーの方は温めればいいので放置。
着替えを回収して、下階の脱衣所へ行き電気を点けて仕切りを閉めた。
着替えを置き、服を脱ぎ去る。脱衣所も風呂場と同じく広く間取りが取られていて、さながら大衆浴場が如く(言い過ぎ)。
水落自身はこれまで用が無ければ殆ど家を出なかった為に、全く日に焼けていない。だが、体付きはやや細くはあるものの、しっかりとしている。
そのまま横引のスモークガラスのドアを開け風呂場に入り、お湯を出してシャワーを浴びる。風呂場には大きな湯船に壁に埋め込まれた液晶テレビ、鏡等といった物まであるが、水落自身は鏡以外を使用した事は一切ない。
「......《性別転換》と《超獣化》を使うか。場所的に丁度いいだろ」
髪も顔も体も洗い終わった後にそう呟いた。風呂場は比較的広く、又他者の目に付くような場所でも無いからだ。後、服を着ていない事もこの判断に至るまでに一役買っている。
最初に使ったのは《性別転換》だ。使った直後の瞬きで視点が低くなり、一瞬にして女体化していた。鏡の前に来て姿を確かめると、水落は数瞬だけ、思考が止まった。
鏡に映ったのは百六十センチ程の身長に、肩甲骨辺りまである黒髪を持ち、黒曜石の様な綺麗な黒い瞳の収まった若干の垂れ目で、顔の作り、バランス、どれを取っても天使の様、又は人形の様だと称されるだろう美少女。
キメの細かい真っ白な肌には無駄毛が一切無く、華奢な肢体に膨らんだ胸(評価的に美乳)。その幼くも綺麗で美しく、だが幼さに合う可憐さを持ち合わせた顔が、水落にとって覚えのあるものだったのだ。
その記憶にある、水落が《UT》に『逃げた』原因でもある大切な少女。名を――
「煌空......」
神影煌空。それは水落が十歳となる前に不幸な事故で死んだ、水落の妹だ。
今鏡に映っている顔も、記憶にある煌空を水落と同じ歳辺りまで成長させたらこうなるだろうと、そう思わせる。煌空は水落の一つ下なので、これで合って、いるのだろうか。
今なら煌空が死んだ事を受け入れる事が出来るから平気だが、これがニ、三年前なら......自分でもどうしていたかは分からない。だが、今の様に落ち着いている事は出来なかっただろう。
一つ深呼吸して、再び《性別転換》を発動させる。《性別転換》と《並列発動》、《超獣化》のSKILLにはクールタイムが存在しないので、連続発動が出来る。
その後は《超獣化》で色々試した後に軽く掃除し、風呂を出てからカレーを温め直してから食べ(完食)、《CR》を進めた。
この日とその翌日、水落は一睡もしなかった。




