第77話 技術者達を迎えに行った時の事
作業用BGM
怒りの日・カルメン・アルルの女
俺達は、ギルドに張り付けた応募告知の期限二日前にコランダムに到着した。
「んじゃ俺はここのギルドで、技術職が来てくれるかどうか確認しないといけないんで、ここでお別れって事で」
「わかりました、色々とありがとうございます。カームさん」
「いやいや、泳いで帰れとも言えないでしょ。んじゃ鹿を虎と間違えない様に気をつけてな」
「まだ引っ張りますか、残念ですがまだ虎をこっちの世界で見た事が無いんですよ」
「残念だ。んじゃ頑張って」
「はい」
そう言って勇者達は去っていった。まぁどう報告しても成るようにしか成らないんだから、こっちは何も気にせずやらせてもらいますかね。
「んじゃ今回は自由行動って事で、けど船員の中で計算が他の皆より出来る方は残ってください」
そう言うと三人だけ残り、後は思い思いに動き出す。
「せっかくの港町なのに申し訳ありません。船長さん達には、物資が足らなくなったら、コランダムまで買い出しに来てもらおうと思っていますので、ニルスさんの所へ顔出しに言って、顔を覚えてもらおうと思います。それと、今後出荷できる物があれば出荷してお金を稼ぐので、その役もやっていただきます」
そう言うと三人が少し戸惑ってるが、俺は言葉を続ける。
「商人見習いになったと思えば良いんですよ、俺だって取引っぽい事しかした事がないので良くわからないですし、度胸さえあればどうにかなるんじゃないんですかね? まぁ専属で雇うのもありっちゃありですけどね。んじゃ向かいますか」
そう言って俺はニルスさんの倉庫へ向かった。
ニルスさんの倉庫に行き、近くに居た作業員らしき男に声をかけた。
「お疲れ様です、ニルスさんはいます?」
「あぁ奥にいるよ、また買付っすか? それなら酒樽運び見せて下さいね」
「今日は買い物はなし。世間話と、裏にいる方々の顔合わせですよ。俺も毎回来られないんで」
「残念だ、まぁ奥にいるんで行ってみて下さいよ」
「ありがとうございます」
俺はこの間の事務室兼休憩室にノックをして、返事を待ってから入る。
「失礼します」
そう言いながら入り、ニルスさんは俺の顔と言うより色を見て挨拶を返してきた。
「今日も買い付けですか?」
「いやいや、毎回島を長々と空けると、何か問題があったら困るんで、後ろにいる比較的計算が得意な方の顔合わせという事で」
「なるほど、取りあえず後ろの方々には少し待ってもらいましょうか」
そう言うと立ち上がり、机から白っぽい布を取り出してきた。
「近くを通る機会が無かったので報告に行けませんでしたが、この間の糸なんですが、知り合いに頼んで織ってもらいました。評価的には絹よりは劣りますが、大量に有るなら商品になり、綿と絹の間の触り心地なので、一般大衆向けの少し上質な布と言う感じで扱えるらしいです」
「そうですか、それも一応島内探索中に見つけた物でして、その繭が群生していた場所までまだ開拓して無いんですよ。本格的に動くなら年越祭を挟んだ今頃ですかね?」
「そうですか、その時はぜひ私を通してもらえれば嬉しいのですが」
「そうですね、本格的に金儲けするならニルスさんを通さないで、直接製糸している工房に持ち込み、買い取ってもらうのが理想なんですが。そこまでのツテは持って無いのでお願いします」
「助かります」
「まぁ、俺は商人じゃないんで。けど直接島に買い付けに来る奴が来たら、ニルスさんを通せって、言った方が良いですかね? なんか一筆書きます?」
「そこまでは必要ないでしょう」
「そうそう、それと空いている店を紹介してくれる場所とか知ってます?」
不動産屋とか言っても通じないだろうし。
「それなら自警団の詰所に行けば教えてくれますよ、そういう管理もしているので」
「ありがとうございます。それとですね、家畜を届けてくれた商人とその護衛ですが」
「えぇ」
「護衛が勇者でした」
「ッ! ま、まぁ。見た感じ無事のようでなによりです。それで、勇者様達はどうしたんですか?」
「戦闘になりましたが、話し合いで解決して、船でこの町まで送り届けました。問題はですね、商人が戦闘中に逃げちゃったって事なんですよ。しかも勇者の話だと、俺を倒したら溜めこんでる金を全部持って行って良いって事になっていたらしく。少々頭に来てるので、嫌がらせをしようと思ってるんです。紹介して下さいとまでは言いませんが、今度家畜を頼む時は、またその商人にお願いします。届けに来たら笑顔でお迎えしますので」
「申し訳ありませんでした、そのような奴だったとは知りませんでした。今後付き合い方を変えさせてもらいますね」
「ニルスさんがそう言うならそれで良いんですが。俺が今度家畜を頼む時はその商人に頼んで下さいね、嫌がらせなので」
「中々面白い魔族ですね、カームさんも」
「いやいや、考え方が子供なんですよ。気まずい雰囲気を楽しんでもらおうかなってなだけですし」
そんな感じで話が進み、今度は後ろの三人の顔合わせになったが、あまり教養が無かったのか少し話しの進みが遅く感じる。
「ニルスさん、どんどんしごいてやって下さい。俺が商人を雇わないで済む様に」
「わかりました、預けてくれれば修行させますよ」
「船員兼商人なので、それは無理ですね。まぁあからさまにボったくらなければ構いませんよ」
「信用をなくしたくないのでしませんよ」
「んじゃそろそろ失礼しますね」
「わかりました、今度近くを通ったら寄らせてもらいますよ」
「いつでもどうぞ」
そう言って俺達はニルスさんの倉庫を出た。
「カームさん、なんか俺達には無理そうですよ」
「平気ですよ、ニルスさんが勉強させてくれるって言ってたじゃないですか。それに何か物が無くなった時の買い付けだけですから、俺からメモだけを預かれば平気です。重要な取引の時は俺も一緒に付いて行きますし」
そう言って三人を解放し、俺は詰所に向かった。
空いて居る店舗を見たいと言っておっさんに話しかける。
「少々伺いたいのですが、ここで空いてる店の話が聞けるって聞いたんですけど、間取りだけ確認したいんで見せてもらえませんかね?」
「わかりました、詳しい者を呼んできますので、少々お待ちください」
そう言うと奥に行き、お姉さんが目の前に座る。
「お待たせしました。どの様な感じで商売をするのでしょうか?」
「そうですね。お茶を飲める場所を提供して、軽い食事か、菓子を出そうと考えています」
そう言うと少しだけお姉さんの顔が困った顔になるが、奥からまた人を呼び、説明をしている。
「話は伺いました、取りあえず竈が使えて、それなりのテーブルとイスが置ければよろしいでしょうか?」
「はい十分です、ですが今日は下見なので詳しい話はまた今度という事で、ココから一番近い空き店舗に案内して下さい」
そして俺は一番近い空き店舗まで案内され、中の間取りを確認する。
入口を入ってそれなりの広さ、カウンターがありその奥に調理場、その奥には簡素な部屋。
四角いテーブルが良いか。丸いテーブルが良いか。手間を省くなら四角だな。カウンターは椅子だけで良いし、奥の部屋を休憩室にすれば良いな。売上と相談で近くの空き部屋を探してもらって、働けるようにすれば良いしな。
そんな事を考えていたら職員に話しかけられた。
「あの、お茶と軽食を提供するという話ですが、本当でしょうか?」
「えぇ、そのつもりですが」
「お茶は、自宅か休憩中にゆっくり飲むものでして。正直申しますと、あまり流行らないと思うのですが」
「別に流行らなくても良いんですよ、宣伝の為に店を開くので」
「宣伝……。ですか」
職員は少し言葉に詰まるが、俺は関係なく続ける。
「お茶に出来そうな変わった物を発見しましてね、この辺りでは見た事が無いので、取りあえず宣伝して、知名度を上げて『欲しい』『自宅でも飲みたい』って方を増やしてから、出荷を検討してるんですよ」
「はぁ……」
「ですので、とりあえずは『どんなものか知って貰う為の店』それだけです。店が流行らなくても、お茶として侵透させれば原材料が売れるという訳です」
「そうでしたか」
「なのでその為の下見ですね。まぁ、店も繁盛して、原材料も売れるのが一番なんですけどね。後は立地とかで値段も変わると思うので、その辺は本格的に始めた頃に詰めて行けばいいので、今日はこの辺で。ありがとうございました」
「どういたしまして、では私は戻らせていただきますので」
そう言って鍵をかけ出て行く。
椅子やテーブル、薪もこの町で手に入るし。定期的に豆を運んでくるだけで平気だな。
□
二日後の昼
「んじゃギルドに行って、移民してくれる技術者がいないか確かめてきますね」
「いれば良いっすね、じゃなきゃここに来た意味がないっすからね」
「本当だよ、けどお前等は女買ったり酒飲んでたんだろ?」
「そうっすね」
「病気だけは持ち込むなよー」
「わってますよ」
「んじゃ頼みます」
「了解っす」
そう言って元気な船員に見送られた。
俺がギルドに入ると、奥のテーブルに座っている男達がこちらを見てきた。
多分あの集団が入島希望者だと思うんだけど。全員男で五人か、上々だな。まぁこの時代背景で女性の職人とかほとんどいないか。
そう思っていると向こうから1人が近づいて来た。
「あんたがカームって魔族かい?」
「えぇ、入島希望者ですか?」
「そうだ」
「じゃぁ丁度良いんで、あのテーブルで話しますか」
そう言って俺は、空いている席から椅子を持って来て勝手に座らせてもらった。
「んじゃ自己紹介しますか。まぁ見た目でわかると思いますが、募集を掛けた紺色のカームです。よろしくお願いします」
五人は「うっす」だの「おう」だのと思い思いの返事を返してくる。
「一応聞きますよ? 本当に入島してくれるんですか?」
「代表で俺が話そう。俺等はこの町で働いている職人なんだが、そろそろ独立しても良いって位修行させてもらった。だから丁度良いって事で似たような境遇の奴に声をかけた」
「じゃぁ、自己紹介お願いします」
「ジュコーブだ、大工をやってた」
「ゴブルグだ、同じく大工。こいつと同期だ、一緒にどこかで店でも開こうかと思ってたんだ」
「シャレットだ、石工をやっていた」
「バートです、家具木工をやってました」
「ピエトロだ、鍛冶屋にいた」
おぉ、意外に揃うものだな。
「じゃぁ全員に聞きます。嫁にしようと思っている、すでに嫁がいる、子供がいるって方はいます?」
「全員居ない、このまま行けるぞ」
「そうですか、話が早くて助かります。けど必要な物も有るでしょう? 道具とか。そう言うのはどうなんですか?」
「全員ある程度自前で有るぞ、ただピエトロが鍛冶をやって居るから金床くらいがないだけだな」
「そうだ、俺も金床が無いとピエトロにノミを叩いてもらえねぇ。先の丸まったノミじゃ石なんか叩けねぇぜ」
「そうですか、なら売っている所でも探しましょう」
「ツテならある」
そうピエトロが呟く、口数少ないな。
「なら話が早い、では船まで案内するので、そこで解散。その後ピエトロさんはそこまで案内して下さい、必要経費って事でこちらで購入しますので。皆さんも不足しているものがあれば、仕事道具なら面倒を見ます」
皆がおお! と声を出すが、独立出来る位の腕ならある程度揃っているのが普通か。
「ちょっと待っててくださいね」
そう言って俺は受付の女性に張り紙を剥がしてもらい、全員を船まで案内して解散させ、明後日の朝に集合と言う事にした。
その後ピエトロの後に付いて行き、勤めていた店で世話になっていた問屋に行き、金床と、島に無い鉄を買った。
「重! 糞重い!」
「魔族のあんちゃんよー、金床なんだから重いに決まってっペー。誰か呼んで来いよ、俺の嫁より重いんだぜそれ」
そんなのしらねーよ、こっちは多分嫁2人分よりは軽いわ!
「そうっすね、呼んできます」
小さい上に重い、持ち方のコツがわかれば持てそうだけど、厳しいな。素直に誰か呼ぶか。
「俺も準備があるから失礼する」
そう言ってピエトロは帰っていった。手伝ってくれても良いと思うんだよね。
その後船員を呼び、鉄や金床を運ぶのを手伝ってもらった。
「ガームざん、ごんや酒奢ってぐだざいよ!」
「いいから力入れろ! 肩に食い込んでいてぇ!」
問屋のおっちゃんに金床を太い縄で縛って貰い、棒を通して二人で運ぶが単純計算で一人七十キログラムくらいか? 肩に加重が掛かりとても重く嫌になる。小さくて重いとか最悪だな!
金床か、金敷きか迷いましたが、金床で。
人物の名前を考えるのが一番苦手です。




