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第一章 はじまり

第一章 はじまり


「男はなぜおっぱいの谷間に宇宙を求めるのか。」

こんな突拍子もない質問が僕と木村の出会いだった。


僕はこの4月に関西法科大学の一年生になり、大阪に出てきたばかりだ。

友人の一人もなく、入学式で少し緊張していた時に声を掛けられ、そして出会った。出会ってしまった。そしてその御方が出会ってはいけない人物だと悟るまでに時間はかからなかった。まあ、いきなりの質問内容で頭のネジがおかしいことはわかっていたけど、まさかここまでとは。


木村も僕と同じくこの4月からめでたくキャンパスライフをエンジョイできることになったらしい。

本人いわく、国公立の大学に行くつもりだったが、家が近いからという理由で関法大カンポダイを選んでやったという。なんとも上から目線なヤツだ。後で聞いたら全然近くなかったことも判明。適当なことばっかり言うようだ。

そして、どうも僕はこの傲慢な上から目線な適当野郎に気に入られてしまったようなのである。まだ大学での友がいなかったことが災いし、不覚にもさきほどの質問に答え、話し相手になってしまった入学式以来、何かと行動を共にするようになった。なってしまった。


「・・い。おいっ。おい草野、無視すんなよ。この僕様を無視するとはいい度胸だ。これは挑戦か?挑戦なんだな?受けて立とうじゃないか。何勝負だ?アルファ波を増大させたら勝ちでいいんだな?この波使いの僕様に勝てると思うなよっ!」

リラックスしてどうするんだ木村よ。そして波使いってなんなんだよ。

これが木村だ。自己中心的。俺様、いや、僕様主義。解読不可能。ちなみに自称ベジタリアン。

「無視なんてしてないよ、ちょっと考え事してただけ。」

「草野エロいなぁ。」

もうなんとでも思ってくれ。

「考え事と言えば昨日の僕様からの提案を受け入れてくれるつもりがあるってことだな?ありがとう。」

「勝手に決めんな。」

「いいじゃん草野ぉ、僕様と同じ部活に入ろうよぉ、ねーえぇ。」

「うるさい、気持ち悪い。」

「ひどくないっ!?」

そうなのだ。現在僕は木村から、とある部への入部勧誘を受けているのだ。そして昨日からではなく入学式の日から一週間、毎日異なる方法で提案されている。され続けている。

「せっかくの大学生活だからサークル活動はいいなって思うよ。でもなぜ、よりによって言語研究会なんて意味のわからんクラブなんだよ。もっとスポーティに、そう、さわやかにいこうよ。」

「なんだ、さわやかと言いながら、どうせ女子がいそうなテニスサークルとか狙ってるんだろ。」

ぐっ・・・どうしてわかった。何も言い返せないじゃないか。

「い、いいじゃないか、それが大学生活の楽しみみたいなもんだろ?」

「・・・この童貞野郎が。」

冷静になれ草野。ここで焦ったらこの悪魔の思うつぼだ。慎重に答えるんだ。このままでは童貞という烙印を押されてしまう。これではまるで僕が本当に童貞みたいじゃないか。ん?事実だけど認識したくないんですが何か?

「木村も一緒にスポーツサークルにいこ」

「うるさい童貞。」

「ひどくないっ!?」

こうして僕、草野拓斗18歳は童貞という二つ名を手に入れたのだった。

「とにかく言語研究会には入りません。」

「よしわかった。じゃあどうしたら入ってくれるか一緒に考えよう。あっ!僕様の乳首をつまんでいいよ。」

あぁ、僕はもう逃げられないのだろうか。4月のさわやかな午後、大学併設のカフェ”アストライア”。レンガ調の内装で落ち着きのある素敵なカフェだ。

ここに僕の墓標ができるのか・・・ちなみにアストライアは女神の名前らしいので僕の墓標には不釣合いなのだが。

よし、ポジティブになろう。どうせ木村の追随を避けるのは困難だ。この一週間でそれは身に染みてわかった。しかし、せめて一矢を報いなければ。

「じゃあ条件がある。」

「僕様の乳首?」

「それはもういい。僕らと同じ1回生の女の子を同時に入部させること。どうだ?君にできるかな?」

「・・・・・・。」

勝った。我ながら素晴らしいアイディアだ。出来なければ僕はテニスサークル、いや、決して女の子が目的ではないが、純粋にテニスというスポーツをエンジョイするためにだが、そちらに入部できる。万が一にも木村が女の子を、はっ!しまった、僕としたことが・・・木村のような悪しき神童が連れてくるとしたら、間違いなく”とんでもちゃん”じゃないか。前言撤回だ!急げ僕っ!母さんに見つかりそうになったエロ本を隠した時よりも速く!

「なんて冗談はな」

「よし草野っ!お前がそこまで言うなら僕様も僕様だ。一週間いや3日以内にお前の妄想を現実にして僕様の前にひざまづかせてやろう!ふはははは!」

「ちょっ、おまっ、まっ・・・」

草野拓斗18歳、一生の不覚。見たことのないスピードでスキップしながら髪をなびかせ遠ざかる、嬉しそうな木村の後姿を眺めるしかなかった僕の顔は、きっとあの雲のように白かったに違いない。

しかしあの僕様主義の木村に女子とのトークスキルはあるのだろうか。自信満々で戦場へ向かったようだが、入学してからの一週間、木村が女子と話しているのを見たことはない。それどころか僕以外と接点はあるのだろうか。そういう僕も木村のせいでオリエンテーションで知り合った2人くらいにしか接点がないんだけどね。

ん?もちろん男子だが何か?

そういえば木村は入学式の日にはすでに言語研究会に誘ってきた。どこで知ったのだろうか、そんなレアなサークルを。まあどうでもいいさ、僕はテニスサークルを探すとしよう、我が人生に悔いを残さないために!

あ・・・なんで僕がヤツのコーヒー牛乳代を出さないといけないんだ。あとで請求してやろう。


その2時間後、一本の電話により僕の夢は儚く打ち砕かれた。”儚”という漢字のにんべんは僕にとって”木村”と同じに見えることとなった。

あれ?母さん?目から何かしょっぱい水が溢れているよ。なんだろうコレ・・・


第一次木村大戦 完敗


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