465列車 何しに来たか?
今日は簡単なオリエンテーションで一日が終わる。まぁ、これから先は実習やらなんやらで忙しくなるだろうからなぁ・・・。ウチは貰った資料を全部鞄にしまい、帰る準備をした。生徒の会話は学校が終わって遊びに行くことに変わっている。
「これから舞浜に行こうと思うんだ。行こうぜ。」
舞浜かぁ・・・。TDLにでも行くのかな・・・。ウチはTDLには興味ないからなぁ。修学旅行で行って以来一度も行っていない。そもそも、並んでまで遊園地に行きたい・遊びたいという価値観をウチが共有できないからである。
「僕はこれから日暮里に行こうと思うよ。「四季島」取りたいしね。」
「E001系かぁ・・・。「四季島」は何度も撮ってるから俺はパスかな。」
会話が鉄道ばかりだ。ウチも東京の列車を見ることはほとんど無いからな。部屋に帰ってカメラを持ち出して撮りに出掛けるのもいいだろう。
「永島君はこの後どこかに出掛けるの。」
後ろから沼垂が話しかけてきた。
「うーん・・・。ウチは別にどこにも行かないかな。沼垂はどこか行くの。」
聞き返してみたが、沼垂も首を横に振った。
「俺も今はどこにも行かないかな。通学だけで疲れたから、今日はまっすぐ寮に帰ることにするよ。」
確かにそうだな。降ろされたり、人の量に圧倒されたり・・・。あんな朝を迎えるのかぁと思うだけで憂鬱になる。それにしても・・・、
「へぇ、寮に住んでるんだ。ウチも寮に住んでるんだ。」
「どこの寮。」
「金町だよ。」
「金町かぁ。俺も金町なんだけど。もしかしたら、同じ寮だったりしてね。」
「光ちゃん。」
そう話している間に亜美がウチの席の前に来ていた。
「帰りましょう。」
間髪入れずに、ウチに帰るよう促す。
「あっ、うん。」
ウチは鞄を手に席から立ち上がり、沼垂に「じゃ、また明日」と声をかけて、クラスを出た。廊下には会話が絶え間なく聞こえてくる。しかも、その話の大部分が鉄道の話だ。
「ケヨ○○編成が・・・。」
「前に国府津からコツが来やがって・・・。」
(・・・理解不能だ・・・。)
「光ちゃん、忘れてないでしょうね。」
昇降口に向かうながら、亜美が聞いてきた。
「忘れてないって。」
「私達は東京に遊びに来たわけじゃない。もちろん、遊ぶなとは言わないわ。」
そのことか。
「忘れるわけ無いでしょ。でも、ちょっとくらい話してもいいんじゃないかな。」
「ちょっとぐらいならね。ただ、溺れることのないように。」
「・・・。」
亜美の価値観って言うのはどうも理解できない時がある。しかし、今亜美が言わんとすることも分かる。確かに、ウチは鉄道員になるために今ここにいる。遊びすぎるのは禁物なのだ。
ウチは何も言わなかった。ただ首を縦に振るだけにした。