第89話 女王が俺を頼って来た時の事と勇者達
適度に続けてます。
相変わらず不定期です。
後半のはほぼ会話だけです
都合により勇者達の名前を変更しました。
ハニービーが俺の所にやって来た。
「カーム殿ー」
殿?
「巣箱の中に新女王が誕生しているので、旧女王が引っ越そうとしているでござる、だから新しい巣箱を用意してほしいのでござる」
ござる!?
「君は、この前に会ったのと別個体なの?」
「そうでござる、前の個体は寿命で死んだでござる。だから拙者が来たのでござる」
拙者?
「まぁ、口調なんかどうでもいいや、巣箱って簡素な物でもいいかい?」
「オーケーでござる」
なんか色々混ざってて頭痛いわ。
「わかった、なるべく早く用意させるから」
「恩に着るでござる」
そんな会話をした後、直ぐに大工のゴブルグさんの所に行き、簡単な絵図面を地面に描いて、廃材で下駄付き巣箱を作ってもらった。
「本当に片手間だな」
そう言いつつも、簡単に仕上げていくのが大工らしい。
ござるの指示を聞きながら、家の裏手にある巣箱の木枠を持ち上げ、旧女王のいる枠、蜜の多い枠、卵や幼虫が多い枠を半分だけ貰って来た木箱に移し、数キロメートル離れた場所に置いて数日閉じ込めて、入口を開けたら巣別けが完了らしい。なんでも帰巣本能があるからこうしないと駄目みたいだ。
「コレで良いかな?」
「平気でござる。後は、近くに水場と花が多い所があれば完璧でござる、今のを覚えておいて欲しいでござる」
「はいはい、わかったよ、適当に見つけておく」
「それともう一つ、お願いがあるのでござるが」
「なんだい?」
「我々にも新女王が誕生したのでござる、折角だから島から出たいと言っているのでござる」
「はぁ? この島の中じゃ駄目なの?」
「なんでも、島のあちこちに移動している魔法で、カーム殿の故郷の方まで勢力を伸ばしたいと言っていたでござる、だから移動してほしいのでござる。我々の移動距離では海を渡れないのでござる」
「先祖はどうやってこの島に来たんだよ」
「流木でござる、それはそれは大変な旅だったと聞いているでござる」
「あー……。いつが良いの?」
「この新しい巣箱の部下達が、慣れた頃だそうでござる、ちなみにこの箱も持って行ってほしいのでござる」
「じゃぁ三日後でいいかい?」
「助かるでござる、姫に伝えて来るでござる」
あ、新女王が姫じゃなくて、現女王も姫なのか。紛らわしい個体だな。
◇
蜂が慣れる数日の間、カカオマスから油分を取り出す方法を、女性達と話し合い、それと並行してチョコ作りも教え始める。
そうして、しばらくチョコを作っていたら、森の上空から黒い塊がこちらに向かって飛んで来た。
「うぉ、なんだアレ、気持ちわりぃ」
「きゃぁ、気持ち悪い」
数名の人族が騒めくが、黒い塊がどんどん近づくにつれ、先行して一つの影がこっちに近づいて来る。ハニービーだった。
「カーム殿、姫が挨拶したいと言ってるでござる」
「あ、あぁ。わかった」
俺は転移魔法で出かけるから、引き続き作業をしてほしい事を皆に伝え、湾の方に歩いて行く。
「貴方がカームですね」
ハニービーよりかなりデカい、女王だと思われる蜂が、俺に話しかけて来る。
「えぇ」
「話は部下より聞いていると思います。ですので、島中を移動する魔法で、貴方の故郷まで連れて行って欲しいのです」
「その話は聞いてます、巣分け用の巣箱を持って来るので、ここで待っててもらえますか?」
「構いません」
そう言われたので、俺は涼しい場所に置いてあった巣箱を手に取り、湾の方へ戻る。
「じゃぁ、移動しますので、俺の両手の外に出ないようにして。高さも手を上に伸ばした長さより中に入るようにお願いします」
そう言うと、女王が俺の胸にとまり、少しふんわりした物が当たったが、そんな事を楽しむ間もなく、両手両足や頭にハニービーが群がり体中ゾワゾワする。
コレって子供の頃なら絶対トラウマになるよな。ってか体温高くて熱い、蜂玉で殺されるスズメバチの気持ちが良くわかった。さっさと移動しよう。
俺は家の前に転移し、風景が変わった瞬間に、俺にとまっていたハニービー達が一斉に離れる。
うーゾワゾワした!
「ここがカームの故郷ですか」
「冬になると雪が降りますが、平気ですか?」
「島に来たばかりの先代は、冬を経験しているので、受け継がれた記憶として残っておりますので平気です。ですが暑さに弱いので、涼しい場所を提供して頂ければ助かるのですが」
「わかりました、思い当たる場所があるので、そこに行きましょう。あの森です」
そう言って子供の頃に、良く行っていた森を指差す。
「では、先に森の入口へ向かっていますので、その新しい巣箱の部下達を解放してから、案内をお願いします」
「分りました」
そう言うと女王は森の方に飛んで行ってしまった。
そして誰もいない家に入り、紙に『蜜蜂の巣箱! 触るな』と書いて、家の日陰になる場所に置いて置いた。
「おいカーム、さっきの空飛んでた黒い塊なんだよ」
「ハニービーの大群ですよ、なんかしらないけど、俺の事を頼って来たんで、話を聞いてやっただけですよ」
「おー、コレで村に蜂蜜が出回るな、カームに感謝感謝」
「養蜂って言って、蜂を飼う方法もあるんで、その内町に売れるようにもなりますよ」
「これで町に行って蜂蜜買わないで、気軽に蜂蜜塗ったパンが食えるぜ」
このおっさんは、甘党らしい。熊系の魔族だったら浴びるように食うのだろうか? それと、本当に熊の右手は美味いのか、それも気になる。別に熊肉に蜂蜜ぶっかけて、煮たり焼いたりすれば一緒じゃないのかと思うが、言うだけ野暮だな。
「はちみつ入りのお菓子もっすよ」
俺的にはこっちの方が重要だけどな、けど獣人系にチョコやコーヒーは平気だったけど、魔族の乳児に蜂蜜はどうなのか、怖くてできないけどな。
まぁ森に向かうか。
「じゃぁ、ここから少し入った所に、子供の頃に見かけた洞窟があるので、そこまで案内しますね、夏は涼しいし冬は入口を塞げばどうにかなるでしょう」
「助かります」
しばらく歩いて、子供の頃に見かけた洞窟に向かうが、洞窟に着いたら子供達がいた。
「あ、お父さん!」
「あー、リリーちゃんのお父さんだー」
「こんにちは」
「パパ!」
「……すみません、占拠されてました」
「良くある事です、子供達の行動力は、時に大人達の想像のはるか上を行きますからね」
「ここは駄目だな」
そう言って、女王と話をしようとしたら、リリーに話しかけられた。
「お父さん、その大きい蜂は誰?」
「ハニービーの女王様、クイーンビーだ、それとその部下のハニービー」
「「「「こんにちは」」」」
「かわいいー」
可愛いのか? 複眼だぞ、ハニカムなキルフラッシュだぞ。なんか目が光を吸収して濁って見えるから、正直俺は変に苦手なんだよな。
「そのクイーンビーさんのお家探してるの?」
そう言ったのは、シュペックの娘のレーィカちゃんだった。
「そうなんだよね、君達の秘密基地を取る訳にもいかないし、少し困ってるんだ」
「それなら大きな木の中が、穴になってるの私達知ってるよ」
俺は女王をちらりと見ると、軽く首を縦に振った。
「そんな場所を知ってるんだ、すごいねー。このクイーンビーさんたちのお家に出来るかどうか調べたいから教えてくれるかな?」
「はい!」
元気に返事をし、子供達全員が一斉に駆け出して行った。子供は元気だね。
それから、森の中を十五分くらい軽く走り、目的地の大きな木にたどり着いた。
殆ど森の中心じゃないか。俺なんか子供の頃、野生生物とか怖くて、こんな深くまで来れなかったぞ、アルクさんやシュペックや炭焼き職人に感謝だな。
「この木ー」
「いやー大きいねぇ、上る気にもならないな、おじさん高い所怖いんだよ」
「私平気だもん」
「はは、元気が有って良いね」
女の子は、少しおしとやかな方が良いかもねって言いたいが、リリーがいつも訓練訓練言って来るから、流石に言えなかった。
リリーとミエルの性格が逆だったら、絶対それらしかったと思うんだけどね。まぁいいか。お互い母親の血の方が濃いって事で。
「どうです?」
「部下の話だと、十分大きな木の洞との事です。これなら大丈夫でしょう、入口が高い、出入りが安易、雨風に当らず、木陰になっている。これなら冬も安心でしょう、ありがとうございます。何かあったら部下を、先ほどの自宅まで向かわせますので」
「そんな事言われましても、俺、ほとんど島に行きっぱなしですよ?」
「先ほどフルールさんの鉢植えが見えました、ですので連絡は可能でしょう?」
しっかり見られてたか、複眼怖いな。
「なら連絡が取れるように、家族に言っておきます。まぁ、ここに二人ほどいますが」
そう言って子供達を前に出す。
「わかりました。その子供達か、ご家族に伝えれば良いですね」
そう言うと一匹のハニービーが子供達に近づき、挨拶をしている。
「我々は名前がなく、個体差もあまりないゆえ、ハニービーと呼ぶでござる。御父上には色々とお世話になったでござる、よろしくでござる」
こいつもござる種だったか。
「よろしく」「よろしくー」
そう言って子供達も挨拶をしている。
「蜂蜜食べられるー?」
「カーム殿が蜜蜂の巣を作ってこっちに持って来て、増やしてくれるそうでござるから、もう少ししたら蜜蜂から別けてもらえるでござる」
「「「「やったー」」」」
「子供は正直が一番でござる」
俺の台詞を取られたでござる。
□
「ここがコランダムですか、こっちに来て、海なんか見たの初めてですよ」
「俺もです、やっぱり人工ゴミがないし、青くて綺麗ですね」
「昔を思い出すぜ、ガキの頃は貧乏で何もねぇから、磯で小魚とか貝とかとって、腹の足しにしてたんだぜ」
「榎本さんの頃は仕方ないでしょう、戦後だったんですから」
「榎本なんか俺が産まれる十年前の話だよ、家が貧乏なだけだ」
「俺の頃は高度成長期入ったくらいだったので、ひもじい思いはなかったですね」
「俺なんか、バブルがはじけた頃ですよ、親父達の時代が羨ましい」
「帰れねぇ日本の話しなんかしても仕方ねぇな、もう止めようぜ。お? おい、コーヒーって書いてあるぜ」
「お? 岩本君が言ってた魔王が出した店ですかね。魔王にコーヒー飲ませてもらったって言ってましたし」
「久しぶりにブラックが飲みたいですね」
「俺も三十年近く飲んでねぇな」
「榎本さんコーヒー飲めたんですか? てっきり緑茶かと」
「ばっか、あの頃はな。女をひっかけに飲めもしないコーヒーを飲みながら、喫茶店にいたんだよ」
「意外にハイカラだったんですね」
「こっちに来る前も飲んでたぜ。気が付いたら飲めるようになってたからな」
「んーこの香り、我慢できないな。俺だけでも入ってきます」
「俺も行きますよ」
「俺も行くぜ」
そう言って三人がコーヒー屋に入って行った。
「いらっしゃいませ、空いているお席へどうぞ」
そう言われ、三人が空いている席に座る。
「意外に雰囲気出てますね、服装もマスターっぽいですし、ドアベルもそれらしく聞こえますよ」
「良い雰囲気だな、やっぱり日本人説が濃厚だな」
「懐かしいぜ。こんな雰囲気の中、振袖と袴着たねぇちゃん達を待ってたんだよ」
「けどメニューがコーヒーかセットしか有りませんよ、オプションもこの強い酒のベリル酒って言うのが付くだけですね」
「俺はコーヒーだけで良い」
「俺も」
「すみません、コーヒー二つの、セット一つベリル酒一つ」
「かしこまりました」
オーダーが通り、マスターの声が帰って来る。
「見て下さいよ、ミルが無いから石臼ですよ」
「粗挽きか」
「スプーンで粉を掬って、そのまま容器に入れて水を入れて火にかけてますね」
「トルコ式だな、まさかトルコ人の勇者か?」
「いやいや、それはないでしょう」
「お待たせしました」
マスターと同じ服を着た女性が、コーヒーを運んでくる。
「あぁ、久しぶりのブラックコーヒーだ」
「本当ですね、まぁ俺はインスタント派でしたけど」
「今思うと、よくこんな苦いの飲んでたな、牛乳でもいれっぺ」
「そうですね。けどこの酒……、コーヒーに入れるんならかなり強いはずです、強いなら蒸留器で作らないと」
「だな。会田、飲んでみろ」
そう言われ、会田と呼ばれた男は容器に入っている酒に小指を入れ、味を確かめるように舐める。
「かなり強いですね、樽の香りは付いてますけど、加水しないでそのまま保存したんでしょうね、それに樽の香りが付いていると言う事は最低一年から三年は寝かせてありますね」
「確かに強すぎる、調合士がいればこんな事はないが、中途半端な知識で酒を造ったんだろうな。多分酒に関しては素人だ。もちろん俺もだけどな」
「酔えればいいんだよ。そんな事より混み始めてるぜ、迷惑だからそろそろ出ようぜ」
「そうですね。商船を探して、島で下してもらいましょうか」
「俺は、商船が見つかるまで通わせてもらうぞ、あぁ、コーヒー」
「カフェイン中毒の域ですね」
「酒や煙草がやめられねぇ奴と同じ考えだな。コーヒーがなければ治ってたんだろうに、哀れな奴だな」
そう言いながら三人は店を出て行った。
閑話
コーヒージャンキー
「あの黒髪の男性達、聞いた事の無い言葉、アレは絶対勇者だよね」
「そうね、冒険者風だけど、武器らしきものを持ってたのは、白髪交じりの初老の人だけだったわよ」
「カームさんに知らせた方がいいのかな」
「そうね、今度来たら伝えましょう」
◇
開店直後
「コーヒー1つ」
十時頃
「コーヒー1つ」
昼過ぎ
「コーヒー1つ、砂糖と牛乳はなくても良いです」
3時頃
「昼と一緒で」
閉店間際
「いつもの、それと帰り際にコーヒー豆一袋」
「あの初老の勇者、ずっと飲みに来てるけど、監視なのかな、それとも大好きなのかな、砂糖も豆乳も入れないし」
「大好きなんじゃないかしら」
更に翌日の開店直後
「いつもの」
「ただのコーヒー好きだね」
「そうね」
作者は、何かに依存していると聞かれたら、牛乳と酒と答えますね。
酒は無くても平気ですが、有れば少しだけ嗜みます。
けど牛乳は無いと普段温厚な自分でも、カリカリして怒りっぽくなります。
一番困った事は修学旅行中、食事に一切牛乳が出ず、自由行動中に牛乳買い溜めをしました。
某バーガー屋でもセットでは牛乳を頼み、ドーナッツ屋でミルクのテイクアウトが出来ない時は少しイラッっとしました。まぁコンビニで牛乳を買って、車内で食べながら帰りましたけどね。
巣分けの案は感想で頂いた物を使わせていただきました。




