第87話 島で初めて大きな怪我人が出た時の事とおまけ
適度に続けてます。
相変わらず不定期です。
久しぶりに武君が出てきますし、意外な人物も出てきます。
都合により勇者達の名前を変更しました。
都合により会田さんの年齢を35前後にしました。
朝食後、俺はヴァンさんをヴルストに任せ島に戻った。
「戻ってくるのが遅れて申し訳ありません」
そう言って、俺は町で有った事を話し、将来的にはドワーフが一人増える事を皆に伝えた。
そして、今後の方針についても話をした。
「まずはコーヒーです。思ってたより店での豆の消費量が多いので、ちょこちょこ収穫を始めましょう。実を剥いて乾燥だけさせておけばある程度長持ちしますので。これは、漁班長がサハギンのシーラさんと仲が良いので、漁からコーヒー収穫にまわって貰いましょう。丁度作物も収穫でき始めてますので、日干しにしたり燻製にする事も少し減りますので、漁で獲る量を少し減らしますか」
「わかりました」
「少しサボって、イチャイチャしても良いんですよ?」
そう言うとなぜか恥ずかしそうに、下を向きながら返事をした。まだ名前を知らないから、そろそろ名前を聞いても良いかもしれない。
「それと、山の上から太陽が昇る方向を見て、左手側に有る、カカオの収穫も開墾班を割いて、収穫も検討しています。これは平底船が完成してから誰に行ってもらうか決めます。確かゴブリンが多かったので、戦力も欲しいですね」
「また俺っすか?」
野草班の護衛に着いていた男が言って来た。
「ゴブリンに勝てます?」
「もちろん、あんな奴等三体くらい楽勝っすよ」
そこは何体いても平気っすよとか言わないんだな。
「ならお願いします」
「森が違うので、熊とか鹿とかも出るかもしれませんが、頑張ってくださいね」
んー、野草さんは素直すぎるのか、少し棘が有る様に聞こえるな、今まで一緒にいた護衛の男は要らないってハッキリ言ってるように思える。ってか恋愛対象に見て無いなあれは。
あーあー。少しへこんでるよ。
「後は、そうですね……油も需要が有るので、暇を見てオリーブの収穫もしておきましょうか。これは農閑期にでも皆で収穫しましょう。そして、そろそろ魔王城跡地に簡素な家が出来てきたので、そちらに引っ越す事にしましょうか。そして、見張りとして交代制で男数人が日替わりで、ここの湾近くの家に寝泊まりして下さい」
俺は、その辺りを見回し子供達がいない事を確認し。
「男女だと夜中イチャイチャしちゃいますからね、イチャイチャは魔王城建設予定地の家でして下さい、声がちょっと大きいと異音に気がつきませんし」
そういうと、人族が苦笑いを始める。
「それと、子供達の教育ですね。アドレアさん、子供達を少しだけ任せても良いですか?」
「えぇ、構いません。どの様な事を教えれば?」
「そうですね、簡単な読み書きと、生活するのにお釣りを誤魔化されない程度の計算ですね」
「わかりました、簡単な物を教えますね。言葉は共通語で平気でしょうか?」
「共通語でお願いします。季節が二巡くらいすれば、人族や魔族側から商船が多く来てくれればいいかな? って思ってますので。それに島民も増やしたいですし」
「わかりました」
「あの、共通語を教えられますよね?」
「はい、教会裏の孤児院でも教えていたので、大丈夫です」
良かった、コレで簡単な計算とか出来ないとかだったら、どうしようかと思ったわ。
「ってか人族の識字率ってどのくらいなんですか?」
「大きな村なら、ある程度は読めますが、寒村だと……」
アドレアさんは言葉を濁してしまった。
「この島民は?」
「多分平気だと思いますが……」
「後で簡単な文章と計算のテストでもしましょうか」
「そ、そうですね」
目標は、島民の識字率十割だな、計算も日常生活に支障が無い程度には欲しいな。
「じゃあ、今日も怪我のない様にお願いします」
そう言って皆が作業を開始する。
俺もだんだん慣れてきた伐採作業と、根起こし作業を魔法でして、開拓を進める。
慣れてきた頃が一番怖いからな、気をつけないと。
そう思っていた矢先に、奥の方から叫び声が聞こえる。
「斧で腹を切った! 誰か手を貸せ! アントニオさんの所に運べ!」
そう聞こえたので、走って現場まで向かう、なんで腹なんだ?
俺が来た事に気が付いたのか、不安そうに俺の方を見て来る。
「カームさん!」
「どうした!」
「斧がすっぽ抜けて、その先に偶然通りかかったコイツに」
俺は【水球】で手を綺麗に洗い、痛がる怪我人を無理矢理押さえ付けるように命令し、服を捲ると傷は結構深いが、腹膜には届いていなかった。
「清潔な布と大八車持ってこい! まずは圧迫止血だ! ここで簡単な止血作業したらアントニオさんの所に向かうぞ!」
皆が驚いているが、近くで事を全て見ていたであろう動こうとしない女を指差し。
「貴女は、手を綺麗に洗って清潔な布を多めに!」
そう激を飛ばし急がせる。
「走って今から怪我人が行く事を伝えに行ってこい。怪我の状態もだ! 腹を斧で切った、膜には届いて無いで多分通じる」
そして様子を見ていたもう一人の男にも命令をする。
「とりあえず傷口の洗浄だ、染みるぞ」
そう言って【水球】で傷口を洗い、清潔な布を待ちながら素手で圧迫する。
ここで回復魔法を使えば簡単だが、それだと。何かある事に俺が出る事になるから、最悪な場合がない限り使わないようにと決めている。
そうしている内に、先に布が届いたので、布を使って圧迫止血をし、怪我人に話しかける。
「平気か? 意識はあるか? 俺の声が聞こえるか?」
「うっす……」
かなり痛そうに口を開いた。
「なら平気だ、可能な限り傷口を自分で抑えてろ」
そう言って怪我人の手を取り、清潔な布の上から抑えさせる。
「そうだ、アドレアさんが回復魔法が使えるか聞いて来い! お前だ!」
今度もしっかり指を指し、命令をする。
叫んだだけじゃ、誰も動かない事があるので、しっかりと役割を明確にさせる事も大切だ。
その頃には大八車が到着した。
「怪我人が出たので取りあえず家で待機! こんな状況で作業しても士気が上がらないから休んでろ」
怪我人を載せ。アントニオさんの診療所まで、痛むと思うが、数人がかりで全力で押す。
診療所に着くと、既にアントニオが準備を整えていて待っていた。
「腹を斧で切ったそうだな、容態は?」
「意識あり、出血が止まらない、傷口は深いが腹の膜までは届いていない」
「聞いた通りだ、少し太り気味なのが幸いしたな」
アントニオさんはそう言うと、傷口の布をとって、傷の観察をしっかりとしてからポーションと思われる瓶を開封し、盛大にぶっ掛けて、強制的に止血させてから診察台に数人で運ぶ。
うわ、ポーションやっぱすげぇ便利。こんど薬剤師辺りでも勧誘しよう。
「おい魔王、ここに来る前に何かしたか?」
「傷口の洗浄後、布で圧迫止血」
「冷静だな、傷の観察もよくしている。医者になれるんじゃないか?」
そう言いながら、傷口を見て選んだ針に糸を通し、色々と準備をしている。
「一回だけ戦場に行きました、その時に猫耳のおっさんの怪我を我流で縫合して止血しました」
「ほう、それはすげぇな。痛いぞ」
そういうと、アントニオさんは容赦無く腹に針を突き立ててる。
男はベッドで呻き声を上げているが、暴れないだけマシだった。
縫合が終わり、さっきぶっ掛けた残りのポーションを、また傷口に振りかけ、包帯を巻いて、治療を終わらせる。
「コレでしばらく安静にして、肉でも食ってりゃ治るな。おい、こいつは死なねぇってみんなに伝えて来い」
「はい!」
そう言って様子を見ていた島民が戻っていく。
「いやー、後学の為に縫合を見てましたが、迷いがないですね」
「ちまちまやってたら、やられてる方も痛いんだからよ、さっさと済ませちまうのが良いんだ」
「そんなもんすか」
「おう。それに、猫耳のおっさんを我流で直したってのが気になるな、少し教えろよ」
「大した事じゃないっすよ」
そう言って、曲げた針を熱湯で消毒して、傷口の真ん中、そしてそこからまた真ん中と縫って、ポーションをぶっ掛けた事を言った。
「その曲がった針って縫うのに便利そうだな」
そう言って軽く指で曲げはじめる。
「こうか?」
そう言って曲がった針を見せて来る。
「確かに縫いやすそうだな」
「遅れました!」
アドレアさんは少し息が上がっている、急いで来たんだろうが、物凄く遅いです。すでに終わってますよー。
「回復魔法なら初歩的な物だったら使えます」
「ないよりは良い、頼む」
「はい」
そういうと、傷口に手をかざし、何か詠唱的な物を口ずさむ。
「この者の傷を癒せ。ヒーリング」
呪文を唱えると痛みが引いているのか、苦しそうな顔がゆるんでいく。
人族の魔法は、詠唱と、型にはまった魔法を使うのがやっぱり多いのか。
「簡単な物ですのであまり動かないで下さいね」
笑顔でそう言うと、なるべく血を見ないように目を逸らしている。血が駄目な人だったか。
「で、魔王よ。お前は回復魔法使えないのか?」
「使えませんよ」
俺は微笑みながら言い返す。
「嘘くせぇな、まぁ本人が言うならそれで良いけどな」
「そうですね、それとそろそろ魔王は止めてもらえませんかね?」
「なんでだ? 皆知ってるんだろう?」
「知ってても、魔王って呼ぶ癖がついてたら、島外の人族が来たら驚くでしょう?」
「あぁ。そうだったな、俺も最初は驚いたな。今じゃそんな事ねぇけどな」
「私もです、なんでこんな優しい方が魔王なんでしょうか」
「さぁ? 強くて、何人かいる魔王が殺されたら、次に目を付けてた奴が魔王に成るらしいですよ、いやー困った困った」
俺は大袈裟に両手を広げ、首を振った。
「魔王の印って言うのがあるらしいと、よく聞きますが、カームさんはありませんよね?」
「有りますよ、目立たない所にあるだけです。場所は言いませんけどね」
「い、言えない所にあるんですか!?」
アドレアさんは両手を頬に当て、視線を泳がせている。何か物凄い勘違いをしているっぽい。
「ズボンの中にはないですよ」
「あっ」
どこにあるのかと考えていた場所を指摘され、短く声を出し、顔を真っ赤にしている。んーこのシスターさん可愛いな。
「べ、別にそんな所にあるなんて考えてませんからね、教会の方に戻ります!」
そう言って少し口を膨らませ、プンプンと怒りながら帰って行った。
「いやー、なんだかんだ言って可愛いねぇ、多分パンツの中にでもあると思ってたんだろうな」
「そうですねぇ、多分パンツの中を想像してたんでしょうねぇ」
「嫁さんにするならあんなのが良いです」
「おいおい、喋って痛くないのかよ」
「いてぇっす」
「言いたい事はわかる、けどいてぇなら黙ってろ」
「うっす」
「いやー優しい魔王で良かったな。本来なら捨てられてるぜ? ってか魔王じゃなくても捨てられてるな」
「そんなんじゃないですよ。また奴隷を買う金と、港を行き来する手間と、ポーションの代金、数日休んだ労働力、何もしないで食べる食事。その事を差し引いても、助けた方が安いんで」
そういうと二人がびっくりした顔をしてこっちを見ている。
「冗談ですよ。俺は皆を奴隷と思った事はありません。そんな事は一切気にせず、安心して休んで下さい。腹の中にまで傷は入ってないので、食事は普通ので良いですね。食欲はありますよね?」
「うっす」
「んじゃ誰かに飯は運ばせますので、治す事を第一に考えて、あまり動かないようにお願いします。アントニオさんも傷口が化膿してやばそうと思ったなら、遠慮なくポーションを使って下さい」
「あいよ」
「んじゃ失礼しますね、お大事にして下さい。あ、痛いからって酒飲んじゃ駄目ですよ、血の巡りが良くなって、血が出ちゃうんで」
俺は診療所を出て皆の所に戻った。
□
「質の悪い冗談だぜ、少しヒヤヒヤしちまったよ」
「俺もっす、どっちが本性なんですかね」
「優しい方だろう? だったら普段から俺達の事なんか気に掛けねぇよ」
「そうっすね、奴隷になる前にいた村より幸せっすよ。盗賊も野犬もいませんし、餓えないし、酒も飲める」
「そうだな……。怪我人があまり出ないのに、なんで医者が必要なんだ? って前に聞いたんだけどよ」
「えぇ」
「医者は暇な方が良いに決まってます、だとよ。なのに俺にも飯は食わせてくれる。けど野良仕事はさせてくれねぇんだよ、医者が怪我したら駄目だってな」
「本性は絶対優しい方っすね」
「だな、ちょっと傷口見るぞ……。別に血も滲んでないし、本当に安静にしてれば平気だろう。様子見ながら、数日したら抜糸するからな。取りあえず寝てろ」
「うーっす」
□
「ってな訳でシスターの事を可愛いとか言えるので平気でしょう」
俺は、一応怪我の詳細を皆に説明してやった。
「なら平気だろうな」
「だな」
「さて、仕事を続ける雰囲気でもないので、今日は休みますか? それとも魔王城跡地に引っ越す準備でもします?」
「いずれやるべき事なら、早い方が良いだろう。それくらいなら士気が高くなくても、だらだらとやっても問題無いだろう」
狐耳のおっさんは、変な事を真面目に言うからな。
「だらだらって……。まぁ少しずつの移動ですからね。問題はないんで備蓄してある食料と薪の移動でもしますか。まずは重いの優先で、薪小屋は色々な所に建ててもらったので、別けて入れるようにしましょう。その前に飯ですかね」
俺は太陽を見て、皆に昼食を食べさせてから、午後はあまり疲れさせないように、物資の移動をさせた。
□
「話が本当なら、この村に召喚された勇者がいるらしいな」
「多分見ればわかると思うよ、俺と一緒で黒髪だと思う」
「最近の勇者は黒髪が多いからな」
そしてしばらく村の中を歩き回る。
「あ、この村に手押しポンプがある」
「ておしぽんぷ?」
「あぁ、あの棒を上下に動かすと、井戸から水が出て来るんだよ」
「へぇ便利だなぁ、アレが有れば水汲みが楽だろうな。で、勇者の名前はわかかってるのか?」
「アイダって言うらしい」
「そのアイダって言うのは?」
「もちろん俺の同郷でよく聞く名前だ」
「なら散開して情報収集すればいい、早速動くぞ」
「アイダをさがしてるの?」
水汲みに来た少女が話しかけて来た。
「そうだよ、私達はアイダを探してるの」
「アイダは村はずれの家に一人で住んでるよ。あっちの方にある、はずれの家」
そう言って少女は指を指す。
「お嬢ちゃんありがとう。お礼にこの筋肉が水汲みを手伝ってくれるって」
「本当! ありがとうお兄さん」
「おいおい、断れない状況作んなよな。ったく、ほら。桶をよこせ」
そういうと、メイソンが手押しポンプを上下に動かすと水がどんどん出て来る。
「うお、こいつは便利で面白いな、おい、どんどん持ってこい」
「この桶で、家まで水を運ぶからどんどんは無理だよ」
「なら運んでやるよ。おいロック、その間に行ってこい」
「ありがとうメイソン」
コンコンコンと、俺はドアをノックした。
「誰だい?」
「ロックと言います、会田さんの御宅でしょうか?」
「あぁ、今開けるよ」
そういうとドアが開き、すこしだけ白髪交じりの三十五歳前後の男の人が出て来た。
「日本人か……」
「はい、申し訳ありません、ロックと名乗りましたが岩本と言います、話がしたいので、少しだけお時間宜しいでしょうか?」
「かまわないよ。どうぞ」
そう言って招き入れてくれた。
「君も勇者かい?」
「はい」
「俺も召喚されたが、こんな細い体だ、戦闘より、知識方面で色々手伝わされたよ。で、聞きたい事ってなんだい?」
「魔王は知ってますよね?」
「知っているよ、人族の敵と教わったね――」
「俺もです、ですが少しだけ討伐しにくい魔王が出てきました。その人は元日本人で、転生して来たと言ってました」
「へぇ……」
そういうと会田さんは目を細め、少しだけ雰囲気が変わった。
「そこで俺は転生者を名乗る魔王と話をしました。勇者召喚は拉致や誘拐に近いと言ってました」
「そうだね」
「俺は死んで転生したから、地球には未練は余りないけど。召喚として、こっちに来た場合の扱いは向こうでどうなんだ? 地球には戻れるのか、戻った者はいるのか……と。そう言われ始めて意識しました。俺は向こうに戻れるのかと」
「そうだね。その事は俺も一年くらいで気が付かされたよ。俺が聞いた話で良いなら言うけど、どうする?」
「お願いします、教えて下さい」
「後悔するかもよ?」
「それでも良いのでお願いします」
そう言うと、会田さんは軽く溜息を吐いた。
「結果から先に言おう、多分地球に戻った者はいない。俺が城で働いてた時に調べた限りではだけど、それに帰る為の儀式じみた事はされていない。こっちに呼ぶだけだ」
「そう、ですか……」
「仲良くなった、同じくこっちに召喚された奴に宇賀神っているんだけど。あ、その宇賀神から聞いた話ね。スキルに隠遁があって、不満に思って城に忍び込んだらしいんだよ。そして数日王様を監視してたら、最低な言葉が出てね」
「なんて言ってたんですか?」
「勇者が魔王に殺された? なら次の捨て駒をさっさと召喚しろ。だって。それを宇賀神から聞いてね。
俺は、俺が教えられる知識はもうないって適当な理由を付けて逃げて来たよ。おいおい、そんな顔をするなよ、怖いじゃないか」
「すみません」
俺は言われて初めて、顔に出ていた事に気が付いた。
「で、聞きたい事はそれだけかい?」
「はい。地球に帰った召喚された人がいるか、いないか。だけわかれば良かったので」
「そうか、君は若い、変な気は起こさないようにな。飯でもたべてってよ」
「えぇ、ありがとうございます」
作ってくれた食事は、白米と、味噌汁と何かの漬物と川魚を焼いた物だった。
「白米に似たものがあって助かったよ、俺はご飯派だからね」
「俺もです。その辺の食堂じゃ、から揚げランチにパンが出て萎えましたよ」
「俺もだ」
そう言ってお互いに笑いながら出された和食を食べた
白米を口に入れ、味噌汁を啜り、川魚を口に運び、また白米を食べる。
「米も味噌も、隣村にいる榎本さんって方に頂いてね、その人はもう三十年近くもこっちにいるベテランだ。良かったら会いに行けばいい」
「情報ありがとうございます」
「旅は続けるのかい?」
「えぇ、少し頭を冷やそうと思います」
「そうか、なら俺も旅に出るかな……」
「ついて来るんですか?」
「いいや。その魔王に興味が湧いた。場所を教えてくれるかな?」
そう言われ、コランダムの港町から船で六日目くらいにある島を開拓している事を言った。
「ありがとう。隣村の榎本さんにも言ってくれるかな? 俺が魔王に会いに行くから旅に出る事を、多分俺について来てくれると思うから。俺が迎えに行っても良いんだけど、榎本さんの方が強いからね」
「なんなんですかその榎本さんって。話だけ聞くと凄く強そうな勇者じゃないですか」
「残念ながら技術系勇者だよ。四十五歳でこっちに連れて来られた農業家。足腰が未だに強くて、鍬とか鎌とかでゴブリンをやっつけるパワフルお爺ちゃんだ」
「日本人は平均寿命が長いですからね」
「あの勢いだと百二十歳まで死ななそうだから怖いよ」
「すげぇ!」
「あ、ちなみに俺は教師、残念な事に運動は苦手だ」
「だから榎本さんをこっちに呼ぶんですね」
「そう、情けない話だけどね。あ、ちなみに村の手押しポンプは織田さんって言う技術系勇者が作ってくれたんだ、今は榎本さんの所で便利な農具や道具を作ってるよ」
「勇者の知識ってこっちの世界ではすごいんですね」
「そうだね、だから俺達が拉致られるんじゃないのかな?」
「そうですね、なんか腹が立って来ました……」
「国でも落としちゃうかい?」
「そんなゲームみたいに上手く行きますかね?」
「俺、教師。少しは知識があるよ。かなり昔から出てるゲームの野望系とかやってるし」
そう言って真面目な顔をしてくる会田さん。
「岩本君。各地に散ってる勇者を説得して、その魔王のいる島に集めて本格的に世界を狙ってみるかい?」
「いやいやいや、国から世界になってますよ!? いろいろ危ないんで止めましょうよ」
「半分冗談だよ、けどその魔王のいる島に行くのは本当だ。榎本さんと織田さんも説得して連れて行く。聞いた話だとかなりマシな魔王なんだろう? 屑な王様に呼ばれて、少しだけ技術や知識を与えてやったんだ。少しくらい仕返ししてもいいだろ?」
会田さんは物凄く邪悪な笑みを浮かべている。本当に国でも落としそうだ。
「そうそう、あいつ等は召喚だけしかしてないけど、本当は戻れる魔法も有るかもしれないよ、あくまで俺がいた一年間の話だからね。この世界の人族の魔法使いも探してみるのも良いかもね」
会田さんは、最後に少しだけ励ましてくれた。
閑話
普段はあんなんだけど。
A「カームさんって結構冷静だよな、手際良く指示してたし」
B「ってか普段あんな喋り方だけど、緊急時は少し言葉使い変わってたよな」
A「あっちが本当の喋り方なんじゃないか? 普段は俺達に気を使ってるだけかも」
B「確かになー」
狐「そうだな、けど怒ってる時はもう少しドスが効いてて本当に怖かったぞ」
B「そうなんすか?」
狐「あ゛? って声を出しながら、軍属の医者を睨んで震え上がらせた、隣にいた俺も怖かったな」
A「優しい人ほど怒らせると怖いって奴ですね」
キース「戦場近くの、最前線基地で嫌がらせされた時は、地味な仕返しを淡々と繰り返してたぜ、寝てる時にそいつの部屋に忍び込んで禁輸品の癖になる葉っぱを焚いたり。そいつが牢屋にぶち込まれた時は、嬉々として仕返しって事で、狭い牢屋の中を昼夜関係なしに寝ずに二日歩かせて、足が止まったら見張りに棒で突かせてた。殺すなって言われたからな、それが牢屋でできる嫌がらせだったんだと思う。けどよくもそんな事思いつくぜ」
B「うわ・・・」
キース「カームを怒らせるな、ってその最前線基地で言われてたぜ。しかも最後には、どうやったか知らないけど、皆と同じ物食わせてたのに、そいつだけがすげぇ腹を下してな。すげぇ痩せてよ、よろよろになりながら最前線に送られてたな。自業自得って言うけど、アレはやりすぎだと思うぜ」
A「怒らせないようにしないと」
キース「気にすんな、滅多に怒らないから。あいつから聞いた話だと、仕返しを始めたのは七日目からだ、それまでは耐えたらしいぞ」
B「それもそれですごいですね」
勇者、榎本(75歳)
その鍬を振るう姿は、とても力強く、美しかった。そして投げられる鎌は、吸い寄せられるように魔物に刺さるらしい。
退治したゴブリンは土に埋め、堆肥にしているという。
そして決め言葉は、どこの国か解らないが共通語では無い言葉で「ノウカナメンナ!」と叫ぶと言う。




