9520列車 先人の知恵
電車を待って、13時22分人吉を出発する。人吉から乗る列車にもアテンダントが乗り込んでいるし、内装は木が多用されたものとなっている。輝が言うには元々は普通の車内だったらしい。そんな面影はどこにもないくらいに変わっているのがすごい・・・。
「今乗ってる電車は肥薩線って言う路線なのさ。」
「肥薩線ねぇ・・・。」
「この肥薩線って言う路線は先人達の知恵が今でも行かされている路線だから、結構面白いよ。」
そうは言っても私には分からないものでしょう。正直なところそう思った。この肥薩線だっけ・・・。昔の人たちが作ったって言うのは分かっても、知恵が分かるって。目に見える形で残っていないとそんなものは分からないでしょう。
電車はゆっくりとしたスピードで坂を登っていく。しばらく走るとアナウンスがあり、駅へと入っていく。
「えっ・・・。何これ・・・。」
左側から線路が近づいてきた。その線路は目線の上野あたりから降りてきて、そのまま左の奥の方へ曲がって行っている。電車はその線路にかまわず、駅へと入る。しばらく泊まると言うことで、輝に促されるままにホームへと降りた。
あたりは人が生活しているとはとうてい思えないほど山の中だ。そんな山の中に似つかわしくない大きな駅と長いホームがある。ホームにある駅の名前をみてみると「大畑」と書いて「おこば」と読むと書いてある。難しい読み方ではないけれど、初見では必ず「おおはた」と呼んでしまうだろうなぁ・・・。
「先人の知恵。その一。」
輝が隣で言う。
「この駅って人の生活がなさそうなのに、結構大きいでしょ。」
「正直無駄よね。今この駅にいる人だって、みんなこの電車に乗ってきた人たちばかりじゃない。このあたりに済んでいる人、使ってたりするの。」
「使ってないと思うよ。車だろうから。」
「そうよねぇ・・・。これが先人達の知恵なの。ただの無駄なものじゃない。」
「無駄じゃないよ。ちょっと難しいことだけど肥薩線のこと教えてあげようか。」
輝はそう言うと肥薩線のことについて話し始めた。私のためにかなりかみ砕いて教えてくれた。
「この路線は元々琵琶湖線みたいな重要な路線だったんだ。それこそ昔は長い貨物列車や特急列車も走っていたんだ。でもね、その貨物列車や特急列車にはこのあたり峠を登れないんだ。」
「えっ、登れないって・・・。琵琶湖線みたいな所だったんでしょ。意味ないじゃん。」
「それを意味あるものにしている場所がここ。」
辺りを見回す。なるほど、この辺りの風景にミスマッチな設備は琵琶湖線クラスで重要な路線にするための風景なのか・・・。
「この路線を通る全ての列車はここで一旦休憩して、山登りのための準備をしたんだ。この駅を出発したら、一旦列車は奥の方へ入って、そこに見える築堤に向かって助走してから、駆け上がっていったんだ。」
助走って・・・。
電車の出発時間になり、電車はさっきとは逆方向に進み始める。輝の言うとおり、電車はさっき見えていた築堤の方へは行かず、通り過ぎてから停車。駅に入る前と同じ進行方向になってから、電車は坂を登っていった。
同じような駅をもう一つ通り、吉松駅へと向かう。吉松からは特急と普通列車を乗継いで宮崎の方へと行った。




