第91話 今後について話し合った時の事
適度に続けたいです。
相変わらず不定期ですが、週に1回は更新したいです。
会話が多いです、むしろ会話しか有りません。
あと、少し短いです。
都合により勇者達の名前を変更しました。
勇者来島から次の日。俺は言い争いをしていた。主に、昨日温泉に連れて行ったのが原因だ。
「いやいやいや、まだ無理ですから。家をあの温泉の近くに建てるって、どんだけ労力がいると思ってるんですか。帆船で資材運んだとしてどうするんですか」
「一日で出来る量を運んで、俺と織田と借りた大工の三人でやるっつてんだろ、平気だって。カームは地均しして、支柱だけ建てる穴を掘ってくれりゃー、それなりにするからよ、夜には戻って来るって」
「それでも水源は、山の近くに行かないとないんですよ? 井戸でも掘って汲むんですか? 水を引くのにも労力が足りません。俺一人でやっても山のふもとからの距離だと、魔法でも二週間は欲しいですよ」
「温泉が出てるんだ、少し掘れば水なんか出んだろう」
「あそこの海岸沿いで温泉なんですよ。あの辺り掘ったら、どこでも温泉出ちゃいますよ。だから山の近くの湖から水を引いたりして、少しずつ島民を増やし、あの辺りに民家も建てて第二村を作った方が良いですよ。だから半年から一年くらい待ってくださいって言ってるでしょう。むしろ、家だけなら、俺が魔法で四方を土を盛り上げて、屋根に板を張った方が早いですよ、だから問題は水なんですよ、温泉汲み上げて、冷ました物を野菜に撒いたり、家畜に与えるんですか、二度手間ですよ。そもそも、あの温泉で野菜育つんですか? 成分的に育つかまだ検討してませんよ?」
「ん、んー」
「だから少し待ってくださいって、言ってるんですよ」
「わーったよ、あそこに住むのはまだ諦める。けどよ、温泉は連れてけや、それは曲げらんねぇ」
「それが待ってもらう条件なら良いですよ。けど俺だって故郷に家族がいるんで、連れて行けない日もありますからね」
「二日、三日風呂に入れなくても死にはしねぇよ、それに織田に風呂作ってもらうから構わねぇよ」
「おー魔王のカームさんと、老練の勇者が言い争ってるぞ」
「内容はクソくだらないけどな」
「聞こえてっぞ!」
「ひぃ! すんません!」
まったく頑固ジジイめ。
そしてその日の夜、人の少ない湾の家で話し合いを始める。
「まぁ、昼間はあんな感じで言い争っちまったけどよ、どうすんだ?」
「どうするんだとは?」
「勇者召喚の件ですよ、放って置いたらどんどん犠牲者が増えますよ、本格的に動くなら宇賀神と会って、入念に計画を立てて召喚をしている姫を攫うか、処分するか。もしくは今の王を脅すか、降りてもうか」
「なんかサラッと言ってますが、どっちも片方は暗殺ですよね? 俺、こっちに来てから、極力殺しはしないように暮らしてたんですけど」
「けど殺しの経験はあるんでしょ? 王でも姫でも同じ人族だよ」
「いや、笑顔でも目が笑って無いですよ、どんだけ恨み持ってるんですか」
「「かなり」」
「そうですか」
んー、恨みの根は深そうだな。榎本さんも織田さんも黙っちゃったし。そんなに酷いんかよ。
「わかりました、考えておきます」
「取りあえず見かけた勇者に極力声を掛けるようにしましょう。こんな島があるなら、拠点になります、正直この島の状況が良すぎるんですよ。衛生的で、畜産業も農業、漁業も林業もあるし、塩も砂糖も菓子も作ってる、一次産業の多くが確立されてるんですよ? 菓子は一次ではないですけどね。それにコランダムから離れた人族の村を見た事がありますか?」
「ないですねー、人族側の大陸をブラブラしてたらスナック菓子感覚で殺されるか、襲われそうなんで」
「その見た目なら、まず襲い掛かられるな。紺色の肌、赤い目。背中に翼でもあったら、確実に悪魔だ。まぁ、子供の御伽話では、悪魔の代わりに魔族や魔王だけどな。この世界で悪魔と言う単語を聞いた事がない」
確かに聞いた事が無いな、教会の情報操作か何かだろうな。多分魔族は絶対悪で殺しても問題無いって説いてるんだろうな。
「まぁ、それは置いといて、村の中だけで麦と家畜の飼育しかしていなくて、冬になったら、下手したら餓えるような状態なんですよ。近代で通用するやり方を説いても、変わる気がないのか、変える気がないのかわかりませんが、とにかく酷いんですよ」
「こっちの人間はどうでも、俺は同じ日本人が、捨て駒扱いなのが許せねぇ」
榎本さんは日本酒があったら一気に飲み干して、コップをテーブルに叩き付ける勢いだな。時代劇の娘を取られたおっちゃんみたいになってるな。
「俺もです、なので硝石作りましょう、ソレか代用品で嫌がらせしましょう」
コーヒー飲みながら、笑顔でサラッと言わないで下さい。
「温泉があるなら硫黄がありますね。硫黄単体で城内で焚きましょう、死なない程度には嫌がらせが出来ますよ」
こっちも心底楽しそうな笑顔でサラッと言ったなー。ってか硝石生成出来た時点で、硫黄が有れば、ほぼ黒色火薬出来るじゃないか。だって残りは木炭混ぜるだけだろ? 木炭なんか炭作りしてるんだから、直ぐじゃねぇかよ。
「魔族側は、すんなり俺の提案した事を受け入れてくれましたけどね、この差は何でしょうかね」
「宗教色が強いと思います、変に挑戦するよりも、変わらない、安定した生活を推奨してますので、まぁ、そのおかげで農民の盗賊化も進みますし、学も無いので、少し大きい村で産まれたらほぼ村から出ずに、生涯村人として働いてますよ、余計な考えを起こさせない事を教会が説いてるんですよね」
「おぉぅ、一応人族の心の拠り所と思って、島に教会を誘致しちゃいましたよ」
「でも、この島の人々はまだマシです、あのシスターも多分いい方に変わってると思いますよ」
「確かに、奴隷になる前の暮らしよりかなりマシって言われた事がありますし、シスターも良く喋るようになりました」
そして、しばらくどうでも良い話が続き、最終的にどうしたいのかを聞いた。
「で、具体的な話はどうなんですか?」
「宇賀神が、実は地球で忍者をやっててね」
「……は?」
「忍者ですよ忍者」
「ちゃんと忍んでるの?」
「職業的には忍んでなかったけど、こっちに来てからは忍びまくりだよ、すごい生き生きしてるよ」
「……もしかして良くテレビとかに出てた? 筋肉とか良く使う奴」
「何回か出てたって言ってたね。で、本業は関東地方の北の方にある江戸みたいな村っぽい所で忍者やってた」
「色々な意味で本物か、すげぇな」
「なんかこっちに来るとさ、運動能力とか上がるのが凄いらしくて、もう成りきってるよ。だから城に忍び込んで、その捨て駒情報を持って来た」
「アメリカンな忍者じゃなくて良かったよ、で、協力者はなんで俺なんですか?」
「魔王が出てくれば盛り上がると思って」
「はぁーーー」
俺は盛大にため息をついた。
「例えばの話で行きましょう、勇者達が王を倒したら、世界中の人族が勇者狩りをするかもしれません、なら魔王が王を倒したら?」
「人族同士結託して、魔族と全面戦争?」
「そうですね、じゃあ、勇者と魔王が手を組んで、元の世界に帰れない哀れな勇者達ですってな感じを街中で全面的に誇大宣伝しましょう、そして魔王に協力をお願いして、連れて来るだけ連れて来て、捨て駒扱いしている王と、召喚を繰り返してる姫を倒したら?」
「勇者が脅威になって、狩られる対象か、憐みの目で見られる?」
「いやいや、そこは上手くやるさ、俺達勇者が悪役にならないようにね」
会田さんは物凄い笑顔でニヤニヤしている。かなりねじ曲がってるなー、どんな状況に遭ったら、こんな風になっちゃたんだろうか。
「ってな訳で、現魔王、元日本人としてお願いできないかな、計画は立てるから」
「はぁ、勇者解放軍でも作るんですか?」
「お、いいねぇ、ノリノリだねぇそれで行こう」
「……藪蛇だったな」
◇
それから十日ほどして、元魔王城予定地の商業区に風車を建てる話になり、上空の風を見るのに、榎本さんが、出初式の梯子乗りの様に、数人で押さえてる梯子をすいすい上って行き、頂上で梯子に足を絡め、風の確認をしている。
「おー、海からの風は途切れないで結構あるぜ、コイツは決まりだな」
つまり、榎本さんがいる場所には風が常に通ってる訳だな。
「んじゃ風車はここで良いな」
「待ってください。俺、この島に来て一度も嵐を経験してません、どの規模の嵐が来るのかがわからない以上、安易に風車を作るのは不味いのでは?」
「我々は日本人ですよ? それくらいの対策は簡単ですよ、羽は布で作れば良いんです。嵐の時は布を外しましょう、布の面積を少なくして羽も増やせば、一枚の布にかかる圧も減り、羽が増える事により、風車としての役割も果たせると思いますよ」
「まぁ、そりゃそうですけど」
「そもそも大規模な物を想像してるのが間違いです。小規模な物を作って、最低限の動力さえ得られれば、小麦くらいは簡単に轢けますよ。下手したら三脚立てて作って、嵐が来たら、男三人くらいで片付けられる程度です。小型の多翼型でもサボニウス風車でもいいんですから」
「さぼにうす?」
たしかに、なんか風車イコール大きい奴ってイメージしか無かったからな。
「じゃあいいのか? 俺は大工と話を付けて来るぞ」
そう言って織田さんは図面を数枚持って、大工のいる天幕の方へ向かって行った。
「風車なんて石臼を回すのにしか使えないじゃないですか」
「今のところはね、後々に風力を使って、木枠の水路を高いところに通して水のない所に揚水したり」
「そうですね、今の所疎水を細かく通してませんからね、少し高い所に水を引くのには良いかもしれませんね」
「技術が追い付いて来れば、風力発電で電気とか作れるんだけど。あ、竹とか有れば、エジソンの白熱電球は作れるよ。あと亜鉛と銅板とジャガイモで電池。多分光量は稼げないけど」
「蝋燭やランタンの方が早いですね」
「そうなんだよね、俺が生きている内には多分無理だね」
「勇者の残した知恵として、文献に残しておきます?」
「多分、この島にあったら、作戦が失敗したら焚書されるだろうね」
「デスヨネー」
そんな他愛も無い話をしていたら、足元の鉢植えになっている、芽の出ている椰子の実から声が聞こえた。
「カーム、なんか帆船から小舟が下ろされて、こっちに向かって来てるけど、人数は一人ね」
「パルマさん、ありがとうございます」
「うわぁ!」
会田さんが凄くびっくりしてる。そう言えば話してなかったな。
「あー、言いわすれてました、この島の椰子の木のほとんどはこのドリアードのパルマさん。あと、赤い花はアルラウネのフルールさんです」
「わかりました、多分そいつは宇賀神かもしれません。俺の後を追いかけて来たなら少し早いけど」
「一応武装して行きます、一緒に来てもらえます?」
「あぁ、構わないよ」
武装して、会田さんの足に合わせ湾を見渡せる位置に付くと、既に人影が一つ波打ち際に立っていた。
「もう少し近寄らないとわからないな」
そう言って会田さんはどんどん人影に近寄っていく。
「おー、会田」
向こうから声をかけて来た、名前を呼んでいるという事は知り合いと言う事で、忍者の宇賀神さんだろう。
「久しぶりだな宇賀神」
よかった、本当に見た感じ普通の人だ。町ですれ違っても絶対に記憶されない、不自然なほど特徴がない顔だ。
武装は、腰に村人が自衛用に持っている様な、ダガーか大振りのナイフかわからない物が、一本あるだけだ。
服装も俺と同じような、どこにでも売っている麻のシャツに麻の長ズボンで、本当にその辺を歩いてても、村人C程度にしか思えない、完璧に目立たない格好だ。
ただ、髪の毛が黒いのだけが目立つな。この世界に、日本人以外の黒髪の人族をまだ見た事がない。スキンヘッドにしちゃえば、髪の色はばれないけど、逆に目立っちゃうか。
「ある程度置手紙に書いてあったと思うけど、紹介するよ。この島の魔王で、魔族に転生したカームさん」
「どうも」
「こちらは戦闘系勇者として召喚された、元忍者で、こっちでも忍者やってる宇賀神」
「よろしくお願いします」
「アメリカンな忍者じゃなくて助かりました」
「地球では、色々目立つ忍者してましたけど、こっちでは自称忍者でかなり忍んでます。いやー本当面白そうな島ですね、しかも綺麗です。一度こんな場所に来たかったんですよ」
「最悪毎日見られますよ。一応そこにも家が有りますが、嵐対策で少し離れた所に村を移したんで、そっちまで案内しますね」
「ほー、確かに大嵐が来たらこんな場所じゃ危険ですからね、田んぼや船の様子を見に行ったら、帰って来れなくなっちゃいますね」
「今の所、ご近所さんの水生系魔族とハーピー族との仲は良いので、海に流されても多分助かりますよ」
「人魚姫みたいに、嵐の中で海に投げ出された王子様みたいな事になるんですか。中々熱い展開ですね」
「残念な事に共通語が喋れますし、人魚系ではなく、サハギン系なら足はありますよ」
「海の魔女はいないんですか?」
「魔女と呼ばれる方はいると思いますが、色々な方が魔法は使えると思いますよ、対価とかなしでも恋は可能です」
そんな会話をした後、宇賀神さんは親指を立てたので、俺は親指を立て返し、新しい村に向かった。
多分宇賀神さんは人魚が好きなんだろう。まぁ綺麗だしな。
改稿作業をしやすい様に、試しに漢数字を使ったり、出だしを1マス開けたりしてみました。一応読み易い様に。1行ほど改行を挟んでいます。
今までとは、勝手が変わると思いますが御付き合い頂ければ有りがたく思います。
ご指摘が有ったので。ここで軽く説明します。
宇賀神は、忍者に憧れ、日光の忍者が出て来る村で働いていた設定です、なのである意味忍んでません。ですがこちらの世界では忍んで諜報活動してます。
勇者の名前ですが。諸事情により次話以降(92話)から修正します。
キリが良いので全員あ行にしちゃいます。
勇者岩本は『い』なのでそのままです。




