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第六章 学園祭発表テーマ

第六章 学園祭発表テーマ


9月、夏休みも終わり、学園祭に向けた準備が始まった。少し遅い気もするが、例年一ヶ月半程度で仕上げるらしい。元々候補が上がっていて、それぞれ部員が事前に研究を進めているので、まあ基礎は出来上がっているというわけだ。

今日はそのテーマを最終決定すべく、部室への集合が告げられていた。


「では、お願いしていましたように、みなさんが研究テーマとして考えている中から学園祭の発表に使えるものを提案してください。」

「はいはいはいはーい。僕様は”萌言葉”についてお経のごとく羅列した音読発表がしたいです。」

「”萌”については2年前に発表テーマとして使われていますので、類似しているという理由で却下します。」

「ぶーぶー。じゃあインターネット社会で男性が使用する女性言葉研究、つまりネカマとなるための言葉の使い方講座はどうですかぁ。僕様得意です。」

「却下。そして2度死ね。」

「ひどくないっ!?」

変な案が続出する前に、僕が考えてきたアイディアを言ってみることにした。

「じゃあ僕から提案を。近年というわけではないですけど、外国語を取り入れ過ぎだと思うんです。政治活動でもそうだと思うんですけど、公約やスピーチに無駄に横文字を使って意味をわかりにくくしているように思うので、横文字を使うメリットとデメリットについて研究するのはどうでしょうか。もちろんそれぞれの単語によって認知度が違うので、どこまで絞って研究するか難しいですけど。」

「おっ、草野くん、中々いいところに目をつけるね。一応候補に入れておきましょう。」

「はいはいはいはーい。じゃあ関連して提案でーす。インターネット配信の選挙活動ができるようになったことで、頑張ってオタク層を取り込もうとしている政治家殿も多いようです。しかーし!本当にネット民族を取り込むためには見せ方も萌台詞もキャラ設定も足りていないっ!ネット民の心をつかむポイントがわかっちょらん!一部では自分自身を萌キャラとして制作されたキャラクターをブログなんかに掲載していたが、あれは断じて萌キャラじゃないっ!そこでじゃ。実際にネット民の票を取り込むことが出来ればどのくらい選挙で戦えるか僕様が示してやろうではないかっ!」

もはや何を言っているのかわからなくなってきた。発表テーマじゃないぞ木村くん。

「まずレナくんを候補者として僕様が後援会を作ります。」

「後援する立場として私のために死んでください今すぐに。」

「ぶはっ!それでは研究が続けられません!!一度だけは拒否させてください。では続きを。僕様のネットワークを最大限生かしてネット民を総動員し、レナくんの萌画像を1時間ごとにアップし続け、いや、むしろライブ映像がいい!僕様撮影、逃げる萌姿のレナ候補を追いかけるドキュメンタリー!続きはwebで。って最初からwebだった!失策失策。しかしこれで当確間違いなし!徐々に全国的に知名度をあげて、そうだ、萌レナプリントされた選挙カーで全国各地を無駄に巡り、結果的に当選後に入閣を果たし、初の萌大臣となるのだっ!僕様が裏から政治を操り、気付けば時すでに遅しっ、内閣制度は破綻、日本を大統領制に!そして今度はレナ元大臣が僕様のキャンペーン萌ガールとして全国の真正オタク及びニワカオタクの票を集め、日本国初代大統領は木村大統領となるのであった!大統領様となった僕様は萌文化の浸透しつつある北欧及びアジア諸国を足掛けに外交を成功させ、行き着く先は王様となるのだっ!王様ともなればその権力は絶大。15歳以下の女子の私服は僕様の認可したものでなければいけなくなり、飲食店の店員は執事かメイドしか許可しないっ!さらに身長150cm以下の17歳以上24歳未満の女性には国民栄誉賞を与え、中でも北欧系とレナ系は人間国宝とする。水島くんには僕様の秘書を担当、夏樹は受付係、草野にはマヨネーズ係を任ずる。」

「出番いつだよっ!妄想なんだからもっといい地位与えろ!」

「これはフィクションではありません。」

「おーい、僕にも役割くれよー。」

「あっ、武田先輩いたんですか、すいませんすっかり忘れてました。」

「はいはい、暴走は終わりよ。他に意見を出してください。」


そんなこんなで会議が横道にそれながらだったが、最終的にはレナ先輩からの提案で、ミラーニューロンだとかベータエンドルフィンだとかよくわからない言葉が出てきて、それに決まった。要約すれば言葉が脳に与える影響についての研究らしい。


「ふぅ、今日の会議ちょっと疲れたねー。真面目な話って苦手ー。このあと晩御飯食べにいかない?木村くんの奢りで。」

「夏樹よ、僕様に奢ってもらいたいならそれなりの対価が必要だ。少なくとも夏樹には僕様の用意する服に着替えてもらう必要がある。」

「エロいー。」

「さらに草野、君にはマヨネーズ係として僕様のキュートな鎖骨にマヨネーズをつけて責任を持って舐め取ってもらおうか。」

「その腐った脳みそにぶっかけてやる。」

「お前たちはこの親心がわからんのかね。夏樹には低い女子レベルを上げてもらおうと試行錯誤しているのだよ。草野もこのままでは彼女が出来ないまま三十路を迎えてしまうぞ?それはそれでおいしいか、草野も知っているだろ?童貞のまま30を超えると魔法使いになれるんだ。なんと二次元の世界へ自由にトリップ出来るようになれるし、手を使わず発射する能力を自在に操るホーリーバーストを会得できるらしい。」

「聖なる破裂ってお前、性の字が違うだろ!そしてそれはただのム・・・ゴホン!とにかく魔法使いになんかならねぇよアホっ!」

「というのは冗談で、今日は僕様、バイトがあるのだ。というわけで2人で行ってくれたまへ。」

そう言って木村は行ってしまった。また変なバイトじゃないだろうなぁ。

「ったく、あいつは・・・」

ろくなこと言わないよな、そう言い掛けて僕は戸惑った。いつも明るい夏樹ちゃんがうつむいていた。

「やっぱりあたしって魅力ないのかな。」

そうつぶやく彼女は涙を我慢しているように見えた。他愛のない冗談で、いつものことって思っていたが本当は傷ついてたんだ。ずっと気付かなかった。やっぱり彼女は3人で遊ぶのが好きで、木村のことが好きで、もっと一緒にいたくて、木村に優しくしてほしかったんだ。

悔しいけどこんなとき僕はどうしていいかわからない。いつもの冗談だよ、そう言って笑い飛ばせばいいのか?それとも、僕じゃダメか、なんてクサい台詞を吐けばいいのか?わからないまま時間だけが過ぎ、気付くと夏樹ちゃんの頭が僕の肩に乗せられ、少し泣いているようだった。今まで我慢してた線が切れたのかな。恋愛初心者の僕でもここで軽く撫でて慰めるのが妥当ということはわかった。


「ごめんね。」

それだけ言うと夏樹ちゃんはスカートを翻し、駅へと走って行った。僕は無力だ。何もしてあげられないし、どうしていいかわからない。

こんなときどうすれば正解なんだろう。経験を重ねればそれがわかるんだろうか。そもそも正解が存在するんだろうか。

木村への憎悪だけが大きくなり、自分の不甲斐無さを覆い隠しているようだった。


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