473列車 鉄の議論
JRのプレスリリースに目を通す日々が続いている。
「あぁ・・・。」
ウチは背伸びをしてから眼鏡を取り、手で目を押さえた。さすがに目が疲れたなぁ・・・。
「・・・。」
それにしてもたくさんの情報が発信されるものだな・・・。各種企画案内、新駅舎供用開始案内、列車運行の改善、対応不手際などに関する報告。旅客鉄道6社でかなりの情報が発表される。
例えば、JR東海は最近N700Sの次期新型車両N700Fの営業運転開始を発表している。営業運転は7月3日7時03分発「ひかり463号」からだそうだ。6月3日10時は日本全国の鉄道ファンがマルスに集中するだろうなぁ・・・。そう思いながら、ウチはスマホのもドルのアイコンをタッチしてホーム画面に戻した。
「何見てたんだ。」
沼垂が聞いてきた。
「エロ画像。」
香西はウチが答える前にそう言った。・・・ウチは学校でエロ画像見れるほど肝は据わっていないって。
「プレスだよ。」
「またプレス。」
香西は呆れたように言った。
「永島は本当によくプレスリリースを見ているね。僕もプレス見ようかな。」
「プレス見てどうするんだよ。アレはJRが俺たちにいろんな事発表してるだけだろ。」
「・・・そうかもしれないけど、これから会社が何をするのかっていうのは尻手おいた方がいいんじゃないかな。就活で奴に立つかどうかは別にして、会社の方向性を知っておくのと知らないで会社に入るのとじゃ、後々感じることは違うと思うけど。」
ウチがそう言うと香西はため息をついた。
「あのなぁ・・・。そんな意識高い系の発言をやめ・・・。」
「光ちゃんの言ってることは間違ってないと思うわ。」
亜美が会話に入ってきた。
「崇城さん。」
「私達に必要なのは情報。企業だって何も知らない人間よりも少しは企業理念や経営方針を知ってくれている人間を雇いたいからね。」
「・・・やっぱりそうなのかな・・・。」
沼垂が言う。
「そう言うものよ。だから、見といた方がいいわ。役に立つ、立たないは置いておいてね。」
亜美はそう言いながら、近くに椅子に腰掛けた。
「・・・それよりも。」
香西はちょっと声を張り上げた。
「7月3日に東京駅行かねぇか。」
そう言った。ウチはちょっと何を言っているかが分からなかった。亜美はすぐにその意味が分かったようで、
「私は遠慮しとくわ。N700FはこれからどんどんN700Sを置き換えて体制派になっていくんだから。私はN700FよりN700S派だわ。」
「ウチも遠慮しとく。あんまり人ごみ行きたくないし。」
「何だよ。つれねぇな・・・。」
香西は沼垂のほうを見たが、沼垂は何も言わずに目線をそらした。
「ああ。そうかよ。分かったよ。俺一人で行ってくるから。」
ちょっと怒り気味だ・・・。
「私はああいう所、あんまり好きじゃないのよ。同族嫌悪って訳じゃないけど、撮り鉄には常識無い奴が少なからずいるでしょ。私はそう言うところにいるごく少数と同一視されたくはないのよ。」
と言った後、話題を変えて続けた。
「それはそうと、今回のN700F。どんな車両だと思った。」
「えっ。」
どんな車両・・・。どんな車両ってどういうことだ。そう思ったのはウチだけじゃなかったようで香西がそう亜美に聞いた。
「どんな車両って言うのはN700Fが何を元に設計された車両であるか。その設計思想よ。」
そう聞いてからウチは考え込んだ。N700Fは先ほどを書いたとおりN700Sの老朽置き換えを目的とした車両。最高速度は従来型と同じ東海道:285キロ、山陽:300キロで変わらない。全周幌も車体間ダンパも継承されるみたいだし、車両に搭載する機器の配分をN700S同一にしたり、技術革新による機器軽量化による重量減。・・・アレ、目新しいことどこにも泣くね・・・。
「特に新しいこと無い・・・。」
「そうね。「未来」のN700系を名乗るには本当に特徴が無いわ。でも、N700Fの目的は日本国内向けではあくまでN700Sの老朽置き換えようでしかない。本当は外国向けに製造されたN700-|Internationalの次期新型車両として導入を検討して貰いたいからよ。主にアメリカテキサス高速鉄道にね。」
「へぇ・・・。」
沼垂のつぶやきが聞こえる。
「鉄道車両一つでこういう味方って言うのもあるのよ。」
亜美は香西に向けて言う。
「難しい話はよく分かんねぇ・・・。」




