467列車 開く擦り傷
智萌がバイトに行くのと入れ替わりに梓ちゃんが家に来た。また萌と話でもしに来たのかな。
「今日はなんの問題を持ち込んできたのかな。」
萌がどこか嬉しそうな表情を浮かべながら、梓ちゃんに聞いた。
「いや、そんなに嬉しそうにしなくても・・・。」
「・・・ああ。別に梓が大希にいじられるのが楽しみだなぁとか思ってないから。どうせそれは見れないんだし。」
「思ってるじゃん。」
「・・・。」
僕は時刻表を手に取った。仕事から解放されたらやろうかなと思う、最長往復切符の旅の経路を調べないといけないからなぁ・・・。
「で、今日は何したの。」
「・・・大希の車擦っちゃったの。どうしたらいい。」
と聞こえてきた。
「どうしたらいいって・・・。それ私に聞くこと。」
萌の言うこと正論だなぁ・・・。ていうか、何でそれを萌に聞くかなぁ。車擦っちゃったって。別に僕は・・・気にしないと言いたいところだけど気になるなぁ・・・。
「・・・それがね・・・。」
梓ちゃんは何か言いづらそうだ。車擦っただけで動かすことには問題ないなら、別に何も言いづらいこと無いと思うんだけどなぁ・・・。僕の仕事も車を使う仕事の上にかなり狭いところを毎日行ったり来たりするから、時たま車を擦ったり、側溝に落としたりすることはあるし。
「擦ったのって1ヶ月ぐらい前なの。」
「・・・謝りなよ、何ヶ月前でも。」
「それだけじゃないんだって。大希、ちょっと前に来るまでふらっと出掛けたんだけど、その時にその傷発見されてさ。しかも、当て逃げされたと思ってすっごく怒ってるのよ。子供たちには「絶対言わないで」って言ってるし・・・。」
何か、最近ラジオで同じような状況に陥ってる人の投稿があったなぁ。まさか、梓ちゃんじゃないよね。その投稿主。
「謝りなよ。正直にごめんなさいって。」
「・・・嘘に嘘の上塗りを何回もしてるから、余計言えないよ。もうすでに正直じゃないんだし・・・。」
その会話を聞きながら、僕はちょっと自分の記憶をたどった。そもそも、そのラジオの投稿が印象に残っているのは展開が予測できたからと言うのもある。でも、それだけじゃない気がするなぁ・・・。確か、その日の相方は・・・鳥峨家だな。
「日本の中にはウチと同じような感じの人もいるんだよなぁ・・・。梓ちゃんも正直に言ってくれれば良かったのに・・・。こりゃ、梓ちゃんにいたずらし放題になるな。」
「・・・。」
思い出した。
「大希君のこと怖いの。」
「怒られるのはもういいよ。ただね、許してくれるかな。」
「やっぱり怖がってるじゃん。・・・正直に、今まで黙っててごめんなさい、やったのは私ですって言えば許してくれると思うよ。」
「それ、全部バレてるよ。」
僕は二人の会話に口を挟んだ。
「えっ。」
「前に鳥峨家と乗ってる時に話してたんだけどさ、鳥峨家「梓ちゃんが正直に言ってくれれば良かったのに」って。そう言ってたから全部バレてるよ。子供たちに「黙ってて」っていったことも、梓ちゃんが車擦ったって事も。」
「・・・。」
「ああ、これは諦めて大希君に制裁された方がいいんじゃない。」
「えー、でも、誰が・・・。」
「どう考えても子供たちでしょ。お母さんには正直でいて欲しかったのよ。」
「う・・・。」
「ほら、早く謝りに行きなよ。」
バレてるって分かったからか、梓ちゃんは「そうか、そうだったんだ」というと立ち上がり、玄関に歩いて行った。
「ごめん。突然押しかけたりして。」
「いいよ。また来なよ。私は大歓迎だから。」
「うん。じゃあ、大希にみっちに怒られてくるわ。あっ、明日は絶対ウチに古米でね、たぶん○○になってると思うから。」
「分かってるって。きっちり押しかけてあげるから。」
「やめてやりなよ、萌。」
「じゃあね。」
「Good luck。」
そう言い、梓ちゃんを二人で見送る。ドアが閉まると、
「ナガシィ。ナガシィは私が車擦ったの黙ってたらどうする。」
と聞いてきた。
「んっ・・・。」
「ナガシィなら、今回だけだよっていいながら許してくれそう。」
それが模範解答だろう。