494列車 勉強旅の始まり
僕はおにぎりを口にくわえたまま教室のドアを開けた。時間は8時20分を過ぎている。まぁ、間に合ったか。良かった。
「おはよう、輝。」
「おはようございます。」
友達に声をかけ、僕は荷物を机の上に置いた。いつもよりもズッシリくる。
「輝、お前今日どうしたんだよ。えらく遅いじゃないか。」
「ああ、ちょっと列車遅れちゃってね。」
そう言うと友達の波風いかにも「お前何言ってるの」という顔をする。そりゃそうだろう。今日アーバンネットワークの鉄道線はどこも遅れてはいないからだ。
「ハハハ。馬鹿言ってんじゃねぇよ。今日はどこも電車遅れてねぇだろ。」
「言ってるでしょ。電車じゃなくて、列車が遅れたって。ちょっと土日使って東京行ってたから。今朝姫路についてそのまま学校まで来たの。」
と言った。すると波風の目の色が変わるのが分かる。たぶん、期待しているようなことはない。だって東京行ってしてきたのは勉強だけだしなぁ。
「しっかし、勉強ぶっ通しでやってたから、結構疲れた。しかも、昨日平塚で人身事故があって「サンライズ」1時間遅れだったしなぁ・・・。大阪には5時ぐらいに着いてたみたいだけど疲れて寝ちゃってたから。姫路着くまでかなり焦ってた。」
僕は土産話を並べる。
「お前、相変わらず頭おかしいことしてるな・・・。」
「そうかな。でも、ちゃんと学校に間に合ってるんだからいいだろ。」
さて、今日の1限目は数学か。ちょうど勉強してきた範囲をすることになるのかな。机の上に筆記用具を置いた。
2限目の授業が終わった時には僕が土日使って東京に行っていたのはかなり広まっているらしく、クラスメイトからは「東京に勉強しに行くってキチガイ」みたいなことを言ってくる。まぁ、キチガイだからなんとも思わないけど。
学校が終わると僕は中百舌鳥さんと一緒に帰った。
「ハァ・・・。輝君、今週末そんなことしてたの。」
「うん。結構勉強はかどったよ。ついでに乗り鉄もね。」
僕はそう言うと今回完乗した路線を書いたメモを取り出した。東京メトロと都営地下鉄は丸1日かけて乗り倒し、翌日は未だに行っていなかった水戸線、両毛線、八高線を乗って22時00分発の寝台特急「サンライズエクスプレス」に乗る予定だったのだが、前述の人身事故の影響で1時間ほど遅れて東京駅を出発。1時間遅れで姫路に着いたのだ。
「本当に姫路到着までどうしようか迷ってたよ。新大阪には5時ぐらいに着いたんだけどさ眠くて仕方なくて、新大阪で新幹線接続の救済取るから臨停はするだろうとは思ってたけど、ぐっすり眠ってたから。姫路到着直前まで起きなかったし。」
(焦ってるのか、開き直ってるのか分からないわね・・・。)
「・・・もし、学校着くの遅れたらどうするつもりだったの。」
「・・・正直、そのこと考えてなかったんだよねぇ。6時41分までに姫路に到着すれば6時43分発の新快速野洲行きに乗れるし、それで大阪に7時52分に着くのは知ってるから。」
「・・・輝君のご両親、良くそう言うの許してくれるわねぇ。」
中百舌鳥さんはポツリと言う。もちろん、東京に遊びに行くだけなら、学校に影響が無いようにと言ってくるのが普通の親だろう。僕にこれが許されているのにはもちろん理由がある。
「結構小さい時は僕ク○ンに行ってたんだよ。だから、小1から勉強は出来てたんだけど、机に向かって勉強するのが苦手だったんだよ。だったら机に向かわないで勉強したら集中できるかなと思って、手頃な机のない勉強場所を探したんだ。」
「それが電車の中ってわけ。」
「そういうこと。もちろん、ク○ンやめるって言った時は親に反対されたよ。そこでお父さんが「前回のテストよりもいい点5回連続で出たら、ク○ンは辞めていい」って言ってくれたから。それから死ぬ気で勉強して、結果前回のテストよりもいい点取ったって言う実績を4回連続で作ってク○ンやめたの。・・・本当は5回連続行けるはずだったんだけどなぁ・・・。」
こんなこと聞いて中百舌鳥さんはどう思っただろうか。
「電車での勉強は実績に裏打ちされてたのか・・・。努力家なのね。でも、5回連続で前回よりも言い点数取れって酷ね。4回連続でもすごいと思うけど、5回目何点取ったの。」
「5回目は国語、算数で199点。忘れはしないよ。4回目200点だったからなぁ・・・。」
「2教科って事は低学年の時か・・・。」
中百舌鳥さんはそんなことを言っていた。本当に5回目199点だった時は悔しかったからな・・・。
「でも、お父さん許してくれたんだ。」
「・・・良かったね、許してもらえて。」
「うん・・・。だから、お父さんには今でも感謝してるんだ。」
「へぇ。あっ、輝君一つ言い。」
「何。」
「あなたのお父さん、何の仕事してるの。」
「県の会計士だよ。」
「そうなんだ・・・。」
新快速は減速を開始し、摂津富田を通過する。まもなく高槻とのアナウンスが車内に流れるが、モーターが爆音を放つためほとんど聞こえない。ちょうど僕の前にいる転クロに座っている人が荷物をまとめ始める。僕は床に置いている鞄を開け、ノートを取り出した。
高槻に停車するとその人は僕が思ったとおり下車した。
「よくあの人が降りるって分かったわね。」
「それくらい分かるよ。そう言う人を見る目は肥えてると思ってるから。」
「所々に鉄ちゃん発言があるわね・・・。」




