479列車 約束の話
うーん。高速を結構飛ばしてきたからなぁ。だが、エンジンを見る限り調子は良さそうだ。買い換えを考えるべき何だろうが、ウチの財政事情からしてもまだこれの維持費が結構かさんでいるわけじゃないしなぁ・・・。どうする・・・。
「お忙しいところ失礼します。」
その声がしたので、振り向いてみると光君のお友達が立っていた。
「もしかして、嫁が俺のこと呼んで来てっていったり・・・。」
「そのような件で参ったのではありません。」
「だよな・・・。ここに来たのは君が知りたいっていってたことを話しに来たって事かな。時間が見つかればこっちから行くつもりだったけど・・・。」
「・・・。」
そう言いながら、俺は車のボンネットを閉めた。
「いつもこうして車の点検をなさっているのですか。」
「ああ。なんせ古い車だからな。親父が新車で買ったものを俺が大学生の時に譲って貰って、今までずっと乗ってるからな。走行距離とか経年とか。いろいろ考えたらもう廃車にしてもいいレベルなんだがな。」
「今のご時世を鑑みる限り、この車を維持するには相当のお金がかかっているのではないでしょうか。エコカー減税適用対象外でしょう。見るからに20世紀の香りが漂っています。」
「・・・そうだな。家計のこと考えたら、絶対に買い換えたほうがいいだがな・・・。とその話をしたいわけじゃないな。」
そう言い、俺は近くにある椅子を取り出し、座るように促した。友達は座ると、
「自己紹介がまだでした。私、崇城亜美と申します。」
「・・・崇城ってあの崇城コンツェルンの。」
「左様です。私はその崇城コンツェルンを経営する崇城伊珠那の娘でございます。」
そうなんだ。崇城っていう名は個人的にもよく知っている。まさかまたその名前聞くことになるとは思わなかったなぁ。
「では、早速本題へ入らせていただきます。この先の遠江急行の経営は。」
「遠江急行の経営方針は地元に根付いた公共交通機関として移動というサービスを提供することだ。」
「・・・。」
「地味とでも思った。」
「いいえ。地味とは思いません。鉄道は公共の福祉。地元を見放すダイヤ編制を行えば、車社会である静岡県で鉄道は生き残れない。とても立派な経営方針です。」
「ちゃんと分かってるじゃないか・・・。」
俺が言うことに何も驚きはしない。ファン目線の一方的な主張もない。だが・・・、
「思った通りの答えで面白みはなかったな。」
「あなたが謝る必要はありません。冒険をするようなものではないでしょう。」
「そうだな。」
冒険をするようなものじゃないか。その通りだ。冒険をして新路線を開業させるのもいいかもしれない。だが、静岡県ではそういう場所がない。あったとしても採算性はほとんどないまたは採算性があってもそれはJRとほとんどの区間で併走することになるか。
「お話を変えましょうか。遠江急行はこの旅新型車両を製造するそうですね。」
「ああ。3000系のことか。」
「はい。3000系は現状の2000系から走行機器に使う素子をIGBTからSiCに変更する点。車内のスタンションポールやつり革には蛍光色を用いて、非常時に捕まりやすくする点。それ以外は現状の2000系から変化は無し。車体も普通鋼を用いる・・・。新型機器を取り入れながらも、低コストで車両を新造するのですね。」
「・・・普通鋼にしたのは現状最もコストを抑えられるから。ステンレスやマグネシウム合金を用いたいところだけど、まだマグネシウム合金の値は高いからな。」
「しかし、マグネシウム合金は加工にとてもコストがかかりますが、製造された後は機器更新や車体更新だけで、何年も用いることが出来るのでは。車両の寿命は30年程度ですが、走行に関係する箇所に深刻な損傷がなければ使用を継続できる。普通鋼よりはそのほうが長い目で見ると安くなるのではないでしょうか。」
「JRほどハードな車両運用をするわけじゃないからな。だから、普通鋼でも十分なんだよ。」
「なるほど・・・。」
「淳おじさん、亜美ちゃん。」
ふと声がする。顔を上げると智萌が手を振っている。それでだいたい察しが付いた。
「さて、ご飯でも食べに行くか。」
「はい。」




