旧友と
その夜、ペンギンから提案があった。中学時代に友達と呼ばれたやつらと会ってみたらどうだということだ。あってもどうしようもない。
一度このことについて話してみたことがあった。その時は僕の話を聞いているのか聞いていないのかわからない。あんなやつら今は友達なんかじゃないよ。携帯にアドレスだけは入っているから会おうと思えばあえるけど。どんな口実で会えばいいんだ?
「なんだっていい。相談したいとか、遊ぼうとかな。とにかく会えばいいんだ」
なんでまた……。
僕はしかたなくペンギンの言うとおり中学のころ、たまに遊んでいた二人にメールを送った。
返事は二人ともすぐに帰ってきた。
『明日の五時ごろからならいいよ』
二人ともだいたい同じ内容だった。
驚き。メールが返ってきたことだ。あの二人の中では僕がまだ存在していた。それだけで少し嬉しかった。
その夜、眠りにつくまで余韻に浸っていた。
次の日も学校へ行った。今日はおとなしくしてよう。夜にはあいつらと会うんだ。大丈夫。もし昨日の報復とかにこられたらどうしよう。今日もペンギンはバッグの中にいるから安心はできるんだけど……。
僕が教室に入って席に着くと昨日の話しが聞こえてきた。体に痛いみがあるがそれがなんなのかわからず、放課後のことは覚えていないらしい。朝起きたら全員が同じような痛みだったようだ。覚えてないならいいか。僕がおとなしくしてればあいつらも殴ってきたりはしないだろう。今までがそうだったように。僕は空気だ。人から認識されていない。
放課後。声をかけてくる人は誰もいないので僕はそのまま教室を出た。見向きもしない。ペンギンが入った大きいリュックを持って教室を出る。扉のところで違うクラスのやつとぶつかった。僕は少しよろめいたが、相手は何もなかったように教室のなかに入る。あの人にも僕は見えていなかった。
家に着く。まだ四時を少し回ったばかり、中学の同級生と会うのは近くの喫茶店だから十分前に出ても間に合うのだ。ペンギンをバッグから出した僕は部屋のなかをグルグル回っていた。落ち着かない。人と会うだけでこんなにもドキドキするとは思わなかった。自分の好きな人ならわかるが、ただの同級生。しかも相手は男だ。ペンギンはただ僕を下から眺めていた。
五時になり約束の喫茶店に行く。僕がついて程なくして二人が一緒にあわられた。
「相談したいことって何だよ」
席についてウーロン茶を店員に頼むなり、僕に聞いてきた。今回は相談したいことがあるというふうに呼び出した。ペンギンには、ただ会えばいいと言われていたので話す内容を考えてなかった。僕は前にも話したことを話す。クラスに友達ができないこと。その解決方法について相談した。
「普通に過ごしてれば自然と出来るだろ」
「そうそう、中学のときはこのメンバーでやってきたんだから」
また同じだった。逃げた考え方だ。自然とできるわけがない。二人は知らないだろうが、二人に近づけたのは会話の流れでとかではなく、僕が必死になったから。僕がなにもしなければ二人とはこうやって話していないだろう。
「そんなことよりさ。あのゲーム買った?」
「あの画期的な格闘ゲーム? 戦いで負けても勝ったことになるっていう……」
「そうそう斬新だよな~」
二人はすぐに違う話に入った。興味のない話になるとすぐこれだ。やっぱり、僕の相談を聞く気はなかったんだ……。でも、ここですぐに引いたらだめだ。僕の悩みをわかってもらおう。悩みを共有してもらう。悩みを解決してもらおう。そうだ。こいつらとは友達なんだ。
「あのさ……」
僕がしゃべりかけると二人は会話をやめて僕を見た。
「本当に悩んでるんだよ。お願いだよ。助けてよ」
二人は困惑した表情を浮かべた。しばらく沈黙が続く。気まずいと思ったのは僕だけではないはずだ。
「助けてっても……なぁ」
「無理だよ……なぁ」
前の席にいた二人はお互いを見合った。
「自分でなんとかするしかないだろ」
「俺たちに助けもとめるなよ。そういうのちょっとウザいぞ」
ああ。そうか。この二人ともやっぱりお別れだ。以前話したときと同じだ。二人ともダメなんだ。
僕は満面の笑みで二人に言った。
「そうだね! それしかないよね! ごめん! 変なこと言って。ここは僕が払っとくから。それじゃ」
変なテンションだったかもしれない。不自然だったかもしれない。だけどそれでもかまわなかった。
僕は机の上の伝票を持って先に席を立った。二人はまた困惑していたようだが、僕の姿が小さくなると次の瞬間にはもう笑い声が聞こえてきた。また二人の世界。ゲームの話しをしている、僕に入り込む余地はなかった。はじめから二人は僕の話を真剣に聞くつもりなんてなかったんだ。
これで友達はいなくなった。友達ってなんだろう。