第79話 コーヒーについて色々作ってもらった時の事
コーヒーの実が、定期的に入手出来る手段が確立できそうなので、コーヒーを収入源に出来るよう、本格的に動くことにする。
まずコーヒーミル。これは石臼で代用が利くので、石工のシャレットさんに作ってもらう事にする。俺は魔法で石臼っぽい物が出せるが、現地で働いてもらう人族には無理なので、作ってもらう事にした。
「シャレットさん、頼みたい事があるんですが」
石を削っていたノミを止め、顔だけこちらを向けてくる。
「なんだ。言っておくが、俺にはこんな綺麗な面の石は作れねぇぞ」
「いやいや、そうではなくて、石臼を作ってもらいたいと思いましてね、2個ほど」
そう言って、手を使い大体の大きさを、作ってみせる。大体三十センチメートル程度だろうか。
「それはかまわないが、少し時間をくれ」
「かまいませんよ、ではお願いします」
これでミルの代用が出来たな。残りは抽出方法とミルクだ、とりあえず十年以上前の記憶を頼りに思い出した事を、どんどん試していく。
ドリップのフィルターはないので、煮出したコーヒーを、布か綿で代用しようと思っていたが、もうそのままの方が衛生面的に良いのではないのか? と思い、鍛冶のピエトロさんの所に向かう。
真っ赤に熱せられた鉄を叩き、水にジュウッと浸け、一息ついたところで声をかける。
「ピエトロさん、頼みたい事が有るんですが」
ピエトロさんは、近くに置いてあった水をがぶ飲みしてから、聞き返してきた。
「今度はなんだ? スコップかバールでもやっちまったか?」
噂話とかで、俺の話題でも上がってるのか? なんで俺の武器を知ってるんだよ。
「いえいえ違いますよ、普段使ってるカップより、少しだけ小さめの、水をすくう柄杓みたいな形をした物を作って欲しいんですけど」
そう言って紙を出し、大体の形を描いて見せる。
「何に使うかは知らないが、言われた通りつくろうじゃないか、材質は?」
「とりあえず銅で、六個お願いします」
「あいよ」
「お願いします」
そう、トルココーヒーだ。容器の中に挽いた豆と砂糖を一対一で入れ、水を注ぎ煮立て、細かい泡がモコモコ出て来て、吹き零れそうになったら泡を捨て、カップに注ぎ、少し待って、豆が沈んだら静かに飲む。
確かそんな感じだったはずだ。多分だけど。そうすれば豆はカップの底に残る、これで布や綿をフィルター代わりにしないので、衛生面的には問題はないし、手間も減る。
ミルクの問題も有る程度解決している。過去に数回だけ飲んだ、パック容器の、紅茶やコーヒー味の豆乳だ。豆乳さえ出来れば、ミルクは問題解決だ。海外じゃソイミルクって言うからな。
それに、海水を煮詰めて、塩を作る工程で出来るニガリもある、もしかしたら豆腐も出来る。
前世で枝豆豆腐って言う物もあったし、大豆になる前の枝豆でも出来るのだから、豆なら出来るんじゃね? 的なノリで、この大豆に良く似た豆でも出来ると思い、試す事にする。
あれ、豆乳って、豆を前日に洗って大量の水に浸けて、茹でてから磨り潰すんだっけ? そのまま磨り潰すんだっけ? 生だったかな?
これで絞れば、豆乳とおからが出来るわけだ。おからは島内で好評なら食堂に売って、不評なら家畜の餌にするか。おからドーナッツとかにすれば、店内で出すお菓子にもなるか? 豆乳も余ったら豆腐として売れば良いんだし。こんなので経営になるかな?
とりあえず、物が出来たら、奴隷になる前に夫婦になってた人族を呼んで、練習させて町に送ろう。
◇
俺が家で個人的に【石臼】でコーヒー豆を挽いていたら、ノック音がしたので返事をした。
「出来たぞ」
そう言ってピエトロさんが、大体描いた物と同じ物を持ってきた。
そして俺は出来上がった物を受け取り、水を入れカップに移し、カップから溢れない事を確認した。
「何に使うんだ?」
「お金になるかもしれない、新しいお茶を淹れる為の道具ですよ。まぁ、好みは別れますが、一杯試しにどうですか?」
「……頂こう」
そう言ったので椅子に座らせる。
俺は出来上がった物に、挽いたコーヒー豆と砂糖を入れ、面倒なので水ではなく【熱湯】を魔法で作って入れる。その後指先から火を出して暖め、煮立った瞬間に、泡を捨てカップに注ぐ。それを二回繰り返す。
「どうぞ」
そう言って、目の前に出してやる。
ピエトロさんは、まず香りを確かめ、カップをゆっくりと口に運ぶ。
しばらく、口の中で液体を転がすように、モゴモゴしていた。
「苦いな。けど香りは良い、もう少し砂糖が入ってた方が好みだ」
「そうでしたか、砂糖を入れて混ぜてみては?」
「そうだな」
そう言って砂糖に手を伸ばすが、三回も砂糖を足してかき混ぜて、コーヒー豆が沈むのを待っている。甘党らしい。
「これなら飲みやすい」
「豆を磨り潰して、絞った液体、まぁ豆乳って言うんですけど、それを入れれば、もっと飲みやすくなると思うんですよ」
「無いのか?」
「前日から準備しないといけないので、今は無いです。本当は牛の乳でもいいんですが、島にいませんし、新鮮な物じゃないと危険なので、ありません」
「そうか」
そう言ってコーヒーを飲んでいる。
「豆は食べても問題ないですけど、口に入ると不快かもしれないので、少し残して飲むと良いですよ」
「あぁ」
そう言って、少し残してカップを置き、お前魔王なんだって? と、いきなり言われた。
「えぇ」
「隠さないんだな」
「隠していても、いつかはばれますよ」
「そうか、数日過ごしたが、前に出回った魔王の噂よりは、かなり良い。皆も言っている。初めて聞いた時は帰ろうと思ったが……。悪い気はしない」
「隠してて申し訳ありませんでした、町で名乗ると多分殺されるので」
「だな。ご馳走になった。俺は結構美味いと思う、砂糖がないと飲めないけどな。仕事に戻る」
そう言って出て行った。
隠すつもりはないけど、さすがに町じゃまだ魔王と名乗れないからな。まぁ、意外に好評でよかった。残りは石臼と豆乳だな、少し加工場でも見てくるか。
「シャレットさん、進み具合はどうですか?」
「あ? 催促の話か? まだだぞ」
「いえいえ、いつ頃できるのかな? って程度です。それによって準備する物もあるので、仕上がる前日辺りに、声をかけてもらえれば嬉しいかな、って程度です」
「そうか、それならあと二日だな、意外にこの目立てが面倒でな」
そう言って石臼の目を立てている。立てすぎても寝かせすぎても駄目、芯が噛み合わないのは論外。石だから、欠けたり、間違えたりすれば修正が難しい。石は長持ちするが重いし面倒が多い、利点は、木材みたいに腐らないって所だな。
「それだけか?」
「はい。後は何かあれば、出来るだけそれに答えますが」
「そうだな……。俺の言った大きさの石を、俺が頼んだら採石場から切り出してくれ、こんな綺麗に切った石なんか見た事がない。切り口が綺麗なら、出来る事は沢山ある」
「わかりました、それくらいですか?」
「あぁ。それだけだ。石臼は、すまんが最低二日は見てくれ」
「わかりました、怪我のないようにお願いします」
「あぁ」
んー二日か、まぁ報告が来たら、豆でも仕込むか。
◇
とりあえず、石臼の報告はまだだが、豆乳作りを事前に出来るか試す事にした。
前日から豆を綺麗に洗い、水に浸しておいた。これを少量の水と共に石臼で挽き、出て来た物を溜め、鍋で焦げ付かない様に温め布で濾す。これで豆乳とおからだ。
俺は、カップで二杯分の豆乳を残し、残りは鍋で温め直し、湯葉が出来る前に、にがりを投入。そしてかき混ぜしばらくすると……。豆腐に……なってない。
素人じゃ難しくないかこれ? にがりが少なかったのかにがりに問題があったのか、それもわからない。確か海水を煮詰めて作るんだよな。塩を作る過程で、少し貰って来たけど、これが間違いなのか?
さて、この豆腐になりそこなった、にがり入り豆乳をどうするか。
「う゛ぇあ、まじぃ」
取りあえず飲んでみたが、豆乳がただ単に苦くなっただけだった。固まらないのは、多分にがり不足だと思う、次回から少し多めにしてみよう。
まぁ、残しておいた豆乳は無事だから、コーヒーに入れようか。
「うん、まろやか」
◇
昨日、シャレットさんから報告があったので、豆を仕込み自宅付近で待機している。
蜂の巣の様子を見たり、フルールさんに水をやったり、狼達と遊んだり。うん、なんか駄目な魔族に見えるから、様子を見に行こう。
「お疲れ様です、どうでしょうか?」
「おう、良い時に来たな、もう仕上げだ、運ぶのを手伝ってくれ」
「はい」
来たばかりなのに、石臼を持ってまた帰る羽目になった。
「で、実際に何に使うのか見せてくれ。次第によっちゃ手直しも必要だ」
そう言われたので、煎ったコーヒー豆を挽き粉にした。水につけた豆を挽き、豆乳とおからに別ける。
「こんな感じです。今、売り出そうとしている、新しいお茶を淹れますね」
そう言って、挽いたばかりのコーヒーを見て、挽きが細かい事を確認した。今度は豆を挽いて布で絞り豆乳を作る。
そうして俺はまずコーヒーだけを出す。
「これが、この間ピエトロさんに出した物です、砂糖は好みで追加してください」
「おう」
そう言って香りを嗅ぎ、口に含む。
「んー?」
そして次に豆乳を出す。
「どうぞ、適量を入れて下さい。本当は牛の乳が良いんですが、島では代用品です。似たような物なのでこれでも良いんですけどね」
「おう」
そう言って少し豆乳を入れ、また口に含む。
「んー、俺はこの白いのなしで、砂糖なしでも良いな。甘いのは嫌いなんだよ」
シャレットさんはブラック無糖派か。最初に砂糖を入れなければ良かったな。
「そうですか、でも飲む時に自分で調節できるので、問題は無いですね」
「そうだな」
そう言って、残りのコーヒーを飲みきった。
「意外にスッキリする味だ、寝起きや、仕事上がりに良いかもしれねぇな」
たしかにカフェイン入ってるから、眠気とかには良いかもしれないが、お茶系の方がカフェインは多かった気がする。
この世界のお茶は、なんの葉っぱから出来てるかわらないから、本当にカフェインが入ってるかも不明だ。この島では麦茶飲んでるから、コーヒーはある意味良いのかもしれない。後でもう一度島民に飲ませ、反応でも見てみるか。
そう思いつつ、俺は砂糖を大量に入れ、豆乳も沢山入れ、かき混ぜてから飲む。
あー甘いコーヒー美味しいわー。
シャレットさんが、変な目で俺を見ているが、気にせず甘いソイラテを飲み干した。
閑話
おからと豆乳で作るお菓子
俺は今、熟したバナナを探している。
初めてパルマさんを見つけた辺りに熟してないバナナが有って、食べた記憶が有るからだ。
「パルマさん、このバナナの黄色いの有りませんかね?」
そう言って、その辺の椰子の木に話しかける。
「もう少し行った所にあるわね」
「ありがとうございます」
そう言って、バナナを収穫する。
さて、まずはバナナをドロドロになるまで潰し、卵と油を加え良く混ぜ、塩と砂糖と豆乳を入れ更にかき混ぜる。
そこに、小麦粉をふるいながら入れてかき混ぜドロドロにして、フライパンで両面を焼く。
バナナホットケーキの完成だ!
うん、まぁまぁだな。
一口食べ、そんな事を呟き蜂蜜を採って来るか迷ったが、バナナの甘みと香りを消しそうなので止めておいた。
「ほら子供達、久しぶりのお菓子だぞー」
「「「わーい」」」
かなり好評でした。
さて、次はこのおからを使う、醤油や糸こんにゃくとかを使って、食べても良いけど、折角なので、お菓子に使用できないか考えた。
適当に砂糖とか卵とか牛乳と混ぜれば良いんだろ? って考えで、バターは無いので。ココナッツオイルで代用し、砂糖や卵、柔らかくならない程度に、牛乳の代わりに豆乳を入れ、小麦粉もをふるいながら入れる。良くこね、鉄のカップに入れ、オーブンにぶち込み焼く。
んーマフィンっぽい。砂糖を少し減らせば、コーヒーのお供にも良いな。店で出すお菓子決定だな。
おからを破棄したり、近所の定食屋に流さないで済むな。後でおからと小麦の比率を変えてみるかな。
「ほら子供達、また出来たぞ」
「また食べて良いの?」「そろそろ夜ご飯」「わーい」
「少しだから平気だよ」
そう言って、また子供達にお菓子を与える。
夕飯前にお菓子を子供に与える、鬼畜魔王の誕生だ。
そして夕食後、余ったおからに小麦粉と砂糖と塩をぶち込み、良く練って伸ばし、切れ目を入れオーブンでこんがり焼いてみた。
クッキーのつもりだったんだが、意外にらしくなっている。
これも砂糖の量を調節して、店で出すお菓子に追加だな。
おからと豆乳万能だな!
カカオも取って来て、ココアパウダー量産すれば、チョコ系のお菓子も出来るな。これはカカオも早急に取りに行く計画も立てないと。
感想で、トルココーヒーや豆乳を使う案を出していただき、ありがとうございました。おかげでこのような話が書けました。
結構おからや、豆乳を使ったお菓子が有るんですね。コレでカフェのメニューが潤います。




