9506列車 種明かし
近くのファミレスに入り、デザートを注文してから、輝は時刻表を取り出した。行程を説明するのに時刻表を使うって言うところはなんとも鉄道ファンらしい。
「まず、今回の旅行の経路なんだけど、ざっくり言うと東北に行ってから九州に行って、本州に戻って中国地方をぐるぐる回って、関東の方へ行って、東北言っても取ってくるって言う行程だよ。」
すでにいろいろおかしい。ざっくりと言ったのにかなり言葉数が多かった。
「まずね。」
輝君はオレンジのボールペンで時刻表に経路を書き込み始めた。
「栗東がここ。」
そう言い、栗東と書かれた場所を何回も丸で囲む。それからボールペンは米原の方へと進んでいった。そのペンの動きを追っているだけでもかなりおかしな動きをしているのが分かる。
ペンはひたすら日本海側を動いていき、青森県に到達。それから新幹線に乗り換えて素直に東京に行くのかと思ったら、宮城県と福島県の間をこの字を描くように移動、それが終わったかと思ったら、新潟県に戻り青森に行った時に通ったオレンジの線と鼻と鼻が擦れ合うくらいにまで近づく。そして、東京に行き、一気に九州方面へと向かう。九州島内でもぐるぐると回り、輝は武雄温泉でボールペンをオレンジから緑に持ち替えた。
「それで武雄温泉からは・・・。」
輝はまた説明を始める。
緑のボールペンはオレンジでなぞった線をある程度まで逆走し、有る場所でオレンジの線と別れ熊本県の方へ向かう。熊本県から九州の内陸部を通って鹿児島県に入り、鹿児島県から北九州まで移動、本州に戻った。
(本州に戻ってそのまま帰ってくるんだ。)
と思っていた時期が私にもあった。緑のボールペンは山口県から島根県に入り、宍道湖のあたりから中国山地のど真ん中を抜けて、広島まで戻ってしまった・・・。
「・・・。」
声を失うしかなかった。広島に行った線は瀬戸内海の方をまわり、倉敷まで来たかと思うと再び山陰地方に向かっていった。鳥取県を通ってそのまま戻って・・・来ない・・・。姫路の方を通って、大阪に戻ってきたが大阪からも戻ってこない・・・。
「・・・。」
紀伊半島を一周し、長野県のあたりをぐねぐね曲がり、富士山をほぼ一周して、房総半島を一周して、東北地方に戻る。
「・・・。」
「これで後は飯山のあたりを通って戻ってくるっていうの何だけど。」
(えっ、何これ・・・。)
「あさひ、悪いことは言わないよ。辞めるんなら今のうちだよ。」
「・・・ハ・・・ハハハ、やってやろうじゃない。」
「やせ我慢しない方がいいよ。」
「何がやせ我慢よ。ついて行きたいって言ったのはこっちよ。付いてくに決まってるじゃん。」
「そう、良かった。」
私死ぬかもしれないわ・・・ハハハ・・・。
「あっ、そうだ。」
輝が思い出すように言った。
「あさひ、この旅行する時学生服で来てね。ていうか学生服の方がいいと思うよ。」
「はっ・・・。えっ、何で学生服。シンクンってもしかしてそう言うの好きなの。」
「違うって。いや、否定はしないけど・・・。この旅行何日も家帰らないから。その日数分の着替え持ち歩けないでしょ。洗濯物減らすためにも学生服は最適だよ。」
「最適ねぇ・・・。」
学生服が最適って言う旅行は何なのだろうか。・・・ああ、でも考えてみれば、輝は学校が終わってそのまま東京に行って、月曜日に大阪に戻ってきてそのままの足で学校に来るって言うことを何度かやっているんだったよなぁ・・・。輝にとって学生服で旅行するって言うのは何も珍しいことではないんだろうなぁ。
「旅行の開始は7月26日。何だけど、どうする5時58分栗東出発にするか、これ以降出発にするか。」
「朝早っ。」
「栗東5時58分を乗り逃すと秋田到着が0時近くなるんだけど。」
「栗東5時58分で。」
「オッケイ。」
私一体どんな旅行させられるのだろうか。




