出会い
この世界には辛いことが多すぎるんだ。
僕はこの世界が嫌になった。なんの希望も見出だせない。こんな世界が。こんな世界はなくなってしまえばいいと思った。だから自分から壊しにいく。自分からこの状況を変えていかなければと思った。でも僕にはそんな力はなかった。僕はいじめにあっているのだが、そいつらを打ちのめすこともできない。僕が近寄ろうとしてもみんな遠ざかっていく。やめてくれと言っても聞いてくれることはなかった。それはなぜか。僕が弱いから。僕が弱いからいけなかった。強くなりたかった。でもそんなことは不可能だ。人は生まれながらに……はいいすぎだが始めにその人と会ったときにすでに順位が決まってると思う。上下関係、クラスでの順位。発言権のある人と発言しても流される人。当然のように、僕が発言しても流される。僕の声は誰にも届かない。みんな聞こうとしないんだ、僕の話す事なんて……。僕に力がないから。もっといい人間に生まれてきたかったな。なにを言っても、もう遅いだろうけどさ。
よく「自分の思い一つで人は変わることができる。」っていう人もいるけどさ、もう生まれてしまった見えない上下関係は逆転させることなんて不可能だ。
それは一番自分がわかっていた。だって実行したのだから。変わろうとしたんだ。気持ちをプラス思考にしてポジティブに生きている期間があった。些細なことでも幸せだと思う時を自分から作った。
だめだった。
クラスのみんなからは少し明るくなっただけで気持ち悪いと呼ばれ、少し活動的になるとみんなの目が冷たかった。その後すぐに僕は元に戻った。
そして今ここに立っている。学校の屋上。
普段は入れなくなっているが無理矢理壊した。初めての悪いこと。もうすぐいなくなるんだからこのくらいは大目に見てほしい。
結局世界を変えるにはこんな方法しか思い付かなかった。僕がいなくなることによっての世界の破滅。破滅するのは僕の世界だけだけど。フェンスをよじ登った。よくドラマとか、学校で自殺をする人と同じ場所に僕は立っている。本当に僕がドラマかなにかに出ているみたいに思えて来た。段々考えるのが面倒になってきた。死ぬか。僕がそう思って重心を前に傾けようとしたとき、扉の開く音がした。先生だろうか。そうすると飛び下りる前にここに僕がいることを説明しなければならない。面倒だな。一応振り向く。そこにどんな人物がいようと僕は今の考えを変える気はなかった。だけど最後の僕を見る人の顔くらい知っておこうと思った。なんとなく振り向いたんだ。
そこには誰もいなかった。そう誰一人。扉から出てきたのは一羽のペンギンだった。なんでこんなところにペンギンが……。
「自殺か? 自殺はいかんな。やめたほうがいいぞ」
多分、今のはこいつから発せられたんだろう。このペンギンから。
「悩みがあるなら言ってみなさい」
辺りには誰もいないしくちばしが動く時に声が聞こえる。やっぱりペンギンが喋ってるんだ。
ペンギンなんかに僕の悩みがわかってたまるかよ。
普通に会話した。いけない、なにやってるんだ。ペンギンが喋るなんてありえない。そもそもなんでここにペンギンがいるんだ。
「俺がお前の悩みをわからない? じゃあなんだ。人間なら必ずお前の悩みをわかってくれるのかよ。共感してくれるのかよ」
そういうわけじゃないけど……。人間でも僕の悩みに共感してくれたりした人はいなかった。共感というかわかってくれる人。僕を励ましたりしてくれる人は大抵話を聞くだけとか、自分からなにか変えなきゃとか言ってくる。あなたたちの思ってるようなことは全部やったさ。中学時代には友達がいた。でも僕と一緒にいるくらいだからそいつらも下位グループだ。クラスでの発言権は薄い。そいつらは高校に行っても同じような友達を見つけたそうだ。僕は見つけられなかったけど。
だからそいつらにも僕の悩みはわからなかった。だって友達がいるんだから。いじめられてないんだから。
「黙っているってのは図星ってことだな。しょせん人間でもペンギンでも変わらないんだよ。いや鳥のほうがまだましかも知れないな」
鳥ならわかるかもしれない……か。ちょっと話してみようかな。どうせ死ぬことになるんだし、最後にペンギンと話ができるっていう珍しい思い出が作れる。僕は話すことにした。僕がいじめられていることやその他改善しようとしたが失敗して悪化したこと。一通り話し終えるとペンギンの反応を待った。どんな反応が返ってくるのか興味があった。こいつはもしかしたら僕を救ってくれるかもしれないと思った。自殺を止めてくれると思った。本当は僕だって死にたくない。でもこんな世界にいつまでもいても仕方がない。二酸化炭素を排出し、無駄に物を消費しているだけだ。僕が死ねばエコになる。僕がこれから六十年とか生きる分の酸素が誰かに回される。ゴミも減る。そうだエコの精神で僕は死ぬ。
「それがお前のいう全力なら選択肢は一つしかないな」
どんな言葉をかけてくれる? 選択肢ってなんだ?
「死ねよ」
一瞬わからなかった。なにを言われたのか。
「全力をつくしてその程度の結果なら、お前は先の未来もそんな感じだ。生きていてもなんの面白みもないだろ」
僕を説得しにきたんじゃないのか? 最初に自殺はだめだって言ってたじゃないか。
「たしかに自殺はいけないことだ。死ぬ自由を与えられているのは幸福なことだろう。世の中にはそれすらも選べない人間がいるのだから。しかしお前の場合、なにもかもを全力で行い、あちら側に歩み寄り、自分を変えることはできた。いや、変えようとした。だがな、周りを変えることができなかった。周りを変える人間は強い人間でなければならない。強い人間が周りを変えていく。弱い人間はそれについていくしかないんだよ。そしてお前は弱い人間だ。だから周りを変えることはできない。そして周りについていくこともできないだから死ぬしかないんだよ」
僕は弱い人間だ。そんなことはわかってる。でもそんないいかた……。ペンギンも言ってるしやっぱり死のう。
僕は屋上の柵に添えてあった手を放し重心を後ろへ倒した。よし、もう終わりだ。六秒でこの世界ともおさらばだ。
さようなら僕の最後をみてくれているペンギン。
わけがわからなかった。僕は飛び降りたはずだ。学校の屋上から。だけど、今ここは学校の屋上。それも僕が最後にいたフェンスの向こう側ではなくフェンスの内側。なにが起きたんだ……。
「人間。お前は最後に言ったな。エコの精神で死ぬのだと。その言葉を聴く限り、お前はまだ迷っているんじゃないのか? 死ぬことを受け入れてはいないんじゃないのか?」
死にたくない。でも死ななきゃいけない。僕がいることで空気が悪くなってくる。なんとなくわかる。みんなのそういう空気。いや、確実に違うはずだ。僕が邪魔なんだ。
「お前の両親は何も思わないのかよ」
思わない。と、思う。そこら辺はわからない。ただ親とは仲良くない。いがみ合っているわけでもケンカしているわけでもない。お互いがお互いを空気のように接しているだけ。母親は僕を見ないし、僕も母親を見ようとは思わない。
「両親はいいとして、友達は」
あいつらは……もういい。僕の友達じゃなくなったんだ。僕の悩みを真剣に聞いてくれない。昔からそういうやつらだったけど、本気で僕が悩んでるときに手を差し伸べてくれなかった。
「それなら聞こう。人間。お前の言う友達ってどんなやつらのことを指す? 一緒に遊んでいれば友達か? 悩みを聞いてくれれば友達なのか?」
両方……。自分が困っているときに助けてくれて、その友達が困っているときには自分が助けるんだ。持ちつ持たれつっていうのかな。でも、もうそんな友達はいない。中学のやつらは真剣に取り合ってくれなかった。
「絶望したか? 世界に。お前を取り巻く環境に」
だから死のうと思ったんだ。
「そうか……。それが理由か。なら、死ぬのは少し早いかも知れねぇな。俺が一緒に見つけてやるよ、お前の絶望してないものを」
いいよ。面倒だ。ここで一気に死んだら楽になれるし。
「いいからなにも言わずついて来い。人間。俺と一緒に探してみて、なにもないようなら死ねばいい」
ペンギンは後ろを向き、扉の方へ向かっていった。ペンギンらしいよちよち歩きで。その後ペンギンは、期限は四日でどうだ? と言ってきた。僕の苦しみが少し増えるだけだけど。人生の最後に喋るペンギンを見れたしラッキーか、と思うことにした。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
完結までご覧くだされば幸いでございます。