503列車 さぁ、言えよ
土曜日。私は瑞西を引き連れて実家に向かった。この家は久しぶりに見る。玄関では執事が一人こちらに頭を下げた。それに応答して、瑞西も頭を下げる。
「お待ちしておりました。亜美お嬢様。」
「出迎えご苦労様。」
「ご両親はリビングでお待ちです。」
「そう・・・。応接間に通されると思っていたけど。」
「お嬢様はお客様ではないとのことです。応接間は客人を通す間であり、親類を通す間ではないと仰せです。」
「・・・。」
私は執事について、リビングに行った。
リビングの中ではお父さんとお母さんが席を立って待っていた。執事は部屋に入る前に両親に知らせていたが、その時慌てて席を立ったという雰囲気もない。最初から立って待っていたのか・・・。
私はそんなことを思いながら、席に座った。
「私がここに来たのは他でもないわ。」
私はそう切り出した。
「これで本当に私はあなたたちから解放されるわ。」
そういいながら、私は東海旅客鉄道からいただいた内定と書かれた紙を机の上に置く。もちろん、両親が読めるように置いた。さすがに、逆さまに置いてやろうという肝起きなかったけどね。
「分かったでしょ。私は会社を継ぐ気は無い。他を当たってもらえる。私はあんたらに追っかけられるのは不快でしかないから。」
「・・・。」
お父さんは黙って、お母さんに紙を渡す。
「よく頑張ったな・・・。おめでとう。」
「はっ・・・。」
お父さんの言葉に私は言葉を失った。
「亜美が東海旅客鉄道に合格するために頑張っていたのはよく知ってる、昔からな。ようやっと、報われたな。嬉しいよ。」
「はっ、ただの社交辞令でしょ。そんな定型文が聞きたいわけじゃないわ」
「亜美。これはちゃんと話さなかった私達も悪いんだ。亜美は私達のことを憎んでいるだろう。後継者としてだけでその他を全く見ない。最低な親だと思っているだろう。だがな、そんな最低な親でも、娘の夢を応援するのはいけないことなのか。」
「今更、そんな出鱈目を言うな。」
「亜美がどう思おうと私達の気持ちは変わらない。私達は亜美のことをずっと応援していた。YouTubeだってそうさ。亜美が「セーラー」として活動していることもずっと前から知っていた。動画も見ていたよ。・・・本来なら、もっと目に見える形でするべきだったし、こういう話はしておくべきだった。親として私達はあらゆる責務を放棄した。当然許されることじゃないだろう。」
「・・・う・・・違・・・。」
「亜美、私達のことを許してくれとは・・・。」
「違うっ。」
私は耳を押さえた。
「そんなんじゃない・・・。私が聞きたいのは・・・そんなんじゃない。」
「お嬢様。」
「言えよ。言えよ、貴様。「東海旅客鉄道に就職して、私達は悔しい」と。言えっ。」
「・・・言えるわけがないだろ。私達は亜美の親だ。娘の吉報に喜ばない親がいるか。」
「吉報だと・・・。お前らにとったら凶報だろ・・・。」
「そう思っているのは亜美だけだ。ここにいる皆、これは吉報だと思っている。」
「瑞西ッ。」
私は大声で呼ぶ。
「はい。」
「今すぐに。こいつらの言ってることの・・・。嘘を証明しろ、今すぐ。」
「それは・・・。」
私の命令に瑞西は目線をそらす。
「何で・・・何故目をそらす。」
私はすがるように部屋の中にいる全員の執事、メイドに顔を向ける。だが、皆口ごもるか、目をそらすか、「両親の言うことに嘘偽りがない」と目そのものが語ってくるか。どれかに一つだった。
「畜生。」
勢いよく手を振り下ろす。机の上に乗っているものがただ無機質な音を出すだけだ。
「・・・私は・・・私は今まで何を・・・。」
後ろから包み込まれるようにだかれる。私はそれに今まで感じたことのないぬくもりを覚える。
「亜美。よく頑張ったわ。泣きたいときは思いっきり泣きなさい。私達は笑ったりしないから。」
「っ・・・。」




