471列車 カレーライス
智萌と一緒にいつもの金町駅に帰ってきた。
「おお。東京始めてきたけど、ビルたくさんあるね。」
智萌は林立する高層ビルを見上げる。草津にも高層ビルはあるけど、森みたいになっている高層ビル群は見たことがないはずだからなぁ・・・。
「えっ、あっちにもコンビニあるのに、こっちにもコンビニある。しかも同じ所の。」
「民間企業は自社の利潤を追求するためなら、何でもするわ。もちろん、需要と供給が合致するからこそ、道を挟んで同じブランドの店舗を出せるのよ。まぁ、それだけ東京在住の人たちの需要が旺盛であると言うことの動かぬ証拠なのよ。」
亜美がそう言うと、
「亜美ちゃんってよく難しいこと言うのよね。」
「・・・別に私は難しいことは言ってないけど。ただ民間企業の経営者の見地に立ってコンビニの数を論じたまでよ。」
「そう言うのが難しいんだって。」
「・・・亜美、気にしないで。」
「気にしないわよ。」
ウチらは金町の駅前で別れた。ウチは智萌と一緒に自分の住んでいる寮まで歩いた。
「フン、フフフン、フン.」
鼻歌を歌いながら、楽しそうに智萌は歩く。ウチはそんな智萌を見ながら、何か微笑ましくなった。
家に着くとウチは料理の準備をした。と言っても作るものはカレーなのだけど・・・。
「はい、智萌。カレー出来たよ。」
そう言い、山盛りのカレーライスを智萌の前に置いた。
「うわぁ。おいしそう。いただきまーす。」
「どうぞ。」
「うん。おいしい。光の作ったカレーはおいしいね。また家に帰ってきたら作ってよ。」
「・・・そうか。ウチが向こうでカレー作ったのって1ヶ月以上前の話になるんだな。」
「これなら何倍でも行けるわ。太るの気にしないでガツガツ食べちゃおう。」
大きい口を開けて、智萌はカレーをどんどん体の中に入れていく。智萌のために持ったカレーはみるみるうちに山が削れていった。
「ああ。おいしかった。」
気付くと智萌はもう全部カレーを食べ終わっていた。
「おかわりあるけど、食べる。」
「うん。ねぇねぇ。さっきよりももっとたくさん盛って。それぐらいペロッと行けちゃうから。」
「はいはい。」
作ったカレーはあっという間に売り切れた。ウチ一人だったら明日の朝もカレーが残るが、何にも残らなかった。
「・・・。」
「光、学校は楽しい。」
「うん、楽しいよ。鉄道の勉強はたくさん出来るし、部活動も入ったし。」
「へぇ・・・。帰宅部。」
「・・・心外だなぁ。鉄道研究部に入ったんだよ。」
「鉄道研究部。ああ。お父さんが昔入ってたって言う。」
「うーん。お父さんが言う鉄道研究部とは違うなぁ。企業研究とか、そういうことしてる部活だよ。だから、お父さんが入るとつまらない部活かな。」
「ふぅん・・・。私の知らない部活で頑張ってるんだ。」
「そう言う智萌はどうなの。学校は慣れた。」
「うん。友達も出来たし、楽しいよ。まぁ、部活はやってないんだけどね。」
「へぇ。また運動部にでも入れば良かったじゃん。卓球部とか、ソフトテニス部とか。」
姉が部活動に入ってないって言うのは意外だな。
するとウチのスマホからLINE電話の音が流れた。相手はお母さんだ。ウチは全てを察した。
「どうしたの。光。」
「今すぐ、お母さんにみっちに叱られなよ。」
そう言いながら、ウチは智萌にスマホを渡す。
「えっ・・・。」
「心配してるんだよ・・・。そういえば、お母さんとお父さんって元気。」
「うん、二人とも元気だよ。お父さんはいっつも時刻表見てるし、お母さんも一緒になってあんな数字ばっかの本見てるし・・・。私には何が面白いのか全然わかんないけどね。・・・さて、覚悟決めてお母さんに叱られよう・・・。嫌だけど・・・。」
「もしもし。光。」
「あっ、・・・お母さん・・・。」
「智萌。あんた今光と一緒にいるの。」
「・・・。」
こういう口調のお母さんはウチがインフルエンザにかかった時以来かな。あのときは智萌がインフルエンザ移して貰おうと必死になっていたからな。そりゃ怒るよな。
「黙って東京に来たのはごめんなさい。」
「あんまり怒らないであげなよ。東京行くのは気付いてたんだからさ。」
お父さんの声も電話から聞こえてきた。
「私はそう言うのを怒ってるんじゃなくて。黙って東京に行ったことを怒ってるの。分かってないなぁ。」
「・・・僕に似たんだよ。」
「そうね。悪いところだけ似たのね。」
「・・・ハハハ。」
声からも二人が元気なのが伝わってくる。その後智萌はお母さんに叱られまくっていた。智萌に対するお母さんの説教が終わると、智萌はウチにスマホを渡してきた。
「お母さんが光にも話があるって。」
「えっ。・・・ウチ、お母さんに叱られるような事したかな。」
「あんまり連絡してこないから大丈夫なのかって。お母さん気がきじゃないのよ。だから、たまには声聞かせてやれ。」
「・・・これで聞こえてるから大丈夫でしょ・・・。」
「いいから話せ。今すぐ話せ。私もさっきまでお母さんに叱られてたんだから、光も叱られろ。」
「黙って東京に来るよりは悪質じゃ無いと思うけど。」
「光のほうが悪質よ。」
「・・・ウチ怒られるのは嫌だよ。お母さん怖いし・・・。」
ウチと智萌が同じ部屋で暮らすのは5月1日まで続いた。