499列車 ぶつかれ
東海旅客鉄道の会社説明会を聞いた上で、校内選抜が行われる。鉄道科の面接を勝ち抜いたのはウチと亜美を含めて11人だった。このうち東海旅客鉄道に就職出来るのは一握りである。
「ふぅ・・・。」
「まずは第一関門突破ね。」
ウチは手に持っているオレンジ色に縁取られた厚紙を見る。これが東海旅客鉄道のエントリーシートかぁ・・・。これに綺麗な字を書き込み、期限までに先生に提出する。そうすれば、先生が学校の推薦文を添えて、東海旅客鉄道に提出してくれる。
「うん。でも、まだまだ小さい一歩でしょ。」
ウチはそう言う。
「そうね。私達には小さな一歩ね。」
「ああ。二人はすごいねぇ・・・。まず学校推薦取れるんだもん。」
ため息をつきながら、沼垂がつぶやく。沼垂みたいに学校選抜に選ばれなかった人の方が多いのだ。
「偶然よ。積み上げてきたものが必ずしも報われるわけじゃない。今回は私と光ちゃんが積み上げてきたものが、残念ながら落ちてしまった人たちよりも輝いただけよ。」
亜美が言う。
「それよりも沼垂君に必要なのは、切り替えること。学校選抜に落ちたぐらいで、鉄道会社全体の退路が断たれたわけでもないでしょう。JR7社に、関東、関西の大手私鉄、準大手。地鉄に京急ステーションサービスみたいな関連企業も併せれば日本の鉄道会社の数は結構多いわ。」
「そうだよ。次頑張れ。」
「次ねぇ・・・。でもさ、決めた人が近くにいるとなぁ・・・。」
決めたと言っても、まだ決まったわけじゃない。就職が決まって初めて決まったと言えるのだ。
「そういえば、香西は・・・。」
そういう沼垂に亜美は間髪入れずに口を開く。
「沼垂君・・・。他人の心配の前に今は自分の心配。就活なんて他人のことが見えるほど暇じゃないわよ。」
「・・・崇城さん、何かやったことあるみたいな口ぶりだね。」
「自分はやったことないけど、ヒィヒィ言ってる人ならごまんと見てきたし・・・。ネットって人の弱い部分も全部見れるからね。」
そう言うと、亜美は手に持ったエントリーシートを鞄の中にしまう。
「さて、私はこれから一般企業の会社説明会に行ってくるわ。じゃあ、お先に。」
「さよなら。」
ウチらはそう声をかけ、亜美の後ろ姿を見送る。見送ってから、ウチもエントリーシートを鞄の中にしまい、
「ウチも行こう。」
「永島は次どこ行くつもりなの。僕は明日大阪入りするけど。」
「ウチは海芝浦の奴だよ。」
「ああ、海芝浦の奴ねぇ・・・。」
「それにしても、明日大阪入りって大変だな。」
「本当だよ。お金ないから夜行バスで移動することになるけど・・・。寝られるかなぁ。」
「アハハ・・・。頑張れ・・・。」
一方、大阪では・・・。
「中百舌鳥さん、ついに手に入れてしまったよ。」
僕はオレンジ色に縁取られた厚紙を眺めながら言う。
「手に入れてしまったって・・・。まだ就職決まったわけじゃないでしょ。しっかりなさい。」
「・・・ハハハ・・・。その通りだね。ただ単にエントリーシートが手元に来ただけなのに・・・。舞い上がってたね。」
「そうそう。舞い上がって、就職出来ないってなったら元も子もないでしょ。輝君。」
「うん、その通り。中百舌鳥さんの言うとおりだよ。」
「だから、それちゃんと仕上げて、やれることきっちりやってきなさいよ。そうしないと色んな事考えてあげないからね。」
「分かってる。僕頑張ってくるよ。」
そう、自分が積み上げてきたものを信じて、ぶつかってくるだけだ。




