9522列車 知らない方が幸せな遅さ
8月2日。行程8日目。小倉から新幹線に乗って新山口という駅で降りる。新山口駅から特急列車に乗って出雲市まで行った。出雲市と言ったら行くところは出雲大社しかない。二人で出雲大社に参拝して、その日はそれで旅が終わった。
8月3日。行程9日目。出雲市から電車を乗継いで宍道湖の近くまで来る。時間はまだ9時30分で、乗る電車は11時までない。宍道湖が近くにあるので、歩いて宍道湖まで行った。
戻ってくると小さい電車が止まっていた。
「可愛い電車が止まってるね。」
「可愛いねぇ・・・。」
「可愛くない。」
「僕からしてみると可愛げの欠片もない修行僧のためのディーゼルカーだよ。」
「シンクンが電車を可愛げの無い修行僧のためって言う表現を使うんだから、私が来るような所じゃないんじゃない。」
「まぁ、どれぐらいつまらないかは乗ってみれば分かるよ。でも、今日はこういう所しか通らないから、本当につまらないと思うよ。あまりにもつまらなかったら寝ればいいから。」
「・・・。」
出発時間が近づいてくるとどこからともなく輝と同じ人種の人たちが集まってくる。車内の座席は鉄道ファンで埋め尽くされた。一方で、地元の人だろうと思える人たちはほとんどいない。多くの人が大きな荷物やカメラを持って乗っている人ばかりだ。
11時18分。ディーゼルカーはゆっくりとホームを離れ始める。ホームを離れると小さいディーゼルカーは緑の深いところへゆったりとしたスピードで入っていった。
「これが修行僧のためのディーゼルカーなの。」
「そのうち嫌って言うほど分かるよ。」
「・・・。」
果たしてそうなのか。
木次駅で数少ない地元の人たちが降り、車内は完全に鉄道ファンだけになった印象だ。木次駅を過ぎると小さいディーゼルカーはとてもゆっくりと走り始める。
「今、何キロぐらいで走ってるの。」
近くの道路を車が追い抜いていく。
「知らない方が幸せだよ。」
「車よりは遅いんでしょ。」
「頑張れば自転車よりも遅く走ってるから。」
「どんだけ遅いの。」
「それだけ遅いの。」
スピードは結局言わなかったけど、それだけ遅いのか・・・。こんなにゆっくり走っていたら、地元の人たちはあまり使わないのだろうなぁ。乗っている地元の人たちも明らかに車を運転出来なさそうな人が多かった。
1時間ゆったりと走り続けて、とっさに輝が降りようと言った。何も分からずに私も降りる。運転手さんに私達の持っている切符を見せると特に何も確認せずにどうぞと言われた。それで本当にいいの・・・。
降りたのは私達二人と他一人。それだけの人たちが降りたディーゼルカーはゆっくりとホームから離れていった。あたりはのどかな風景が広がっている。これって降りるとヤバい奴じゃないの・・・。
「お腹すかない。」
輝はそんなこと知ってか知らずか何も気にしていなさそう。
「えっ、確かにお昼だから好いてるけど。」
「ちょうどいいし、そこでお蕎麦食べよう。」
「蕎麦・・・。」
確かに、駅舎の中にお蕎麦屋さんがある。
「へぇ、お蕎麦屋さんがねぇ・・・。ってこの駅で本当に降りて大丈夫だったの。次の列車は。」
「2時間後。それ逃すといろいろとヤバいことになるから。大丈夫だよ。」
2時間後かぁ。それに安心感を覚える。こんなへんぴなところにある駅にも2時間後にはちゃんと電車がやってくるのだ。
「まっ、まずはお昼ご飯にしよう。」
「シンクン。お冷や禁止ね。」
「えっ。でも、お冷や入れないと・・・。」
「ダメッ。お冷や禁止だからね。ずっと見ててあげるから。」
「・・・僕猫舌なんだけど・・・。」
「知ってる。だから、ダメ。どうせ2時間来ないんでしょ。早く食べたって同じよね。」
「・・・。」




