474列車 鉄の議論2
「にしても、東海旅客鉄道から出てくる新型車両は全部外国向けになってないか。」
「・・・日本の市場に魅力が無いって訳じゃないけど、人口は少ないからね。多少子供の人口が増加傾向に転じたからってそれがJRに本格的にお金を落としてくれるようになるのは20年ぐらい後。最初に増加に転じた歳に生まれた子で計算しても14、5年後ぐらいになるだろうしね。」
「・・・。」
「なぁ、永島・・・。崇城の頭の中はハードディスクか・・・。」
小さい声で香西が聞いてきた。
「さぁ、少なくともハードディスクじゃ無いと思うけど。」
ウチも亜美の情報量の多さには驚かされるところがある。日本の子供の人口が増えた歳なんてそうそう覚えているものじゃない・・・。
「まぁ、民間企業である以上仕方が無いわね。」
ウチらがそういう話をしている間も亜美は言葉を続けていたらしい。
「・・・皆に聞きたいんだけどさ、JRってどう思う。」
「またざっくりとした質問だな。」
香西が言う。確かに、一体今度は何について答えればいいというのだろう。
「・・・じゃあ、こうしましょう。JRの失敗って何。」
「・・・失敗・・・。」
沼垂、香西の声がそろう。ウチは何も言わなかったが、JRの失敗って何だろうかと思った。
JRは皆さん知っての通り日本を代表する民間の鉄道会社である。大本は日本国有鉄道という公的機関であった。数多くの不採算路線や運賃値上げによる鉄道利用者の減少によって。赤字を垂れ流し続けていた国鉄は最終的に旅客鉄道6社と貨物鉄道1社に分割民営化されて今に至る。
失敗らしい失敗なんて今言った中にはない・・・。
「失敗らしいところがないな・・・。まぁ、強いて失敗があったって言えばJR北海道みたいなことか。」
香西が言う。
「・・・北海道民として耳が痛いな。」
沼垂が言った。
「・・・うん、確かに。それぐらいじゃないかな。」
「崇城はどう思ってるんだよ。」
「私。私はね、分割民営化そのものが失敗の一つだと思っているわ。」
えっ、そこから・・・。
「いや・・・。実際鉄道は便利になってるんだろ。国鉄の時よりはさ。」
「確かに、国鉄の時より列車は増えたでしょうね。地方都市じゃ短編成化による列車増発で総体的に鉄道の利便性は向上しているわ。でも、その波及効果があったのは都市だけって言うこと。それは見落とされがちなことだわ。」
ウチは少し考えた。お父さんやお母さんの言うことを頭の中で思い出そうとした。お父さんもお母さんもキハ120系の走るところはあんまりいい印象を持ってないみたいだし・・・。そういうことか・・・。
「つまり、栄えるところはもっと栄えて、枯れてるところは更に枯れたって事か。」
沼垂が言った。
「ウチもそう思う。JRで失敗って言うのはそういうことだよ。そうだよね、亜美。」
「ええ。その通りよ。西日本旅客鉄道がいい例ね。アーバンネットはかなり鉄道利用する上で便利だと思う。でも、中国地方に走っている木次線や福塩線では時速25キロで走る区間を多くしたり、冬季長期運休措置を執ったりして保線費用の節約を行っている。少なくとも、国鉄時代は列車本数が今より少なかったかもしれないけど、時速25キロで走ったり、長期運休したりすることはなかったはずよ。」
言えてるなぁ・・・。ていうか長期運休って・・・。そういうことをしても誰も困らないって事なんだろうな。
「それに三島社は今も半民間の特殊法人のまま。北海道旅客鉄道や四国旅客鉄道がグループとして黒字になるのは税金を投入するからに他ならない。」
三島社とは北海道旅客鉄道、四国旅客鉄道、九州旅客鉄道の総称である。
「えっ、マジで。」
「マジよ。北海道旅客鉄道や四国旅客鉄道は鉄道単体で黒字を出したことは無いと言ってもいいわ。」
「まぁ、そうだろうね。北海道旅客鉄道はあの保線データの改竄以来各路線の営業係数を公表しているから、よく分かってたけど・・・。」
そういえば札幌から新千歳空港などを結んでいる千歳線でさえ営業係数が100を超えているからな・・・。北海道新幹線の新函館北斗~札幌間開業以来千歳線の営業係数は多少悪化したからな。
「結局税金投入して赤字を相殺するなら、やっていることは国鉄とほとんど変わらない。西日本旅客鉄道の場合は中国地方の地方交通線の赤字を新幹線やアーバンネットの黒字決算で相殺しているから他の三島社とは違うけど・・・。まぁ、簡単な話国が持ったままの方が結果的には良かったのよ。都市は違うけどね・・・。」
亜美って鉄道が好きなわけじゃ無いのかな・・・。
まだまだ鉄道ファンの鉄道ファンによる鉄道会社の議論は続く・・・。




