学校にて
ペンギンを入れたバックはかなり大きかった。さらに教科書なども入っているので重さは倍増だ。普通、教科書なんかは学校においていくものなのだろうが、僕がそれをしたらきっと破かれて捨てられるとかするんだろう。僕の思いすぎか……。そんなことをする労力すら惜しいかもしれない。
教室につくとまだ僕の席はあった。昨日はあんなことを言われたけど教室には僕の居場所はまだあった。少しほっとする。
ペンギンが入った鞄はかなり大きかったが、なんとか机の隣においても問題はなさそうだった。静かに鞄を置き、中から教科書などを出す。こんな大きな鞄を持ってきて目立つかと思っていたが大丈夫そうだった。後は平穏にすごせればいい。
でもやはり考える。
今日もみんなの輪の中に行ってみようかな……。
今度はうまく入れるかもしれない。最初になんて言おうか。「何話してんの?」と、昨日はなにもなかったようにいつもの軽い調子で行くのか。「昨日はごめん! 僕が悪かったよ。悪いとこは治すからバンバン言ってね!」と、笑いながら行くとか。
そもそも僕を殴ったグループに近付く必要はないんじゃないか? 僕を昨日殴ったのはクラスでも一番活発なグループだ。文化祭の話し合いはそこを中心に話し合うし、決定権もそこが持っている。だいたいこういう人たちは本人に自覚はないのだう。「みんな発言権を持っている」とか「みんなの意見を聞いた結果だ」とか言っているが関係ない。クラス全体がそういう流れになっているのだ。
「あいつらの言っていることは正しい」「言ってもどうせみんなは受け入れてくれないから」「あいつらに任せれば面白くなる」
だから誰も覆がえさない。一番発言権のないグループがなにを言ってもそいつらの意見が反映されることはない。全て上がもみ消すか、すごくいい意見でもそれを上の人が言ったようにされてしまうか。
よし! クラスでの発言権が二番目のグループに行こう。今日は大丈夫。一番のグループは僕が近寄るとあまりいい顔はしない。二番目もそんなものだが上よりはましだ。今日はみんなの輪の中に入ろう。入れるはずだ。根拠のない自信があふれ出てくる。
僕が席を立とうとしたときチャイムが鳴った。今日はなんでこんなに早いんだ? 荷物のせいか。このせいで学校へ来るのがいつもよりかなり遅れてしまった。ギリギリに到着していたんだ。次の休み時間にでも話しかけよう。
やっと一時間目が終わった。英語の授業だったので時間の進み方が特に遅かった。話しかけてみよう。
あのグループはいつも同じ机周辺で話している。今日はどんなことを話しているのだろうか。自然に入ろう。
「何話してんの?」
後ろから話しかけた。
いたって平静を保っているつもりだ。実際は胸がドキドキしてしかたないけど……。
僕が話しかけたら机に座っているやつが反応し振り返りそうになる。やった! もしかして今日は成功したんじゃないか? 普通に話しかけられたのではないか? それだけで飛び上がりそうだった。でもそんなことはしない。我慢だ。後で一人になったときに大いにはしゃげばいい。
振り向こうとした瞬間、一緒に話していたやつがそれを無言で静止する。次の瞬間には何もなかったかのように話を続けていた。
また……。
授業のときに僕に手紙が回ってきた。こんなこと初めてだ。さっきの会話でみんなの輪に入れるきっかけが出来たのではないだろうか。後ろを向きそうになった人が悪いと思って僕に手紙を出してくれたのではないのだろうか。僕はワクワクしながら四つ折の手紙を開ける。
『ほうかごきょうしつでまつ』
手紙にはそれだけ書かれていた。
放課後。僕は上のグループに呼び出された。場所は教室。みんなが帰るか部活へ行った後の教室にいろと言われた。また殴られる。そんな予感がするのに僕がここにいるのはなぜだろう。存在を否定された僕はなんで存在しているんだろう。一人教室にいると余計なことを考える。もしかしたら昨日のことを謝りにくるのかもしれない。そうだ。そう考えよう。プラスに考えればきっと結果がついてくる。前に相談した人もそう言ってたし。
教室には僕一人になった。あいつらはいつくるのだろう。椅子に座って待っていることにした。
十分……十五分……二十分……。いつまでたってもこない。僕はそのとき気づいた。騙されたんだ。今まではこんなことはなかったのに。僕は無視されていただけだから騙されることはなかった。ああ。騙されるのもこんなに空しい気持ちになるんだ。心は痛くならなかったけど空っぽだ。
僕は帰るためにバックに手をかける。そのときだ。教室のドアが開き、人が入ってきた。心臓が跳ね上がる。騙されていなかった。自然と笑顔がこぼれる。バックを床において立ち上がりみんなに近づいていく。
僕はなぜか顔を床につけていた。
「学習能力ないなお前」
「調子乗りすぎ」
次々に何か言ってくる。あれ? 力が入らない。動けない。何も聞こえない。次々に踏まれている。痛いけどいいや。何もしたくなかった。ま、気が済むまでけらせてればいいか。もう、めんどくさかった。感覚がよくわからなくなってきてるからラッキーだ。痛くないや。このまま寝てよう。
「そこまでだ。坊主ども」
声と同時に僕を踏むのが止まった。視線をバッグの方へ向ける。かろうじてなにかが見えた。あれは……。
「そのくらいで気が済んだだろう」
全員が静まり返っている。驚いているのも当然か。いきなりペンギンが登場したんだから。
「なんなんだお前!」
一人が叫ぶ。
「見てわからないか? ペンギンだよ」
そんなことは誰でもわかるだろう。疑問なのはなぜここにペンギンがいるのか。なぜペンギンが喋るのか。
「よかったのは最初の一発だけだな。それで十分だった。踏む必要はなかっただろう」
静まり返る教室。ペンギン以外の時間が止まっているかのようだった。
「お前らは調子にのりすぎだ」
喋るペンギンに全員釘付けだった。しばらくするとざわめきだした。ペンギンがなんでこんなところにいるのか。なぜ喋るのか。なぜ僕のバッグから飛び出してきたのか。疑問は山ほどあるだろう。
全員が戸惑っている中、上のグループでもリーダー格のやつにペンギンが飛び蹴りした。みぞおちに一発。ペンギンはその場に無事に着地。相手は教室の中央から窓際まで吹き飛ばされた。相当な威力だ。本当にそこいるのはペンギンなのかと疑いたくなる。
「これであいこだな。後のやつらは同じ痛みを味わいな」
僕を踏みつけていたやつらが、突然バタバタと倒れ始めた。なにが起こっているのだろうと考える間もなく。僕の意識が飛んだ。
続きもよろしくお願いします。