9517列車 日本一長かった切符
7月30日。行程5日目。寝台特急「サンライズエクスプレス」車内。
時間はまもなく6時10分になろうとしている。隣のベッドで寝ているかが焼きを見るとまだ眠っているようだ。この間に着替えてしまおう。
「皆様、おはようございます。本日は7月30日。時刻はただいま6時15分でございます。」
いきなりアナウンスが流れ始める。もう岡山駅に着くのだろうか。そう思ったが、岡山駅に着くのはまだ先のようだ。放送を聞いているとただの朝の挨拶らしい。
「朝かぁ・・・。」
その声がして、ビックリして振り返った。
「あっ・・・。」
着替え中の私とちょうど今起きた輝の目が合う。
「ごめん。見なかったことにするよ。」
そう言い、すぐに寝たが、それが寝たふりだというのは私には筒抜けだった。着替え終わると再度輝の方を見る。
「シンクン。」
「ああ。さっきはごめん。」
「さっき・・・。今も見てたでしょ。」
「・・・分かっちゃうものなんだなぁ・・・。ごめんなさい。」
そう言いながら、輝は顔の前で手を合わせる。
「・・・結構綺麗だったなぁ。」
「シンクンのエッチ。恥ずかしいなぁ・・・。」
「うっ・・・。こっちも着替えよう。」
輝はあっという間に着替え終わりさっさと降りる準備を始める。
6時27分。「サンライズエクスプレス」岡山到着。コンビニで朝ご飯を買い、6時57分発の普通電車で広島まで行く。新幹線に乗らずに東京から広島を移動してくると言うのは生まれて初めての経験である。
広島からは新幹線に乗り、博多駅で降りる。博多でお昼ご飯を食べてから快速電車と普通電車を乗り継ぎ、肥前山口というところで降りた。
「こんなところで降りてどうしたの。」
「んっ。ちょっとみたいものがあるんだ。」
そう言い、輝は階段を上がり、別のホームへと歩いて行った。輝はすたすたと歩いて、有るところの前で止まった。そこには「旅情」という文字の入った石碑がある。
「これが見たかったの。」
「これも見たかったんだ。本当に見たいのは駅の外にあるんだけどね。」
輝はちらりと手元の時計を見る。
「ちょっと駅から出ようか。今日はそういうことほとんどやってなかったし、いい気分転換になると思うよ。」
それはそうかも。
輝について、改札口で持っているきっぷを見せ、駅の外に出る。駅の北口の階段を降りて、すぐに場所で輝は立ち止まった。そこにも何かの碑がある。「JR最長片道切符の旅ゴール肥前山口」と日本列島がタツノオトシゴになった絵が描かれている。
「これは。」
「昔、JRで最長のきっぷを作って旅をした人がいてね。それゴールがここだったんだよ。」
と言った。
「JRで最長って。これは最長じゃないの。」
「まだまだ。僕たちが使っている切符なんて可愛いもんだよ。本物の最長は有効日数が100日オーバーだからね。僕らのきっぷは1ヶ月を少し超えたぐらいでしょ。」
「・・・。」
うーん確かに。この碑の切符は少なくとも42日間は使えるきっぷらしい。貰ったときはかなりとんでもない切符だと思っていたが、こういう碑を見ると私が持っている切符は日本一の片鱗を見せているだけに過ぎなかったのか。旅行を始める前、輝は何度も「キツい」と言っていた。そのキツい旅行でさえ「可愛く」してしまうのがこの碑で使われた切符なのか・・・。
「また来たよ・・・。」
「・・・。」
輝はおもむろに碑に話しかけた。
「・・・「旅の終わりがここなら、旅の始まりもここから」だから、行ってきます。」
ついに頭でもおかしくなったのかしら・・・あっ、元からか。
「さて、行こうか。」
「今のは・・・。」
「僕の儀式みたいなものかな。」
そう言うと輝は私の知らない詩を口ずさみながら、階段を上り始める。
「旅の終わりがここなら、旅の始まりもここから~。み~んなを乗せて、まわ~り出す。風の街角で~。ルルル~ルル、ルル。ルルル~ル、ルルル。ルルルルル、ルルルルル。ルルル~ルル、ルル。ルルル~ル、ルルルル。ルル、ル~ルルルル~。」




