第二章 部活
第二章 部活
『失礼しまーす。』
訪れたのはケルベロスが守護するといわれるヘルゲートのように思えるほど開けたくない扉の前。つまり言語研究会の部室のドアだ。
そう、僕は先の大戦での敗戦し、戦犯として連行されたのだった。まだ本当に木村が女の子を入部させたという事実を確認をしていないのが唯一の希望だ。
「あぁ、君が草野くんね。木村くんから聞いてるわ。入部希望ってことでいいわよね?」
おっといきなりポツダム宣言受諾を要請された。っと女性ではないか!聞いてないぞ木村っ!と横目に見るがニヤニヤしているだけ。何が可笑しい!!
「えっと、まあそういうことになるんでしょうか。」
「僕様が連れてきた草野三等兵ですっ!水島先輩、踏むなり吊るすなりご自由に!」
誰が三等兵だ誰が。まあ戦犯よりマシか。水島先輩って確か部長さんと言っていたな。女性だったとは。身長は僕より少し低いくらいで、女性にしては少し高めだが、スレンダーでしかもお美しいじゃないか。色白で鼻筋の通ったお顔。もしかして、いや間違いなく木村の目的は黒髪ストレートの水島先輩だな!?これはこれでおもしろくなってきたぞ。木村大魔王を倒すべくエクスカリバーをゲットしたぞ。
「草野くんの入部で新入部員は3人、言語研究会としては6人よ。よろしくね。」
「えっ?6人ってことは・・・」
「そう、3回生が部長の私、副部長の武田くん、2回生のレナちゃん。そして木村くんとその仲間たちの3人よ。今はレナちゃんともう一人の1回生の子は授業中なので後ほど紹介するわね。」
すでに僕は一戦闘員ってわけですか。それにしても木村はどうやら本当に女の子を入部させたようだ。そして僕を含めた6人の部員のうちなんと3人が女子!なんという素晴らしき予想外。しかも部長は優しそうな、しかもお美しい方だとは言語研究も捨てたもんじゃありませんね。
「じゃあ草野くん、さっさと入部届にサインしちゃいましょうか。」
おお、部長、僕に首輪をはめるおつもりですね。見かけによらずエスですか、と勝手な妄想を展開する僕。これが現実逃避というものか。と考えてるうちに無事(?)に僕の入部は確定していた。
「おめでとう草野くん、そしてようこそ言語研究会へ。部員全員の紹介は歓迎会で改めてすることでいいかな?まだ他にも入部希望者があるかもしれないし。」
いや、おめでたくないし、そしてもう入部する人はいないでしょう、と言いたいのは伏せておき適当に返事をしておく。
「水島先輩!歓迎会はいつですか!?僕様は待ちきれません!今日しましょう、今から始めましょう!」
出たよ、ザ・木村タイム。こいつの独走、いや独奏というべきか、これは僕の前だけではなく、万国共通の災害だったようだ。
「落ち着いて木村くん、ちゃんとみんなの予定を聞かないと。それと草野くん、いきなりで悪いけど君に1回生のまとめ役をお願いするわね。」
「えっ?僕ですか?」
「草野ぉ、やったじゃぁあん!三等兵から鬼軍曹に昇格だ!」
う、嬉しくないことこの上ない。よりによってこの悪魔をまとめろというのか。ジェネラル級の指令ではないか。お断りだっ!
「せ、せめてじゃんけんとか・・・」
「草野くん、1回生で木村くんをまとめられるのは君しかいないんだよ。木村くんはこんな性格だし。」
「武田先輩に僕様の何様がわかるんですかっ!あなたは僕様のお母様ですかご母堂様ですか育ての親様ですかっ!」
ははは、と適当に受け流す武田先輩。僕の入部までの一週間、いろいろとご尽力されたようですね。ご愁傷様でした。
「じゃあ、もう一人の1回生の子は?一応僕より先に入部しているわけですし。」
「草野軍曹!君は軍曹でありながらこの僕様のお世話をよりにもよって、か弱い女子にさせようとしているのですか!?この鬼畜!」
おいおい自分でお世話とか言っちゃってるよ。だいたい僕だって木村と知り合ってからの一週間、何度冷たきホワイトアイ、つまり白い目を向けられたことか。せめて静かに大学生活を送らせていただきたいものです。木村に少しでも関わってしまった以上難しいのは承知のうえだ。しかし、より接近せざるをえない状況というのは、それはイコール学生生活に終止符を打つようなものじゃないか。
ああ、なんて涼しそうな顔をしてるんでしょう木村くん。君が当事者なんですよ君が。そしておもむろに読書を始めている武田先輩、事件はまだ終わっちゃいないんですけどっ!
「じゃあそういうことで頼んだわね、草野くん。」
「僕様を頼んだよ、草野軍曹。」
「・・・・」
草野軍曹公開処刑 完遂




