484列車 輝の休み
日曜日、私は守山駅に来ていた。今日ここに来ている理由は・・・。
「ハァ・・・ハァ・・・。ごめん、遅れた。」
顔の前で手を合わせ私に謝ってくるのは輝君だ。
「遅い。何してたの。」
「本当ごめんなさい。出る前に勉強してたら、いつの間にか集合時間過ぎてたんだ・・・。本当にごめんなさい。」
「・・・勉強かぁ・・・。熱が入るのはいいけど、ちゃんと集合時間ぐらい守ってくれてもいいじゃない。」
「・・・そうだねぇ・・・。返す言葉もないよ。今度は気をつけるから。」
輝君の声はどんどん小さく、表情はどんどん重くなっていく。ああ、相当気にしてるなぁ・・・。
「私は別に怒ってないから。むしろ、何かあったんじゃないかと思って心配してたんだから。」
「・・・。」
「早く、遊びに行こうよ。」
「・・・分かったよ・・・。」
ICカードを改札機にタッチして、ホームに入る。守山から新快速に乗り込んだ。
「通学以外で電車に乗るってないなぁ。輝君は時折電車に乗っているの。」
「うん。時折大回り乗車とかしてるよ。でも、大回り乗車している間も勉強とかしながら移動しているんだけどね。今まで何回和歌山と奈良の間や近江塩津から尼崎の間を移動したことか分からないよ。」
はいっ・・・。
「えっ、輝君って電車乗っている間も勉強しているの。」
「うん。和歌山線は3時間ぐらい乗っているし、新快速には2時間ぐらい乗ったままだからね。いい勉強場所になっているよ。近江塩津から乗った時は必ず座れるし、和歌山線は混んでないからね。」
「・・・。」
勉強場所が電車の中かぁ・・・。確かに、輝君の学力はかなり上がっている。でも、その裏にそんな事情が隠れていたなんて。私でもそんなことは知らなかった。一体どういう生活しているの・・・。
「今勉強道具は・・・。」
「持ってるわけないでしょ。30分無駄にしたくないは本音だけど、中百舌鳥さんと会うのに必要ないでしょ。」
「・・・あっ、うん。そうだよね。変なこと言ってごめん。」
「でも、電車の中で勉強なんて。勉強はかどる。」
「はかどるよ。勉強なんてほとんどの人、気にしないから。むしろ、電車の中でカメラを持っていることのほうが目立つし・・・。」
輝君の言うことは分かる気がする。電車の中でカメラを持っている人はいかに持て感じだけど、勉強道具を高校生ぐらいの人が持っていても何も違和感ないし。あれ、でも待って・・・。
「でも、勉強の度に電車乗ってたら、お金結構かからない。」
「280円ぐらいしかかからないよ。守山から栗東の間140円あれば乗れるし。その間を湖西、大阪、和歌山、奈良の順番の回ってくるだけだし。」
何かいろいろとおかしくない。湖西、大阪、和歌山、奈良の順番にまわってきたらそれこそお金がかかって280円で済まなくなるんじゃ・・・。まさかとは思うけど、輝君・・・。
「あの・・・。中百舌鳥さん。」
「はっ・・・。」
「あの一つ言っとくけど、僕キセルとかやっていないからね。」
そう言うと輝君は少し間をおいてからまた話し始める。
「大阪のJRには大都市近郊区間って言う路線があって、その路線だけを利用して移動する時はどういう経路を通っても目的地までの最短ルートの運賃で乗れるって言う特例があるんだ。つまり、隣の駅に行くのに湖西をまわってきても隣の駅に行くだけの運賃で電車に乗れるんだ。」
「分かったような、分からないような・・・。」
「・・・ああ、でも考えてみれば、僕中百舌鳥さんと会っている日以外は毎日勉強してるかも・・・。」
「そこまでしないと東海には行けないの。」
「さぁね。やったから東海に行けるとも限らないし・・・。でも、やらないよりはましだと思う。」
「・・・って、輝君。さっきから勉強の話ばかりじゃない。」
「ごめんなさい。ところで京都に行ったら何する。映画でも見に行く。」
「いいわ。何見ようかな。」
そう言うと私はスマホを取り出し、今上映している映画は何があるかを調べる。
「中百舌鳥さん・・・。」
「何。」
「京都でちょっと用事があるんだけど、映画行く前でいいかな。」
「どうしたの。用事って。」
「いや、恥ずかしいんだけどちょっと前に大回りした時に荷物を列車の中においてきちゃって。それ取りに行かないとダメなんだ。」
「ダメッ。映画の後でないと私、もう帰る。」
「あっ、ごめんなさい。分かった、映画の後に行くことにするよ・・・。」
「冗談。大事なもの入ってるんでしょ。」




