504列車 一番の愚者
「光ちゃん。明日「みらい」で帰ろう。話があるんだ。」。ウチはそう言われ、帰りの時に使う米原→品川・東京の自由席特急券を米原→名古屋に乗車変更した。米原から東海道新幹線に乗った。
「昨日は突然あんなこと言ってごめん。」
会った瞬間にそう謝られた。
「別にいいよ。そんなこと。ていうかウチに話って何。」
「「みらい」の中で話すわ。あっ、これ「みらい」の特急券。」
そう言い、ウチは亜美からマルス券を渡された。「リニア新幹線特急券・グリーン券 名古屋→品川 みらい522号 7号車8番A席」との表示がある。
「えっ、これ。」
「私のおごり。気にしないで乗って。あっ、乗車券は持ってるので、乗れるから。」
気にしないでかぁ・・・。気にするよ、これは。
階段やエスカレーターを降りて、中央新幹線ホームに行く。改札機に守山→東京都区内となっている乗車券とさっき渡された特急券、ここまで使ってきた新幹線特急券を入れる。
新幹線ホームに行くと、白地に流れる青いラインの入ったリニアが停まっている。この車両はL1系。中央新幹線開業時から使用されたL0系の老朽置き換え車両で今はまだこの1編成しかない車両のはずだ。そうそうリニアの耐用年数は10年ほどらしい。
「初めてリニアに乗るなぁ・・・。」
「乗って・・・。もうすぐ発車するから。」
亜美に促されて、ウチはリニアの車内に入る。車内には3列のシートが並んでいた。A席、B席の2列とC席の3列だ。東海道新幹線などのグリーン車は4列だから、よほど広いんだなぁ。と思っていたが、リニアはどうも車体が狭いみたいだ。同じように4列にすると普通席と何ら変わらなくなってしまうため、3列構成になっているのだろう。
出発時間になったようで、リニアは滑るように名古屋駅を後にする。加速は普通の電車よりも速く、車のようにぐいぐいスピードを上げていく。しばらくそれが続いたかと思うとふわりと浮く感覚を覚える。そうなると、更にスピードの上がり方が鋭さを増す。
「話って言うのは他でもないの・・・。」
亜美が話し始める。
「私、親が嫌いなこと光ちゃんも知ってるでしょ。」
「ああ。うん。前怒鳴ってたもんな。」
「ええ。私、今まで親は自分の障害だと思ってたわ。いいえ。そう言い聞かせてた。」
「・・・なるほど・・・。」
その言葉でだいたい察しが付いた。亜美は知ったんだ。
「知ってたのね。母親から聞いていたのかしら。」
「・・・まぁ・・・。聞いちゃダメだったかな。」
「そんなことないわ。むしろ、聞いてもらえてありがたいわ。」
そう言うと亜美は一回深呼吸する。
「私、YouTubeでセーラーって言うアカウント名で活動してるんだけど、光ちゃんは知ってるわよね。」
「うん。」
「そのチャンネル開設したのは私が4歳の時。最初は祖父・祖母への反抗のために開設したようなもので、そのために鉄道が好きとか言ったものだわ。もちろん、そんなことしてたものだから、鉄道ファンからは相当嫌われたわ。「死ねよ、お前」とか、「今度電車乗ってるの、見つけたら、殺してやる」とか。かなり酷いこと言われたわ。その時いつも「自分が気に入らないからと言って、「殺してやる」は言い過ぎだろ」って。そう言ってくれる人がチャンネル開設の黎明期からいたわ。まさか、その人が母だなんて思ったことはなかったわ。」
そんな批判にさらされてたんだ・・・。
「・・・私、今すごい後悔してる。聞いてないと思っていたのをいいことに、親にはかなり酷いこと言いまくったから。ライブとかしてれば、「それは言いすぎじゃないですか」って言ってくれる人もいたけど、私は聞く耳持たなかった・・・。普段は冷静だった・・・。ただ親に事になると冷静でいなかったのは私・・・。ホント、馬鹿よね。」
「・・・。」
「馬鹿すぎて・・・。気付く機会も、話を聞く機会も数え切れないくらい有ったのに・・・。」
「・・・話を聞けたんなら、もう憎むなんて事もしないよね。」
「ええ。そんなこと出来ないわ。むしろ、今までの自分に嫌気がさす。」
「・・・。」
「父も母も。私のことは許してくれても、私は私が許せなくて。」
どうすればいいかな・・・。気の利いた事なんて言えそうにないし・・・。こういう時本当にどうすればいいんだ。
「許してあげようよ。過去に自分の親を悪く言ってたことが消えるわけじゃないでしょ。」
「分かってるわ。頭ではそれを嫌ってほど理解してる・・・。」
「・・・。」
やっぱり、あれがいいのかな。
「もうすぐ夏休みだよね。」
「・・・そうね・・・。」
「夏休みどこか行ってみたら。親と一緒に。」
「・・・。」
「・・・無理・・・。」
「ううん。もしかしたら、それで自分を許せるようになるかもしれないし・・・。夏休みに久しぶりに親と軽井沢に行ってみることにするわ。北陸新幹線の「グランクラス」に乗せて。」
「親子水入らずで過ごして来なよ。」
「・・・ありがとう、こんな話聞いてくれて。」
「・・・別に。ウチは何言っていいかも分かんなかったし。」
「・・・アイスでも頼も・・・。」
リニアは減速を開始する。まもなく最初の停車駅中津川に到着する。
夏休み、亜美からは楽しそうに軽井沢で過ごしているとタイムラインで流れてくるようになるのはまだ先の話だ。
MAIN TRAFFIC5本編はこれにて完結です。ここからはしばらく輝君の夏休み旅行編を投稿します。
旅行編が終わりますと、本編完結編になります。本編投稿はしばらくお待ちください。




