9505列車 恐ロシア
電車で旅をする。それは楽しいものであると思っている人もいるだろう。だが、それは必ずしも楽しいものばかりではない。時には修行まがいのことを平然とする旅もあるのである。
湖西線近江今津駅・・・。
「ねぇ、このまま本当に待ってるの。列車1時間以上来ないんだよ。」
隣で勉強している輝に問う。勉強道具を持ちながら、
「待つしかないんだよ。栗東→守山を140円だけで納めるためにはね。あんまりお金賭けたくないでしょ。」
「そりゃ、そうだけど。でも1時間ここで耐えるよりも戻った方が。」
「分かっちゃいないなぁ・・・。大回り乗車って言うのは来た道を戻らないから大回りなの。来た道を戻ろうとすれば、ここまでたどってきた経路そのままの運賃を請求されるんだよ。どれだけ高くなるか分かるでしょ。だから、ここは耐えて。」
輝はそう言うだけで黙々と勉強する。日陰にいてもじりじりと照りつけてくる太陽のせいで集中力なんて持続すらしない。そこで更に列車はJR神戸線で発生した人身事故の影響で遅れている。今まで乗ってきた列車は近江今津で運転打ち切りとなり、このまま大阪方面へ戻っていってしまうという。この戻っていく新快速電車で、私も戻りたいぐらいだが、輝の言うとおり、ここまでの乗車経路分の運賃を支払いたくはない。いや、支払えないが本当のところか・・・。
「分かったわよ。」
「分かればよろしい・・・。言っとくけど、これは入門編なんだからね。」
「分かってるわ。ていうか、入門編の最後は隣の駅まで行くのに丸1日かけるんでしょ。」
「そうだよ。」
「隣の駅まで丸1日かけるって言う神経は私には理解出来ないわ。」
「まぁ、理解されるとも思ってないけど。」
「あっ、そうなの。」
「うん・・・。出来ればあさひを連れて行きたくないし。」
「・・・。」
「でも、話し相手がいるってだけでも結構助かるから、ありがとう。」
「・・・シンクン・・・。」
電車に乗って守山駅まで戻ってくるとフラフラだ。
「今日は疲れたよね。」
輝が言う。
「本当疲れたわ・・・。」
「辞めるんなら今のうちだよ。たぶんこれから見る乗車券渡したら、あさひ失神すると思えて・・・。心配なんだけど。」
「やめないわ。と言うか辞める気も無いわ。」
「生半可だと絶対失神するって。」
「生半可じゃない。失神しないでおくわ。」
「本当だよねぇ・・・。僕あさひがどんな行程でもいいって言うから結構なの組んじゃったけど、それでも大丈夫・・・。」
「平気よ。ほら、切符持ってるんなら早く渡してよ。」
そうせかすとかが焼きはクリアファイルを取り出し、私に渡してきた。クリアファイルの中にはその切符というものが入っていた。だが、その切符は今まで見たことのない紙だ。果たして切符と呼んでいいのかも分からない紙には「坂田→武雄温泉」と書いてあるものと「武雄温泉→守山」と書いてあるものが入っている。武雄温泉って九州にあるよね。そして、坂田って・・・どこ・・・。
「詳しいことは別の場所で説明するから、移動しようか。」
輝が言うのでそれについて行った。
「ねぇ、これって切符。」
「切符だよ。出札補充券って言うね。これって複雑な経路で行程組まないと出てこないんだよ。」
何だろう。これから発表される行程が心底恐ろしいものに感じ始めた。




