9523列車 鉄ちゃんの電車嫌い
8月4日。行程10日目。広島から「瀬戸内マリンビュー」という列車に乗って尾道まで向かう。この「瀬戸内マリンビュー」という列車はいわゆる乗って楽しい列車と言うことで、内装なども凝ったものであった。そういう列車に3時間乗り続けると言うことにはそろそろ慣れてきた。
尾道から千光寺へ行き、その後電車で倉敷へと向かう。倉敷では美観地区を見て、それから再び日本海側へ電車で向かう。私に配慮してくれたのか、特急列車に乗せてくれた。
「ありがとう。シンクン。」
私がそう言うと、
「どういたしまして。」
と返してくれる。
「シンクン、この特急列車ってなんて言うの。」
「「やくも」だよ。」
「「やくも」かぁ・・・。シンクンってこういう特急好き。」
そう聞いたら、輝の顔が急に変わる。普段電車の話になると目の色が変わるのだが、今変わったのは顔色の方だった。
「実はね「やくも」は鉄道の中で一番嫌いなんだ。」
「えっ。どうして。」
「昔ね、家族で出雲に行ったことがあるんだけど。」
島根じゃなくて出雲って言うんだ。
「鉄道の中で唯一酔ったことがあるんだよね。」
「酔った・・・。」
意外だ。今まで結構な長距離を鉄道で移動してきているが、輝が酔ったところは一度も見たことがない。その輝が「酔ったことがある」というのが今乗っている「やくも」らしい。一体何で酔ったのだろうか。揺れ・・・。いや、揺れだったら今も酔いに悩まされているだろうなぁ。酔い止め薬を飲んだとしても・・・。考えを巡らせてみたけど、酔った原因が分からなかった。
「えっ、何で酔ったの。」
すると輝は口元に手を添えて、
「「やくも」ってさ、昔振り子式車両って言うのを使ってたんだ。」
「振り子・・・。」
「自転車想像して。」
私は頭の中で自転車を想像する。
「カーブを自転車で曲がるとき、僕たちは曲がる方向に体を傾けるでしょ。それを鉄道でやるのが振り子式車両なの。」
「うん、うん。それで何で酔うの。」
「うん、「やくも」に使っていた振り子式車両は古くてね。車体は遠心力の大きさによって傾くんだ。つまり、傾くタイミングがカーブとずれているんだよ。カーブに入ってから傾いて、カーブを通り過ぎてから傾きが元に戻るの。その動きがすごい不自然なんだよ。」
「・・・。」
分かるような、分からないような。自転車で走る私を想像しながら、輝が言うようにカーブし始めてから体を傾け、曲がり終わってから体を元の位置に戻してみる。転ぶわ。
「不自然すぎて、出雲市に到着してすぐに吐いちゃったんだよ。だって「やくも」に乗るまで僕鉄道で酔ったことなかったんだよ。結構ショックだったんだから。」
「今は平気なの。」
「今は大丈夫。振り子付いてない車両になったから。」
「・・・その帰りはどうしたの。」
「帰りはねぇ。「スーパーまつかぜ」って言う特急と「スーパーはくと」って言う特急を乗継いで滋賀県まで帰ったよ。楽しかったなぁ。」
後で調べてみると「スーパーまつかぜ」も「スーパーはくと」も振り子式車両を使った特急列車だった。「やくも」が唯一酔ったと言うことはその二つでは酔わなかったと言うことになるのだが、どういうことなのだろう・・・。




